IDでもっと便利に新規取得

ログイン

病室に患者用無料Wi-Fi導入がやはり必要な理由

9/28 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 9月、全国の地域の拠点となる病院で「患者が病室で無料Wi-Fiを使えるかどうか」民間団体が調査し、都道府県別の導入率ランキングと病院名を公表した(*1)。今後、患者が入院する病院を選ぶときの指標の一つになるとみられる。病院の医療情報システムとネットワーク構築は建築構造上も含めて複雑だが、大別して3つのポイントに集約できる。(医療ジャーナリスト 福原麻希)

● 患者が持ち込むモバイルWi-Fi等で 医療機器等の動作不具合が起きている

 「病院の病室に無料でWi-Fiを入れてほしい!」と元フジテレビ勤務で、現在はフリーアナウンサーの笠井信輔さんらが集まる民間団体「#病室WiFi協議会」が活動している。笠井さんは悪性リンパ腫の治療を受けるため入院したところ、昨年4月のコロナ感染拡大による1回目の緊急事態宣言時期と重なり、家族や友人と面会できず、孤独な闘病生活を体験した。

 そのとき、学生時代の友人らがスマートフォンの画面を通して集まったことは、笠井さんにとって実際にお見舞いに来てくれたと思えるほどうれしく、「とても救われた」という。だが、3カ月半の入院期間中、スマホの通信機能を使ってインターネットにつなぐ「テザリング」でデータ通信量を追加したところ、毎月、1万円以上かかった。

 「#病室WiFi協議会」が病室でのインターネット利用について、がん患者や家族、および、長期入院を余儀なくされている筋ジストロフィー患者や関係者を対象に調査したところ、回答者(243人)の約4割は「病室でインターネットを使えなかったが我慢した」と答えた。入院中は病気や治療の情報検索等もしたいはずだが、「治療費がかさむ上、さらに通信料金がかかることを、とても家族に言えないと話している」と笠井さんは説明する。

 病院が患者用の無料Wi-Fiを整備することについては、病院関係者からも患者やその体験者からも賛否両論が出ている。だが、私たちの生活でインターネットにつながっていることは日常の一部となっているため、前述の調査でも、入院中に患者個人が電波の発する機器を持ち込んでいたことがわかる。

 実は、この状況のほうが病院にとって困ることになる。

 今年5月に発表された総務省、厚生労働省と連携する電波環境協議会の病院の電波利用に関する調査結果(*2)では、回答病院の9割弱で無線LAN(Wi-Fi)が導入されていた。そのうち、患者や外部訪問者がインターネット接続できる病院は約3割だった。

 このため、患者が一般家庭向けのモバイルWi-Fi(ポケットWi-Fi)や据え置きWi-Fi等の個別のルーターを病院内に持ち込んだり、スマホのテザリング機能を使う人が増えたりしている。だが、それは病院の業務用Wi-Fiに同じ周波数のアクセスポイントが増える状況になり、電波干渉(無線干渉)を起こしやすくなる。

 電波環境協議会が作成する手引きによると、無線LAN導入病院の約半数で患者が持ち込んだWi-Fiによる電波干渉と思われるトラブルが起こっていた(*3)。例えば、近隣の病室で電子カルテや心電図モニタに不具合が起こったりするなどだ。

 これは病院にWi-Fiを持ち込んだことがよくないのではなく、病室で患者にWi-Fiを開放していないことによるトラブルだ。

 この点は、医療関係者でも気付かず、電波管理担当者に相談することなく、都合のいい場所でモバイルWi-Fi等を持ち込んでいることがあるという。

 携帯電話とWi-Fiは周波数がまったく異なるため、前述の手引き「改訂版」では音量や歩きスマホ、特定のエリアの使用は禁止などのマナーを守れば使ってよいとされている。

● 医療情報システムと その関連技術は日進月歩

 病室での患者のWi-Fi利用は、コロナ禍、聴覚障害者のための手話通訳や外国人のための医療通訳における「オンライン通訳」などでも欠かせない。

 それでは、病院が病室へ患者用Wi-Fiを導入することは難しいのか。結論から言えば、技術的な電波管理とセキュリティー管理の必要はあるが、すでにその解決法は関連企業から提案されている。複数のメーカーやソリューションサービスを提供する企業へ取材したところ、3点のポイントに整理できたため紹介する。

 (1)既存のネットワークへの影響が起こらないよう工夫できる

 これまで、病院では「院内の医療情報システム(自動受け付けや自動会計、電子カルテ、検査機器のデータ伝送等の診療業務(HIS、Hospital Information System)」、および「病院職員・医療関係者が院外へアクセスするインターネット接続用」のネットワークを2つに分けて構築することが多かった。

 このため、病室に患者用Wi-Fiを導入するためには、主に2種類の方法、(A)新たに病室用無線LANを構築する(物理的分離ネットワーク)、(B)既存のネットワークを流用しながら、既存の機器の設定を変更したり、最低限の機器を追加したりする(論理的分離ネットワーク)が考えられる。このどちらを採用するかは、病院建物の構造上の制限、Wi-Fi導入の予算、既存ネットワーク機器による。

 (B)については、近年、「IEEE 802.11ax(Wi-Fi6等)」というIEEE(アイトリプルイー、米国の電気電子学会。標準規格の制定などをしている)で規格化されているアクセスポイントを導入することで、前述の2種類のネットワークを統合でき、通信速度も安定できるようになった。例えば、病室での患者用Wi-Fi導入時、既存の医療情報システムに乗り入れたため、インターネットの速度が遅くなってしまったり、病室すべてをカバーできなかったりしていたが、このアクセスポイントで課題を解消できるという。

 さらに、診療部門の電子カルテと病室でのWi-Fiの周波数を分けることも可能になった。それぞれ快適に安定的にインターネットを使うことができれば、「病室に患者用Wi-Fiを設定すると、ナースコールが増えるのではないか」という不安も減る。

 「#病室WiFi協議会」メンバーの一人で情報通信技術に詳しい、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の川森雅仁特任教授は「全国の病院の7、8割は(B)の方法で病室での患者用Wi-Fiの導入が可能ではないか」と助言する。

● 電波管理は医療機能評価への 追加も検討されている

 (2)導入コストは抑えることができる

 前述のネットワークの統合が可能な場合は導入コストを抑えることができる。毎月のランニングコストについては「院内で導入しているインターネット回線のサービスプロバイダーへすでに支払っているため、追加は発生しない」と川森特任教授は説明する。 

 また、現在、厚労省が「新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金」で病院を支援している。昨年度は10.5万件の申請があったそうだ。2021年度の補助対象には「#病室WiFi協議会」の活動によって「入院患者のオンライン面会等のためのWi-Fi環境の整備に要する費用」も加えられた。

 この補助金の申請は9月30日までに工事が終わっていることが条件になっている。このため、いまからでは申請は難しいが、「#病室WiFi協議会」の笠井さんは記者会見で「新型コロナ枠の補助金でなく、単独の補助金の設定を要望していきたい。厚労省にどのくらいの病院から申請があるかを知ってもらうためにも、見積もり等を添えて申請書を出してみてください」と呼びかけている。

 自治体が「公衆無線LAN等環境整備事業費補助金」として、2分の1補助を設定していることもある。

 (3)システムにセキュリティ管理を組み込む

 セキュリティ管理については、病院でインターネット接続することで「ウィルス感染した!」と訴えられたり、あるいは、病院からのインターネット接続がサイバー犯罪に使われたりすることが想定される。

 このため、インターネット接続時に利用規約への同意や病院利用者以外の人が容易に利用できないようにするための認証を取得したり、どの時間帯に誰が使っていたかのアクセスログを取っておいたりするリスクマネジメントが推奨されている。業務用製品には、総務省等の指針に従って、これらの仕組みが組み込まれている。

 電波環境協議会によると、今秋からは医療の関連学会や職能団体等と連携する形で「医療安全管理からみた電波管理の在り方」等の検討会を開催する予定という。また、同協議会は2018年から日本医療機能評価機構の「病院機能評価」の評価項目への文言追加を要望している(*4)。

 現在、病院に電波管理を含めた医療情報システム担当者(元IT企業社員、診療放射線技師、臨床工学技士が多いという)の配置は義務化されていないが、看護師等の業務を妨げないよう、それは検討すべきだろう。また、その業務量に合わせて、人件費を捻出できる医療安全管理面の加算の設定もあるとよいだろう。

出典等
*1 #病室Wi-Fi協議会,全病室で無料Wi-Fiが使える病院(全国の病院名一覧、および都道府県導入ランキング)2021年、https://wifi4all.jpn.org/hospital/index.php(対象病院は「全国都道府県別がん診療連携拠点病院」451施設、「小児がん拠点病院」15施設、「国立病院機構」140施設、「筋ジストロフィー患者専用病棟のある病院」の合計563施設、一部重複あり)
*2 電波環境協議会医療機関における電波利用推進委員会, 2020年度医療機関における適正な電波利用推進に関する調査の結果,2021年、 https://emcc-info.net/medical_emc/pdf/21-302-R_R2_questionnaire_hsptl.pdf
*3 電波環境協議会医療機関における電波利用推進委員会,医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き(改定版)、2021年,https://emcc-info.net/medical_emc/202107/HP1_2_medical_guide_rvsn_20210712_esse.pdf(ただし、電波環境協議会の手引き「改訂版」では、病院・診療所における患者用のWi-Fiモバイルルータやテザリング機能の使用をエリア等の条件付きで許可する文言に変更された)
*4 電波環境協議会医療機関における電波利用推進委員会, 2020年度活動報告,2021年,https://emcc-info.net/medical_emc/pdf/21-301-medical-emc-doc2020.pdf

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:9/29(水) 11:31

ダイヤモンド・オンライン

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング