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「学歴」が起業家の成否を決定付ける要素でない訳

5/6 8:01 配信

東洋経済オンライン

ポストコロナにおいて経済復興を担う存在として大きく注目が集まる、スタートアップ企業。成功するための王道パターンというのは果たして存在するのだろうか? 
シリコンバレーのベンチャーキャピタルData Collective(DCVC)社でパートナーを務めるアリ・タマセブ氏の著書『スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件』を一部抜粋、再構成し、4回連載でお届け。今回は第3回目だ。

第1回:「起業は若いほど成功する」という俗説にモノ申す(4月22日配信)

第2回:「圧倒的成功する創業者は技術者」という説の真実(4月29日配信)

■偉大な創業者は大学を中退する? 

 クリス・ワンストラスはシンシナティ大学に入学して、たった2年で勉強に飽きてしまった。彼は英語を専攻していたが、授業に出ている時間よりもコードを書いている時間のほうが長かった。

 ワンストラスはビデオゲームが大好きで、大学にはプログラミングの授業もあり、独力でゲームのプログラミングができるだけのスキルを身につけた。2年生のときには、腕はかなり上がっていた。

 「学位が必要になると思ったことはない。必要なのはスキルだと思っていた」と彼はのちに語った。コーディングを独力で覚えられるなら、大学は何の役に立つというのか。

 2008年、中退して数年後、ワンストラスはウェブベースの、コードのバージョン管理のプラットフォームであるギットハブ(GitHub)を立ち上げた。マイクロソフト(Microsoft)がそれを2015年に75億ドルで買収した。ワンストラスが学位を持っていなかったことは、ギットハブの成功、特に買収について何ら悪影響を与えなかった。マイクロソフトのビル・ゲイツとポール・アレン、どちらも大学を中退している。

 大学を中退した天才たちの話はたくさんある。フィットビット(Fitbit)の創業者ジェームズ・パークはハーバード大学中退。マイケル・デルは1年生のときにオースティンにあるテキサス大学を辞めてデル・テクノロジーに入った。マット・マレンウェッグ(ワードプレス WordPress創業)、エヴァン・シュピーゲル(スナップチャット Snapchat創業)、ジャン・コウム(ワッツアップ WhatsApp創業)も中退者だ。

 しかしデータを見ると、10億ドル達成企業の創業者の大半は中退していない。いちばん多いのは学士号取得者(36パーセント)か、学士とMBAの取得者(22パーセント)だ。そして全体の3分の1は、それより上の学位(修士、博士、法学や医学の学位)を持っている。バイオテックや医療分野では、上級学位の取得者のほうが多い。あらゆる分野を含めた全体として、大学中退者は博士号取得者よりも少ないのだ。

 CxOは上級学位を持っている確率がやや高い。学士号を持つ人に次ぎ、修士号を持つ人が18パーセント、博士号を持つ人が12パーセントを占める。

 10億ドル達成企業の創業者のデータを通常のスタートアップ企業の創業者と比較すると、学歴のレベルに大きな違いはなかった。特定の学位を持つ人が成功する確率が高いわけではないということだ(大学中退者が10億ドル達成企業をつくる可能性も、他と比べて高くも低くもない)。

■起業家は上級学位を持つ人の割合が高い

 そして驚くことではないが、通常のスタートアップ企業と10億ドル達成グループのどちらも、アメリカ人全体と比較すると、上級学位を持つ人の割合がはるかに高い。

 さらに創業者によっては、高い教育を受けたことが、複雑な市場や技術的に高度なプロダクトへの深い理解へとつながっている。たとえば医療装置のメーカー、ネブロ(Nevro)をつくったコンスタンティノス・アラタリスは、電子工学で学士号を取ったあと、電子工学と通信工学で修士号を取得した。その後、博士号を生物医学工学で取った。その間にMBAまで取っている。

 これほどの学歴を持つ創業者はあまりいない。しかし慢性的な痛みを電気刺激で和らげる装置をつくっているネブロのような企業の場合、生物工学や神経学的モデリングの深い知識を持っているアラタリスだからこそ、会社が解決しようとする問題をよく理解できると思われる。

 一方で、大学教育があまり関係ないと思える人々もいる。リンドン・ライヴは高校を卒業した直後に、南アフリカのプレトリアで最初の会社を立ち上げた。その後、ソーラーパネルの設計、設置、融資を行なうソーラーシティ(SolarCity)を設立した。それは2016年に26億ドルでテスラ(Tesla)に買収された。

 10億ドル達成企業の創業者の多くがトップレベルの大学の卒業生であることは明白だ。特にスタンフォード大学は〝スタートアップ工場〟と呼ばれ、10億ドル達成企業の創業者の数が群を抜いて多い。

■誰もがMITに行くのか? 

 私の調査がカバーしている時期で38人、ちなみにハーバードは26人でMITが20人だ(これら上位校である、スタンフォード卒の創業者CEOとCxOの数は同じ、MITははるかに多くのCTOを輩出している)。

 しかしトップレベルの大学に行っていない創業者もたくさんいる。トップ10の大学の卒業生の数と、トップ100にも入らない大学の卒業生の数は同じくらいだ。

 スタンフォードのような大学に行くことには、恩恵があるのは確かだ。キャンパスがシリコンバレーの中心にあるので、学生たちは卒業する前から、その地域に数多くある有名な企業でインターンをしたり、コネクションをつくったりできる。

 有名な起業家の卒業生といえば、スタンフォードが最も多いが、その地域の他の大学にも、テクノロジーのメッカが近いことの恩恵があるようだ。カリフォルニア大学バークレー校は、10億ドル達成企業の創業者の数では第4位を占める。

 もっとランクが低い大学でも、学生たちはその地域の産業、企業、社員に近づく足がかりを得られる。ワッツアップ(WhatsApp)の共同創業者のジャン・コウムはサンノゼ州立大学の学生だったとき、セキュリティ試験者としてシリコンバレーで働いていた。インスタカート(Instacart)の共同創業者のブランドン・レオナルド、オラクル(Oracle)の共同創業者のエド・オーツもサンノゼ州立大学に行っていた。

■「大学ランキング」より「校風や場所」が重要

 卒業生の起業家としての成功については、大学のランクよりも校風と場所のほうが重要に思える。上位にランクされる大学が、10億ドル達成スタートアップ企業の創業者の数でトップクラスにいるわけではない。その例として、プリンストン大学、カリフォルニア工科大学、シカゴ大学などがある。

 一方で、起業に強い校風の大学が、上位校に対抗している。10億ドル達成企業の創業者は、南カリフォルニア大学卒業者が10人、ミシガン大学卒業者は9人、ブリガムヤング大学卒業者は5人だった。

 聞いたことがないような大学の卒業者もいる。ゲーム/コミュニケーションのプラットフォーム、ディスコード(Discord)の共同創業者でCEOのジェイソン・シトロンはフルセイル大学で学位を受けた。ほとんど知られていない大学だが、フロリダ州ウィンターパークにあり、メディアとアートに特化し、音響工学のような課程がある。

 シトロンは大学に入ったときからプログラミングに熱中していて、フルセイル大学のゲームデザイン課程に登録した。大学卒業後はゲームスタジオに就職し、iPhoneのアプリをつくるようになり、モバイルゲームのデザインで賞を受賞した。

■10億ドル達成企業の創業者を輩出している大学

 平均すると、10億ドル達成企業の創業者は、ランキング上位の大学を卒業している。グローバル大学ランキングで、卒業大学のランク中央値は27位、通常のスタートアップ企業では74位だ。ほぼ3倍であり、上位ランクの大学に行っていた人のほうが、10億ドル達成企業を生む確率は高い。これが私がデータから最初に導き出した、10億ドル達成企業グループと無作為グループの違いの1つである。

 トップレベルの大学に行っていた創業者の成功については、複雑な要因がある。評価の高い大学の卒業者はおそらく、あまり有名でない大学の卒業者よりも、名の通った投資家の目に留まりやすい。そうした創業者は高収入の家庭で育つなど、スタートアップが失敗しても、手厚い支援とセーフティネットを持っていたり、優秀な人材をスカウトできたりする可能性もある。

 とはいえ10億ドル達成企業の創業者には、ランキング上位校に通っていなかった人も多い。そして、だからといって起業で苦労したわけではないと指摘しておく価値はあるだろう。先述のように10億ドル達成企業の創業者で、トップ10の大学に行っていた人と、100位にも入らない大学に行っていた人の数は同じくらいなのだ。

 こうして見ていくと、スタートアップ業界は、起業家の学歴、特に学位についてはあまり関係ないのかもしれない。とはいえ他の業界では、採用のとき教育と大学名が名刺代わりに使われることがあるため、いまだ必須の要件である。

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最終更新:5/6(金) 8:01

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