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政令市でも若者の流出が続く「静岡と浜松」の苦悩

9/27 11:01 配信

東洋経済オンライン

 日本に20ある政令指定都市(以下、政令市)。日本を代表する大都市のイメージが強いが、その大きさはピンキリだ。最大は横浜市の約376万人。一方、最小は静岡市の約69万人だ。なんと5.45倍の開きがある。

 さらに、静岡県にはもう一つ政令市が存在する。浜松市だ。浜松も人口約79万人と政令市の中では小粒と言える。そして、この静岡の2大都市はともに「若者流出」という問題を抱えているという。その背景を検証してみた。

■「平成の大合併」で現在の姿に

 徳川家康とお茶、そしてサッカーのイメージが強い静岡市。静岡県の県庁所在地である。最新の総人口は69万869人(2021年8月31日現在 日本人は68万1人)で、前年同月に比べて4702人もの減少となっている。

 2020年中の総人口の減少数3979人は全国6番目に多い。しかも、日本人だけで見ると総人口の減少幅よりも多い4235人の減少となっている(こちらは全国5番目)。人口約69万人は政令市20市で最下位で、東京都区部の世田谷区(約92万人)や練馬区(約74万人)、大田区(約73万人)よりも少ない。

 現在の静岡市は、平成の大合併で、2003年に清水市と、2006年に蒲原町、2008年に由比町と合併。2005年に全国14番目の政令市になった。市の総面積は1411.83㎢と広い。20都市中、浜松市に次ぐ2番目の広さだ。

 市域は東西50キロ、南北83キロで、駿河湾から日本第3位の高峰・南アルプスの間ノ岳山頂(標高3190m)までをカバーしている。市街地は全体の2割、残りの8割は中山間地域で、市はこのエリアを「オクシズ」と命名し、活性化に取り組んでいる。

 静岡市の人口の推移を見ると、清水市と合併した2003年4月の総人口は70万人を超えていた。しかし、2012年以降は減少の一途で、2019年3月末には総人口が70万人を割り込んだ。

 ヤマハやスズキの本社所在地として知られる浜松市の最新総人口は79万7211人(9月1日現在 日本人は77万1912人)で、前年同月比で3680人の減少。2020年中の総人口の減少幅は2561人、日本人は2471人減だった。静岡市よりは減少幅が小さいが、それでも減少を食い止められず、政令市の中では15番目にとどまっている。

 浜松市は2005年、天竜川・浜名湖地域の12市町村が合併し、人口80万人規模の静岡県最大の都市となり、2007年には政令市となった。合併を経ているだけに、市域は広大だ。総面積は1558.06㎢で、市町村では高山市(岐阜県)に次いで日本で2番目に広い。政令市では最大である。ピアノ製造、自動車・オートバイ製造、ウナギの浜名湖、そして浜松餃子と全国区の知名度を誇るものが多い。

 しかし、合併直後に81万7419人あった総人口は2008年の82万6168人をピークに減少の一途をたどり、2021年1月時点では80万人を割り込んでしまった。静岡市と同じような減少傾向である。

■人口減の最大の理由は若者の流出

 人口が減り続けている背景には少子高齢化による自然減もあるが、最大の理由は若者の流出。これは全国の地方都市共通の悩みだが、政令市も例外ではないということだ。

 静岡市には国立の静岡大学、静岡県立大学など大学が5校、短大が5校あり、学生数はあわせて2万4000人弱となっている。しかし、進学時に東京や名古屋などの大学に進学し、卒業後も帰ってこないパターンや、県内の高校や大学を卒業後、東京などに就職するケースが多いという。

 たとえば医学部志望の受験生の場合。静岡大学は6学部1教育プログラムを持つ総合大学だが、医学部がない。市内の受験生の進路は、県内ならば浜松医科大学、県外であれば東京や名古屋の大学の医学部が視野に入ってくる。静岡市を離れざるを得ないわけだ。

 静岡市と静岡大学が包括提携を結び、地域の課題に取り組むために2020年に設置された「静岡大学将来構想協議会」がまとめた提言書の中に、若年層における人口流出超過の抑止が課題の一つとして取り上げられている。

 それによると、静岡県の2019年度の18歳人口3万4871人のうち、県外大学への進学者は1万2024人。一方、他県から県内大学への進学者は3496人で、大学進学者流出入数の差は8528人で全国ワーストだった。この傾向は毎年9000人規模で10年以上続いているという。また、静岡大学の2019年度に学部を卒業して就職した1209人のうち、県内に就職したのは555人(45.9%)で、半数以上が県外に就職している状況だと記されている。

 これらは静岡県の課題であると同時に、静岡市や浜松市の課題でもあると言えよう。

 静岡市を離れる若者たちはどこへ向かっているのか。総務省がまとめた住民基本台帳人口移動報告(2020年、2019年)で、静岡市からの日本人の転出状況をチェックしてみよう。

 市全体の転出超過(人口流出)は702人で、前年の1178人より大幅に減っている。若者を中心とした世代別の状況は次の通りだ。

2020年 10代 131人 20代323人 30代 75人 40代 77人

2019年 10代  56人 20代695人 30代146人 40代142人
 2020年は20-40代の転出超過が半減しているが、これはコロナ禍の影響だろう。

 他市区町村への移動状況を見ると全体のほぼ半数の移動先は市内を含む静岡県内だが、県外移動者に限ってみると東京、神奈川、愛知の1都2県が圧倒的に多い。このほかでは千葉、埼玉、大阪などとなっている。

 東京都への転出超過数(日本人)は全体で777人。若者世代では、15-19歳が104人、20-24歳が425人、25-29歳が190人で合計719人。全体の93%を占めている。

 浜松市でも若者世代の人口流出は深刻な課題だ。市がまとめた「第2期浜松市〝やらまいか〟総合戦略」(〝やらまいか〟は、浜松市を象徴する言葉で〝やってみよう〟の意)の中で、東京圏との社会移動について触れている。

 2015年から2018年にかけての東京圏への転出超過(日本人)の実態を示したもので、それによると15歳から29歳の若者の転出超過は4年間で3768人。東京圏への転出超過全体4685人の8割を占めている。15-29歳の男女別では、男性の1621人に対し女性は1.32倍の2147人となっている。若い女性の流出が深刻だ。

 静岡市と同様、2020年の東京都への転出超過数を見てみよう。転出超過数は全体で664人。15-19歳が135人、20-24歳が448人、25-29歳が130人で合計713人。全体の転出超過数を上回っているほどだ(その一方で40-60代が若干の転入超過となっている)。若者の〝静岡離れ〟が止まらない実態が浮かび上がってくる。

■若者の流出理由は? 

 若者が静岡を離れる理由は何か。県主催の「美しい〝ふじのくに〟まち・ひと・しごと創生県民会議」で示された東京圏在住の若者へのアンケート結果(2019年7月実施)によると、県出身者が転出した理由・きっかけは、大学進学が58.1%で断トツ。以下は就職34.2%、結婚15.9%などが続いた。

 就職時に静岡に戻らなかった理由(複数回答)には、静岡の現実が浮かび上がってくる。

① やってみたい仕事や勤め先がなかった 41.6%
② 給与水準の高い仕事がなかった 27.2%
③ 交通のアクセスが充分でなかった 19.0%
④ 特に理由はなかった 15.9%
⑤ いつでも気軽に帰省できる環境だった 15.2%
 そのほかでは、娯楽・レジャー施設への不満、買い物環境への不満、家族関係などがある。

 Uターン志向については、「絶対戻りたい」はわずか4.1%。「まあ戻りたい」20.1%、「どちらでもいい」36.2%、「あまり戻りたくない」27.0% 、「絶対戻りたくない」12.6%と、4割が「戻りたくない」と回答。郷土愛が薄いのだろうか。

 もうひとつ、静岡市の調査結果を紹介しよう。2015年度の市民アンケートで、市外への進学を予定している高校生に「今後、静岡市へ戻ってくることについて、どう考えていますか」と尋ねた結果、「必ず戻ってくる」16.1%、「いつか戻ってくる」23.6%と、高校生段階では約4割がUターンの意向を示した。「分からない」が35.2%で最多、「戻ってこない」は7.1%だった。

 浜松市も見てみよう。同市は先ほどの総合戦略の中で、市民アンケートで「満足のいく雇用機会に恵まれていると思う人の割合」を2024年に30.0%にすることを目標としている。しかし、これまでの結果は2015年の28.0%が最高で、2017年には最低の18.4%に低下した。

 浜松市民も、少なからず雇用への不安を抱えていると言えそうだ。

■婚活支援や新幹線通学支援も

 人口減、若者流出を食い止めるために、静岡市は各種調査、移住促進政策をはじめ、さまざまな対策を講じてきた。主だった例を2つ取り上げよう。

◎しずおかエンジェルプロジェクト 
 市が実施している結婚支援事業で、2014年度から行っている。市は取り組みの理由について<少子化の流れに歯止めをかけるためには、従来の施策と併せて、これまで、行政が踏み込みにくいと考えられていた個人の領域である「結婚」という分野にあえて踏み込み、結婚したいけれども出会いの場がない、という若者への積極的な支援が必要と考えています>と記している(静岡市のHP)。

 コロナ禍の2020年度は例年よりも実施回数が少なく、出会いのイベントは6回だけだった。「陶芸DE婚活」「お茶染めDE婚活」「図書館で婚活」などで、参加者は全部で88人(男性47人、女性41人)。成立したカップルは21組だった。参加者の半数近いから、まずまずの成果か。

 とはいえ、2014年度からの7年間トータルで見ると、成立したカップルは全部で400組以上になるが、これまでに結婚・婚約したカップルはわずか20組にとどまっている。年平均で3組。少子化対策、人口減対策としては厳しい結果だ。

◎静岡市から「いってきます!」 
 静岡市内の自宅から県外の大学等へ通学する30歳未満の学生を対象に、新幹線通学定期代の一部を無利子で貸与する制度で、2016年度から実施している。卒業後、返還期間に相当する期間、市内に居住し、市民税を完納すれば返還が免除される。

 2016年度の申請者数は延べ178人(男性63人、女性115人)、2017年度(5月31日時点)は申請者延べ239人(男性90人 女性149人)だった。このうち、2017年3月の卒業生25人のうち7割超の18人が地元に就職した。通常の県外大学進学者のUターン就職率は4割なので、効果が実証された形だ。

 あの手この手で若者引き留め策を講じているが、全体状況を見る限り、まだまだといったところだ。

 こうした中、今年も報じられた「静岡市人口減」のニュースに寄せられたネット上の声は厳しいものが目立つ。

 「良いのは気候だけ。子育てには向かない。公園に無料駐車場があるところは少なく、雨天で遊べるところがない」
「転勤してきて思うのは、地元の学校を卒業しても、めぼしい働き場所がない点。高卒者は富士市に、大卒者は東名阪に行ってしまうだろう」

「浜松は、やらまいか精神と言って面白いことをいろいろとやるけど、静岡市はやってないね。浜松にはスズキやヤマハがあるし、浜松餃子もある」

■人口減は今後も続く予測

 国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」(2018年推計)は、静岡市の人口予測について2025年に約67万人、2040年には約59万人にまで減少すると指摘。市は「2025年に人口70万人を維持」としている。

 一方の浜松市の「将来推計人口」は、2025年に約78万3000人、2040年に約72万8000人にまで減少するとしている。これに対し、市では2040年に73万8000人、2060年に68万1000人という展望を示している。今後の強化ポイントとして新産業・就業機会の創出、「70歳現役都市・浜松」の推進、子育てがしやすい生活環境の整備などを挙げている。

 平成の大合併から15年以上経つ。若者の流出、人口減に歯止めをかけ、静岡市、浜松市が政令市として独自の存在感を放つ日は訪れるのだろうか。

 地方大都市の若者流出、人口減を食い止めないことには、周辺市町村の衰退を防ぐこともできない。今後も人口減が続くようであれば、政令市のあり方を根本から見直す動きが出てくるかもしれない。東京一極集中の是正策とあわせて議論していくテーマだろう。

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最終更新:9/27(月) 16:31

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