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金融界が驚嘆!山陰の地銀「前例なき変身」の中身

12/2 8:31 配信

東洋経済オンライン

地域金融機関を取り巻く経営環境は厳しさを増していますが、生き残りをかけて前例のない戦略を打ち出す地銀も出てきています。その1つが島根県、鳥取県を地盤とする山陰合同銀行です。どんなことをしているのか、金融ジャーナリストの浪川攻氏が解説します。
※本稿は『「型破り」な銀行の新ビジネス戦略 “みずほ”敗因からの教訓』から一部抜粋・再構成したものです。

■金融業界が驚いた野村証券との包括業務提携

 島根県、鳥取県を地盤とする山陰合同銀行は山陰地方のトップ銀行であり、地域に根差した堅実な経営に定評がある。いかにも地銀らしい地銀と言える。しかし、その一方で地盤とする2つの県は鳥取県が人口の少ないトップ県であり、島根県はその次に少ない。地方型経済社会の典型的な地域と言っていい。

 そこで、同銀行は2021年3月までの中期経営計画のとおりに、33カ店の店舗統廃合などを通じて戦略的なコスト削減を進めてきた。それもあって、経費率(OHR)は2021年3月には60.58%まで低下し、さらに2022年3月には57.79%まで引き下げていこうとしている。

 そんな山陰合同銀行をめぐって、金融業界が「あっ!」と驚き、目を見張った出来事が起きたのは2019年8月26日のことだった。証券業務について野村証券と包括的な業務提携を締結することを発表したからである。

 地銀業界ではそれまでも、証券会社と提携し合弁形態の証券子会社を設立したりする動きはあった。したがって、証券会社との提携は目新しい話ではない。しかし、この包括業務提携の内容は斬新だった。山陰合同銀行が野村証券の金融商品仲介者として提携し、同銀行と野村証券が山陰地域で融合するというモデルであるからだ。

 1980~90年代にかけて欧米で起きた金融革命を巡って、当時の欧米諸国では、その革命的な動きをメタモルフォーゼという言葉で象徴的に言い表した。さなぎが蝶へと姿を変える変容であり、昆虫の変容は、殻にこもったさなぎが一度、溶けて再生するプロセスを経るケースもあると言う。

 つまり、メタモルフォーゼは生物としての劇的な変化である。ギリシャ神話の「テセウスの船」(より良い船を目指して改良を重ねて、ある時、以前とはまったく異なるものになっていたというパラドックスの逸話)を彷彿させるような変化である。当時の金融革新は、それほど激しい金融革命ととらえられていた。

 山陰合同銀行が挑んだのは、これに類するようなモデルチェンジである。具体的に言えば、山陰合同銀行、その証券子会社である「ごうぎん証券」が有する顧客口座を野村証券の専用口座に移管する。同時に、同銀行の投信販売などの預かり資産業務部門、ごうぎん証券、さらに野村証券の松江支店、米子支店の機能を統合して、同銀行が新設した「アセットコンサルティング部」を中心とした運営に一本化させる。

 地銀の証券業務に関して、これほどスケールが大きいビジネスモデルの刷新は過去にはなかった。もちろん、支店機能、人材などを事実上、その地域の銀行のプラットフォームに移すということは野村証券のみならず、証券業界としても初の挑戦である。

 したがって、このニューモデルが発表されるや、メディアなどはそのエッセンスを消化しきれなかった面もある。しかし、山陰合同銀行は、明確なビジョンを描いたうえでの決断だった。

 このモデルは2020年9月23日に開始した。それから9カ月あまりが経過した時点で、山崎徹・山陰合同銀行頭取はその狙いを明確に説明する。

 「目的は2つだった。地元の顧客に品質の良い証券サービスを提供することと、そのビジネスモデルを持続可能なものとして成立させること」

 証券業務に限らず、地銀が追求するエッセンスのすべてが凝縮された言葉と言える。

 なにしろ、地銀の最大の価値は地域からの信頼である。それを守るためには、高品質のサービスを提供して、地域の顧客の満足度を維持・向上していかなければならない。と同時に、企業としては、その取り組みを継続できるような、安定的に収益を生み出せるモデルでなければならない。

 いかにサービスレベルが高品質であっても、収益貢献がなく、あるいは、貢献することがあってもきわめて不安定であるとすれば、事業規模を縮小したり、場合によっては断念せざるをえなくなったりするかもしれない。

■銀行業界に根強かった「総合採算」という発想

 かつて、銀行業界では「総合採算」という発想が根強かった。これは取引先ごとにもそうだったが、銀行全体でも個々の取引の生産性に頓着せずに「総合的採算が取れればよい」という牧歌的な考え方があった。それだけ銀行には余裕があったのだが、いまや、時代は大きく変わって、収益基盤のベースである貸出は伸び悩み、預貸金利ザヤも悪化の一途にある。

 さらにいえば、日銀がマイナス金利政策に及ぶ超低金利政策に踏み切る以前には、預金流入額が貸し出しの増加額を大きく上回ったとしても、その超過部分は銀行間の資金貸借市場であるインターバンク市場に放出して運用すれば一定の収益を生み出すことができた。流動メリットと呼ぶものだったが、いまや、長きにわたってインターバンク市場も金利が圧し潰され、流動メリットは失われている。

 地方経済の悪化もさることながら、これは地銀にとって過去に前例のない厳しい経営環境である。そうしたなかで、総合採算的な発想はいつの間にか消えて、銀行は部門ごとにきちんと収益を稼ぎ出す必要性が増した。

 山陰合同銀行が預かり資産業務と呼ぶ証券ビジネスもそうである。すでに地銀業界では、証券業務を本業の1つと位置付けている。山陰合同銀行もその立場から、2015年には、証券子会社であるごうぎん証券を設立して事業基盤を拡大していた。銀行本体によるビジネスと子会社との二枚看板の態勢である。

 ところが、だ。銀行本体、証券子会社という2つのチャネルともに、赤字体質を抜け出せず、また法人向け融資などほかの業務に比べると、顧客満足度が相対的に低いという問題意識を抱かざるをえない状況があった。

 これは、多くの地域銀行が直面している実情と言える。主要業務の1つになったとはいうものの、預金、貸出などに比べるとその歴史は浅く、ノウハウが蓄積されているわけではない。しかも、証券ビジネスに独特のシステム、事務処理が必要であり、したがって、損益分岐点は高い。

 そこで、山陰合同銀行がそうだったように、自前のシステムは持たずに外部委託するケースも少なくないが、それでも、費やさざるをえないコストは相当に重たい。ましてや、証券分野では顧客本位の業務運営を徹底するにつれて、コンプライアンスコストは増し続け、また、関連制度が変更になるたびにシステムの改良コストが発生する。コスト高という構造問題は解消どころか、深刻化する一方と言っていい。

 それだけではない。主力商品である投信の販売手数料は低下傾向にあるうえに、顧客が保有期間に応じて得られるストック収益である信託報酬(あるいは、代行報酬ともいう)にも引き下げバイアスが強まってきている。つまり、取引あたりの収益率は低下する一方で、そのための業務運営コストは増していくという構図だ。従来のモデルである限り、事業継続は容易ではない。

 そうしたなかで、地銀に限らず、投信などの販売を行っている企業で叫ばれているのが「販売力の強化」である。合理的な戦略のようにも聞こえるのだが、実態はそうではない。多くの場合、この路線の下で営業現場では大いなる矛盾、歪み、疲弊が生じている。

■強引な売り込みや「懇願セールス」を助長

 顧客ニーズを棚上げして、手数料率の高い商品を優先する強引な売り込み、商品説明をわきに置いた「懇願セールス」などを助長したり、あるいは「ハイリスク・ローリターン」であり、手数料が不透明と指摘され続けている仕組債を販売したりという状況である。

 仕組債の販売について、金融庁は「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング(令和2年度)」(2021年6月公表)のなかで「地域銀行で増加傾向、残高は高止まり」と指摘している。ここからは、不明朗な商品が地域銀行に定着しかけている実態が垣間見られる。

 そのようなハイリスク商品の販売を主業としていると明確に打ち出していても、眉を顰めたくなる話である。ましてや、地域の信頼を基盤に置く地域銀行であれば、目先の利益のためにかけがえのない企業価値を棄損しかねない。

 赤字体質のままでいいのか。それではビジネスとしての持続可能性は期待できない。山崎氏は悩み続けていた。そして、その難題の解として見出したのは自らが金融商品仲介業に転身するというウルトラCだった。

 金融商品仲介業は2003年、当時の証券取引法(現在、金融商品取引法)改正で制度が作られ、翌2004年に法施行とともに誕生した。

 一定の条件を満たして国に登録すると、証券会社との提携によって、投信などの証券商品の仲介ができる。仲介で販売した収益は提携証券会社と分け合うことになるものの、事業に必要な一連のシステムなどのインフラは、提携した証券会社のそれを活用でき、業務運営コストは飛躍的に軽減される。

 その仕組みをベースにして、同銀行の証券顧客口座、ごうぎん証券の顧客口座だけではなく、野村証券の松江、米子支店のリテール顧客口座も同銀行が業務運営するセクションに一本化させ、かつ、野村証券の金融商品仲介口座に移管して口座管理を外出しする。つまり、システム、管理業務などのコストが発生するバックオフィス業務の大半は野村が担う。

 これによって業務運営上の桎梏から解放されて、赤字体質からの脱却による持続可能なビジネスへと変わる。同時に営業現場が歪むような販売力強化を回避し、顧客ニーズに応えるという高品質の証券サービスを貫くことができる。まさに二兎を同時に追える基盤が整うことになる。

■「ルビコン川を渡った」と言ってもいいほどの決断

 ところが、銀行内では異論も出たと言う。

 「長年培ってきた顧客を大切にする社風がアライアンスモデルでは損なわれるのではないか」といった慎重論も出たし、提携モデルでは同銀行から一切のシステムがなくなってしまうことに対する懸念も議論された。

 確かに、システムを全廃するというのは「ルビコン川を渡ったと言ってもいいほどの決断であり、逆戻りは効かない」と山崎氏も語る。

 しかも、地域銀行、なかでも山陰合同銀行のような有力地銀は地域のトップバンクであるだけに、銀行としての装備はきちんとそろえるべきという発想が根強い。自身が金融商品仲介者になって、管理口座を野村に外出しするというモデルには拒絶感が芽生えやすい。それを乗り越えるために相当のエネルギーを要しただろうことは容易に想像できる。

 いま、山陰合同銀行が得たものは少なくない。第一に、目指した通りに提携モデルのビジネスを開始して以後、預かり資産ビジネスはようやく、赤字体質を脱却できた。

 加えて、野村からは松江支店、米子支店などの社員約90人が出向形態で業務に従事している。提携前は同銀行職員だけで360名の体制だったが、いまは210人の同銀行職員と野村の90人による300人体制である。つまり、150名の職員は法人向け融資などへの戦略的な再配置ができた。

 「出向者と当行職員との融合は予想以上にスムーズに進んでいる。出向社員には、スキルで見劣りする当行職員がスキルアップするような指導を日常的にやってもらっている。また、野村が有する様々な営業ツールも提供されているし、私たちが単独ではできなかったマーケット分析も提供してもらっている」

 そうしたメリットを得ながら、顧客と接するフロントはきっちりと山陰合同銀行がグリップしている。したがって、顧客から見えるのは、あくまでも地元銀行の「ごうぎん」が提供する地銀ならではのサービスである。

 「どの階層をターゲットにしているということはない。しかし、いままであまり手が届いていなかった超富裕層にも提案できるようになるだろう。一方、資産形成層には積立型投信をお勧めして、かなりの実績が上がっている。野村証券も『一日で、こんなに件数が積みあがるのはどういうことなのですか』とその実績状況には驚いている」

 こう近況を語る山崎頭取は、このモデルを改めてこう定義づけしている。

 「われわれにとってよいことは野村にもよいことでなければならないし、私たちに悪いことは野村にも悪いことでなければならない。そういうパートナー型のモデルだ。これはほかの銀・証提携モデルではなかった関係だろう」

 そのベースにあるのは、顧客からの信頼性、顧客の満足度を重視する地銀本来の発想である。既存の観念にとらわれずに、時代の変化にマッチしたベスト・プラクティスを追求している。山陰合同銀行に続いて、徳島県の阿波銀行が同様のモデルを開始している。証券リテールのメタモルフォーゼは広がりつつある。

 山崎氏が得ている手応えは野村証券にもある。新井聡・同社副社長は「ストック資産純増額、積立契約など、事前の想定を大きく超えるペースで進捗している」とモデルの果実の大きさを強調したうえで、次のように語っている。

 「当社が持つ証券口座は銀行口座に比べると少なく、証券会社だけでできることには限界がある。地銀と組むことで相当のプラス効果が出ている」

 程度の差はともかく、「できることの限界性」は銀行にもある。それは顧客に提供できるサービスのすそ野の広さ、さらに品質面の限界でもある。

 それを相互に補完すれば、限界を超えて、より魅力的なサービスの提供が実現できる。山陰合同銀行・野村証券のモデルはそれを示していると言えそうだ。

■ゲートキーパーの側面が高まる地銀

 ところで、地銀の役割を考えてみると、各地の経済・社会のゲートキーパーという側面が高まっているように思える。

 金融が日進月歩で進化するなかで、素晴らしいプレーヤー、あるいは新たなビジネス、商品が開発されてきているが、逆に複雑でリスキーであり、さらには不明朗なビジネス、商品であっても美辞麗句であふれた謳い文句で地域に持ち込まれるリスクが生じている。それもまた、現代金融の一断面だ。

 顧客からの絶大な信頼を得ていれば「気を付けないといけませんよ」とアドバイスし、顧客、そして、地域を守ることもできる。

 そんな金融パーソンを育て上げるためにも、コスト構造を革新して信頼をさらに向上させる営業プラットフォームの質的な強化が求められているように思える。

 山陰合同銀行によるチャレンジからはその道筋が見えてくる。

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最終更新:12/2(木) 8:31

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