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75歳以上安楽死容認、映画「PLAN 75」に込めた狙い

5/18 13:31 配信

東洋経済オンライン

 少子高齢化が著しく進んだ近未来の日本で、75歳以上の高齢者を対象に、国の支援のもとで安らかな最期を迎えるという、いわゆる安楽死の権利を認め、支援する制度「プラン75」が提唱された。超高齢社会がもたらす、諸問題の解決策を模索していた社会は、一気に歓迎ムードに包まれた――。

■初の長編監督作品がカンヌ映画祭に招待される

 6月17日に新宿ピカデリーほかにて全国公開予定の映画『PLAN 75』は、現代の“姥捨て山とも言うべき架空の制度”「プラン75」から、生きることの意味を問いかける衝撃作だ。

 新鋭・早川千絵監督の長編初監督作でありながら、本年度カンヌ国際映画祭「ある視点」部門での上映が決定している。カンヌ国際映画祭といえば、1983年に同映画祭でパルムドール(最高賞)を獲得した今村昌平監督の映画『楢山節考』が、姥捨て山伝説を描いた作品として知られているが、およそ40年の時を経て、同映画祭に出品されることとなった本作でもそのテーマの類似性を指摘されるなど、注目の作品となっている。

 本作の主人公は、夫と死別して以来、誰に頼ることなく、長らくひとりで暮らしてきた78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)。ホテルの清掃業をなりわいとしていた彼女は、同世代の仲間たちと寄り添うように、つつましく生きてきた。

 だが同僚の稲子(大方斐紗子)が勤務中に倒れたのを機に、彼女の暮らしは一変する。「高齢者を働かせるなんてヒドいじゃないか」という世間からの叱責の声は、ミチたち高齢従業員の解雇という最悪の結末をもたらす。さらに団地の取り壊しも決まり、ミチは仕事と住居を同時に探さなくてはならなくなる羽目に。だが高齢者であることを理由に、断られ続ける日々。次第に追い込まれていったミチは、ついに「プラン75」の申請を決意する。

 作品は当事者であるミチたちの視点だけでなく、磯村勇斗、河合優実らが演じる「プラン75」を遂行する側に立つ若者たちの視点も交えて描き出されている。当初は杓子定規的な対応を心がけ、上司からは「情が移るから対象者とは交流を持つな」と言われていた彼らだが、ひょんなことから「プラン75」の対象者たちと接点を持つこととなり、それぞれの思いが交錯。やがて自分の行動に疑問を抱くようになる。

 本作のベースとなったのは、5人の若手監督たちが中国の影響を色濃く受けた「10年後の香港」を描き、大きな反響を呼んだ『十年 Ten Years』の日本版となる国際共同プロジェクトのオムニバス形式の映画『十年 Ten Years Japan』(2018年)。

 『万引き家族』の是枝裕和監督が総合監修を務めた日本版の共通テーマは「日本の10年後」。早川千絵監督はそこで、本作のベースとなった短編版の『PLAN75』を手がけた。短編版では、貧しい老人を相手に“死のプラン”の勧誘を行う公務員、そして認知症の母を抱えた妻たちが抱える葛藤を描きだしていたが、日本・フランス・フィリピンの合作映画となる長編版ではキャストを一新し、物語を再構築した。

 ニューヨークの美術大学で写真を専攻するなど、活動の拠点をニューヨークに置いていた早川監督は2008年に帰国。その時の日本に、自己責任論という考え方が広がっていることに違和感を抱いたという。

 そんな風潮が年々ひどくなり、生きづらさを感じていた矢先、2016年に相模原の障害者施設で起こった事件に衝撃を受ける。早川監督は短編発表時のインタビューで「社会に蔓延する不寛容な空気に対する憤り」が創作のモチベーションとなったことを明かしている。“価値のある命”と“価値のない命”という思想がもたらす、他者の痛みに鈍感な社会が行きつく先は何なのか。「穏健なる提案」を映画で表現したいと考えた早川監督は、年齢で命の線引きを行う「プラン75」というアイデアを思いつき、この物語へと昇華させた。 

■倍賞千恵子が主演

 本作の主人公ミチを演じるのはベテランの倍賞千恵子。彼女にオファーした理由について「見た人がかわいそうと同情する人ではなく、この人のことが好きになる。この人に生きていてほしいと自然に思えるような、凛(りん)とした人間的な魅力のある人にしたい」として、即座に倍賞の顔が思い浮かんだという。

 その言葉通り、本作におけるミチは非常につつましく、礼儀正しい。非常に思いやりのある人物像となっているが、彼女のしぐさの一挙手一投足が、そうしたミチの気品、気高さを感じさせるものとなっている。そうしたしぐさは「わたしが意図したというよりは、倍賞さんからにじみ出てきたもの」と早川監督は指摘する。

 一方の倍賞は、本作の脚本を読み「とても衝撃的でした。ただ読んでいくうちにどんどん引き込まれていきました。終わり方がとても好きです」と振り返る。オファーを受けた理由として、ちょうどその時期に「生きることとは?」「死ぬこととは?」ということを考える機会が多かったということも大きかったそうで、完成した作品を観て「引き受けてよかった」としみじみ感じたという。

 また数々のヒット曲を送り出すなど、歌手としての顔を持つ倍賞だが、本作でもその歌声を披露。「監督からは下手に歌ってくれといわれて大変だった」と笑うが、その透き通った声は、本作でも非常に印象的に響き渡る。

 1947~1949年に生まれた団塊世代が全員後期高齢者となる2025年には、日本の人口の5人に1人が75歳以上の超高齢社会になる。この「2025年問題」を前にし、この『PLAN 75』は絵空事とは言い切れないような切実さをわれわれに突きつける。

 (文中一部敬称略)

東洋経済オンライン

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最終更新:5/18(水) 13:31

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