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住宅大手が「過去の苦い経験」越え海外進出のワケ

10/19 8:01 配信

東洋経済オンライン

 20年ほど前の話。当時、筆者はハウスメーカー各社の取材にあたって、ことあるごとに問いかけていたことがあった。「海外で住宅を売ることを考えていないのですか」と。で、回答は総じて「そんなことあるわけないじゃないですか」だった。

 鼻で笑われていたわけだ。ところが、今は様相がまったく違っている。

 すでに海外進出で一定の業績をあげている企業、あるいは進出の足がかりを作っている企業が数多く見られるようになっている。中には、新型コロナウイルスによる混乱(コロナ禍)の世界的な広がりにもかかわらず、業績を大きく拡大している企業もある。

 そこで、本稿ではハウスメーカーが海外に打って出る背景のほか、以前と現在では何が異なっているのか、そして今後の課題などについても紹介する。

■アメリカ・オーストラリアなど広がる進出先

 海外展開を行っている主要なハウスメーカーと、その進出先について簡単に紹介すると以下のようになる。

・旭化成ホームズ
アメリカ、オーストラリア、台湾
・一条工務店
アメリカ、オーストラリア
・住友林業
アメリカ、オーストラリア、東南アジアなど

・セキスイハイム(積水化学工業住宅カンパニー)
タイ
・積水ハウス
アメリカ、オーストラリア、英国、中国、シンガポール
・大和ハウス工業
アメリカ、オーストラリア、中国など
・プライム ライフ テクノロジーズ(パナソニック ホームズ、トヨタホーム、ミサワホームなど)
アメリカ、オーストラリア、台湾、インドネシア、マレーシア、ニュージーランドなど
・三井ホーム
アメリカ
 ここであらかじめ断りを入れておくと、この中には戸建て住宅のみならず、マンションや賃貸住宅、ホテル、商業施設などを供給している企業もある。また、このほかの中堅ハウスビルダーでも進出している企業がある。

 いずれにせよ、本稿では戸建て住宅事業を中心に話を進めることに留意していただきたい。上記からおわかりいただけるだろうが、各社がとくに注力しているのがアメリカだ。

 アメリカの新設住宅着工数はコロナ禍前の数年は年間120万戸ほどがあり、世界最大規模の住宅市場を形成していた。コロナ禍以降はテレワークブームを追い風に2020年度に138万戸となり、そして2021年度には150万戸を上回るとの予測もある。

 その中で、とくに強い存在感を示しているのが住友林業である。2003年にシアトルで住宅分譲を開始。現在は西海岸から東海岸まで5社をグループ化し、販売網は合計14州に広がっている。

 2020年度にアメリカで同社グループは9045戸を販売。これは全米ビルダーランキングにおける11位相当だ。その結果、同社の海外住宅・不動産事業は2020年12月期に売上高は前期比25.8%増、経常利益は前期比92.1%増となっていた。

 なお、同事業が前期の売上高に占める割合は4割ほど。これまでの柱事業だった木材建材事業と住宅・建築事業に肩を並べる柱事業に成長しているわけだ。

■日本の技術を現地で生かす

 アメリカに次ぐターゲットとなっているのがオーストラリアだ。人口約2600万人と3億人を超えるアメリカとは比べものにならないが、人口は増加傾向にあり、国民の所得も高く、アメリカ同様、政治経済が比較的安定している。

 積水ハウスは2008年12月からオーストラリア市場に参入。累計の実績(今年1月末時点)は、宅地開発事業で約2000区画、開発事業で約7000戸に及ぶという。日本国内で販売している木造戸建て住宅「シャーウッド」の部材を用い供給しているのが特徴だ。

 アジアは、まだ限定的な進出にとどまっている。例えば中国。政治体制や経済の仕組みが日本とは異なること、とくに昨今の恒大集団の経営危機などに見られる懸念要素が多いためだ。

 東南アジア地域でも一部の富裕層向けなどに限定されており、直近で大幅な事業拡大は見込めない状況だ。その中で、セキスイハイム(積水化学工業住宅カンパニー)がタイにおいて、現地企業と協力し住宅ユニット工場を構え、住宅供給に取り組んでいる。

 そして、新たな進出先として浮上しているのがヨーロッパである。

 2019年に現地政府系の住宅供給機関などと組んだ積水ハウスがイギリスに、昨年12月に現地のモジュラー建築(ユニット住宅)会社を子会社化した大和ハウス工業がオランダにそれぞれ進出を果たしている。

 ところで、これまで紹介した事例は2000年以降の出来事だ。実は歴史をひも解くと、海外進出の事例がないわけではない。例えば、大和ハウス工業は1970年代にアメリカで分譲戸建て住宅約1万戸を供給していた。

 ただ、結果的には継続的に収益を上げられる事業展開はできず撤退。夢半ばというかたちとなってしまっている。これは大和ハウス工業だけのことではなく、ほかのハウスメーカーも同様である。

 同じく1970年代後半に西ドイツ(当時)で住宅販売に失敗したあるハウスメーカーのトップ(故人)は、回顧録の中で「ドイツでの事業の失敗は高い授業料だった」と語っているという事例もある。

 冒頭で筆者の質問が鼻で笑われたという話を紹介したが、ハウスメーカーにとって海外進出が、そうでもしなければならないほど、触れられたくない苦い経験になっていたのだと考えられる。

 では、当時と今とでは何がどう違っているのだろうか。第1はハウスメーカーの本気度、切実さだ。少子高齢化による日本国内の住宅市場が縮小傾向にあるなかで、今後も成長するためには海外での住宅供給へのチャレンジは避けがたいものになったのだ。

■住宅不足、省エネなども背景に

 そのため現在、各国・地域に関する詳細な市場調査はもちろんのこと、M&A資金の投入や、海外での事業展開に資する人材の確保や育成などに、かつてとは比べものにならないほど力を入れるようになっている。

 もう1つ違うのは、海外では住宅不足、さらには施工者不足となっており、短工期で高品質を可能にする住宅供給システムが求められるようになっていることがある。ニュージーランドがその1つだ。

 パナソニック ホームズは10月6日、同国で現地企業と共同で1000戸規模の住宅部材を供給すると発表した。その狙いについて現地では移民の増加などによる住宅不足の解消が求められているためだと説明している。

 供給する部材は、同社が日本で供給する住宅に用いる大型パネル構造用(軽量鉄骨造)のもの。日本の工場で生産したパネルを海上輸送し、今年1月にはオンラインで技術指導をしながら現地で試作棟を完成させている。

 パナソニック ホームズは工業化(プレハブ)住宅を供給するハウスメーカー。工業化住宅とは上記のように、工場で生産した部材を現場で組み立てるもので、短工期で品質が高い住宅を供給できるのが特徴だ。

 工業化による住宅供給の手法は海外でも行われているが、高いレベルのものではない。この点では優位性が発揮できる状況にあり、このことが各国・地域で認識されるようになったからこそ、ハウスメーカーの海外進出が活発化しているという事情もあるのだ。

 住宅不足、施工者不足はニュージーランドだけでなく、前述したオーストラリアやイギリス、オランダなどヨーロッパの一部の国でも同様の状況なのだという。

 「日本の住宅は品質が高い?」と疑念を持つ方もいるだろうが、例えば最も主要な進出先となっているアメリカでも、住宅を供給する会社は基本的に開発業者(デベロッパー)的要素が強く、建築そのものは下請け業者任せだ。

 そのため、1棟1棟の施工の品質や効率はあまり高くないのが実情。筆者はこれまで、アメリカを含む複数の国の施工の様子を見る機会があったが、ハウスメーカーのみならず日本の住宅事業者のそれは概して海外より高い水準にある。

 これは、日本が地震大国であり、住宅の品質などについて消費者が求めるレベルが非常に高いことによる。いわば厳しい市場環境で鍛えられてきたことが、ハウスメーカーによる海外進出の素地となっているわけだ。

 なお、日本では住宅の施工期間は平均で3~4カ月程度で、早いハウスメーカーでは約1カ月で竣工することもある。しかし、海外では施工期間が3カ月以上になることはざらで、6カ月を超えることもまれではない。

■事業拡大には課題やリスクも

 もちろん、課題やリスクも当然数多く存在する。住まいはその国の風土や歴史に根ざすもの。ニーズの違いはもちろん、建築法規や建築システムも異なることから、他国の住宅企業が参入するのには高いハードルがある。

 このため、日本の住まいづくりの手法が容易に通用するものではなく、現状では基本的に各国・地域の在来工法に日本的な手法を一部に加えながら展開するにとどまっているのが現状。このため、持ち味をより発揮できるようにすることが重要になるだろう。

 技術の進化が今後、世界の住宅供給のかたちをどのように変えていくのかも影響しそうだ。例えば、建築分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の象徴とも言える3Dプリンターを活用した建築がある。

 海外ではいくつかの事例が見られるようになっているようだが、これが本格的に普及すれば現在より大幅な効率化、つまり建築従事者の削減が可能になると考えられる。これは現状の工業化技術を活用した住宅供給より、さらなる効率化を可能にするだろう。

 この話を、住宅業界関係者に振るとそれこそ鼻で笑われるのだが、直近はともかく10年後はおろか、数年後に普及している可能性も否定はできない。それくらいデジタル技術の進展は急速だからだ。

 とはいえ、かつては海外の人から「ウサギ小屋」と揶揄されていた住宅を供給してきたハウスメーカーが、海外で存在感を高めつつあるのは確か。今後、さらに活躍するフィールドが増えるのではないかと筆者は考えている。

 というのも、日本は世界で最も高齢化が進んでいる国であり、それに対応するノウハウの蓄積も増えている。日本と同じような課題を抱える国も増えると予想されることから、建物というハードだけでなく、高齢者が暮らしやすい暮らしの提案などソフトの面でも貢献できるはずだからだ。

 地球温暖化防止の観点から日本でもZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などの省エネ住宅の普及が進められている。それは海外でも同様で、この分野においてもハウスメーカーが海外事業を拡大するチャンスがありそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/20(水) 9:36

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