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“非鉄”も「いいね」とうなる、鉄道を撮る男の夢 カメラマン山崎友也と村上悠太の師弟対談

9/27 6:31 配信

東洋経済オンライン

鉄道写真業界で大きな注目を集める写真展が東京・品川で開催されている。鉄道カメラマン・山崎友也氏の作品展「少年線 shonen-line」。光と影、そして人物。鉄道写真でありながら目を凝らさないと鉄道車両が見つからない写真もある。山崎氏は現在の鉄道写真業界をリードする存在だ。故・真島満秀氏に師事し、その後独立して同じく鉄道写真家の中井精也氏と共同で鉄道写真の専門家集団「レイルマンフォトオフィス」を設立。久保田敦氏や村上悠太氏といった人気写真家たちがレイルマンで学び、そして独り立ちした。

山崎氏の写真の魅力は、従来の鉄道写真と一線を画した野心的な作風にある。鉄道ファンだけでなく幅広い層から支持を集める、山崎写真の魅力はどこにあるのか、門下生の村上氏が、当時を振り返りながら山崎氏に話を聞いた。

■一緒の仕事、最初は「鉄道以外」

 村上:山崎さんと僕が初めて一緒に仕事をしたのは、入社前の高校3年の頃でした。横浜でサウナのメニューの撮影があって、僕はレフ板を持ちました。

 山崎:当時は鉄道だけでは食べていけなくて、いろいろなジャンルの仕事をやっていたな。

 村上:ドラマチックかつスタイリッシュな写真を撮る中井さん、山崎さんに憧れていたのですが、一緒に仕事をしてみたら、鉄道以外の撮影もしなくてはいけないというのが刺激になりました。その後、鉄道雑誌に使う写真のアシスタントに呼んでいただき、電話のかけ方など社会人としてのマナーを教えてくれました。山崎さんは「お酒を飲むと楽しい人」というイメージがあるのですが、マナーにすごくうるさいんです。

 山崎:そう?  でも、そう言われるとうるさいかもな。

 村上:ご飯の食べ方、お酒の飲み方をよく注意されました。たとえばビールを注ぐときはラベルを上にする。ビールを置くときは目上の人にラベルが見えるように置くとか。それから靴の脱ぎ方も。山崎さんから「悠太はどこの飲みの席に出しても恥ずかしくない」と言われたときはうれしかったなあ。

 山崎:ワシも真島事務所でそういうことをいろいろと教わったから。もちろん悠太だけでなく、敦(久保田敦氏)にも教えたよ。

 村上:撮影の仕方や1日の動き方もずいぶん教えてもらいました。天気に恵まれないと撮影のノルマが達成できないので、あっちが晴れているんじゃないかと、焦って周囲を動き回るんですが、その分経費もかかるわけで。僕は社員ですが山崎さんは経営者ですから。山崎さんに「動くな」と怒られたことがありましたね。確かに動き回っても成果が出ないなら動かないほうが正解です。山崎さんとは夜、車の中で鍋をつつきましたね。

 山崎:よくやったね。悠太といちばんやったんじゃないかな。

 村上:八戸で撮影の合間にアンコウを1匹買って、お店の人にさばいてもらって、夜に車の中でアンコウ鍋にしたこともありましたね。山崎さんのホームページには仕事の話以上に、車の中で鍋をするとか、温泉に入るとか、楽しい話がいっぱい出てくる。そういうところにも憧れていました。

■シビアな「流し撮り」の要求

 山崎:悠太とは、JR東日本の仕事でE5系とE6系の撮影をしに行ったことがあったな。

 村上:あのときの山崎さんのオーダーがシビアで。E6系が登場したばかりで1編成しかなかったうえ、試運転で明け方か深夜しか撮影のチャンスがない。そのうえ、「トンネルとトンネルの間で流し撮りをしろ」という。トンネルからポンと出るとすぐ次のトンネルに入る。この間0.5秒くらいしかないところで流し撮りをしろというんですから。僕はそれで何回も失敗をしましたが、山崎さんは流し撮りが上手なんですよね。一発で決める。

 山崎:世の中の人はそれを天才と呼ぶ(笑)。悠太はまだまだ粗いよ。いい写真もあるけど、これは……という写真もある。アベレージが低い。ただ、写真のテクニックを教える機会があまりなかった。悠太が入社した頃は事務所がフィルムからデジタルに切り替えていた時期で、デジタルだと教えにくい。フィルムの頃はみんなでビュアーを見て「ああでもない、こうでもない」と言い合っていたが、デジタルだとそういう場がない。そこはちゃんと教えておけばよかった。

 村上:山崎さんは夜の写真をたくさん撮っていますね。ロケに行って、一緒に晩ごはんを食べようと思っても、山崎さんが夜帰ってこないということもありましたね。

 山崎:うん、小さい頃から夜が好きだったというのもあるけど、昼間はオーダーされた写真を撮らないといけないから、自分の作品活動をするのは夜しかない。必然的に夜が多くなったというのはある。

 村上:山崎さんは作品づくりでは極端なことをやるのが好きですよね。3000mmの超望遠レンズで車両を撮ったり、超広角で新幹線の鼻だけ撮ったり。なぜこのような写真を撮るようになったのですか。

 山崎:野心だね。誰も表現したことがない、誰も見たことがない写真にチャレンジしてやろうって。何千ミリで撮ってみようとか、そういうことを考えるのが楽しい。

■影響を受けた写真家は? 

 村上:写真家にとって大事なことの1つが「テーマ」。テーマがないと組み写真が作れないから、写真集が出せないし写真展も開けない。僕は「人」を1つのテーマにしていますが、山崎さんは自分に厳しいですよね。テーマを決めてもさらに夜にこだわったり、車両を出さなかったりとか。なぜ、あえて厳しくしているのですか。

 山崎:限定したほうが楽という部分もある。答えがはっきりしているから。たとえば写真教室で生徒に課題を出すとき、撮影に条件を付けたほうが撮るほうもわかりやすい。

 村上:最近、影響を受けた人はいますか。真島(満秀)さんには影響を受けたでしょ。その後は? 

 山崎:そりゃあ中井(精也)には影響を受けたよ。中井は前ボケ(前景にボケを入れる)とかで、それまでの鉄道写真にはなかった表現をした。だからワシがそれをやったら二番煎じになっちゃう。自分に何ができるか、ずいぶん悩んだ。結構試したよ。この前、写真を全部ぶれさせてみようとして大失敗した。全体がぶれていると止まっている部分に目がいく。それで列車も周りの草木もすべてがぶれている写真はどうなのかなと思って撮ったら全然だめだった。でも、やってみんとわからんじゃん、そういうのって。だから失敗のほうが多いよ。

 村上:雪の踏切の写真はどうやって撮ったのですか。踏切の信号が両方とも点灯しているということはシャッター速度が遅くないといけないのに、雪を線ではなくつぶつぶで写すためにはシャッター速度を速くしないといけない。写真を知っている人にとっては不思議な写真です。

 山崎:あれは多重露光(複数の写真を1枚に重ねる手法)。雪を線でなくつぶつぶで表現するためには多重露光しかない。そして、信号が赤く光っているほうが見るほうの衝撃は強いよね。

 村上:普段、絵画や映画などほかの芸術作品を見る機会はあるのですか。

 山崎:今は時間がなく、見ることができていない。ただ、写真展には行くようにしている。鉄道ではなく、ほかの分野の写真展が多い。そこで受けた感覚を自分の鉄道写真に生かしている。たとえば、この東京駅のボケた写真、これは鉄道ジャーナル誌の表紙に使われた。どこかの写真展を見ていたら全部ボケていた写真があって、鉄道でも使えるかなと思った。

 村上:年を重ねて実績を積んでくると、失敗が怖くなると思うんです。メーカーから新製品のカメラを借りて写真を撮るときは、失敗が許されないので僕の場合は自分がよく知っている撮影地で確実に写真を押さえられるルートを選びがちなんですが、山崎さんは“置きに行く”ことをしないですよね。いつも挑戦している。山崎さん自身がそう意識しているのですか。

■小さなカットでも自分の作品を

 山崎:うん。カメラ誌に載っている作例(このカメラでこんな写真が撮れるという例)を見ると、みんな手を抜きすぎると思う。「作例だから」と考えているのかもしれないが、ワシは嫌。どんなに小さいカットでも自分の作品だというカットを撮りたい。

 村上:個性を出しすぎると、担当の編集者さんと合わないこともあるのでは? 

 山崎:あるよ。そういうときはそういうカットは選ばれない。もちろん押さえとして、撮っておくカットもあるけど、まずはこっちのイチ押しを提案するよね。

 村上:意見が合う、合わないはどっちが多いですか。

 山崎:合わないほうが多い。昔からだな。向こうが求める画じゃないのかもしれないけど、だったら「ワシに頼むな」みたいなのはあるじゃない。

 村上:山崎さんはこういう写真家だと知ったうえで、山崎さんにお願いして、山崎さんらしい写真が上がってきたのにそれが合わなかったというのは切ないですね。鉄道ジャーナルの表紙はどうですか。「これを使ってくれ」と1枚だけ渡すのですか。

 山崎:月によって違う。1枚だけのときも何枚も渡すときもあるな。最初の頃はストックがなくて前年に撮ったものを出していたこともあった。

 村上:今は表紙用に撮っている写真もあるんですか。

 山崎:ある。縦で撮る。しかも文字が載ることも考えて撮る。

 村上:最近の鉄道写真を取り巻く環境をどう思いますか。

 山崎:もっとみんな個展を開いたほうがいい。一応、ワシと中井でファンを増やすことには少しは貢献できたかなとは思うが、後の人が続かないと意味がない。さらに言うと、鉄道が好きじゃない人が見ても「いいね」と思ってもらいたい。鉄道趣味の人だけを相手にしていても狭い範囲の中でやっているだけなので、もっと視野を広げて、いろんな切り口で写真を撮って、鉄道に関心がない人にも興味を持ってもらいたい。

■鉄道写真を芸術に

 村上:同感です。山崎さんの写真教室を受講しているのは、女性を中心に鉄道ファン以外の人たちが多いように感じます。カメラのワールドプレミアショー「CP+」でも、山﨑さんのステージはトップクラスの集客を誇るので、そこに集まっているすべての人が鉄道写真愛好家ではないはずです。これこそが山崎写真が鑑賞対象を限定しないことの証明かなと思います。

 山崎:たとえば飛行機の写真を撮る人って、絶対飛行機にピントを合わせるじゃない?  あれだと広がらないし伸びないので、とてももったいないことだと思う。趣味の世界で終わっちゃう。ワシは鉄道写真を芸術に近いところまで持って行きたい。だから鉄ちゃんは相手にしてない。むしろ普通の、写真が好きな人がたまたま見に来て、「鉄道写真って、電車しか写っていないと思ったけどこんな撮り方があるんだね」「自分も旅に出て、カメラで撮ってみようかな」と思っていただけたらうれしい。

 村上:写真展はアーティストのライブと同じ。写真の配置やライティング。その空間すべてが山崎友也なので、そこをぜひ感じてほしいです。お越しいただければ山崎さんが本当はとても優しい人だということがわかります(笑)。

 山崎:写真の最終形はプリント。さらに言うと写真集よりも写真展。展示会の現場で1枚のプリントの雰囲気や臨場感を味わってください。

山崎友也写真展「少年線 shonen-line」東京・品川のキヤノンギャラリーSにて10月11日まで開催中。日曜・祝日休館、入場無料

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最終更新:9/27(月) 13:42

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