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北海道「サケ獲れずブリ豊漁」で漁師が落胆する訳

10/7 10:01 配信

東洋経済オンライン

 10月に入り、秋の味覚が本格化するシーズンになってきた。北海道では秋サケの定置網漁が最盛期を迎えている。残念なことにここ数年、サケは不漁が続いている。その一方で、サケの定置網にはなじみのなかった大量のブリが入っている。北の海にいったいどんな異変が起きているのだろうか。

■不漁続きのうえに大量死のアクシデント

 サケの漁獲量は2002年23万1480トンをピークにほぼ減り続け、2020年(速報値)は5万1000トンまで落ち込んでしまった。2015年までは年間10万トンを維持していたのだが、2016年に8万2000トン強と大台を割り込み、2020年は最盛期の22%の水準にまで激減した。

 深刻なのは漁獲量の減少だけではない。9月下旬以降、道東の海域で定置網に入っていたサケなどの大量死が相次いでいる。10月5日までの累計でサケ約1万2000匹、サクラマス約2000匹、コンブ85トン、そして大量のウニなどの漁業被害が確認されているのだ。周辺の海域では過去に経験のない赤潮の発生が確認され、道は海水の分析などの調査を進めている。

 気になる今年の漁だが、9月20日現在の「秋さけ沿岸漁獲速報」(北海道水産林務部)によると、オホーツクの353万尾、根室の43万尾など道全体で492万5064尾となっている。前年比では123.7%と回復しているかのように見えるが、関係者の見方は慎重だ。

 「確かに、走り(出始め)の数字は昨年を上回っていますが、昨年はかつてない不漁でしたから、その数字を上回っているといっても、それ以前と比べると少ないですからね。今年も、これからどうなるか。全期を見ないことにはなんとも言えませんよ」(水産林務部の担当者)

 実際、5年前の2016年の同時期(609万7316尾)と比べると、今年の漁獲量は8割の水準でしかない。かつてに比べれば不漁に変わりはないということだ。

 ここ数年のサケ不漁と対照的に水揚げが急増しているのがブリである。かつて北海道ではあまり縁のない魚だった。半世紀前、1970年代の漁獲量は年間数百トン。1985年はわずか37トンだった。

 それが2000年代から増え始め、2013年に初めて1万トンの大台を記録すると、2020年は過去最高の1万5500トンに達した。サケの3割にまで存在感を高めているのだ。ちなみに、昨年は不漁だったサンマ(1万1700トン)を初めて上回った。

 サケ不漁、ブリ豊漁といった北の海での異変の構図が見えてくるのだが、漁師や漁業関係者たちの表情はさえない。サケを獲るための定置網にかかっているのはブリばかり。道東の漁港でのある日の水揚げは、サケはわずか550㎏、ブリはその3倍の1.5トンだったという。

■圧倒的に単価が安いブリ

 ブリが豊漁でも、なぜ漁業関係者は喜べないのか。それは価値が圧倒的に違うからだ。2020年の北海道での卸値はサケの829円/kg(北海道太平洋北区計=農水省の水産物流通調査)に対し、ブリは179円/kg(同)でしかない。ほぼ2割の水準である。

 実際、10月初旬に都内のスーパーを訪れ、鮮魚コーナーを覗いてみたところ、北海道産の秋サケの切り身100グラム198円に対し、ブリの切り身は100グラム98円と半値だった。

 「一部の大型のブリは豊洲市場など本州で人気になっているようですが、秋に獲れるブリの大半は小型ですから、いくら天然でもそんなに需要はない。ましてや道内ではほとんど需要がないですね」(水産関係者)

 しかも、同じ定置網にかかってもサケと同じ施設で保存、処理、加工できるわけではない。

 「サケとブリでは大きさが違うから冷凍庫にしても同じものは使えない。加工法、加工技術も違い、道内にはブリの加工技術に習熟している業者は少ないから、どうしても値がつかない」(前出の水産関係者)という。

 一方、サケの水揚げが少なければ、貴重な筋子やイクラも当然少量となるから、水産加工業者への影響も大きい。当然、消費者にもしわ寄せが来る。9月、札幌市内の鮮魚店では、秋サケの切り身が昨年に比べ1切れ100円から150円も高く、イクラにする前の生筋子にいたっては、昨年は100グラムあたり600円程度だったのが、今年は2倍の1200円だという。

 サケへの依存度が高かっただけに、ブリが豊漁といってもすぐに代用品として転換できるわけではないのである。

 毎年、精力的な孵化放流を行っているのに、なぜ漁獲量が低迷しているのか。

 サケは生まれ故郷の川に帰って産卵する。自然産卵の稚魚や放流された稚魚は春から初夏にかけて海に入り、オホーツク海で夏から秋を過ごして成長。北太平洋で越冬し、翌年ベーリング海に入る。秋になるとアラスカ湾で冬を過ごし、春になるとベーリング海に。これを繰り返し、成熟した親魚となって故郷の川に戻ってくる。このサイクルの中に大きな異変が起きているということは間違いなさそうだ。

■サケ不漁の背景に「4つの説」

 水産関係者や漁業関係者の間で指摘されている原因をまとめてみると、次のような仮説が浮かび上がってきた。

① 沿岸部の海水温の異変 放流時期である春先の沿岸部の冷たい海水温と、初夏の急激な海水温上昇に対応できずに稚魚が大量に死んでしまう。稚魚にとっての好適水温帯(5度から13度)の期間が短くなっている。
② 漁獲期の海水温上昇 沿岸の海水温が秋になっても高く、サケが沖合や深いところに避難してしまうため、定置網にかからない(逆に温かい水温を好むブリが定置網にかかっている)。

③ 母川回帰率の低下 1996年には5.7%だった生まれた川へ帰ってくる母川回帰率(北海道)が2016年は2.6%、2019年は1.6%にまで低下している。
④ エサ不足 海水温の上昇で分布域がサバなどと重なり、サバなどに負けてサケの稚魚の生存率が悪化。
 海水温をはじめとする海洋環境が変化する中で、複数の要因が絡んでいるのだろう。

 ここでひとつ注目したいレポートがある。国立研究開発法人「水産研究・教育機構」の水産資源研究所がまとめた「北太平洋におけるさけます資源状況と令和2年(2020年)夏季ベーリング海調査結果」である。

 この調査結果によると、北太平洋全体のさけます類漁獲量は、ロシアおよび、アラスカで減少傾向となった。これまで同地域はそれぞれ増加・横ばい傾向であったが、潮目が変わったのだ。

 特に2020年はロシアではサケとカラフトマス、アラスカではサケの漁獲量が大きく減少した。カナダやアメリカ南部3州(ワシントン、オレゴン、カリフォルニア)、日本、韓国では引き続き漁獲量の減少、あるいは低水準が続いている。その結果、2020年の漁獲量全体は対前年比で6割程度に減少したという。

 また、同調査によると、2014年ごろからベーリング海の水深200mまでの海水温が高い傾向が続いている。こうした北太平洋における資源や海洋環境の変化が、「日本に回帰するサケ資源の動向とも関連していると考えられる」としている。

 水産資源研究所の担当者は「稚魚がオホーツク海にたどり着けるかどうかが最大のポイント。そのためには、環境変化にも生き残れる活きのいい稚魚をつくるなど資源回復に向けた取り組みを行っています」と語る。サケ資源の回復は長い目で見守っていくしかないのだろう。

■存在感増す「ブリ」新メニュー続々

 話題をブリに移そう。かつては道民にとって馴染みのなかったブリが、この数年で一気に認知度を上げ、食材としての存在感を高めている。

 北海道の一大観光地・函館は、2018年にブリの水揚げが全国3位に、2019年には名物のイカの供給量を上回った。そうした状況を受け、函館では「はこだて海の教室実行委員会」が日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として、新たなブリ食文化を定着させようと昨年からさまざまなメニューを考案、開発している。

 昨年は下処置したブリに衣をつけて揚げた「函館ブリたれカツ」を、今年5月にはその進化系として「函館ブリたれカツバーガー」を、そして今度はうまみ成分イノシン酸に着目して製造した「ブリ節」でだしを取った「函館ブリ塩ラーメン」を開発した。

 「はこだて海の教室実行委員会」事務局の国分晋吾さんに活動の狙いと反響を聞いた。

 「函館では5年ぐらい前からブリの水揚げが増えています。そうした中、海洋環境の変化を伝えるためには、地産地消も兼ねた食文化を通じて情報発信していくことが重要だと考え、2020年にプロジェクトを立ち上げました。昨年は、子どもが食べやすく学校給食にも提供できるということでブリたれカツに挑みました。今年は、やや脂が少ない小型のブリは節に向いているということで、羅臼の加工業者さんにブリ節をつくってもらいました。そしてブリのアラや豚肉・鶏肉のひき肉などで取ったスープにブリ節を加えた函館ブリ塩ラーメンを開発し、試食会でも好評でした」

 10月1日から函館市内の飲食店やスーパーでさまざまなブリ料理を提供する「函館ブリフェス」を昨年に続き開催。多くの市民が新たな地元の味・函館のブリを堪能した。

 「名物のイカとともにブリが新たな函館の魅力として定着していってほしいですね」(国分さん)

■ブランド「ブリ」で差別化も

 一方、日高のひだか漁協では、地元でとれたブリを「三石ぶり」「はるたちぶり」というブランド名で出荷。船上での血抜き処理、脂肪率の計測などを行い、高脂肪率の大型サイズを厳選するなど、ブランディング戦略の強化で差別化を図っている。

 このほか、道内では北海道ならではの「ブリザンギ」も人気だという。函館の水産会社がオンラインで発売しているので取り寄せも可能だ。

 サケ、サンマ、イカといった北海道を代表する魚の水揚げが落ち続ける中、日増しに存在感を増している北海道のブリ。サケに代わって北海道を代表する魚となる日がくるのだろうか。サケはかつてのニシンのような運命をたどってしまうのだろうか。

 海洋環境の激変による生態系への影響を「地域の問題」として捉えていてはできることに限界がある。例えばサケの孵化事業についてみると、サケの不漁が続く中で、地元漁業者による孵化事業への拠出金が減少している。孵化事業関連への国の予算を大幅に増額するなどの措置も必要だろう。

 資源保護とともに次世代に貴重な食文化、水産文化を残すためにも知恵を絞っていきたいものである。これは地域の活性化にもつながる重要なテーマである。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/7(木) 11:41

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