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「社会への違和感」が強いビジネスを生み出す理由

5/15 7:31 配信

東洋経済オンライン

ビジョンの重要性が以前にも増して注目される今、「ビジョンは経営資源であり、人生の武器になる」と喝破するのが、中川政七商店の中川淳氏と独立研究者の山口周氏だ。
2007年より「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、工芸をベースにした生活雑貨の企画製造・販売や、業界特化型の経営再生コンサルティング、また近年ではスモールビジネス支援で地域を元気にするまちづくりなどにも事業を展開する中川政七商店。つねにビジョンファーストの経営を続けている。

「ビジョン」を考えるうえでの視点について、『ビジョンとともに働くということ』より一部抜粋、再構成してお届けする。

1回目記事:創業300年・中川政七商店が「違う土俵」へ行けた訳

■限界集落に人を集める価値転換

 山口:そういえば、新潟の竹所という限界集落に移り住んだドイツ人の建築家がいるんです。誰から頼まれたわけでもなく、廃墟になりかけていた古民家の再生をやり始めたんですが、それに全国から買い手がついて、移住する人が増えているんですよ。

 中川:限界集落の人口を増やすのはすごいですね。

 山口:これも、ある種の価値判断の転換が起きてしまっているんですよね。ただ単に民家や家具といった「モノ」が求められているのではなくて、全体のシステムとして、生きざまや人との関係性、消費のあり方などが見つめ直されている。やはり、ヒューマニティーに根ざした真に素敵なものを見せられると、そこに強い魅力を感じる人がある程度の規模で現れるんだと思います。

 そのドイツ人建築家、カール・ベンクスさんに言わせると、日本人はこんなすばらしい素材の家を捨てて、ゴミみたいな家ばかり建てている。でも彼が再生した民家は、これから何百年も保つし、しかもいまは高断熱の素材も使えるので、ものすごく快適らしいです。

 こういう話がポツポツといろいろなところで出てきているので、ちょっとずつ時代は動いているように感じるんですよ。

 中川:奈良の南のほうにも限界集落がいっぱいあって、お手伝いさせてもらっています。行政のアプローチは散発的でなかなかうまくいかないので、全体を体系化するためのアドバイスをしているんですよ。

 そこで最初に提案したのは、このままでは各プロジェクトがバラバラになってしまうので、奥大和と呼ばれるその地域全体のビジョンをつくりましょう、ということ。それでつくったのが、「奥大和に新しい郷(クニ)をつくる」というビジョンです。そのビジョンを形にするには、インフラも経済も必要になるので、全体の設計図を描いていろいろな取り組みを始めようとしているところです。

 山口:行政からコンサルタントとして依頼が来るんですか? 

 中川:講演などの依頼から始まることが多いですね。でも講演で話したことなんて、1年か2年で消えてしまうじゃないですか。そういう関わり方では意味がないので、その後もアドバイザーのような形でつきあっています。

 行政の人たちもその地域をよくするためにいろいろやってはいるんですが、その場の思いつきで面白そうなことをやるだけで、全体を構造的に考えようとはしないんですよね。

 だからまずはビジョンをしっかりとつくって、それとのつながりを考えながら個々の案件をやってもらうんです。

 これは個々の地域で「モノ」をプロデュースするようなことだけでは変えられないんですよね。もっと広い範囲にわたって、大きな枠組みを変えなければいけない。僕がコンサルタントとしてよそ様のお手伝いをしているのも、うち1社だけで変えられる話ではないからです。それがどんどん広がっていくと、いずれは国のあり方を変えるような話にもなっていくでしょう。

■ビジョンは時代や社会への違和感から生まれる

 山口:竹所への移住者が増えていることなどを見ても、すでに価値観の転換へ向けた時代の文脈は生まれつつあると思っています。

 僕が「美意識」をめぐる本を書いたのは2017年ですが、当時は「ロジカルに思考すべし」みたいなビジネス書ばかり売れていたんですよね。だから、「山口さん、次はどんな本を書いているんですか」とか「いま興味のあるテーマは?」などと聞かれたときに、なんとなく気恥ずかしくて答えにくかったんですよ。

 「経営における美意識とか、消費者としての美意識みたいなテーマなんですけど」と答えると、相手がいたたまれないような顔になってしまって(笑)。当時は誰もがそんなテーマは受け入れられないと思っていたし、本も売れないと思っていたんです。でも出してみたらちゃんと届くべき人たちに届いたので、やっぱり真面目に仕事したほうがいいな、と思い直しました(笑)。

 でも、いまでこそ急速に「経営におけるアート」みたいなことが言われるようになってきましたけど、もっと早く2010年ぐらいに出していたらまったく注目されなかったでしょうね。逆に、去年か今年ぐらいに出していたら、「そんなのとっくにみんなわかっていますけど?」みたいな反応になっていただろうから、然るべきタイミングで世の中に打ち出していくのは大事なことだと思います。

 中川:それは商品でも何でもありますよね。早ければいいわけではない。

 山口:たとえばユーチューブにしても、動画共有サービスの一番手ではありませんでした。ネット環境の向上やスマートフォンの普及が進むまでに、いくつもの動画共有サービスが潰れてきたわけです。昔の携帯電話は動画が28秒しか撮れなかったり、アップロードするにも時間やお金がかかりましたから。その意味で、ユーチューブはタイミングがよかった。もっと遅ければ、後発として厳しい状況になったでしょうからね。

 中川:あのタイミングで周さんが「美意識」をテーマにしたのはなぜですか。

 山口:みんなが「ロジカル、ロジカル」と口をそろえている状況に対する違和感でしょうね。淳さんが「ライフスタイル」全盛の状況を気持ち悪いと感じたのと同じことかもしれません。

 ロジカルに物事を考えることで本当にこの国の強さが回復するのかな、という違和感を抱いたんです。まず世の中の大きな流れに対する違和感があって、「自分はなぜ違和感を持つのか」ということを深掘りしていった先に、「美意識」というキーワードがあったという感じです。最初から「美意識が大事だ」と考えたわけではないですね。

■クリティカル・ビジネスの根底は「違和感」

 中川:現状に違和感を抱く人と抱かない人がいるのは、何なんですかね。

 山口:圧倒的マジョリティーは抱かないんだと思います。でも、何かに違和感を持たないと新しい流れはつくれないでしょうね。

 たとえばテスラのイーロン・マスクも、化石燃料に依存していることに対して自動車産業も電力産業も全然動かないことに対する違和感が、その根っこにあるんじゃないでしょうか。自動車は多くの国で重要な基幹産業になっているにもかかわらず、政治にも強い影響力を持つ人たちが化石燃料依存に対してまったくイニシアチブを持って動こうとしない。それに対する憤りと言ってもいいでしょう。

 こういう「違和感を持つ力」というのは何によるのかというと、やっぱりこれも「ビジョンを描けるかどうか」だと思います。

 たとえばイーロン・マスクは大学院の卒業にあたって論文を2つ提出しているのですが、1つは「太陽光発電の可能性」で、もう1つは「ウルトラキャパシタの電気自動車への活用可能性」なんですね。つまりここ10年で彼がやっていることは学生時代に描いたビジョンの実現なんです。

 ボディショップや無印良品のようなクリティカル・ビジネスもそうです。動物実験に疑問を持たない化粧品会社への違和感、過剰なパッケージやあざとい販促手法に対する違和感が、クリティシズムの根底にあるわけです。

 いま存在感を持っているビジネスの多くがクリティカルなものになっているのは、時代や社会に対する違和感を共有できるブランドにお金を払いたいと思う消費者が増えているからでしょう。少なくとも先進国の社会は「安全・快適・便利」という価値は一定の水準で達成しているので、ここから先はそれが消費者にとっての価値になるわけです。

 だから、時代や社会に違和感を持てないとクリティカルなビジネスはつくれないし、ブランドとして成功するのも難しいでしょうね。会社がビジョンをつくるというのは、広く共有されるであろう自分たちの違和感を言葉に落とし込んでいく作業なのかもしれません。

 (3回目に続く)

東洋経済オンライン

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最終更新:5/15(日) 7:31

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