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「VR日産ショールーム」に見るメタバース広報戦略~10年後はメタバースでの発表会が主流に?

12/4 7:01 配信

東洋経済オンライン

 VRヘッドセットを用いてアクセスし、3DCGで描かれたバーチャル空間内を自由に歩けるソーシャルVRプラットフォームのVRChat。アメリカ・サンフランシスコの企業が提供するメタバース(主に3次元のデジタル仮想空間サービスのことを指す)の1つで、フェイスブックが社名をメタと変えるはるか以前の2014年よりサービスを提供している。

 VRChatにはワールドと呼ばれる数多くのバーチャル空間があり、一定時間プレイしたユーザーであれば誰でも自作のワールドを公開できる。その1つに、日産自動車が11月4日に公開した「NISSAN CROSSING」がある。

 銀座4丁目の交差点にある日産ギャラリー「NISSAN CROSSING」をそのまま再現した、デジタルツイン(現実世界の建築物などをデジタル仮想空間内で再現する技術)なスペースだ。

■営業時間は24時間365日

 ここはNISSAN CROSSINGのあるGINZA PLACEの建物だけではなく、銀座4丁目の交差点もリアルに描かれているバーチャル空間。モノトーンではあるが、銀座三越や和光本店のようなビルも存在する。リアルな銀座の気配を感じとることができて、VRツーリズムの可能性もうかがえる。

 VR上のNISSAN CROSSINGの営業時間は24時間365日。常時開店していて、いつでも訪れることができる。

 ショールーム内に展示されているのは、まもなく発売予定のEV SUV 日産アリアだ。車両の開発時に使われたデータを元に製作されたもので、どの角度から見ても実物そのものだ。

 現在、メタバース空間を活用して企業のショールームが作れるサービスが増えてきている。バーチャルSNSのcluster(クラスター)や、バーチャルプラットフォームのF8VPS(フォーラムエイト)など日本発のサービスはスマートフォンでもアクセスできるようなシステム設計がされており、ユーザーを選ばないというメリットを打ち出している。

 対してVRChatは、Windows PCかメタが販売するVRヘッドセット・Quest2がなければアクセスできない。スマートフォンのユーザー数と比較すると、規模は小さい。なぜ日産がVRChatというメタバースサービスのなかでショールームを作ろうと考えたのだろうか。VRChat内のNISSAN CROSSINGで、日産自動車日本事業広報渉外部の遠藤和志部長と鵜飼春菜氏に話を聞いた。

■新たなコミュニケーションの場

 「日産のなかで、日本事業に特化した広報部隊ができて5年が経ちます。それまでは新聞、テレビ、雑誌といったメディアを対象にして情報を発信してきましたが、この部隊ではいままで以上に幅広い人たちにさまざまな情報を届けていこうという方針のもとウェブメディアへのアプローチをしてきました。また一億総メディア時代といわれる現在だからこそ、ブロガー、インフルエンサーといった方に日産を好きになってもらいたいという想いから、ブロガー・インフルエンサーの方にも発表会にきてもらったり、試乗をしてもらう取り組みをはじめました」(遠藤氏)

 既存のメディアだけではなく、情報を伝える対象を拡大してきた日産。デジタル上での新たなコミュニケーションの場としてVRChatに注目した。

 「弊社で言うデジタルコミュニケーションは、もともとウェブサイトやSNSでの活動を指している言葉でした。Twitterなど一部双方向なコミュニケーションもありますけど、基本的には一方的に発信するチャネルでしかなかったのです。そこでデジタルの世界にいる人たちとの双方向のコミュニケーションをするっていうのを模索して、その1つがこのVRChat上での取り組みだと考えています」(遠藤氏)

 メタバースサービスとして歴史の長いVRChatには、すでに数百万人のユーザーが存在すると公式発表されている。そしてVRChatユーザーは、それぞれが思い思いのコミュニティを作っている。

 「VRChatのコミュニティの方々に日産の情報を伝える価値の可能性は間違いなくあると判断しました。そこで、まずは何かやってみようというところでNISSAN CROSSINGのワールドを製作しました。一般公開することでVRChatユーザーに自由に使ってもらえれば、それがまた日産のPRにもつながる。VRChatならではの発展も期待しています」(遠藤氏)

 バーチャルなNISSAN CROSSINGの発表会には、星野朝子副社長の全身を3Dスキャンして作られたリアルなアバターが登場し、星野副社長の音声メッセージをさまざまなアバター姿の記者に伝えていた。

 「私の所属する日本事業部門は、組織体自体がチャレンジを続けるというマインドセットを強く求められています。私の直属の上司である星野がアバターで出ていくというのも、大きな組織や企業ではないと思うのですけれども、失敗するか成功するかわからないけれど将来の投資ということも踏まえてやってみようということになりました」(遠藤氏)

■ジェンダーフリーな世界が実現できる

 同じくバーチャルの発表会に登壇した遠藤氏。そこには2つの驚きがあった。

 「バーチャルの世界ってすごいフラットだな、と感じました。アバターの中にいる方々が、男性なのか女性なのかもわからないし、年代も肩書もわからない。ジェンダーフリーな世界なのではと感じたんですね。またバーチャルなNISSAN CROSSINGは多くのクリエイター・パフォーマーのお力を借りて作り上げたのですが、VRChatというメタバースは年齢も国籍も性別も関係ない中で、実力のある方がいろいろ頑張っておられる。こういう世界があるんだと驚きました。今後、この世界でどういうコミュニケーションが生まれて、発展していくのかというところがとても楽しみですね」(遠藤氏)

 今回の取り組みは広告代理店などを介さず、直接VRChatのクリエイター・パフォーマーとコミュニケーションをして進めていった。

 「2019年6月に、弊社のエンジニアが開発したアイガモロボを公開しました。日産の制御技術の一部を活用したもので、この発表会にきていただいたインフルエンサーのツイートが強烈にバズりました。この一件は社内でも相当なインパクトをもたらしまして、エンジニアの人生を変えた一つのきっかけともなりました。そのインフルエンサーの方からVRChatの存在を教えていただき、まずは2021年2月に開催されたVRChat上のイベントに協賛してロボットカーのエポロを展示。そして今回のプロジェクトに繋がっていきました。社内的に信頼できるインフルエンサーの方からの紹介ということもあり、今回のチャレンジのハードルはそれほど高くありませんでした」(遠藤氏)

 VRChatでは他ジャンルの企業もバーチャルショールームを公開している。しかし一定期間がすぎると訪れる人がいなくなり、展示内容の更新もなく、古い情報だけがいつまでも残ってしまう。

 「そうならないように、定期的なイベント開催を計画しています。2022年1月11日には一般のVRChatユーザー向けに、地球温暖化・カーボンニュートラルを一緒に考えるイベントも開催する予定です」(鵜飼氏)

■10年後はメタバースでの発表会が主流に? 

 筆者は11月22日に「日産アリアとめぐる環境ツアー」に参加した。その内容は、日産アリアに乗り込んで南極・北極の両方がある世界をはじめとした、自然環境を深く考えられるバーチャル空間へと旅立つもので、VRパフォーマーの力を借りて作られたテーマパークのアトラクションを思わせる展開が楽しめた。設備の問題からリアルな空間では難しい規模と感じる発表会やイベントが開催できるのも、VRChatをはじめとしたメタバースの利点だと感じた。

 「将来的には新車の発表と同期をとった形で、昼間はリアルのNISSAN CROSSINGでメディア向け発表会を行い、夜はこのバーチャルなNISSAN CROSSINGでVRインフルエンサー向けの発表会をすることも考えています。あと10年20年もすればこっちがメインになるかもしれない、という可能性も考えています。

 また先日、ダンスパフォーマンスをお願いしたVRパフォーマンスチームが、独自にクロッシングと日産アリアを解説してくれるイベントを開催してくれました。みなさんEVや日産アリアについてもよく勉強してくださって、正しい情報を伝えてくれました。われわれ企業がそういう説明員を配置するとなると、VRの世界に明るく機器の操作に慣れているスタッフをアサインしないと相当難しい。アンバサダー制度みたいな形で、そういう方々にもベネフィットがいく仕組みも考えていきたいと思っています」(遠藤氏)

東洋経済オンライン

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最終更新:12/4(土) 7:01

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