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2600件の現場を経験、「賃貸トラブルのプロ」が語る家賃滞納の実態《楽待新聞》

5/19 19:00 配信

不動産投資の楽待

不動産投資では、幅広い知見を持つことがよい投資判断につながることもある。この企画では、さまざまな業界の第一線で活躍するプロや専門家に、不動産業界にまつわる自身の経験、業界の現状や問題を聞く。

今回は、これまで2600件以上の賃貸トラブルに携わってきた司法書士の太田垣章子さんに、「賃貸トラブルの実態」について聞いた。一般的な司法書士の業務である不動産や会社の登記に加えて、賃貸トラブルの訴訟代理人として簡易裁判所での弁論、裁判外の和解交渉も多く行ってきた。賃貸トラブルに関する書籍も複数出版している。

そんな太田垣さんいわく、不動産投資を行う上では、満室にするよりも、「いい入居者を見極めること」の方が重要な場合もあるという。今回は太田垣さんに、不動産に関わるようになった経緯、過去のトラブル事例、賃貸トラブルの回避方法など、幅広いテーマで話を聞いた。

■受験期は毎日4時間睡眠

─太田垣さんが司法書士になった経緯について教えてください。

司法書士になったのは36歳で、資格を取得したのは遅い方だと思います。30歳の時に離婚したのですが、それまで専業主婦だったので、雇ってもらうためには資格が必要だと考えて司法書士を目指すことにしました。そこから6年間勉強し、5回目の試験で合格することができました。

─受験期はどのように過ごしていましたか。

6年間かかってしまったので、精神的にいっぱいいっぱいになっていました。離婚後働きはじめたのですが、当時は給料も少なかったので生活は苦しかったです。まだ子どもも小さかったので、働きながら子育てをして、さらに司法書士の勉強をするのは時間的にも大変でした。

毎日睡眠時間は4時間程度で、布団で寝た記憶がほとんどありません。合格した時は、うれしさよりも「やっとこの状況から解放される」という気持ちの方が強かったです。

─賃貸トラブルに関するお仕事をするようになったきっかけを教えてください。

受験期は、司法書士に受かりさえすれば極貧生活から逃れられると思っていました。しかし、いざ働き始めてみると、給料は思ったほど高くありませんでした。このままでは子どもを大学に行かせることができないと思っていたところ、当時所属していた事務所から「自分で仕事を取ってきたら、売り上げの4割を給料に乗せてあげる」と言われたんです。

そこで土日に不動産会社を訪問し、不動産の登記をさせてくれるよう営業を行うことに。ただ、不動産会社にはすでにお付き合いがある司法書士がいるので、いくら飛び込みで営業をしても全然相手にしてくれませんでした。

そんな中、たまたま営業に行った不動産会社で「いま家賃滞納者の対応で大変だから、悪いけど帰ってくれないか」って言われて。登記のお仕事は断られてしまったんですが、その言葉を聞いて「自分が役に立てるんじゃないか」と直感したんです。それまで司法書士は裁判業務を行うことはできなかったのですが、法改正により、法務大臣から認定を受けた場合、140万円以下の請求事件であれば、裁判の代理業務をできるようになっていました。

司法書士でも賃貸トラブルを解決できることをアピールして、明け渡し訴訟を担当することができました。これをきっかけに、賃貸トラブルと関わるようになりました。

■訴訟の目安は「滞納3カ月」

─これまで関わってきた賃貸トラブルの内容について教えてください。

さまざまですが、家主さんや家賃保証会社さんなどから依頼を受けて、家賃を払わない入居者に部屋から出て行ってもらう「明け渡し訴訟」や、建物を取り壊す際の立ち退き交渉などを行ってきました。

─家賃滞納の明け渡し業務は、どのような流れで行われるのでしょうか。

まず家主さんから委任状をいただき、滞納者に「いつまでに滞納分を払わなければ契約を解除する」という内容証明を送ります。家主さんの中には勘違いしている方もいるのですが、数百万円という大金を滞納していてもいきなり契約を解除することはできません。

解除という法的効果を生じるためには、必ず一定期間、支払いを促す必要があります。この間は、通常は1週間程度です。

その期間に滞納した家賃が全額払われなかったら契約を解除し、明け渡し訴訟を申し立てて、約1カ月半後に裁判が行われます。裁判までの間にも私たちは任意で交渉を進め、退去すれば訴訟は取り下げます。裁判で明け渡しの判決が出ても退去しない場合は、さらに強制執行を申し立てて、滞納者を強制的に退去させられます。

─どのくらい滞納されたら、訴訟を起こした方が良いのでしょうか。

一般的に、家賃の3カ月以上の滞納があると、訴訟を申し立てられます。滞納分はほとんど回収できないので、最短で手続きをするのが一番傷を浅くできます。滞納者は出ていきたくないので「払います」と言いますが、3カ月以上の滞納がある場合は訴訟を行った方が解決が早いことが多いです。

■家賃を滞納する人の共通点は

─家賃を滞納する人にはどのような共通点がありますか。

「自分は悪くない」と考えている方が多いのではないでしょうか。「滞納してごめんなさい」と思っている方は少ないと思います。

私が以前担当した案件で、こんな方がいました。

千葉で50年以上理髪店を営まれていたご夫婦が、300万円以上家賃を滞納されていました。サラリーマンとは違い、手に職がある方は定年がないので、ある意味お客さんさえいればいくつになってもお仕事をすることができます。ただ、年々お客さんも少なくなってしまい、売り上げがないので家賃が払えなくなったようです。

私が家主さんの代理人として訪問し、任意の退去を促しても「俺たちに首くくれっていうの?」と一蹴。滞納しているけどそれが何か? というような態度でした。さらに、次の転居先が決まり退去してもらったはいいものの、理髪店だったスペースには切られた髪の毛や、商売道具のハサミやカミソリがそのまま残っているという有様でした。必要な物以外全て置いて、まるで夜逃げのような退去でしたね。残置物を片付けなければいけないのは家主さんなので、かわいそうでしたね。

もちろん家主さんへの謝罪はありませんでした。一言「ごめんなさい」があれば家主さんも救われると思いますが、何もなければ怒りしか残りません。

■高齢者の滞納は強制退去ができない可能性も

─著書の中で、高齢者の家賃滞納問題について多数取り上げられています。高齢者が家賃を滞納するとどのような問題があるのでしょうか。

強制執行を申し立てても、滞納者が高齢だと生きていくことが困難になる可能性があるため、執行不能になるケースもあります。そういった難しい状況の場合は、あらかじめ明け渡しがスムーズに行えるように準備が必要です。

以前、大阪で「今にも崩れ落ちそうだから、建物を取り壊したい」と家主さんが相談に来られたことがあります。あまりにも古い建物のため、1人を除いて全員退去していました。唯一残っていた83歳の入居者は、目の病気を患っており、ここ3年ほど家賃を払っていませんでした。入居者の部屋を訪れると、部屋は使用済みの下着がそのまま置いてあるなど生活環境はかなり悪い。目が不自由なこともあり、そもそもこの部屋で1人で住み続けることが難しい状況です。

当初の依頼は立ち退き交渉でしたが、より簡単に明け渡しの判決が貰える家賃滞納で訴訟を起こすことにしました。裁判の当日、入居者は欠席したため、あっさりと明け渡しの判決が言い渡されました。

しかし、ここからが非常に難航しました。若い人とは違い、高齢者を強制執行で退去させても、次の転居先を見つけることが困難なため執行不能になる可能性があります。特に今回の入居者の方の年齢や、目が見えないという状況を考えると、強制執行はかなり難しいです。

家主さんや執行官と相談し、執行はとりあえず申し立てて、形式的に催告はすることに。入居者の方には黙って執行を中断し、その間に役所などにかけあって私が転居先を探しました。

ご本人は目が見えない不安もあり、長年住み慣れた環境を変えることにかなり抵抗を示されました。この方が退去されるまでの1年は、訪問の度に怒鳴られ続け、時には蹴られることも。頑なに転居することを拒み続けました。

幸い、受け入れてくれる施設が見つかったため、明け渡しを断行し、受け入れ施設にご本人を連れていくことができました。1週間後、施設に様子を見に行くと清潔な服を着て、とても快適そうな入居者の方を見ることができました。今まで頑なになっていた入居者の方が「もっと早く来ればよかったわ」と言われたんですが、その言葉に救われました。

─孤独死のリスクなどを考えると、「高齢者に貸したくない」と考える家主さんもいるのではないかと思います。

統計上では、あと15年もしないうちに3人に1人は高齢者という超高齢社会が来ます。高齢者に部屋を貸すのはデメリットだけでなく、メリットももちろんあります。問題が起きたときに対応できるように、正しい知識がある人とつながり、さまざまなケーススタディを積んでいくことが重要なのではないでしょうか。

■賃貸トラブルを無くすには

─最近では家賃保証会社との契約を必須にするケースが増えています。それでも、こういったトラブルは起こるのでしょうか。

家賃保証会社の審査が通ったからといって、安心するのは良くありません。家賃保証会社はあくまでお守りみたいなもので、家主さん自身が入居者の方の審査をすることが非常に重要です。そもそも、家賃保証の費用は入居者が払っているので、大家さんのためだけに動いてくれると思うこと自体厚かましいと思います。

例えば、保証会社の審査が通った入居者の生活マナーが悪く、アパート6戸のうち5戸の入居者が出て行ってしまった事があります。生活マナーが悪いことは保証会社の範疇外ですし、最終的に入居を決めたのは家主自身です。ご自身でどのような方に入居してほしいのか、考えることが重要です。

また、戸数を多く保有している家主さんは、家賃保証会社が倒産してしまった場合などに備えて、各部屋がどこの保証会社を利用しているのかきちんと整理して把握しておく必要があります。

─賃貸トラブルを無くしていくにはどうすればいいでしょうか。

不動産投資のお金の部分だけでなく、事業としての面を見てほしいと思います。例えば5000万円の物件が、場合によっては価値が1000万円に下がったり、1億円に上がったりすることがありますよね。その価値というのは建物だけではなく、入居者も含めたものではないでしょうか。

入居者の方がトラブルを起こすこともなく、物件をピカピカに使って、誰もが「あそこに住みたい」と思ってくれればその物件の価値は1億円になるかもしれませんし、逆も然りです。そのためには、トラブルがあってから対応するのではなく、トラブルにならない工夫をする必要があると思います。

例えば、夏のエアコントラブル。これだって春に一度エアコンがつくか確認していれば、夏の暑い時期に業者手配が間に合わないなんてことは起きません。

ほとんどのトラブルは事前に予測することができます。「起きないようにするにはどうしたらいいか」という発想を持つためには、プロのメンバーとチームを組んで、常に正しい情報を得られる環境を整えておく必要があります。

今は情報がさまざまなところで溢れかえっています。中にはいい加減なことを言っていたり、法律に違反するようなことを行っていたりする人もいます。何が正しいのか、情報を見極める選球眼を身に着けていくことが賃貸トラブルを無くしていくには必要です。

○太田垣 章子(おおたがき・あやこ)
2001年に司法書士試験合格し、2020年にOAG司法書士法人代表に就任。これまで2600件以上の家賃滞納者の明け渡し手続きを受託してきた賃貸トラブルを解決してきた賃貸トラブルのパイオニア的存在。主な著書に、『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』、『老後に住める家がない! 明日は我が身の漂流老人問題 』、『不動産大異変 「在宅時代」の住まいと生き方』(いずれもポプラ社)など。

不動産投資の楽待

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最終更新:5/19(木) 19:00

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