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小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮

12/1 9:01 配信

東洋経済オンライン

近年、障害や病気のある家族などの介護を主に担う18歳未満の人々、いわゆる「ヤングケアラー」の存在が、徐々に社会的な注目を浴びるようになってきた。今年3月に公表された国の調査によると、中学生の約17人に1人、高校生では約24人に1人がヤングケアラーだという。
また2019年公表の国の調査では、ヤングケアラーにおける生活保護受給世帯が29.6%、ひとり親世帯が48.6%とも報告され、貧困とも密接に関係すると考えられる。国も支援策を検討しており、少しずつ支援の輪が広がってきている。

一方で、ヤングケアラー以上に認知度が低いのが、18歳からおおむね30代までの介護者である「若者ケアラー」だ。進学や就職に際し、収入に直結する選択を迫られる時期でもあり、その中で介護を担わなければならない負担は大きい。しかし若者ケアラーを対象とした公共的な支援は少なく、ケアラー全体を支援する埼玉県や北海道栗山町、20代も含めた「こども・若者ケアラー」を支援する兵庫県神戸市などのわずかな例があるのみだ。若者ケアラーに絞った調査や統計資料も乏しく、全体像がつかみにくい状況だ。

貧困に陥った若者たちの実態に4日連続で迫る特集「見過ごされる若者の貧困」3日目の第3回は、ライターの大河内光明氏が若者ケアラーの実像に迫った(1日目、2日目の記事はこちらからご覧ください)。

【3日目のそのほかの記事】
第1回:30代女性が“夜逃げ”した「ヤバい格安賃貸」の正体
第2回:コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境

■半年から1年周期で状態が変わる母

 20代後半の男性Aさんは、物心ついたときから実の父がおらず、母の元で育てられた。平穏だった生活が一変したのは10歳のとき。母にうつ病(のちに双極性障害と判明)の診断がおりたのである。

 元々「責任感のある完璧な人だった」という母だが、家族間での言い争いが増え、再婚した義父とは離婚し、一緒に暮らしていた祖母とも別居。さらに親戚からも離縁され、結果的に母との2人暮らしになった。

 リストカットや飛び降り、過剰服薬など、たびたび自殺未遂を起こす母を子どもながらにケアする日々。経済的にも苦しかった。母は半年から1年周期で躁状態とうつ状態を繰り返した。

 躁状態のときは働きに出られるが、うつ状態のときは寝込んでしまって仕事ができなくなる。このように就業状態が不安定だったため、中学、高校生活では生活保護を受給した。

 「学校生活では自分だけ学食で定食を頼めなかったり、病院に行くにも医療券だったり、肩身が狭かったです。役所などでの手続きも、母が動けないときは私が代わりに行く必要があり、思い返すと不自由でした。自分がしっかりしないと終わりだと思っていました。子どもながら、緊張感のある生活でしたね」

 Aさんは高校卒業後、作業療法士になるために専門学校に進学、その後、大学に編入した。作業療法士を志したのは「経済的に安定するし、母のことをもっと理解できるのでは」と考えたからだ。学費や生活費は奨学金などで賄った。奨学金の総額は800万円ほどになるという。

 それでも前向きに生きていたAさん。ところが作業療法士として働き始めてから、精神的に非常にきつくなった。母の病状が悪化したからだ。

 隣町に就職したAさんは、社会人1年目のある日、仕事終わりに「自殺する」という旨の連絡が母から入った。幸い大事にはならなかったが、過剰服薬していた。「自分に注目してほしいという気持ちが透けて見えました」とAさん。過激化する母からの連絡が煩わしくなり、着信拒否やブロックをすると、職場の夜間電話にも連絡するようになり、当然業務にも支障をきたした。

 それ以外にもアパートで禁止されている犬を飼う、無職で借金をする、無計画に引っ越しや散財する、などを繰り返す母。その後始末をするのがAさんだった。

 「訪問看護やヘルパーさんも母が自ら追い出してしまうので、手に負えませんでした」

■母の再婚でケア生活を卒業

 実はAさんは1年ほど前に、ケア生活を卒業した。きっかけは母の二度目の再婚だ。それを機に連絡が来なくなったという。「再婚しなければ、今ごろどうなっていたか」とAさん。ケアが終わった今だから言えるのかも、と前置きしながらもこう語る。

 「発症前の母は掃除好きで真面目で働き者でした。クリスマスには決まって手作りケーキを作ってくれたのを覚えています。適切な処置を受けられない時期が長かったからか、躁状態とうつ状態の波の落差が激しくなり、少しずつ人格が変わってしまったんです。

 今ではまるで別人で……。ただ、母は働けるときは必死に働いてくれていました。そこは感謝しています」

 ケアが終わったとはいえ、Aさんの生活は楽とはいえない。奨学金は現在も月4万円近くを返済している。専門職とはいえ、作業療法士の月収も18~19万円ほどで、十分とはいえなかった。今は別の仕事を探している。

 同時に、同じ悩みを持つケアラーの支援団体の運営をサポートしている。

 「昔の私は孤立していました。どこにどう相談していいかわからない状態です。ケアラーと社会がつながる場所が必要です」

 誰のせいでもないが、個々の家庭ですべては解決しきれない。せめて社会的な支援と人とのつながりがあればという切実な願いを聞かせてくれた。

 Bさんは現在30代後半。20代から現在に至るまで、祖母、母と継続して介護してきた。

 「うちは祖父母と母と私の3世代世帯でした。大学在学中に祖母が認知症になり3年ほどして他界、後を追うように祖父も亡くなりました。そこから経済的に立ち行かなくなり、生活保護を経験しました。生活保護を抜け出した後も、何とか立て直そうと20代後半で営業の仕事をしている最中に、今度は母が指定難病である前頭側頭型認知症になったんです」

 前頭側頭型認知症は、同じ行動や言葉を繰り返すほか、万引きなど反社会的な行動が表れることもある。

 Bさんの母親にしても、大声を出す、徘徊する、暴れるなどの行動を繰り返し、警察のお世話になったことが100回以上あるという。コロナ禍においては、マスクをつけようとすると逆上するため、出入り禁止になる施設もあった。

■入れる介護施設がない

 「母を介護施設に入れようと試行錯誤したのですが、この症状のせいで入れる施設がまったくない。親戚にも見放され、頼りにできません。母は非正規の教員だったため、年金は少額で5万円ほど。財産は一切なく、私は母のために介護離職せざるをえませんでした。

 途中からネットで物を売る仕事をして月10万円前後の収入を得ているのと、会社員時代の貯金を切り崩して何とかしています。この間、国や自治体から経済的な支援は1円もありませんでした」

 要介護4~5に認定された要介護者を介護する家族などに支給される家族介護慰労金は、Bさんの住む自治体では制度として組み込まれておらず、もし存在したとしても要介護度2にとどまることから利用できない。

 また、重度障害者向けに支給される特別障害者手当も、日常生活動作評価で「一部体が動かせるため」という理由で対象にならないそうだ。

 市の担当者からは「お気の毒ですが、あなたのような介護者には制度が何もなく支援できない」と言われたという。

 生活保護を受給する方法もあるかもしれないが、それには抵抗感がある。

 「生活保護を受給すると、母がこの状況の中、定期的に窓口に申請しに行かなければいけない。受給するためには家財を手放さないといけない可能性もあります。それに仕事で稼げないのもつらいんです。仕事は精神的なよりどころになっていますし、かつて生活保護から抜け出したのに逆戻りするのも抵抗感があります。

 最後の手段として精神科病院に入院させる方法もありますが、患者を閉じ込めて放置しているような病院もあると聞きます。それは私がこれまでやってきた介護を否定するようなものです」

 Bさんは「早急に何とか支援してほしい」と悲痛な思いを打ち明ける。

 「母は眠ることなく徘徊して騒ぎます。私も夜は1時間ほどしか眠れません。もう何年ももたないかもしれない」

 「ヤングケアラーへの支援は進む一方、18歳以上の若者ケアラーの認知と支援は不十分です」

 こう語るのは、自身も30代から認知症の祖母を介護し、ケアラーのコミュニティーを運営する作家・メディア評論家の奥村シンゴ氏だ。

 「夜間のトイレ付き添いなどで睡眠時間も確保できない中、若者ケアラーが自分の進学や就職の準備するのは大変厳しいです。非正規雇用で働いたり、介護離職したりする人も多く、周囲と経済的な面でも差が出て結婚しにくいなどの問題も生じます。

 長期化する介護でケアラー自身も心身の不調に陥るケースが少なくありません。また、コロナ禍では通う病院も限られ、デイサービスやショートステイも利用できない状況になりました。その間、国や自治体の支援はほとんどありませんでした」

■「家族として大切に看たい」が…

 では、若者を含めたケアラーに対する支援はどういうものが考えられるのか。奥村氏はこう提案する。

 「イギリスやオーストラリアなどではケアラーに給付する『介護者手当』もあります。また、税金の控除や、介護者の休息を支援するレスパイトケアという形も考えられるでしょう。民間でも企業側がリフレッシュ休暇や介護休業の制度を充実させるなどの視点も重要といえます」

 今回取材した当事者に共通していたのは、「家族として大切に看たい。しかし現状の手薄な支援では苦しすぎる」という葛藤に加えて、「身近に相談できるところがない」という苦しさだ。SNSが現実の人間関係以上に重要な居場所になっているという声も多かった。

 経済的な支援だけでなく、当事者が気軽に相談できる社会的な環境づくりも必要といえそうだ。

(4日目第1回は竹中平蔵「私が弱者切り捨て論者というのは誤解」)

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最終更新:1/4(火) 16:28

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