IDでもっと便利に新規取得

ログイン

フランス人の「消費行動」が劇的に変わった事情

10/20 12:01 配信

東洋経済オンライン

 フランスに住む日本人女性のくみと、日本に住んだ経験を持つフランス人男性のエマニュエルが日本とフランスの相違点について語り合う本連載。今回はコロナ禍の中、フランスで急激に広がった食品や消費財のネット宅配、そして医療などのオンラインサービスが、フランス人の消費活動や社会にどういった変化を及ぼしているかについて考えました。

■急激に広がる生鮮食品のデリバリー

エマニュエル : 前回(フランス、2年で「仕事・家族・恋愛」こんな変わった」は、コロナ禍によるフランスで起きた変化の1つとしてテレワークについて話したけれど、このほかにも食品などさまざまな商品だけでなく、文化や医療にもオンラインサービスや宅配サービスが広がったよね。同じような変化は日本でもみられるのかな? 

 くみ : 日本はもともとオンラインやテレビ、いわゆるお取り寄せなど遠隔でのショッピングのインフラが整っているよね。日本に帰国するたびに、フランスでは買えないものを大量にまとめて買うのだけど、滞在先のホテルでも、どこでも短い日数で届けてくれて本当に助かる。

 スーパーマーケットの中には、生鮮食品含めてその日のうちに届けてくれるところもある。フランスではプロ向けしかないと思うけど冷蔵・冷凍の宅配便なども日本では個人でも気軽で安価に利用できて本当にすごいよね。もちろん、あまりに短期間での配達に慣れすぎて宅配業者の負担が大きくなりすぎている問題は特に近年目にするのだけど。

 エマニュエル : 最近パリのバス、地下鉄やYoutubeなどでよく目にするのが、「モンマルシェ」という生鮮食品の宅配サービスを扱うサイトの広告だ。このサイトでは豊富な種類の生鮮食品を、指定した時間に自宅に配達してくれて、60ユーロ以上の購入の場合には送料が無料になる。

 宅配可能な地域はまだパリ3、4、16区と郊外の一部のみと狭い範囲にもかかわらず、あれだけたくさんの広告を出せるということは、かなり力を入れているのだろうね。こうしたサービスを行う企業は、パリのような大都市ではコロナ以降急激に増えたと言えるね。

 以前にもこういったサービスはあったけれど、生鮮食品の選択肢が狭く、送料無料となる最低購入価格も今よりも高く設定されていた。そして何よりも、指定できる日時が「午前中」「午後」といった大雑把なものである上に、指定した時間帯に配達されないなんてこともザラ。それがコロナ以降では当日・翌日配達や1時間単位で時間を指定できたり、配達員との接触による感染予防のためにドアの前に置いて行ってくれる置き配などのオプションも選べたりする。

 これにはテレワークの浸透が影響しているわけで、在宅率が高くなったからこそ、宅配を受け取るのが以前よりも便利になった。最近では、テレワークができない人たちのためにも、20時以降でも配達してくれるサービスも増えてきているよ。くみはこういうサイトを利用したことはある? 

くみ : そう、本当にフランスでも増えたよね。コロナ前からだけど、フランスの大手ミネラルウォーターが宅配サービスを始めたのは画期的だなと感じた。でもいまだに指定の日時に届かないなんてことが数回に1回あるのがフランスらしいというか……。

 ロックダウンになってからは、生鮮食品の宅配サービスを利用してみた。まさにエマニュエルが話していた、パリ市が支援するマルシェ(市場)の新鮮な野菜や果物を宅配してくれるサービスで、私が利用したのはズッキーニやトマト、りんごなど一般的な野菜と、果物のおまかせの詰合せセットで、値段からしてもお得感があった。

 それにコロナにかかわらず、ずっしり重い野菜や果物を買って帰るのも一仕事だから、宅配してくれるのはとても助かった。ビオの野菜と果物が各1セット15ユーロほどで配達手数料に3ユーロかかったから、2セットで34ユーロ弱だった。

■ネット通販普及でマルシェはどうなる? 

 エマニュエル : この変化は経済的にもフランス社会に影響を与えるものだと思う。例えば、町によくあるような野菜や果物を売っている小さな店や、週に2、3回は開かれているマルシェなんかは突然競合相手が増えて客が減ることになる。ただ、マルシェを利用するのは基本的に高齢者層で、この層はあまりネット通販に慣れておらず利用したがらないので、いきなり客が減るということにはならないだろう。

 でも今の20、30代が定年退職するぐらいの年齢になったとして、その人たちがいきなりマルシェを利用しだすとは考えにくいので、徐々にではあるけれど、マルシェは将来縮小していくのかもしれないよね。

 くみ : そうね、私もさっき話した宅配マルシェのサービスを利用してとても便利だったから高齢者の知合いにおすすめしたのだけど、「いざとなったら利用したいけど、自分はやはり店頭で商品の新鮮さなどをしっかり確認してから買いたいから、これからも用心しながらマルシェに行くつもり」と言っていた。

 一方で、コロナで店内飲食が禁止されていた期間、各レストランは持帰り用のお料理を工夫して作っていたところも多いけど、やはりパリ市の支援で、お店の近所のマルシェに週2回ほど場所を割り当てられて出店してお惣菜やお菓子、普段お店で仕入れているオリーブオイルなどを売っているレストランもあった。

 そういうのも含めて、マルシェはマルシェでまたオンラインとは全く違うコミュニティや場が形成されていてとても面白いと思った。ただ、確かに高齢者が多い印象はあって、このまま廃れていくのはもったいない気がした。

 エマニュエル : こういった変化は経済だけじゃなく、町の構造、都市計画、社会学全体にもかかわることになる。

 フランスにおいてマルシェは、伝統的にも町にとっては不可欠な場であった。市場の人やお客同士の出会いの場でもあり、マルシェ周辺のカフェやレストラン、パン屋などの商店を活気づける場でもあった。それが、マルシェのお客が離れていくことによって、その地区全体の客離れにつながる。

 そして町での人々の関係も変わることになる。例えば、僕がマルシェに行くと、普段の生活ではかかわりがなかったり、周りにはいないような人々と交流することができる。市場の人であったり、農家の人やお客さんたちなど、そこでしか知り合う機会がないような人々との社会的なつながりを結ぶ場でもあるといえるね。

 だからこのような機会が減るにつれて、社会的な「共存」の意識にも影響を与えることになる。もしも僕が自分の周囲の人とだけ交流をすると、その分視野も狭くなり、自分と同じ国や町にすむそれ以外の人たちへの共感が薄れてしまい、結果としてそのことが選挙の時の投票の選択にも影響をあたえうるかもしれない。

■マルシェの小さくない「存在意義」

 くみ : 本当にそのとおりよね。パリのような都市であればなおさら、外国人や一時滞在者も多くて、ただでさえ地元のコミュニティを形成しにくいし、持続させにくい。そういうところでマルシェや対面での小規模な商売は、ちょっとした挨拶から毎週の世間話まで、単に必要なものを売り買いするだけではない役割を担っていると思う。

 特に、お店に入ると買う気がなくても必ずお店の人と「ボンジュール」と言い合って挨拶を交わす習慣があるフランスでは、定期的に行くそういうお店での会話やちょっとしたコミュニケーションが生まれやすいというのもあるけどね。

 だからこそ余計に社会における存在意義が大きいと思う。小さい子どもを連れた家族で週末にマルシェに行ったりするのもよく見かけるけど、ありとあらゆる生鮮食品の実物を見るだけでなく、そこで客やお店の人、時には生産者も含む皆が何かしらおしゃべりしながら買い物をしている中で育つと、そこから学べることもありそうだよね。

 エマニュエル : そうだね。でも僕は別にオンラインショッピングの類いが社会にとって害になるなんてことは言わないよ。

 最大の利点の例をあげるなら、もしパリのような大都市に住んでいる場合、新鮮でおいしい食材を買おうとしたら、家の近くのマルシェへ行って、その中で一番いい品質の食材を扱うお店を探して、そこで売っている商品の中から選んで買うということになり、時間とエネルギ―が必要になる。

 それが、農家の人たちから商品を直接購入するサイトであれば、フランス中いろんな地域のおいしく新鮮なものが一度に手に入れることができる。例えば、僕は先日こういったサイトで、マルセイユ地方の数種類の旬のイチジクとブドウ、ロッテガロンヌ地方のイチゴ、プルーン、マドレーヌ、イル・ド・フランスのズッキーニやトマトなどの野菜、鶏肉や牛肉を購入して、送料も一定以上であれば無料になり、自分の指定した時間に配達をしてもらったよ。きっと、これだけの品質の食品を一度に買うのは、パリ中のマルシェを探しても無理だと思う。

 こうやって生産者と消費者が直接つながれることが広がる結果として、マルシェや個人経営店なんかの中間業者はますます厳しくなっていくだろうね。一定金額以上の購入の場合に送料が無料になるというのも、消費者にとっては無料であって、生産者がそれを負担するわけだけど、中間業者にかかる費用を省けることで十分に補うことができる。

■語学や音楽はネットで学べるものか

 くみ : 確かに、お店で買うのは基本的に店頭にあるものしか買えないものね。その意味では、今エマニュエルが言ったことは日本のお取り寄せという感覚がすごく近いと思う。たとえ遠隔であっても流通さえしっかりしていれば生鮮食品でも取り寄せられるわけだから、消費者の選択肢は広がるよね。

 いいものを作りたいという生産者の商品がこれまでうまく届かなかったのが、お店を通さずに直接消費者と繋がることができれば生産者にとっても新たな活路だしね。

 エマニュエル : 冒頭でも話したように、宅配サービスやオンラインショッピングの流行はもちろん食品だけに限ったことではない。例えば、ロックダウン中は映画館が閉まっていた影響もあって、ドラマや映画などの動画配信サービスはとても増えたし、書籍のネット購買もすごく広まった。このことでフランスでは町の書店を守るためにアマゾンに送料を義務付ける法を準備しているところだ。そして、語学レッスンなどの授業もオンラインが浸透しつつある。

 くみ : ただ、語学教室は発音など細かい部分がきちんと学び取れるかどうか不安なところもある。あとは、フランスの高等音楽学校でも一時期はオンライン授業になって、楽器や歌の授業もすべてオンラインでしていたというのも聞いた。音色など繊細なものがどこまでオンラインで指導・習得できるのか気になるところよね。

 エマニュエル : そのほかにも広がったのが、オンライン診療だ。コロナ禍が始まった頃に、フランス政府が患者間同士、患者、医者間での感染を避けるためにオンライン診療を推進して、保険で払戻しができるように決定した。以前は保険がきかなかったために、オンライン診療はほとんど行われてはいなかった。

 このオンライン診療の浸透は革命的だった。今では、ほとんどの医者がネットで予約を取るときに、オンラインか対面かを選べるようになっている。オンライン診療の最大の利点は、予約時間に診療所に行っても、時間が押してて混んでいる待合室で長時間待たなければいけないストレスがまったくないこと。自分の番まで家で好きなことをしながら待てるというのは本当に大きな変化だった。

■オンライン診療4つのメリット

 もちろんオンラインでは判断できないような症状の場合は使えないけれど、次の例なんかはオンライン診療にしたことで時間もストレスも減らすことができる。

 1つは、処方箋の更新だ。フランスでは6カ月を超える期間の処方箋は認められていないので、継続的の薬が必要な場合は6カ月ごとに医者に予約を取って新しい処方箋を求めなければならない。これはオンライン診療で済ますことができることがほとんだ。2つ目は、年齢によってどんな検査をしたらいいかなどの予防医療的な相談を医者にしたいとき。

 そして3つめは、患者とそのかかりつけ医がなんの病気かをはっきりわかっている場合の診察の場合がある。例えば、僕は毎冬ほぼかならず気管支炎にかかるのだけれど、鼻づまり、咳、発熱と毎年同じ症状が出る。そして医者に予約を取って、医者はどんな咳かをみて、血圧を測って、毎年同じ薬を出してくれる。こういった場合は、オンライン診療で済ますことができる。

 さらにもう1つは、早い治療を必要とする症状の診察だ。ものもらいができた場合なんかは、できたその日のうちに薬をつけないと症状が長引くので、すぐに医者に予約をとらないとならない。

 しかし、パリのような大都市の場合、市内の眼科の予約はほとんど半年先まで埋まっていて、キャンセル待ちの空きの予約を探すのはとても時間がかかる。こんな場合は、オンライン診療で、フランス全国の空きがある眼科を探して予約を取ることができるので、問題なく処方箋を出してもらうことができる。オンラインサービスが拡大することで不利益を被る人もいるかもしれないが、少なくともオンライン診療に関しては、患者の面から言うとたくさんのメリットがあると思うよ。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:10/20(水) 12:01

東洋経済オンライン

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング