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「ウマ娘」超絶ヒットが作り出す意外に大きな潮流、ゲームやキャラクターに対する閾値を下げていく

10/22 12:01 配信

東洋経済オンライン

久しぶりに日本で生まれた大ヒットアプリ『ウマ娘』のブーム大爆発は、ゲームやキャラクターに対する閾値の低下を物語る――。エンタメ社会学者の中山淳雄氏による新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』より、第2章「『萌え』から『推し』へ」の一部を抜粋・再構成してお届けします。

■市場全体を揺るがす覇権アプリ

 『ウマ娘』はサイバーエージェントグループの一角、サイゲームスによって開発されたスマートフォンゲーム、PCゲーム、アニメのメディアミックスプロジェクトである。競走馬を擬人化した女性キャラクターを育成し、競馬レースのように競走させていく2次元コンテンツである。

 2021年2月にリリースされた『ウマ娘 プリティーダービー』は初月130億円の売り上げを達成し、そこから3カ月で約300億円の売り上げを上げた。いま日本のアプリ市場で最も売れているタイトルとなっており、3月末時点で週206万ユーザーがプレイしている。ユーザーの「平均」プレイ時間は1日133分、つまり2時間以上となっており、アプリゲーム全体の平均が87分であることを考えると、通常の1.5倍ほど長く遊ばれていることになる。

 こうした月100億円、年1000億円クラスのトップタイトルはまれに生まれ、アプリ市場全体を揺るがす存在になる。2012年の『パズル&ドラゴンズ』、2013年の『モンスターストライク』、2015年の『Fate/Grand Order』がその代表例で、2016~19年の4年間はこの3タイトルがずっと年間売り上げトップ3を占め続けてきた。変動が激しいようにみえるアプリゲーム業界も、一度数百万人~1000万人単位のユーザーがつくと、そこから急落するということはほとんどない。

 国内のアプリゲーム市場は2018年ごろには天井となる1.2兆円をつけて、「もう伸びない」と誰もが期待を薄めていた。その時代に『ウマ娘』は「日本初の、女性が競走馬となって走る」という“トンデモストーリー”で久々にこうした覇権アプリを作ることに成功した。2021年第1四半期の時点で世界ゲームアプリトップ10に入っている日本のタイトルはウマ娘の1本のみで、ほかはすべて中国とアメリカのタイトルである。

 1つのゲームが生み出す経済効果は、かつての家庭用ゲームやアーケードゲームの比ではない。毎月200~300人の開発者が関わり、そのタイトルに新しい企画やイベントを入れ続け、数百万人のユーザーが遊び続けられるようにあの手この手で毎日のようにそのゲーム空間を演出し続けるのだから。

 パズドラを作ったガンホー・オンライン・エンターテイメント、モンストを作ったミクシィ、FGOを作ったアニプレックスの業績をみてもらいたい。1つのゲームがその後10年にわたってその会社の業績を牽引している。ガンホーは、パズドラ以前は売り上げ100億円未満の会社だったことを考えると、2012年から2020年までの約9000億円の上積み売り上げの大半がパズドラである。

 もちろん運営の巧拙によって上下もあるし、その底支えには並々ならぬ努力が必要だが、1つの覇権アプリが1兆円規模の生涯経済圏を生み出すことを考えると、アプリ業界へのゴールドラッシュが促進されるのも納得である。

■久しぶりに生まれた国産大ヒットゲーム

 これだけ売れると、会社上層部の50代、60代の普段ゲームで遊ばない重役の目にもとまる。2013~14年は「パズドラみたいなもの作れないの?」と見た目もゲームの進め方もパズドラ的なものが作られ、2015~16年は「モンストみたいなの作れないの?」とモンスト型が量産され、2017~18年は「FGOっぽいもの作れないの?」とストーリーを中心とした作品づくりに注力するゲームが出続けてきた。

 しばらくこうした業界激震といったタイトルがなく、その合間に2019年の「七つの大罪 光と闇の交戦(グランドクロス)」「原神インパクト」のような韓国や中国開発のタイトルが日本市場でも目立つようになり(原神は開発費100億円とこれらのタイトルは開発規模があまりに大きいため、まねしろとは言われない)、もはや日本産タイトルでは日本市場ですら勝てない状況となっていた。

 そこに久しぶりに『ウマ娘』という国産大ヒットが生まれたことは、日本のアプリ開発にとっては朗報だろう(ただウマ娘も過去3大タイトルの比にならない開発費のため、どこまで類似のものが今後出てくるかは不明)。

 ウマ娘に話をもどすと、この作品は奇跡の復活といってもよいほど開発に難航したタイトルであり、開発構想は2015~16年ごろから始まり、当初は2018年冬リリースとされた。それにあわせてアニメ製作も進められ、サイゲームス、東宝アニメーション、ランティス(現バンダイナムコアーツ)の3社出資の第1期は2018年4~6月期に放送されるも、アプリゲームはその時点では間に合わず延期が発表されている。

 製作指揮をとっていた石原章弘はバンダイナムコエンターテインメントで『アイドルマスターシリーズ』に携わっていた人物で、そのキャラクター育成手法のノウハウを存分に生かした競走馬擬人化コンテンツとして期待されていたが、同氏も2019年4月に退職したりと、プロジェクト自体の難航ぶりを物語っている。

 だが、そこから長い改修期間を経て、満を持して2期アニメが放送・配信された2021年1~3月にタイミングをあわせ、アプリゲームが2021年2月にリリースされた。構想からおよそ5年超の取り組みである。

 そのゲーム性は存分にアイドル系アプリの手法を模倣している。美少女キャラクターとプロデューサーのような1対1の会話が深まり、キャラクター性をよりよく知れるバックグラウンドのストーリーが少しずつアンロックされていく。さらにはウマ娘それぞれのモチーフとなる競馬の歴史的なストーリーも織り込まれ、昔からの競馬ファンにも十分に刺さる内容になっている。飽和していたアイドルと音楽ゲームという組み合わせに終止符を打つような、美少女育成の新機軸である。

■キャラ育成における革新性とサステイナビリティー

 キャラクターの育成という意味では革新的ですらある。毎年7000頭のサラブレッドが生まれるが、中央競馬で勝利経験ができる馬は1500頭足らず、オープンに上り詰める馬は100頭(これがプロ野球選手や連載漫画家になるようなレベルだろうか)、GⅠレースで勝てる競走馬は20頭前後となる。競争率と淘汰のレベルではお笑い芸人や漫画家とそれほど変わらないが、それでも「毎年20頭の新しいウマのキャラクター・ストーリー」が生まれてくることはゲーム運営には福音だ。

 これだけのキャラクターと物語のもとになるモチーフがあれば、今後も新たに美少女キャラクターを作り続けられる。競走馬のIP(知的財産)を二次創作するためには馬主との許諾交渉が必要だが、その苦労を乗り越える価値がある話である。

■誰もが遊んでいるという規模の経済

 数百万人が毎日同時に遊んでいる威力は推して知るべしである。JRAのサイトでも2021年1月までは全体の10%程度だった20代の若年層が、2021年3月には全体の20%を超え、急激に競馬ファンが増えている。引退馬のナイスネイチャの誕生日に合わせた寄付金集めでは、2020年に400人だった寄付者が2021年には1.6万人へと40倍に増え、寄付金も総額3500万円集まった。

 数百万人がプレイしているという事実が、参入のハードルを下げる。誰もが遊んでいるという規模の経済が、その趣味を肯定してくれる。こうしたヒット作品の連鎖は確実に人々のゲームやキャラクターに対する閾値を下げている。

 依然『パズドラ』や『モンスト』が多くの人々にプレイされているのはわかる。ビジュアルも『ビックリマン』を彷彿とさせるようなカジュアルなものだし、それなりに「子供も大人も遊ぶジャンル」としてわかりやすい。

 だが『Fate/Grand Order』が流行したとき、あの美少女たちのビジュアルが一般化する過程をみて、驚いた人も少なくはないはずだ。まして美少女をウマにして走らせるという『ウマ娘』が第4の覇権アプリに君臨したとき、日本のアプリ市場、エンタメ市場のなかで、この閾値のステージが変わったことを感じる。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/22(金) 12:01

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