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意外と冷静、恒大集団危機で試されるウォールストリートの中国投資

9/29 5:31 配信

マネー現代

NY株価暴落もあっという間に回復

(文 安田 佐和子) 「人の行く裏に道あり花の山、いずれを行くも散らぬ間に行け」とは、有名な投資格言のひとつだ。足元、米国の個人投資家はこれを忠実に実践しているように見える。

 バンダ・リサーチによると、7月19日にデルタ株感染拡大を懸念しダウが725ドルも急落したタイミングで、米個人投資家は株式ファンドを約22億ドル買い越しした。当時、S&P500に連動するETF「SPDR S&P500 ETFトラスト(SPY)」への資金流入額は過去最高の4.8億ドルを記録したという。

 負債総額1兆9665億元(33兆円)抱える中国不動産開発大手、恒大集団の債務不履行(デフォルト)懸念から株価が615ドル安を迎えた9月20日も、同様に個人投資家は株式ファンドを約19億ドル買い越し、SPYと「インベスコQQQトラスト・シリーズ1(QQQ)」への資金流入額は3億3700万ドルに及んだ。奇しくも、7月と9月の急落時は週末から2営業日続落し、相場が悲観に傾きかけた局面で、逆張りの勝負に挑んだことになる。

 9月24日までにダウとS&P500は3日続伸し、短期的に彼らの戦略は奏功したと言えよう。恒大集団が9月22日に、翌23日に期日を迎える人民元建て社債の利払い、2億3200万元(約39億円)につき、一部を実施すると発表し、下落に歯止めを掛けたためだ。

 また、ブルームバーグは9月23日、中国の金融規制当局が恒大集団に対し、ドル建て社債で目先のデフォルト(債務不履行)回避に全力を尽くすよう求めると同時に、個人投資家への債務返済や建設中の物件の完成を要請した報じた。一連の情報を支えに、ダウとS&P500は22日に5営業日ぶりに反発し、S&P500は23日に50日移動平均を回復した。まさに、7月の急落時の動きと重なる。

恒大集団債務問題は「世界危機ではない」

 ただ、恒大集団のデフォルト・リスクが雲散霧消したわけではない。9月23日に期日を迎えた22年3月償還のドル建てオフショア社債に掛かる8350万ドル(約92億円)の利払いの他、同29日には24年3月償還の同社債の利払い4750万ドル(約52億円)を予定する。

 それぞれ、特別条項(コベナンツ)に基づき、支払い遅延がデフォルトと判断されるまで30日間の猶予期間があるとはいえ、恒大集団から支払いについて説明されない状況が続き、情勢は極めて不透明だ。

 恒大集団の負債総額は中国GDP比で2%に相当し、ニュースやSNSでは “ミンスキー・モーメント(資産価格が突如急落し、債務支払いのため資産の投げ売りを余儀なくされ負のスパイラルに陥る局面)をもじり、“中国版リーマン・モーメント”とセンセーショナルな文字が踊る。しかし、ウォール街では第2のリーマン・ショックを見込んでいない。

 アライアンスバーンスティーンのアジア担当フィクスト・インカム共同責任者のジェニー・ゼン氏は、業界2番手とはいえ、恒大集団の市場シェアは4%程度、足元では値引きなどによりそれ以下とされ、中国国内での不動産セクターでのドミノ倒しが発生しても、リーマン・ショックのような世界全体を巻き込んだ危機は発生しづらいと見込む。

「率直に言って、大げさだ」

 米国でリーマン・ショックを経験した筆者からすれば、当時エコノミストが「住宅市場は米GDPの5%程度に過ぎないため、大きな危機となりづらい」とした分析を彷彿とさせる点が気掛かりだが、こうした意見は決して少数派ではない。

 INGのアジア太平洋リサーチ部門ヘッドのロブ・カーネル氏は、リーマン危機の再来といったようなシステミック・リスクへの警戒は「率直に言って、大げさだ」と語る。リーマン・ブラザーズが金融資産を抱えた半面、恒大集団は土地という現物資産を有しており、開発を終え売却できれば資金不足は解消すると説く。

 マッコーリーのラリー・フー首席エコノミストも「恒大集団が保有する土地は優良物件で占められ、住宅プロジェクト全体の価値は1.4兆元(約24兆円)」、つまり負債総額の約7割と試算する。また、中国では土地は国有とあって、地方政府から期限付きで土地の使用権を購入し、認可を取得した上で開発が可能である通り、地方政府が供給を管理するも同然だ。従って「金融資産より透明性が高く安定的」であり、不動産価格が崩壊するリスクは低いと分析する。

 ただ、ノムラによると、9月最初の12日間での土地取引高は9割も落ち込んでおり、他不動産業者にしてみれば落ちるナイフを拾うに等しい。

 真っ暗なトンネルの中に光を見出すならば、中国の住宅在庫が挙げられよう。オーストラリア・ニュージーランド銀行によれば、足元の在庫水準が販売の1年半相当だった一方で、前回住宅市場が低迷した2015年の2年半を大幅に下回り、少なくとも当時のような供給過剰の状態にはない。

「大きすぎてつぶせない企業ではない」

 その他、ウォール街からは「リーマン・ショックの二の舞というより、LTCM危機に近いのでは」との指摘も(LTCM危機は1998年に起きた世界最大のヘッジファンドの経営危機。当局主導で大手金融機関が共同して緩やかに解体した)。

 中国人民銀行がLTCM危機当時の米連邦準備制度理事会(FRB)のように、3ヵ月間で3回とスピード感をもって利下げに踏み切るかは定かではない。ただ、人民銀行は資金供給を積極的に進め9月22日は1200億元(約2兆円)へ拡大。期限到来を迎えた300億元を引いたネットベースで900億元と、8月の供給額の100億元を大幅に上回る規模を供給し、市場の安定化にコミットしている様子が伺える。

 キャピタル・エコノミクスのマーク・ウィリアムズ・アジア担当首席エコノミストは、落とし所として「管理された再編」の可能性を指摘。「他の開発業者が、中国恒大が開発用に保有する土地の権益と引き換えに、未完成の物件を引き継ぐ」シナリオを示す。

 そもそも中国政府は、不動産市場の過熱抑制策として20年8月に「3つのレッドライン」を導入、1) 負債の対資産比率は70%以下、2) 純負債の対資本比率は100%以下、3) 手元資金の対短期負債比率は100%以上―といった財務改善要求を提示した(恒大集団は1つも満たせず、デレバレッジ(債務削減)→ 収益悪化 → 株安 → 信用不安に陥る)。

 今年8月の中央財経委員会でも、「共同富裕」と「金融リスクの解消」を発表。このような事情からウィリアムズ氏は、恒大集団が「過剰な借り入れによって繁栄を謳歌した時代の申し子」なだけに、公的資金を注入するとは想定し難いと語る。

 環球時報の胡錫進編集長は9月16日、中国のSNSである微信(ウィーチャット)に「大きすぎてつぶせない企業ではない」と投稿、公的資金注入より自力での立て直しを主張する。

中国政府は介入するか

 一方で、JPモルガン・チェースは他セクターへのドミノ倒しのリスクを回避すべく、政府による追加措置が必要と指摘。また、顧客やサプライヤーの利益を守るべく、恒大集団の事業継続の必要性を訴える。

 政府による介入とは、キャピタル・エコノミクスのウィリアムズ氏が指摘するように、政府が仲裁役として入り、恒大集団の未完成プロジェクトを他の開発業者に引き継がせ、同時に土地の権益を差し出すといった手段が考えられよう。

 中国政府としても、同社が労働市場20万人の従業員を雇っているだけでなく、毎年プロジェクト開発で380万人もの間接雇用を生み出しているだけに、無秩序な破綻を望んでいるはずはない。

 だからこそ、中国金融当局は、恒大集団側の求めに応じ債務支払いの期日延長を含む提案を承認、広州政府は恒大集団の大口の債権者と債権者委員会の設立に向け意見交換中とも伝わっている。

 中国恒大の債務には128以上の銀行と121以上のノンバンク系機関が関与し、利払いは9月23日分を皮切りにドル建て・人民元建て合わせ年末まで8回を数え、総額はドルベースで約6億8740万ドル(約760億円)。さらに、2022年も約23億7370万ドル(約2630億円)を予定するとあって、難航が予想される債務再編交渉に何らかのかたちで中国政府が介入しうる。

中国不動産に突っ込んでしまった英系銀行

 米欧金融機関の中国恒大集団のエクスポージャーが懸念材料だが、米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長は9月22日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で「中国固有の問題で……(中略)米企業による投融資は多くなく、米国企業部門への影響は限定的」と発言した。

 また、ブルームバーグによれば、シティグループの広報担当は中国恒大への直接の融資はしておらず、JPモルガン・チェースとバンク・オブ・アメリカも同様だという。信用調査会社クレジットサイツも、主要銀行リストに米銀は掲載されていないと指摘していた。

 一方で、JPモルガンの分析では、中国不動産セクターへの融資が最も多い外資系金融機関はHSBCとスタンダード・チャータードだ。HSBCの法人向け不動産融資は1195億ドルのところ、そのうち7.1%はアジア関連、5.5%が香港関連で、スタンダード・チャータードの場合は193億ドルのうち4%が中国と北アジアだという。

 また、ロイター・アナリティクスによれば、2020年に中国本土と香港が利益に占める割合はHSBCが84%、スタンダード・チャータードは81%。恒大集団の債権者との債務再編交渉で債権者に大幅な損失を強いることになれば、業績に悪影響が及びかねない。

アクセルはまだ踏み続けたい

 中国の金融市場は、経済拡大に合わせ成長を続けてきた。中国と香港市場は、時価総額ベースで2020年に世界株式市場全体の17.4%を占める。中国の債券市場も、発行高は2020年に5.2兆ドルと米国(9.4兆ドル)に次ぐ世界2位の規模に膨らんだ。しかも、中国10年債利回りは9月24日時点で2.9%と米10年債利回りの1.5%、日本の10年債利回り0.05%と比較し、高利回りである点も魅力の一つである。

 米中両国はトランプ前政権下、2020年1月に貿易交渉での第1段階の合意に至った。その際の条件のひとつに「金融サービスの自由化」が盛り込まれ、中国政府はIT大手や教育関連など国内企業の監督強化にいそしむと同時に、米国には開放路線を進行させている。

 実際、中国政府は20年4月1日、投資信託事業での外資規制の撤廃を決定した。結果、ブラックロックは同8月21日、中国本土における100%出資の資産運用会社の設立認可を取得。21年6月には、中国で投資信託事業免許を得て、中国の個人に投資商品を提供できるようになった。

 JPモルガン・チェースも今年8月6日、中国証券監督管理委員会(CSRC)から、中国で全額出資の証券会社の設立をめぐる承認を得たと発表。ダイモン最高経営責任者(CEO)は当時「中国は世界で最も大きなチャンスの一つだ」との見解を表明していたが、恒大集団の債務問題を全く知らずにいたわけではないだろう。

 ある意味で、米系金融機関にとって中国市場への攻勢を掛ける段階で、恒大集団のデフォルト問題が発生したかたちだ。

 一方、習近平主席は2022年秋に予定する党最高指導部を決める5年に1度の党大会で、3期目を狙う。ウォール街が「中国版リーマン・モーメント」を予想していないのは、習政権が長期に及ぶ経済危機の回避に努めると見越しているのかもしれない。

 米系金融機関が「人の行く裏に道あり花の山、いずれを行くも散らぬ間に行け」そのままに事業を拡大するのかは、中国政府の対応が握っている。

マネー現代

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最終更新:9/29(水) 5:31

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