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「悟空のきもち」子供の発想をビジネス化するワケ~66万人キャンセル待ちヘッドスパの「実験」とは

11/27 8:01 配信

東洋経済オンライン

 “子どもには無限の可能性がある”というキャッチフレーズは、“だから大人は応援しなければならない”という文脈で使われることが多い。

 しかし、子どもの可能性をそのままビジネスチャンスにつなげるユニークな会社がある。

 仕掛けるのは、66万人キャンセル待ちのヘッドスパ、「悟空のきもち」の実験ブランドとして誕生した、株式会社悟空のきもち THE LABO(以下、THE LABO)である。

■12歳~21歳の子どもたちが主体

 同社の事業内容は、子どもの豊かな発想力に着眼したサービスや商品の企画だ。面白いのは、プロジェクトに参加する12歳~21歳の子どもたち自身が主体となって、ビジネスを進めていくそのプロセスである。プロジェクトごとに参加人数は異なるが、全体で20~30人の子どもたちが名を連ね、神奈川県小田原市にあるホテルを拠点に活動している。

 同社が手がけた商品の中には大きな話題を呼んだものもある。

 例えば2021年6月に発売された「マスクパン」(5個セット1800円)は、メロンパンを使用したマスク。まさに子どもならではの、冗談のような発想で、「売れるわけがない」と思う人は多いだろう。

 しかし、初回の販売分200個が初日で完売、10月末現在までに累計5000個を販売、入荷待ちが続いているヒット商品なのである。

 そのほか、企業や自治体を通じ世の中に出ている商品やサービスも多々あり、同社の業績を上げているほか、企画をした子どもたち自身も働きに応じてきちんと利益を得ているそうだ。

 代表取締役社長の永野弘樹氏が同社を立ち上げたのは、1人の少年との出会いがきっかけだった。

 「2020年の1月に交通事故で死にかけたのを機に、今までの自分の仕事を振り返ったんです。『自分は何も残していない。未来に残るものをやりたい』と漠然と考えました。松葉杖で歩けるようになり、リサーチのために訪れた沖縄に、ハイビスカスを育てている男の子がいた。話を聞いてみると、医学部の学生だという。それなのに、大学敷地内のハイビスカスにせっせと何かの液をかけているんです。面白い子だな、とまず思いました」

 まるで映画の始まりのような出会い。そしてこの学生が、プロジェクトの中でも中心的な存在、太田旭さんだ。コロナで大学の授業もほぼリモートになり、友達とも会えず時間をもてあましていた太田さんは、「1日で枯れる花を2日もたせるようにする」をテーマに研究を始めたのだそうだ。

 それが後に、THE LABOの商品第1号「花びら液」として結実する。

 従来の活性剤とは異なり、花に直接スプレーで吹きかけることにより花の寿命を1.3~1.8倍に延ばすというもの。

 水に特殊な加工を施し、花びらの細胞膜を透過できるほどの細かさに分解して花全体に水分を行き渡らせるというのが本商品の仕組みだ。化学的な保存料を混ぜると花に負担をかけてしまうため、使用する直前に成分と粉末成分を混ぜ合わせるタイプとすることで酸化を防ぎ、保存期間を確保した。

■花びらと肌の共通点

 画期的ではあるが、用途が限定されたこの「花びら液」。しかしなぜか発売後1カ月頃から予約が増加、完売が続くようになったという。

 太田さんは当時の状況を次のように説明する。

 「ある日、大手百貨店のバイヤーさんから、肌の保湿をする化粧品として売りませんか、というご提案があり、びっくりしました。話を聞いてみると、購入してくださった女性が化粧品として使ってみた結果、口コミで評判が広がっているというんです。永野に相談したら、『園芸品を化粧品にするなんて面白い』と言ってくれて、1月11日に、私の成人の記念として化粧品を商品化することにしました」

 太田さんによると、花びらも肌も、細胞膜に「アクアポリン」という管があるという点で仕組みは同じ。さらに厚さが人の肌の10分の1しかなく、デリケートな花びらを潤すことができるのであれば、人の肌にも優しいはずだ。

 なお、太田さんが持ち前の“研究者魂”で市販の化粧品を花にかけてみたところ、花は枯れてしまったという。

 現在、園芸用品は「花びら液」(3100円/100ml)、化粧品は「ひとか」(4300円/100ml)として公式サイトより販売されている。成分は同じだが、人間用が割高なのは化粧品登録に要する費用の分だという。販売数の割合は園芸用:人間用でおよそ2:1なので、「園芸用を化粧品として使っている人もいるのではないか」と太田さんは推測している。

 このような経緯から、「子どもの発想はすごい!」という確信を得た永野氏は、いよいよ2021年1月にTHE LABOを本格始動、具体的なビジネスの企画をふくらませていった。

 「悟空のきもちでは『女性が男性社会に勝つ』をテーマにし、女性だけの会社が人気で日本のトップのブランドになった。今度は『子どもが大人に勝つ』に挑戦してみようと。THE LABOの方針は、小さい頃に夢見たことを全部やってみるということ。そして夢は必ず実現するということを実証し、子どもたちに自信を与えたいと思いました」(永野氏)

 例えば福岡市のある離島を舞台にした「無人島のツリーハウス」プロジェクト。樹上の小屋は台風などのたびにメンテナンスの必要があるものの、太田さんらプロジェクトのメンバーが時々訪れては、自ら釣った魚などを糧とする、本格的なサバイバルを行っているようだ。エイを焼いて食べたこともあるらしく、「お腹が空いているからおいしかった」と目を輝かせる太田さん。生きているという実感が、彼らの活力となっているようだ。

 前述のマスクパンは、メンバーの1人であるパン好き女子が「パンの匂いを嗅いでいたい」という発想を基に始めたプロジェクト。彼女が大好きな「Melon de melon」のメロンパンに、耳にかけるゴムをつけただけのものだが、飛沫を防ぐ性能は通常のマスクと同等以上にあることが実験で証明されている。

 「コロナで暗くなっている社会を、ちょっとだけ笑顔にしたかった」という永野氏の思いから開発を進めた同商品。日本より先に世界が注目した。世界中からアクセスがあり、20カ国でニュースに取り上げられたという。購入は国内に限られるが、購入者の約6割が在日外国人と推測されるそうだ。

■ランドセルをキャリーに変身するスティック

 上記の例のように、THE LABOでは発案者が企画して商品化まで進めるのがセオリー。メンバー同士で話し合ってアイデアを生み出していくというよりは、1人で考えに考え、コンペのように競い合って、優れた企画に結びつけていくやり方だ。

 そして役割分担はほとんどなく、試作やホームページ制作や商品化・発表までの一連も基本的に企画を考えたメンバーが、サポートを受けながら進めていく方式で、経験を重ねていく。すべてをやってみることで、企画の精度が飛躍的に向上するという。

 11月10日には、太田さんが栃木県日光市の廃校に集う子どもたちとともに開発した「さんぽセル」(3960円)が予約受付開始。発売1週間で約1000個の予約が入っているという。太田さんによると、今、小学生が持ち運ぶ学校の教材は重いときで10kg以上になり、成長期の子どもたちのランドセル症候群と呼ばれる健康被害も心配されているという。そこで、子どもたちへのヒアリングを行い、ランドセルに取り付けてキャリーのように引っ張って運べるスティックを一緒に開発した。

 「1人が持っていれば周りの子どもたちも欲しがるので、あっという間に広まるのではないかと期待しています」と永野氏。

 収益が出れば、プロジェクト発案者である太田さんが決められた割合に応じた額を受け取るが、一部は日光市の子どもたちに還元される。太田さんは貯めたお金で南極に行くのが夢。そして日光の子どもたちは、廃校に雨の日でも遊べるゲームルームをつくるそうだ。

 ほかにもさまざまなプロジェクトが月間に1本ぐらいの頻度で進行しているが、中でも、メンバーの子ども10人程度が参加する大きな企画が「LABO旅館」だ。10月には、1泊朝食付き24万円の「宇宙人シャワー」という宿泊プランが発表された。固定観念に縛られない子どもたちは、大人にとって“宇宙人”のようなものという発想から、プロジェクトメンバーが宇宙人に変身して宿泊客たちを迎える。テーマは“答えを探す旅”。宿泊客が持ち込むテーマに合わせてアイデアを練り、ビジネスなどのヒントになるような答えをお客に提供するのだという。

 1泊24万円とは論外にハイグレードに思えるが、永野氏によると、それでもすでに数件の予約が入ってきているそうだ。

 太田さんはホテル支配人を務めるとのこと。またこのたび新たにメンバーとして参加したのが鈴木美咲さん。就職活動中の大学3年生だ。

 「ホテルに1カ月宿泊できるという募集要項を見て、なかなかできないことなので挑戦してみたいと思いました。今はホテルで過ごしながらやりたいことを探しています。ときどきメンバーで集まって企画を考えることはありますが、行動は自由。いろいろな子がいるから刺激を受けるし、自分のアイデアが現実になるというところに、みんな引かれて集まるのではないかと思います」(鈴木さん)

■子どもたちに伝えたいメッセージ

 永野氏がこれらTHE LABOのプロジェクトで子どもたちに伝えたいのが、「社会は優しい」というメッセージだそうだ。

 「成功者には子どものような方が多いですよね。だから社会って、“大人になったら負け”ゲームなんじゃないかと思うんです。日本の社会はルールや常識で子どもを縛ろうとするけど、それでは子どもの個性や自由な表現が失われてしまう。子どもが発想に任せて行動しても『勝てる』という雰囲気をつくってやることが大切です。THE LABOの子どもたちの例が呼び水になって、日本中がそんな雰囲気に満ちてくれば、社会がもっと活性化され、新しいビジネスがどんどん生まれるのではないでしょうか」(永野氏)

 「女性なんだから」「子どものくせに」。こういった個人を縛る価値観に疑問を抱き、自由を求める声が強くなっている。しかし制度や慣習、固定観念などを覆していくためには大きなエネルギーが必要だ。楽しみながら、しなやかに立ち向かっているTHE LABOの子どもたちに学ぶべきことは多そうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/27(土) 8:01

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