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30代女性が“夜逃げ”した「ヤバい格安賃貸」の正体

12/1 5:01 配信

東洋経済オンライン

日本における貧困問題の解消に向けて、大きなネックになっているのが「住まい」だ。家がないと、履歴書に書く住所がなく、求職活動が難しくなる。ところが、低所得者にとっては敷金、礼金などの初期費用の高さが壁となり、ネットカフェや脱法ドミトリー(相部屋の格安宿泊施設)などに流れてしまうケースも少なくない。
貧困に陥った若者たちの実態に迫る4日連続特集「見過ごされる若者の貧困」3日目の第1回は、若者の住まいの貧困について、ジャーナリストの藤田和恵氏が迫る(1日目、2日目の記事はこちらからご覧ください)。

【3日目のそのほかの記事】
第2回:コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境
第3回:「小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮

■1部屋に8人が暮らすワンルームマンション

 東京・新宿駅から歩いて20分ほど。行きかう人々や車の喧騒が次第に遠ざかっていく。時刻は夜9時を回ったころ、高層ビルの明かりが途切れ、薄暗い住宅街へと入る。街灯だけでは心もとない道路を宅配ピザ店やコンビニの明かりが照らす。その一角に目的のワンルームマンションはあった。どこにでもあるレンガ色の5階建ての建物である。

 このマンションに暮らすミユキさん(仮名、30代)から市民団体でつくる新型コロナ災害緊急アクションに助けを求めるメールが届いたのは今年5月。駆け付けた事務局長の瀬戸大作さんにミユキさんはこう訴えた。

 「シェアハウスのようなところだと思って入ったら、1部屋に8人も住んでいたんです。しかも男女一緒。部屋の持ち主の男がしょっちゅうやって来て、自分はすごい情報網や人脈を持っていて、やろうと思えば何でもできる、どこに引っ越してもわかると言って脅してくる」

 瀬戸さんはミユキさんに家賃を払ったうえで、人目につかないよう荷物を運び出すことを提案。この日は“夜逃げ”の決行日だった。同アクションの同行取材を続けていた私も手伝うことにする。

 彼女が住んでいるというマンション2階の部屋の扉を開けた途端、複雑な生活臭が鼻をついた。整髪料に制汗剤、生乾きのタオル、あとは揚げ物のにおいだろうか――。

 玄関にはスニーカーやパンプスなど大小さまざまな靴。室内に目をやると、12~13畳の広さの部屋の両壁際に2段ベッドが2つずつ置かれていた。それぞれのベッドの前にはカーテン代わりの布が垂れている。中から人の気配がする。

 もう1つの壁際には、げた箱のようなロッカー。貴重品入れだという。床には黒やピンク、赤のキャリーケースのほか、シャンプーやリンスの入ったかご、使用済みの紙皿、酒の空きビンなどが所狭しと置かれていた。

 まさか本当に、こんな普通のマンションの一室に、他人同士の男女8人が暮らす異常な空間があるとは――。

■「何してんの?  引っ越し?」近寄ってきた若い男

 しかし、驚いている暇はない。部屋の持ち主だという男に見とがめられる前に荷物を運び出さなければならない。ミユキさんと私の2人で段ボールやビニールバッグを階段を使って降ろし、建物に横付けした瀬戸さんの車に積み込んでいく。4往復ほどしたころに、白いジャージの上下を着た若い男が近寄ってくる。

 「何してんの?  引っ越し?」「どこに行くの?  何区?」と話かけられ、少し緊張する。私が小声でミユキさんに「部屋のオーナーですか?」と尋ねると、「別の部屋の住人です」という。同じような“タコ部屋”がほかにもあるということか――。

 引っ越しは30分ほどで無事完了した。私が作業の合間を見て携帯で撮影した室内の写真を瀬戸さんに見せると、「脱法ドミトリーだな」とため息をついた。

 ミユキさんは地方都市出身。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化したころに体調を崩したこともあり、働けなくなった。2020年秋、生活保護を申請するため都内の福祉事務所に足を運んだところ、相談員から「落ちるところまで落ちてから出直してください」と言われたという。その後、ネットで見つけたこの脱法ドミトリーで暮らしてきた。

 「“家賃”は1日1000円。ネットの民泊サイトや旅行サイトで普通に予約できます。私のように住まい代わりにしている人がほとんどですが、時々出張で利用している会社員もいました」

 脱法ドミトリーを退去したものの、行く当てがあるわけではない。ミユキさんは瀬戸さんが事務局長を務める反貧困ネットワークが運営するシェルターに一時的に入居した。

 新型コロナ災害緊急アクションにSOSのメールを発信してくる人の多くは20代や30代の派遣やアルバイトといった非正規労働者である。正社員はほとんどいない。さらに共通点を上げるとすると、一般の賃貸アパートで暮らしていたという人もきわめて少ない。

 非正規雇用のような低水準の給与で、いつ雇い止めに遭うか分からない状況では、高額な初期費用を用意したり、家賃を払い続けたりすることが難しいからだ。言い方を変えれば、低所得者向けのアパートが不足しているという問題でもある。

 また、連帯保証人の代わりに保証会社を利用する大家が増える中、一度でも家賃滞納などの履歴があると、保証会社の審査に落ちてしまうので入居自体のハードルが上がっている。

 頼れる実家があればよいかもしれないが、多くの場合、親による虐待や親世帯も貧困といった理由で実家に身を寄せることも難しい。そもそもフルタイムで働いても1人暮らしもできないような働かせ方のほうがおかしいことはいうまでもない。

 ではこうした若者たちはどこで暮らしているのか。

■シェアハウスやネットカフェが受け皿に

 最も多いのは賃貸アパートに比べて初期費用が圧倒的に安いシェアハウスである。またネットカフェや個室ビデオ店を住まい代わりにしているという人も珍しくない。

 ただ、賃貸アパートに比べて借主の立場が弱いシェアハウスは悪質な追い出し被害に遭いやすい。また、ネットカフェの宿泊費は家賃に比べて割高になることが多く、極端に食費などを切り詰めるか、所持金が尽きれば路上生活になるしかない。

 派遣で働きながら、派遣会社の用意した寮で暮らしていたものの、雇い止めに遭い、同時に寮からも追い出されて路上生活になってしまったというのも典型的な事例のひとつだった。リーマンショックのときも社会問題となった寮付き派遣である。

 このようにシェアハウスやネットカフェが賃貸アパートを借りられない若者たちの住まいの“受け皿”となっていることはすでによく知られた実態だ。

 それに加えて、新型コロナ災害緊急アクションには、ミユキさんのような脱法ドミトリーのほか、実は職場内で寝泊まりしている、友人宅に居候しているなど、およそ住まいとはいえない場所からのSOSも少なくなかった。コロナ禍で住まいの貧困の“多様化”が進んでしまっている現実が浮き彫りにされた形だ。

 コロナ禍で仕事を失い、家賃を払えなくなり、賃貸アパートからの退去を余儀なくされた20代の男性も、住宅を宿泊施設に転用した脱法ドミトリーを転々としてきた。

 日暮里にあるアパートには、2段ベッドと1段ベッドだけが置かれていた。また池袋にある一見普通の民家の中には、カーテンで仕切られた2~3畳のスペースが20人分ほどあった。宿泊施設のはずなのに、フロントらしき場所もスタッフもいなかったという。

 男性は取材に対し「Booking.com(ブッキングドットコム)とかAirbnb(エアビーアンドビー)とかのサイトで普通に予約しました。どこもほとんど満室でしたよ。日本人の若者が多かったです」と語った。

 神奈川県内の工場で派遣労働者として働いていた20代の男性の住まいは、派遣会社が用意した寮だった。寮付き派遣である。

■居酒屋に転職し、住み込みで働いていたが…

 しかし、努力して資格を取っても待遇に反映されないうえ、いつ雇い止めに遭うか分からない派遣労働では将来が描けないと、その後、居酒屋に転職。ただそこでも賃貸アパートを借りることができるだけの収入は得られず、店内に住み込みながら働いたという。

 そこにコロナ禍が直撃。オーナーの一言で店は閉店となり、男性はホームレスとなった。2カ月間の路上生活の末、所持金が尽きた男性が新型コロナ災害緊急アクションに送ってきたメールには次のように書かれていた。

 「仕事を探しながら面接などの前日だけネットカフェなどでシャワーだけ借りて、身だしなみを整えるような生活をしてきました。でも、住所なし、(料金未納で)携帯の通話もできないという状況なのでどこも雇ってくれません。就職に必要な履歴書や証明写真を買うお金すらなくなってしまいました。どうか助けてください」

 男性は一時的に同アクションの支援などを受けた後、シェアハウスへと入居した。現在は再び派遣の仕事をしているという。男性はいまだかつて賃貸アパートで暮らしたことがない。

 同じく派遣労働をしながら、友人の家でルームシェアしてきた20代の男性もいる。ルームシェアといっても「友達の家に転がり込んだというのが本当のところで、家賃も7対3くらいで友達が多く払っていました」という。

 次第に居づらくなり、部屋を出たところでコロナ禍に遭遇。派遣の仕事も減ってしまい、ネットカフェや3畳ほどの広さの貸倉庫などを転々とした後に路上生活となった。現在は生活保護を利用しながら仕事を探している。

 「賃貸アパートに入れるなら入りたいです。でも、問題はそれに見合った給料がもらえるかどうかですよね。本当はアパートを借りられるだけのちゃんとした仕事を見つけたい。でも、いつまでも生活保護のお世話になるわけにはいかないから、結局また派遣かな……」と男性は諦めたように話す。

 どこまでいっても賃貸アパートは“高値の花”なのである。

(3日目第2回はコロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境)

東洋経済オンライン

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最終更新:12/2(木) 6:19

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