IDでもっと便利に新規取得

ログイン

ビジネスを大転換させ好循環を生む「内観の習慣」 「やりたいこと」を実現する余った時間の使い方

12/1 10:31 配信

東洋経済オンライン

ハーバード・ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーにして、心理学者のアシュリー・ウィランズが書いた『TIME SMART(タイム・スマート)』。効率性一辺倒ではない、異色の時間術の本だ。「お金より時間が大事」「生産性向上はタイム・リッチ(時間的に裕福な状態)から」「まず、健康で幸福な生活を送る、その後、生産性・創造性が上がる」と説く。もちろん、心理学者だから、科学的な調査、統計データでその主張を裏付ける。

「内観する時間を日常の中に持つことで、迷いがなくなり意思決定の軸が育つ」と語るのは、通信業界でキャリアを積み、独立後は書家として、またプレゼンテーションクリエイターとして多くの企業で研修講師をつとめる前田鎌利氏だ。前田氏が本書の考察と、自身の念(おも)いを語った。前編に引き続いてお届けする。

■オリンピック誘致のプレゼンを見て、退職、独立を決意

 2013年9月7日の早朝、2020年のオリンピック招致のプレゼンテーションがありました。「お・も・て・な・し」のプレゼンが行われ、東京オリンピック・パラリンピックが決まった瞬間、私は背中を押された気がしたのです。

 元々、私は通信業界に入る前は、学校の先生になりたくて、東京学芸大学教育学部で書道を専攻していました。そして大学3年生の1995年1月17日に阪神・淡路大震災が起きます。

 故郷である福井県から関西に進学していた同級生や、一緒に書道を学んでいる関西在住の学生も多数いましたが、1月17日を境に連絡が取れなくなったのです。

 当時は今のように1人1台携帯電話を持っているような世の中ではありませんでした。「もし、携帯電話を持っていてくれたら、連絡が取れたのに。探しに行けたのに。安否が確認できたのに」。そんな思いが逡巡します。そのときに、教師になること、書家になることは、後でいくらでもできると思うようになったのです。

 災害大国の日本で必要なことは、自分の安否を大切な人に知らせる手段を1人ひとりが持つことなのではないか。そんなことを考え、通信の道に進むことにしました。

 その志を立ててから、通信業界に入り、1人1台の携帯電話を持つ時代が実現し、エリアが広がってどこに行ってもつながるような社会が実現しました。2011年に東日本大震災が発生し、携帯電話がつながらなくなるという事態に陥りましたが、急ピッチで復旧させて以前よりもさらにつながるようになっていきました。そして、2013年9月7日の東京オリンピック・パラリンピックが決まる日を迎えたのです。

 「2020年に日本でオリンピック・パラリンピックが開催される」

 ソフトバンクアカデミアで私が行ったプレゼンの1つに、教育や書を通じて、次の世代に日本文化の素晴らしさを伝えていくというものがありました。東日本大震災後にずっと考え続けた「次の世代へ伝えていくこと」が、東京オリンピック・パラリンピック招致のプレゼンによって開催が決まったその瞬間に、明確になったのです。

 「時価総額200兆円を目指すソフトバンクの中でその一翼を担っていくよりも、自分にしかできないことをやろう。東京オリンピック・パラリンピックの開催は、海外から来る外国人の方々に日本の素晴らしさや文化を伝えることだけでなく、未来を担う日本の若い人たちにも、日本を知ってもらう大きな機会となるはず。だから日本の若い世代へ伝える機会にしよう」と。

 背中を押された私は、その翌日の9月8日に退社することを上司に告げました。

■KPIを一切設定しない理由

 その後、2013年12月31日にソフトバンクを退社して、書家として独立しました。書道教室や日本文化の良さを教えるスクールを全国で展開し、700名を超える生徒さんたちが通ってくださるようになりました。

 また、ソフトバンクアカデミアで培ったプレゼンのスキルを、より多くの企業や学校現場で活用してもらうことでより多くの企業や個人の未来を実現してもらいたくて書籍の執筆、研修、講演などを行い、今では年間200カ所でお伝えするようになりました。

 2018年には一般社団法人プレゼンテーション協会を設立し、2021年に全国高校生プレゼンテーション甲子園を開催できました。全国から409チームが参加する大きなイベントになり、若者が自分の主張を伝える場となっています。

 これらの事業は、すべて自分が心の底からやりたいと思っていること。書家、経営者、教員などさまざまな顔で活動していると周りの方々からは「お休みあるんですか?」「お忙しいですね」などと言われることがあります。

 実は皆様から思われている以上に、休みの日や家族との時間などもしっかりと確保しています。「タイム・リッチ」な日々を送ることができているのです。

 「タイム・リッチ」であることを実現している1つの要素として現在、私の会社では、「今期売り上げの目標として1億円達成しよう」「○年後、10億円を目指そう」というようなKPIは一切設定していません。KPIを設定してしまうとその数字を追いかけてしまい、本当に「やりたいこと」を見失ってしまうことをこれまでのビジネス経験の中で体感してきたからです。

 企業の経営方針はさまざまです。規模を求めて多くの人々に影響を与える事業もあれば目の前の人に商品やサービスを提供することもあります。

 私が自分自身に言い聞かせていること、そして社員に伝えていることは、KPIを設定して規模を求めるのではなく、「今一番やりたいことは何か」そして、「やりたいことをしっかり伝えられるように準備をする」「それを実現させるために必要なことを考えておいてほしい」ということです。

 もし、それを実現させるために資格が必要なのであればその資格を会社で費用負担して取得してもらったり、外部で学んできてもらいます。資金が必要であるのならば、その資金を調達してくるのです。私が経営する会社は自分自身や社員が心の底からやりたいことを実現させるために存在しています。そしてそのやりたいことは企業理念に合致しているのが大前提となります。

■自分を見つめる内観の習慣化はお勧め

 私が思う「タイム・リッチ」とは、「やりたいこと」に取り組んでいるような状態。忙しくなくて時間的に余裕があるという状態ではなく、自分の希望通りに時間が使えている状態ではないかと考えています。まったくゆとりがないのは問題ですが、少々忙しくても、「やりたいこと」に邁進している時間は充実しているのではないでしょうか。

 私は書家なので、書を書く間に自分の内側を観る時間、内観の時間が自然に取れます。例えば、墨を磨るという所作の時間は単にボーっと磨っているのではなくて、何の字を書こうかなとか、どういうタッチで、どういう雰囲気で書こうかなとか考えるのです。

 海を見たから「海」と安直に書く場合もあれば、時には別の言葉を選ぶこともあります。水面がキラキラしていれば、「海」ではなく「輝」と書くかもしれません。あるいはそのきらめきから「未来」という言葉を想起するかもしれません。重要なのは、なぜ、このタイミングで私はその文字を選んだのか、なぜその言葉を書きたいのかについて自分の内側を観ることが大事なのです。

 先ほど述べた通り、私が東京オリンピック・パラリンピックのプレゼンを見たときに、「自分が今、本当にやりたいことをやろう」と考えたこととまったく同じ。端から見るとオリンピックが決まった翌日に退職することを伝えるのは突拍子もないことかもしれませんが、絶えず自分と向き合い、考え、内観してきたからこそ、決断をして自分の未来をぐっと引き寄せたあの日の決断は、書く文字を決めるプロセスとまったく同じなのです。

 つまり、私の意思決定の軸は、幼い頃から慣れ親しんできた書を通して培われていたものだったのです。

 私にとっては書が内観する行為ですが、多くのビジネスパーソンの方々にも自分の内面を見つめる時間を習慣化していただきたいと思っています。私は、ソフトバンク在職中、本当に忙しいときでも、筆を持って書をコツコツ書き続けていました。それがあったからこそ、自分と向き合う時間を日常の中に持ち続けることができ、意思決定をする際にも迷いがなかったように思います。

 言い換えると「タイム・リッチ」になるには、「いかに意思決定を行うか」とも言えるでしょう。

 当方の書道教室に通っていらっしゃる生徒の中には、書を書くときに内観している方が多数いらっしゃいます。そのプロセスを行うことでビジネスが大きく転換して好循環となっていった方をたくさん見てきました。これは本当に嬉しいことです。

■言語化したことを開示するプレゼンが重要

 同様に、私が行っているプレゼン研修や講演などでは、「一番伝えたい人はだれか」「一番伝えたいことは何か」を1日1回考えようとお伝えしています。自分が考えたことを日々言語化するのです。

 そして、言語化した事柄を自己開示する時間が非常に重要になります。自己開示の方法として私がビジネスの中で取り入れていたのはまさにプレゼンをしてもらうことでした。

 自分のチームのメンバー同士でお互いの信頼関係を構築すること、すなわち信頼インフラを構築するには、この自己開示が必須となります。そこで、自己紹介プレゼンや趣味プレゼン、未来のなりたい自分プレゼンなどを行ってもらうのです。プレゼンするためには自分と向き合うことが必須ですから自ずとプレゼンはその人自身が投影されます。相手の価値観や考え方、軸を知ることでそれぞれの強みを知り、生産性の高いチームプレーへとつながっていきます。それには上司や同僚、メンバーの理解と協力が必要なのです。

 ビジネスと同様に就職活動中の大学生、受験を控えた高校生にも、同じことを伝えています。面接官に「自分だけの志望理由」を伝えられるようになるまで、掘り下げていかないといけないよ、と。

 掘り下げるには、一番伝えたいことが何か、なぜそれを伝えたいのか、その「なぜ」を考えて、言葉にしていけば自分だけの志望理由が答えられるようになると伝えています。なぜなら、人はそれぞれ異なる人生を歩み、異なる経験をしていますから、1つとして同じ言葉に帰結しないからです。

■強制的「タイム・リッチ」から能動的「タイム・リッチ」へ

 コロナ禍でリモートワークをするようになって、通勤時間や無駄な会議から解放されて、時間的に余裕ができた会社員は多いと思います。これは、強制的な「タイム・リッチ」な状態で、手持ち無沙汰になって、ストレスを感じている方もいるのではないでしょうか。

 『TIME SMART』の中では、「手持無沙汰嫌悪」という人間の本性を紹介していますが、これは「何もしないでいることを嫌う」ため、余計な資料をつくってしまう、ついスマホをいじってしまう、ウェブサーフィンしてしまうというものです。相当にテクノストレスを感じていると思います。

 本の中では5分、10分、30分という単位で「もし時間があったらリスト」をつくることを勧めていますが、「やりたいこと」を見つけるのには最適だと思います。手持ち無沙汰になった時間を能動的な余暇として、散歩や、普段連絡を取らない方にメッセージや手紙を送ることに充てるのもいいかもしれません。いつも仕事を意識してぱっぱっと済ましていたランチもゆっくり食べるというのは、私もいいと思っています。

 手持ち無沙汰なときに、「やりたいこと」を行うようになれば、強制的な「タイム・リッチ」から充実感が味わえる能動的な「タイム・リッチ」へシフトできるのではないでしょうか。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:12/1(水) 10:31

東洋経済オンライン

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング