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アステラス製薬、3000億円買収会社に思わぬ試練

10/4 6:01 配信

東洋経済オンライン

 製薬大手のアステラス製薬が思わぬ試練に直面している。

 9月14日、アステラスは開発中の遺伝子治療薬「AT132」の臨床試験で、被験者1名が死亡したことを発表した。この被験者の「重篤な有害事象」はすでに報告されていたため、薬の治験そのものはすでに9月1日時点で一時ストップしている。

 製薬業界全体を見渡せば、思わぬ副作用が出たり有効性が確認できなかったりで、治験がうまくいかないことは日常茶飯事だ。創薬の成功確率は3万分の1ともいわれる。

 だが問題なのはその中身。今回開発を中断したAT132は、アステラスが約3200億円という巨費を投じて2020年に買収したアメリカのベンチャー企業・オーデンテス社が持っていたもの。同社の中でも、AT132は最も開発が進んでいた新薬候補だ。製品化されれば、将来的には最大1000億円の売上高も期待されている。

■2度目の治験ストップ

 実は治験がストップしたのは今回が初めてではない。2020年8月までに、被験者23名のうち高用量を投与されていた3名の被験者が死亡、治験を監督するアメリカのFDA(食品医薬品局)から差し止め指示を受け、一度治験を中断している。

 その後のFDAとの協議によって投与量を減らす治験プログラムに変更し、2020年12月から治験を再開。これで問題はクリアしたかに思われたが、再開時に低用量を投与された最初の患者が、9月に死亡した冒頭の被験者だった。

 AT132が治験の対象にしているのは「X連鎖性ミオチュブラーミオパチー」という、まれな遺伝性の病気だ。新生児が重度の筋力低下と呼吸障害によって死に至る難病で、生後1年半の生存率は50%といわれている。4万~5万人の男児に1人の割合で発症し、現在、治療法はない。

 遺伝性の難病に対し、AT132は「遺伝子治療薬」と呼ばれるもの。これは、本来の遺伝子の欠損や変異によって起こる病気の場合、その遺伝子を補うことで治療を目指す。比較的新しいアプローチの治療法で、これまで治療法がなかった難病などへの応用が期待されている。

 1度目の治験中断時、アステラスの業績への影響は小さくなかった。AT132の無形資産として計上していた1023億円のうち、588億円を減損損失として計上。2021年3月期の営業利益は元々見込んでいた2105億円を大きく下回る1360億円で着地し、前期比でも4割以上の減益となった。

 アステラスの安川健司社長は、「治験の失敗を最初から見込めるわけではない。減損で騒ぐほうが不思議」と話すが、業績の足を大きく引っ張る要因となったことは確かだ。

 【2021年10月4日11時00分追記】初出時のコメントを上記のように修正いたします。

 有価証券報告書によれば、オーデンテスの買収額約3200億円のうち2712億円が無形資産として計上され、AT132だけで1023億円を占めていた。つまり買収金額のおよそ3分の1はこの新薬候補に支払った計算だ。減損の計上後も、AT132の無形資産は427億円が残っている。

■追加の減損はあるか

 アステラスは「今後FDAと治験の再開などについて協議する。(AT132の治験ストップに伴い)現段階で減損を計上するかどうかは未定」とする。ただ前回の減損は、治験プログラムの変更によって投与量が想定よりも減り、対象患者が少なくなったことが引き金になっている。今回、その低用量でも治験を中断せざるをえなかったことを踏まえれば、追加の減損計上の可能性は否定できない。

 ただし、今回の治験中断が発表されても、アステラスの株価が大きく下がることはなかった。「前回の減損時からAT132は少しあやしいという認識だった。今回の中断で急にドタバタすることはないが、第2四半期(2021年9月期)の決算に影響があるのかどうか」(クレディ・スイス証券の酒井文義アナリスト)を株式市場は注視している状況だろう。

 アステラスにとって、遺伝子治療薬のような次世代薬を育てることは急務だ。なぜなら、全社の売上高の4割を占める大黒柱、前立腺がん薬「イクスタンジ」の特許切れが2027年に迫っているからだ。イクスタンジは2022年3月期で5572億円の売上高が見込まれている超がつく大型薬。だが特許が切れる2027年以降、同じ薬効でより安価なジェネリック薬が登場し売上高の急降下は避けられない。

 もちろん、そうした状況に手をこまねいているわけではない。2021年7月にはアメリカで尿路上皮がん治療薬「パドセブ」の正規承認を取得。開発が佳境を迎えている婦人科領域の「フェゾリネタント」への期待も大きく、それぞれピーク時には4000億円、5000億円の大型薬に成長すると見通している。

 だがこの規模まで大型化するには10年以上かかるうえ、新薬は継続的に生み出さなければならない。焦点は、今見えているこれらの薬の「次」だ。

 現在の安川社長は、2018年の社長就任以後、従来の研究開発スタイルを大々的にシフトしている。それまでは泌尿器や免疫関連など、開発を狙う薬の領域をあらかじめ定めていた。だが、新しいスタイルでは研究開発の“出口”を決めず、創薬技術をベースに研究開発を進める方針にシフトし、研究の“入り口”を強化した。

■遺伝子治療の分野に注いだ大金

 その戦略の一環で、自社に足りない技術を補うような会社を次々に買収してきた。ターゲットになったのが、遺伝子治療やがん免疫などの4つの分野だった。今回のオーデンテスもその1社だ。数百億円規模にとどまるほかの分野への投資額に比べ、遺伝子治療を担う同社への投資額は突出して大きい。

 新たな研究開発スタイルで有望な新薬を生み出すこと、特に多額の資金を注ぎ込んでいる遺伝子治療の分野で結果を出すことは、安川体制の通信簿にも直結する。

 アステラスはこの研究開発戦略でこれから生み出す新薬を合わせて、2030年に売上高5000億円という目標を掲げている。また、足元では3.5兆円の時価総額総額を、2025年までに倍の7兆円に高めるという。

 安川社長は「アステラスがやろうとしていることがちゃんとできれば世間はこれくらいの評価をくれるはずだというストーリー」と話す。こうした中で、遺伝子治療の位置づけは特に大きいだろう。

 AT132の治験中断があっても、治験に入る前の新薬候補を含め、遺伝子治療そのものをやめるという選択肢はないはず。アステラスにとっての正念場は続く。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/4(月) 11:03

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