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国が海外映画作品の「ロケ誘致」に乗り出した理由

10/24 17:01 配信

東洋経済オンライン

「日本はもっと外国映画の撮影に協力してほしい」という言葉は、海外の映画人からしばしば聞かれる。実際、過去に『ワイルド・スピード X3 TOKYO DRIFT』『新宿インシデント』『ブラック・レイン』など数多くの外国映画が日本で撮影されたが、漏れ聞こえてくるのは日本で撮影をすることの難しさや苦労、もっと協力してほしいといった嘆きの声ばかりだった。
そんな日本を横目に、韓国や台湾などの近隣諸国は、ハリウッド映画をはじめとした海外映画の大型プロジェクトの誘致を積極的に進め、大きな経済効果をもたらしてきた。かつて東京都の石原慎太郎元都知事が、その任期中に「銀座でカーチェイスを」とぶちまけ、「東京ロケーションボックス」というフィルムコミッションを立ち上げたことがあったが、観光立国を提唱する日本にとって、海外の大型作品を誘致するための土台作りは急務とされていた。

そんな中、内閣府は「大型映像作品ロケーション誘致の効果検証調査事業(外国映像作品ロケ誘致プロジェクト)」を立ち上げ、日本における海外からの大型映像作品の撮影ロケーション誘致がどのような経済効果をもたらすのか、実際に海外から大型映像作品を誘致し、その効果を調査することとなった。そしてその第1弾の調査作品として、東京、大阪、兵庫、茨城など日本の各地で大規模ロケが行われたのがハリウッド映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(全国公開中)である。

内閣府の調査によると、同作にはおよそ9600万円のインセンティブ(支援金)が支払われることとなり、ロケ受け入れ時からの「直接効果」は19億6600万円、ロケ終了後から作品公開等までの「間接効果」も含めた総合的な経済効果は668億4200円と試算されている(2020年3月に発表された実施報告書での数字)。この施策の背景にあったものは何なのか。本プロジェクトで「ロケ誘致活動・効果測定」を担った特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッションの関根留理子事務局長に話を聞いた。

■日本でのロケが進まないケースが多い

 ――『G.I.ジョー』についてお話を伺う前に、日本で撮影される海外作品の現状について教えてください。

 ジャパン・フィルムコミッション(JFC)は、日本のフィルムコミッションであり、全国で活動している約120のフィルムコミッション(地域活性を目的に、映像作品のロケ撮影をスムーズに行うための支援をする主に自治体が行っている団体)がメンバーになっているネットワーク組織でもあります。

 日本のみならず、海外からの問い合わせもあり、ハリウッドからも年に数回お話をいただきます。しかし、なかなかうまく進まないことが多い。『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』も、主人公のバックグラウンドも含めて、やはり日本で撮りたいという制作の方たちの気持ちがすごく伝わってきたんですが、「日本ではいろいろと難しいよね」という話があったのは確かでした。

 ――日本で撮影するのは難しい、というのは具体的に言うとどういったことでしょうか。

 イメージが先行している部分はあります。実際に撮影をする前の段階で、「東京では人通りを止められないから無理か」、みたいにあきらめてしまうことが多かったりします。もちろん渋谷を3日間止められるかといえば無理ですが、例えばニューヨークのタイムズスクエアを止められるかと言ったら、簡単ではなく、できても時間はすごく限られている。何でもできるわけではないというのは海外もそうなんです。

 ただやはり「日本で撮影は難しい」というイメージは海外に広がっていて、トライするまでいかなかったというのがひとつ。あとはインセンティブ(税金還付や助成金などの撮影支援)の問題が大きい。日本のフィルムコミッションがスタートしたのは2000年ごろからなので、ここ20年ちょっとはずっとインセンティブがないことに苦しんできました。

 これは地方自治体ではどうにもならない話なので、何とか国にそういった予算がとれないかという話をずっとしてきましたが、なかなか前に進んでいません。特にお金の問題に関して言うと、ハリウッド(のメジャー)クラスの作品は大きな経済効果があるので、プロジェクトを誘致したいという国がたくさんあります。しかし、私たちには何の持ち玉もないので、同じ土俵には乗ることもできませんでした。そういうことでたくさんの大きなプロジェクトを逃し続けてきたという背景があります。そこら辺が実際に難しいと感じるところですね。

■「ブラック・レイン」のロケがトラウマに

 ――イメージでいうとやはり、日本ロケが行われたにもかかわらず、撮影協力がほとんど取り付けられずにトラブル続きだった『ブラック・レイン』のモデルケースをきっかけに、ハリウッドに広がった悪評も大きかったのかなと思います。くしくも『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』も『ブラック・レイン』と同じパラマウントの配給ですが、最初はパラマウント側も日本ロケは大丈夫なのか、という懸念があったと聞きました。最終的には本作のプロデューサーが上層部を説得して、日本ロケが実現。上層部も本作を見て、日本ロケに満足したという話も聞いております。

 それは強いと思います。実際にイメージだけでなく、文化の違いという部分は確かにあります。撮影の許可申請においても、他国だとフィルムフレンドリーという感じで、撮影という行為や文化に対して寛大な国が多いと思うんですけど、日本はどうしても、根回しの文化なので、ちゃんと順序立ててやらないと難しい。できるかどうかわからないですが、検討させてくださいと答えたのち、何カ所にも許可をもらって、ようやくできるということが多いと思います。

 でもそういったところが海外の方からすると、何で今すぐにイエスかノーが言えないんだというジレンマがあるみたいです。彼らは決断が早いですから、ここで決められないなら、もうやめますということもあります。

 ――石原都知事の時代には「東京ロケーションボックス」という撮影支援団体が設立されましたが、東京の撮影はやりやすくなったのでしょうか。

 東京が撮影しづらいというイメージがあるかもしれませんが、最近で言うと映画『翔んで埼玉』などは、都庁の前の道路を封鎖して撮影が行われました。ああいうのも東京ロケーションボックスがやっています。すごく頑張ってたくさんの作品を支援しているのですが、海外のようにトップダウンというわけにはいかないですね。

 それでも順序立てて、少しずつできることが増えていったというのが、フィルムコミッションがこの20年近く地道に活動してきた成果だと思うんです。東京も今では、ちゃんと順序立ててやれば、できることがすごく増えています。普段からたくさんの映画やドラマの撮影も行われていますので、全国的にも理解が深まっていると思いますし、そうした積み重ねが実績につながってると思っています。

 ――内閣府が「外国映像作品ロケ誘致に関する実証調査」を行い、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』が対象作品となったのはどういう経緯なのか教えてください。

 もともとは2016年に、「映画の振興施策に関する検討会議」という大手映画会社、テレビ局のトップなど映像関係の方々、そして関係省庁とジャパン・フィルムコミッションが地域側として参加をした会議がありました。

 その後、年度を越えてからはロケ撮影を検討する「ロケ撮影の環境改善に関する官民連絡会議」が新たにスタートし、これは現在も継続中です。内閣府が主導して、関係省庁と、業界の関係者の方々と私どもが参加をして、日本で何が必要なのかということをずっと検討しています。

 そこでは制作側が感じる課題や、それに対して「地域や国ではこういう対策をとっています」、といったことを照らし合わせています。内閣府のサイトを見ていただければ、中間報告も出てくるので、詳しいことはそちらを参照していただきたいのですが、実際には制作の方たちが感じている課題に対しては、意外と政府もいろんな対策を組んでいるんです。

 警察庁も非常に協力的で、私どもが毎年行っているフィルムコミッションの新人研修などにも、警察庁の方が設立時からちゃんと講師として来てくださって。勉強会もやっています。

 フィルムコミッションができてから、その地域が関わってる作品に関してはちゃんと各所轄で相談にのるようにという警察庁からの通達が出ており、撮影ができるような形で進めてくださっています。だから地域の警察もだいぶ理解をしていただけるようになっているんですが、どうしてもできる事例よりも、できなかった事例のほうがイメージとしては先行してしまいます。

 だから、制作の方々も、究極を言えば、なんでいまだに渋谷のスクランブル交差点を封鎖できないんだと言う人もいますが、逆に、渋谷を通る立場で考えると、封鎖は無理だよねとなるんです。ただ、本当はできることはあるかもしれない。それは、それぞれが可能性を追求する必要がある。お互いの要求や条件だけを出しても難しいと思います。そういう相互理解がなかなかできていなかったんですが、この「官民連絡会議」が、そうした相互理解を深める場にだいぶなってきたと思っています。

■政府も規制緩和に動いている

 ――以前に比べるとだいぶ相互理解が広がっているということですね。

 規制緩和とかそういう面に関してはだいぶ政府も動いていますが、インセンティブはできていない。制作の方からは国内の作品をもっと支援してほしいと言われるんですが、国内の映画や海外との共同製作に関しては文化庁が支援を行っています。ですから国内作品の支援に関してはそうした制度を活用していただきたいのですが、海外の大型作品に対するインセンティブはないままです。そこで、どんな効果があるのか実証調査をやりましょうという話になり、地域でロケ撮影を支援する側としてJFCが参画することになりました。

 ――そしてその第1弾に選ばれたのが『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』となるわけでしょうか。

 それと中国映画の『唐人街探偵 東京MISSION』の2作品が2019年度の調査対象になります。『TOKYO VICE』は次の年の対象作品です。結構、日本で撮りたいという企画を持ってらっしゃる制作の方は多いんですが、コロナ禍で、なかなか誘致ができない状況になっています。そもそも(外国人スタッフ、キャストの)入国が大変なので。そこはちょっと厳しいところではありますが。

 ――内閣府の「外国映像作品ロケ誘致に関する実証調査」が『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』に決まったことで。日本ロケに変化はあったのですか。

 もともと日本で撮影できないかということで、今回の事業がスタートする半年以上前から、制作の方々はロケハンを行っていました。ただ実際に撮影ができるのか、インセンティブがないならもっと規模を少なくしなくてはいけないのかなど、何ができるのかを見極めながらロケハンをやっていたという形です。

 だから私たちからするといいタイミングだったなと思います。政府側としても、こういう調査事業をやるとしても、実際に対象になる作品はあるのか?  という不安はありましたから。現状、こんな話が来てますよ、という情報を提示しつつ。ただどうなるかまだわかりませんよという状態の中で進んでいった感じですね。

 結果的には、「外国映像作品ロケ誘致に関する実証調査」に決まったことで、撮影のボリュームも増やしていただきましたし、実際のロケの日数やロケ場所も増えたと思います。

■ハリウッド映画は撮影スケールが違う

 ―――実際に撮影をしてみていかがでしたか。

 すごくいい画になったと。満足いくロケーションで思うように撮れたみたいです。そしてこれが良い悪いではないんですが、地元の方々も純粋にハリウッド映画というのはこんなにスケールが大きいのかという印象を皆さん持たれたみたいで。例えば大阪の京橋だと、商店街全体の人出を止めたんですよね。たくさんの飲食店がある繁華街ですが、そこにしっかり営業保証をしたんです。

 なかなか日本の作品の予算規模では難しいと思うんですけど、やっぱり保証があると地域の皆さんはすべてにおいて協力してくださるんです。お店は開けて、でもお客さんは断って営業しないで撮影に協力してくれるとか。地域の方々はそういう規模の違いは実感したみたいですね。地域フィルムコミッションの経験としても、こういうこともできるんだ、となって地域の協力が得やすくなると次につながっていくのかなと思っています。

 ――『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』や『ブラックパンサー』といったマーベル作品は韓国でもロケが行われました。近隣だと韓国が海外作品の誘致をしている印象なのですが、はたから見ていかがですか。

 私たちも海外のフィルムコミッションのネットワークがあって、韓国の方ともよくやりとりをしています。特に、釜山フィルムコミッションは、AFCNet(アジアフィルムコミッションネットワーク)の事務局も担っているのですが、組織の規模が、予算も含めてまったく違います。やはり韓国は国策でエンターテインメント全般に力を入れているので、フィルムコミッションに関してもいち早く世界を視野に動いていました。

 釜山には国が支援して建てられた、ポスプロ(ポストプロダクション=撮影後の編集などの仕上げ作業)のスタジオがあるんですが、運営は地域がやっていて、そのスタジオの利用にインセンティブをつけて、海外作品のポスプロを誘致しています。日本の作品も、このスタジオでポスプロが行われたこともあります。これは、地域の人材育成にもなっており、やはり国策として動いているのは強いなと思います。だから日本も何もしなければ、いいものはどんどん外に出て行ってしまうと感じています。

 それこそ台湾にある台北フィルムコミッションも、ものすごく大きい。何十人もスタッフがいて、台湾全体のプロモーションをかけて、作品の支援もやっています。だからこそマーティン・スコセッシ監督の『沈黙‐サイレンス‐』も誘致できたんだと思います。

 ――遠藤周作さんの原作を映画化した『沈黙‐サイレンス‐』は、舞台は長崎で、日本人キャストが多く出演したにもかかわらず、日本ではなく、台湾でロケが行われました。

 私はもともと、長崎県のフィルムコミッションの担当をしていて、『沈黙‐サイレンス‐』では長崎でロケハンの支援をしたこともあります。長い間、関わってきたんですが、台湾で撮影することになってしまいました。もちろんロケ地にはならなくても、世界中から多くのキリスト教信者の方たちが長崎に来てくださったということはあったので、間接的経済効果などはありましたが、やっぱり日本のリアルな雰囲気で撮影していただきたかったなというところは残念ではありますね。

 やはり海外で作る日本の作品は、ちゃんとリアルなところで作っていただきたいとずっと感じています。『ラスト サムライ』も一部は日本で撮りましたが、結局別の国(ニュージーランド、アメリカ)でも撮ることになってしまいました。例えばエキストラは現地のアジア人を使ったりしていますが、着物の合わせが違う人がいたり、日本にはない植物が映っていたりとか、そういうところが見えてしまう。

 もちろん作り手の意志として、日本文化を面白く描こうとか、ちょっと変わった捉え方で作ろうとかわかったうえでやるのはいいのですが、そうじゃない部分で誤解を生んで、そのままになるのはやっぱり避けたい。ちゃんと日本のことを理解してくださったうえで、できればリアルなところで撮っていただきたいなという思いがあります。いい作品を作っていただくためには、日本の作品、日本が舞台の作品はなるべく日本で作ってもらえたら、というのが私たちの思いです。

■日本での撮影は人材育成にもつながる

 ――日本はことあるごとに機会を逃してきたということですね。

 もともと日本には映画文化が根付いていて。どちらかといえば地産地消というか、自国で完結するということがずっと長い間続いてきたので、国も地域も制作者の方も海外の作品というのはあまり視野に入れずにきたと思うのですが、だんだん業界の改革をしなきゃとおっしゃる方も増えてきましたね。

 本当に、若い優秀な人たちがどんどん海外に流出していて。コロナの前までは、いい監督さんや、メーキャップアーティストの方などが中国に引き抜かれていましたから。やはりギャラが全然ちがったり、個人の才能をちゃんと認めてくれているので、やりがいにもつながるんだと思います。

 ――映画の分野に限らずですが、人材の流出は考えないといけない問題ですね。

 海外の作品が日本で撮影されることで、日本にいる制作の方たちもグローバルスタンダードのやり方を学んでいけるし、もちろんお金も入る。そういったところでキャリアアップにもつながるという側面もあるので、もちろん経済効果もあるんですが、人材育成も含めて、国がこういった大型作品を誘致するべきだと思います。

 ――海外作品を誘致するうえでの課題はありますか。

 言語の問題はありますね。日本って英語が話せる人が、他のアジア圏と比べて圧倒的に少ない。どうしても制作側の方たちも、英語が話せるスタッフを捕まえるのはすごく大変のようです。『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』のときはトータルで300人ぐらいの日本人スタッフが雇用されていたのですが、海外の作品が増えると、そうしたスタッフの取り合いになってしまう。それは今後の課題だと思います。

 ――内閣府の方の手応えはどうですか。

 現場も見ていただいていて、すごく興奮されてました。全体的に作り込みをしていたロケ地でもあったので、やっぱりちょっとスケールが違うなというのは感じられたようです。もちろん私たちは日本の撮影現場も大切にしています。

 地域のフィルムコミッションがサポートしているのは、ほとんどが日本の作品ですから。日本には日本なりのやり方もあるし、それが合っている、それがいいんだということもたくさんあると思うんです。でもこういうところは取り入れたほうがいいよねとか、「こういうことは他国と一緒にやるときにすごく遅れている部分だよね」、といったところの認識はしっかりと持つ必要があるのかなと思います。そういったことが検証できただけでも非常にいい機会だったかなと思います。

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最終更新:10/24(日) 17:01

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