IDでもっと便利に新規取得

ログイン

「リニアの町」になる中津川が期待する開業効果 駅、工場、車両基地を造って観光・産業を振興

10/25 6:31 配信

東洋経済オンライン

 海はないけど川遊びができる。きれいな川が減った今の日本で川遊びができる場所は貴重な存在だ。そんな場所の一つが岐阜県中津川市。中央アルプスの最南端に位置し、日本百名山の1つである恵那山をはじめとした山々や透明度の高い川に恵まれた自然豊かな町だ。

 人口7万6000人。中山道の宿場町として古くから栄えた。現在は三菱電機が工場を運営するほか、豊富な樹木と水を利用する製紙メーカーも進出する。中央自動車道の開通により首都圏、近畿圏の中間地点というメリットに着目した多くの製造業がこの地に拠点を構える。

 そんな中津川市にリニアがやってくる。リニア中央新幹線の岐阜県駅(仮称)は、市内にある中央本線・美乃坂本駅の近くに造られる。さらに車両の留置や整備を行う車両基地も市内に建設される。車両基地は神奈川県相模原市にも設けられるが、車両の組み立て、オーバーホールなどができる工場を併設するのは中津川だけだ。

■「リニアのホームタウンに」

 「駅と車両基地が設置されるという大きなアドバンテージを頂いた。リニアのホームタウンとしてまちづくりを進める」――。

 10月14日、車両基地の建設予定地で工事着手に伴う安全祈願式が行われ、挨拶に立った中津川市の青山節児市長がリニアに寄せる思いを述べた。

 車両基地は長さ約2km、最大幅約400m、造成面積は約50ヘクタールという巨大なものだ。県が農業研究所として活用していた丘陵地を造成し、切土や盛土によって平らにならす。造成工事の完了予定は2025年9月末の予定。工場、検査庫、事務所など建物の建設スケジュールは今後発表される予定だ。

 工業が栄える中津川市も人口減少や高齢化の流れは避けられない。そんな状況にあってリニアはまさに事態を打開する救世主となる。

 リニアが開業すれば東京(品川)と約58分、名古屋とは約13分で結ばれる。首都圏からの観光客増に加え、名古屋が通勤圏になることから定住者を呼び込むことができる。車両基地が完成すれば、JR関係者が移住する可能性もある。市では住宅用地の確保など受け入れ体制を整えたいとしている。また、車両基地や工場の運営に際しては、部品供給から清掃、保安などさまざまな産業が周辺に生まれる。その雇用創出効果は小さくない。

 開業当初はJR東海の経験豊富な社員たちが車両基地を運営するにせよ、「その後は地元で育成した人材が担ってほしい」(青山市長)。リニアというハイテク技術を担う人材が中津川市から続々と登場すれば、中津川市は「リニアの町」どころか、「ハイテク産業の町」と呼ばれるようになるかもしれない。

■「リニアが見える」も観光資産に

 東京と名古屋を結ぶリニアは、走行区間の大半が地下やトンネルとなり、車両を自分の目で見ることができる場所は限られる。岐阜県駅は地上に設けられるが、高架橋はフードで天井まで覆われたり、左右が防音壁で覆われたりするため走行する列車を実際に見ることができるかどうかはわからない。

 だが、車両基地は地上に造られるため、本線と工場の間を行き来する回送列車を見ることは可能だ。「リニア車両が見える」ということも市では観光施策としてアピールする。

 また、JR東海は「新幹線なるほど発見デー」として、東海道新幹線の浜松工場を年1回程度一般開放しており、数万人規模の人が集まるビッグイベントとなっている。JR東日本やJR九州も新幹線の車両基地を定期的に一般公開して多くの来場者を集めている。市はリニア車両基地も観光資源になると考え、そのための協力をJR東海などに求めていくという。

 とはいえ、いいことづくめではない。気になったのは安全祈願式とその後の関係者の挨拶において、リニアの開業時期について誰も口にしなかったことだ。南アルプストンネルの工事が大井川流域の水資源や南アルプスの環境に与える影響を懸念する静岡県が、いまだに着工を認めていない。そのため、2027年に予定されていた開業をJR東海は事実上断念した。南アルプストンネル着工のメドが立たなければ、開業時期が決まらないというのが現在の状況だ。

 中津川市は、2027年開業をにらんでさまざまな施策を検討してきた。開業時期が延びれば市にとっても打撃は大きい。「リニア工事に反対する静岡県民たちに中津川市を代表して何を伝えたいか」と青山市長に聞いてみたら、次のような答えが返ってきた。

 「大井川の水資源に関する議論は、私たちが口を挟むことではない。しかし、私たちにとっては、リニア開業によって交流人口が増え、産業・環境にも寄与する。なんとか早く解決してほしい」

 リニアの開業は市にとって大きなメリットとなるが、車両基地だけでなく、駅、橋梁、トンネルなどの工事が今後本格化するにつれて、建設残土の運搬に伴う道路の騒音・振動、開発がもたらす地域環境への影響は気がかりな問題となる。青山市長は「地域の意向に最大限の配慮を行って、安全・環境対策にしっかり取り組んでいただきたい」とJR東海に釘を刺すことも忘れていない。

■違いを生む「メリットの有無」

 静岡県でリニア問題を担当する難波喬司副知事が「難工事にゼロリスクはない」と発言しているとおり、すべてのリニア沿線自治体は、工事に際して多かれ少なかれ環境への影響を心配しているはずだ。

 ではリスクをゼロにできないことを承知のうえで工事にゴーサインを出した自治体と工事を認めない静岡県の違いは何かというと、考えられる点の1つがリニアが地域にもたらすメリットの有無だ。静岡を除く沿線の都県は新駅設置などのメリットが得られるが、大井川流域市町はリニア開業後に東海道新幹線の停車本数が増えるという間接的なメリットしか得られそうにない。リニアの車両基地もできることで産業活性化が期待される中津川市とは大違いだ。

 南アルプストンネルの工事が水資源や環境に与える影響について、静岡県民が納得したうえで工事が着工するまでにはかなりの時間がかかりそうだ。JR東海が早期着工にこぎつけるためには、新幹線の停車本数増以外に静岡県へのメリットを提示するなど、視点を変えた取り組みが必要かもしれない。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:10/26(火) 23:23

東洋経済オンライン

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング