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菅首相、引き際の言動で問われる「宰相の矜持」

9/28 4:31 配信

東洋経済オンライン

 1カ月近くメディアを事実上占拠し続けている自民党総裁選を横目に、菅義偉首相が退任間際まで首脳外交などで存在をアピールし続けていることへの賛否が渦巻いている。

 「『立つ鳥跡を濁さず』の格言通り、辞めていく首相は目立たず、淡々と残務処理に徹する」(閣僚経験者)のがこれまでの永田町の掟だった。しかし、菅首相は退任直前に訪米して日米首脳会談や日米豪印4カ国(クアッド)の首脳会談をこなし、菅外交の成果を誇示した。

 9月28日にはコロナ対策の核心となる緊急事態宣言の全面的解除も決める。「次の内閣に負担をかけない」(周辺)との理由だが、「退任後の影響力保持が狙い」(自民幹部)との見方も相次ぎ、政界だけでなく国民の間でも菅首相のけじめのつけ方への疑問が広がっている。

■後継者決定前に「お別れ会見」も

 1年前の2020年9月16日、「国民のために働く内閣」を掲げて歴代3位とされる高支持率でスタートした菅政権。携帯電話料金値下げなど身近な改革から、未来を見据えた「2050年カーボンニュートラル」宣言、さらには反対論を押し切っての東京五輪・パラリンピック開催まで、「1年間で成し遂げた仕事は歴代政権以上」(官邸筋)なのは否定できない。

 にもかかわらず、コロナ禍への拙劣な対応で国民の不信を買い、迫りくる衆院選を前に「菅さんでは選挙に負ける」と自民党内からダメ出しを食らい、「悪あがきの末の退陣表明を余儀なくされた」(自民長老)のが実態だ。

 それにもかかわらず、総裁選が終盤戦を迎えた9月23日から26日まで菅首相は訪米し、4カ国首脳会談など極めて重要な外交行事に臨んだ。初対面から馬が合ったとされるアメリカのバイデン大統領との首脳会談では、「政権が替わっても日米関係は揺るがない」ことを世界にアピールしてみせた。

 こうした動きに対し、政界やメディアからは「卒業旅行」などと揶揄する声が噴き出す一方、「最後まで仕事一筋は立派」(自民幹部)との評価も目立つ。しかも、後継者が決まる前日の28日に、専門家らの慎重論を押し切る形で緊急事態宣言の解除を決め、「お別れ会見」まで行う考えとされる。

 最近は現職首相(総裁)が退陣表明した場合、総裁選を経て3週間前後で後継者が新政権を発足させてきた。しかし、今回は9月3日の退陣表明から10月4日の新政権発足までの移行期間が1カ月余と格段に長い。

 それだけに、菅首相は党内外の批判などは承知の上で「『仕事師』が身上だから、最後までやるべきことをやる」(側近)と判断したとみられる。

 今回の菅流の身の処し方の中で永田町の批判の原因となったのが、「菅後継」を目指して総裁選に挑んだ河野太郎氏への支持表明だった。総裁選が告示された9月17日、菅首相は総裁選と並行してワクチン担当をこなす河野氏について、「国難の中で大きな成果を上げてくれた。コロナ対策は継続が極めて大事だ」とあえて河野氏支持を明言した。

■「河野政権での院政」狙いの声も

 過去に長期政権を築いた中曽根康弘(故人)、小泉純一郎両元首相や安倍晋三前首相は、退任時も党内への強い影響力を保持しており、それぞれ後継指名を実践した。これは政界だけでなく、国民的にも実力者としての存在が認められていたからだ。

 しかし、菅首相のように自らの力不足でわずか1年で退陣表明に追い込まれ、「宰相失格の烙印を押された」(閣僚経験者)にもかかわらず、後継者を決める総裁選で特定の候補に肩入れするのは「宰相としての矜持が感じられない」(首相経験者)との批判も根強い。

 このため党内では「手勢を率いて二階派を継承する」「河野政権での院政狙い」などのうがった見方も飛びかう。菅首相自身は訪米終了時に、次期政権での入閣などを否定してみせたが、周辺は「裸一貫から首相にまで上り詰めただけに、まだまだ楽隠居するつもりはない」と解説する。

 菅首相は訪米日程の終了を受け、帰国直前の25日夜(日本時間)にワシントンのホテルで同行記者団と懇談した。これまでの官邸での記者会見やぶら下がりインタビューの素っ気ない対応とは違い、退任後の活動も含めて饒舌に語ってみせた。

 まず、帰国直後の重大判断となる緊急事態宣言の解除問題については、「状況は確実に好転している」と強調。ここにきての急激な感染減について「ワクチン接種(の進展)が大きな要因」と自らの指導力をアピールした。

 宣言解除については「週明けによく分析した上で判断したい」と述べるにとどめたが、政府側は27日中に全面的解除の方針決定を前提に、28日の国会報告と対策本部開催を与党に伝えている。

 さらに菅首相は、今回訪米の最重要課題だった日米豪印首脳会合について「気候変動で議論をリードし、3人の首脳から賛同の意が示された」と力説。一連の首脳外交のやり取りも例示し、菅外交の成果を誇示した。

 一方、記者団は「次期首相に入閣を要請されたら受ける考えはあるのか」「今後、派閥をつくる考えはあるか」といった質問を浴びせた。菅首相は「仮定の話になるが、(入閣を)受ける気持ちはまったくない」と明言。「私自身が取り組んできた政策的な仕事をしたい」と吹っ切れた表情で語った。

■総裁選候補者に目立つ実力者への「忖度」

 第2次安倍政権発足以来、菅政権も含めて約9年間、安倍・菅一強体制と呼ばれる強権的な政治が続いてきた。今回の総裁選やそれに続く衆院選で問われているのは、「それを許してきた自民党の体質そのもの」(自民長老)とみられている。

 にもかかわらず、総裁選で三つ巴の戦いを演じている河野、岸田、高市3氏の言動には、総裁選を通じてキングメーカーの座を争う安倍、麻生、二階、菅の4実力者へのさまざまな「忖度」が際立つ。

 戦いの構図が「安倍・麻生VS二階・菅」と喧伝されること自体が「自民党にとってマイナス」(若手)なのに、自主投票を求めて若手衆院議員が結成した党風一新の会も、「総裁選終盤になると派閥の多数派工作に飲み込まれている」(同)ようにもみえる。

 安倍、麻生、二階3氏と違って菅首相は無派閥で宰相の座に上り詰めた異形の実力者だ。だからこそ、自らが引き立ててきた河野氏を支持し、後継者にすることが「退任後の影響力確保への唯一の道」(自民幹部)であることは間違いない。

 総裁選の結果が出るまであと2日。今回の菅氏の賭けが「吉と出るか凶と出るかはなお流動的」(自民幹部)だ。ただ、岸田氏や高市氏が勝てば「安倍院政」、河野氏が勝てば「菅院政」と騒がれること自体が今回の総裁選の歪みを象徴している。

 永田町ではすでに「誰が新総裁になっても11月衆院選後や来夏の参院選に向けた政局混乱は必至」とみる向きが多い。総裁選後の自民党内の権力闘争にも絡み、菅首相の退任後の動きも注目され続けそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/28(火) 4:31

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