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人が感動する物語をつくる2つの大きなポイント

11/27 15:01 配信

東洋経済オンライン

 面白そうだと思っていた映画が、実際に見てみたら期待外れで、時間を無駄にしたと思ったことはありませんか?  映画に限らずさまざまなエンタメ作品で、出だしは面白そうだったのに途中から興味が薄れ、最後まで辿り着かなかったという経験は、多くの人にあると思います。

映画などを作る時には、まずは期待させることが重要で、それをCQ(セントラル・クエスチョン)という形で表現しています(参考記事:「周りの期待に応えられる人と裏切る人の決定的差」11月20日配信)。そして、その期待を最後まで抱かせるのに必要になるのが「構成」という技術です。

■いかに効果的な流れを作るか

拙著『「物語」の見つけ方 ー夢中になれる人生を描く思考法』でも詳しく解説していますが、構成の基本は、要素の順番を組み立て、いかに効果的な流れを作るかを考えることです。CQによって抱かれた「期待」が、その目的がかなうクライマックスの瞬間まで途切れないように誘導していく。そうすることで、最後まで見届けてもらえて、クライマックスが最初の期待に応えるものであれば、満足してもらえるのです。

 では、人はどんな構成に惹きつけられるのでしょうか。それを考えていくために、いくつかの図を見ながら考えていきたいと思います。

 上に並んだ3つの矢印は、ストーリーの展開を示した図です。左端がストーリーの始まり(始点)、右端がストーリーの終わり(終点)を意味しています。上がり下がりはストーリーの「盛り上がり」を示していると考えてください。

 (外部配信先では図表や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 この中で、見ている人がいちばん好ましく思う展開を表している矢印は、どれだと思いますか? 

 おそらくほとんどの人が、右肩上がりの矢印を選択すると思います。株価のグラフをイメージするとわかりやすいですが、人は時間と共に上がっていくものを本能的に好みます。 

 ではもう一問。次の2つの矢印だとどちらを選びたくなるでしょうか? 

 これは、好みが分かれるかもしれません。どちらも始点と終点の高さや、経過している時間も同じですが、右側の矢印は途中で落ち込んでいます。人によっては、少しでも落ちるのは嫌だという人もいるかもしれません。

 しかし、ストーリーをドラマチックに見せるという意味では、右側の矢印が描く展開のほうが効果的です。それは、下降から上昇に反転した時に、上昇感が高まるためです。人は慣れる生き物なので、ずっと同じような上がり幅だと、体感的に上昇感が薄れてしまいます。

 実際、どんな複雑なストーリーも、細かく分けていくと、このような「V」の組み合わせになっています。「構成」とは、この「V」をいかに組み合わせ、最後まで見届けたくさせるか、その過程を描いていくことなのです。

 映画やドラマは、ストーリーの最小単位である「V」を組み合わせつつ、全体でも一つの大きな展開を描いています。その大きな展開として、私が多くのドラマや映画などで基準となる構成として考えているのが次の図です。

 時間軸にそって、物語の展開の浮き沈みを曲線で描いたこの図を、私は「ドラマカーブ」と呼んでいます。このドラマカーブは、主に1時間くらいのドラマや、2時間くらいの映画の構成に適しています。特にディズニーのアニメなど、王道と呼ばれるような物語は大体この構成に当てはまっています。それほどまでに、多くの人の心を捕まえて離さない構成と言えるのです。

■ドラマカーブの7つのポイント

 多くの作品に通用する「ドラマカーブ」ですが、その中には、大きく7つのポイントがあります。その7つのポイントと、それぞれが持つ役割は、図のとおりです。

①「CQ」 CQを提示し、最後まで見届けたいと期待を高める
②「プチハッピー」 いい調子で上昇し、迎える序盤のピーク
③「ボトム」 目的達成がほぼ不可能なほど、どん底に落ちる
④「再起」 何かしらの転機を迎え復活する
⑤「上昇」 再起したあと、グングン上昇する

⑥「クライマックス」 CQの結果が出る(基本的には達成する)
⑦「プラスα」 伏線の回収、あるいは次へのひっぱり
 ドラマカーブの具体的な例として、御三家映画の『千と千尋の神隠し』で説明したいと思います。下記の図は、私が『千と千尋の神隠し』を見て作ったドラマカーブです。

①「CQ」:主人公・千尋は別世界に迷い込み、両親が豚に変えられてしまう。「はたして両親を救い出し、無事に元の世界に戻れるだろうか?」というCQが提示される

②「プチハッピー」:ハクという少年に助けられ、湯屋で働く中で千尋は成長し、居場所を見つけていく
③「ボトム」:これまで千尋を支えてくれていたハクが、銭婆の契約印を盗んだがために重傷を負い、死にそうになる
④「再起」:ハクを助けたい一心で、千尋は危険を顧みず銭婆に会いにいく決心をする
⑤「上昇」:湯屋で暴れるカオナシを大人しくさせ、電車に乗って銭婆の家に向かう
⑥「クライマックス」:千尋とハクの過去が明らかになり、ハクは自分の名前を思い出す。千尋は湯婆婆の試験をクリアして自由の身となり、無事に元の世界へ戻る

⑦「プラスα」:ハクと再会する

 エンタメ作品において、より人を惹きつけるドラマカーブを描くために最も重要視されるのは、「③ボトム」と「⑥クライマックス」の高低差です。

 なぜなら、観客がクライマックスで得られる達成感は、ボトムとの高低差に比例するからです。これは、少し前に「V」における高低差の体感度で話したことと同じです。

 クライマックスでの達成感は、本来はスタート地点との高低差です。しかし下記の図を見てもらうとわかるように、一度落ちることによって、不思議なことにボトムからの高低差が体感的な達成感になるのです。

 そのためドラマや映画では、できるだけボトムを落としたうえで、できるだけクライマックスを上げて高低差を作ろうとします。

 ボトムを下げるには、強い敵など障害を降り掛からせ、主体をピンチにします。目的達成を困難にしつつ、達成不可能と思うギリギリまで追い込むのです。どん底の状態まで行ったら、今度は逆に、なんらかの克服や気づきを経て再起し、クライマックスでは無事に目的を達成します。この高低差が大きければ大きいほど、達成感が高まるのです。

 もう1つ、クライマックスで重要なのは、観客に抱かせていた期待にきちんと応えることです。どんなに劇的なクライマックスでも、期待していたものでないと達成感は感じられません。人は期待していないものには反応できないからです。

■悲劇が教えてくれるプロセスの重要性

 ここまで、ストーリーの黄金率とも言えるドラマカーブについて説明してきました。しかし、こんなふうに思う人もいるかもしれません。「ボトムとクライマックスの高低差ではない部分に感動することもあるのではないか」と。

 これはとても重要な指摘で、結論から言えば、時には別の方法で人の心を惹きつけることも可能です。その手がかりは、前回話した「内的CQ」そして「悲劇」というストーリーの型にあります。

 悲劇の定義は「ハッピーエンドで終わらない」ということですが、ドラマカーブで言えば①で提示されたCQが非達成で終わること、あるいは始点より終点が低く終わるということになります。

 先に見たように、基本的に人間は上向きの矢印を好みます。それなのに、なぜ下がったまま終わる悲劇が成立するのでしょうか。アンハッピーで終わるストーリーをわざわざ見届けたいと思う人は少ないはずです。序盤に抱かせた期待が叶わないというのは、がっかりさせてしまう可能性も高いです。

 それでも、みなさんの好きな映画の中に、悲劇的なラストだったけれども心を捉えて離さなかった作品というのは必ずあると思います。実際、日本の歴代興行収入の上位3位のうち、1位『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』と3位の『タイタニック』は、悲劇という構造を持った作品です。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では無念にも煉獄杏寿郎は敵の前に倒れますし、『タイタニック』ではジャックとローズは死別してしまいます。どちらも悲しい結末です。それにもかかわらず私たちは大きく心を打たれました。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では、終盤、太陽が昇るからと逃げる敵・猗窩座を竈門炭治郎が追いかけて叫ぶシーンがあります。ストーリーのクライマックスと呼べるシーンです。「逃げるな」「煉獄さんは負けてない」と必死に叫ぶ炭治郎の姿は、見方によっては「負け惜しみ」を敵にぶつけているシーンと言われてもおかしくありません。しかし煉獄さんをはじめとする仲間たちがどんな思いで必死に戦っているかを叫ぶ主人公の姿に、私たちは感動しました。たとえハッピーエンドではなくても期待外れだと思わない、むしろ、だからこそ感動できたと思える例です。

 もう1つ、『タイタニック』の例も考えてみます。『タイタニック』の見所と言えば、まもなく沈没するという状況でも貫かれた愛や、そこにいた人々の生きざまではないでしょうか。最後まで演奏をやめなかった楽団、潔く死を受け入れ身を寄せ合った老夫婦などの描写に感動した人は多いはずです。

■つらい状況にいる人間の生きざまに共感する

 戦争ものなど歴史的な事実を扱った作品には悲劇型が多くあります。史実として多くの人が亡くなったことを知っているからこそ、結末よりもその過程に集中することができ、プロセスに心を動かされやすいのです。悲劇は、つらい状況にいる人間の生き様に共感するための物語と言っても過言ではありません。

 このように、人は期待に応えたクライマックスだけではなく、その過程においても大切な何かに気づくことができます。そこで描かれている内容次第では、クライマックスやボトムとの高低差に関係なく、人を惹きつけるのです。

 現代では、「高低差」的なカタルシスよりも、「共感」が求められている時代と言われています。不確実性が高く、成功やロールモデルも定義しにくいから、諦めない姿勢、難局における人間らしさこそが、人の心を動かします。

 実際、映画などでも、主人公が派手な成功を納めるタイプのストーリーより、振りかかった危機や障害をなんとか乗り越えるというタイプのストーリーのほうが、ヒット作が多いのは顕著です。

 映画でも人生でも、大きな視点で自分や他人のドラマカーブを理解しつつ、その高低差を意識するとともに、細部での共感要素を高めていくことが重要だと言えるでしょう。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/27(土) 15:01

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