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JR西の長距離列車「銀河」、残る課題は客層の拡大 紀南の新ルートは人気だが、女性客が少ない

9/24 15:01 配信

東洋経済オンライン

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2021年11月号「WEST EXPRESS 銀河 紀南運行」を再構成した記事を掲載します。

 「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」は多様性・カジュアル・くつろぎをキーワードに、クルーズトレインでも従来の新幹線や特急列車でもない列車としてJR西日本が生み出した「新しい長距離列車」だ。

 2020年9月11日に京都・大阪ー出雲市間の山陰運行で運転開始(本来は5月予定だったが、新型コロナの影響で延期されていた)し、3カ月後の12月からはデスティネーションキャンペーンにリンクした京都ー下関間の山陽運行、続いて2021年3月からは再び出雲への運行を重ねた。そのウエストエクスプレス銀河は現在、7月16日から12月22日まで、「紀南運行」と称して初めて紀勢本線に入り、京都ー新宮間を運行している。

■新コースで競争倍率は再び13倍に

 京都発は月曜日と金曜日の夜21時15分発、新宮9時37分着の夜行、新宮発は水曜日と日曜日の日中12時00発、京都22時24分着の昼行で、所要時間は約12時間と約10時間。基本的に週2往復だが運転しない日もあり、期間中上下計84本が計画されている。

 新型コロナの状況下で旅行商品としてのみ販売され、日本旅行が一括して扱っている。1列車あたりの乗車可能人員も、昼行101人、夜行89人の定員に対して密を避けるためにほぼ半減の54人とされている。

 そのためもあり、運転開始当初の山陰運行は約17倍の競争倍率となり、次の山陽運行や2回目山陰運行はやや落ち着いたが、それでも約9倍と約5倍であり、今回の紀南運行は新コースとあって立ち上がりの7月は再び約13倍に跳ね上がった。その後の8・9月分は約8倍であった。

 ウエストエクスプレス銀河は、これまでバスやLCC等に流れて取りこぼしていた大学生などの若い層、女性層を鉄道旅行へ誘うことが発想の原点にあり、117系6両編成を徹底的に改造、改装して夜行運行にふさわしい瑠璃色の車体をまとう列車に仕立てている。

 出雲市・下関・新宮方の1号車は1ボックスを1人で占有できるグリーン車、反対側6号車は主に2人用のグリーン車個室。2・3・5号車は普通車指定席だが、リクライニングシートのほか、クシェットと称する実質的な2段寝台席や、家族やグループ向けの桟敷タイプのコンパートメントも備わる。中間4号車はだれもが利用できるラウンジ車両「遊星」で、編成中にはほかにも各所にフリースペースが点在し、「彗星」「明星」などと往時の寝台特急を彷彿とさせる名も付されて心をくすぐる。

■「地域との連携」を託された列車

 一方、ウエストエクスプレス銀河には、JR西日本が地域との連携を深めたいとする思いも託されている。

 今回の紀南運行の列車が走る紀勢本線和歌山ー新宮間では、2014年から「紀ノ国トレイナート」と称して、鉄道利用が激減している中で路線や駅を盛り立てる取り組みが行われてきた。地域の有志とアーティストが駅や列車をアート作品にして活気を呼び戻すプロジェクトで、JR西日本和歌山支社は駅舎や一般電車の車内を参加者により破天荒に改装してもらい、アート展示やバンド演奏、飲食などで学芸会のように楽しめる臨時アート列車「紀ノ国トレイナート」号を運転、沿線自治体も行政の境界や官民の隔てなくバックアップする形で年ごとの活動を続けている。

 これに目を止めたのが「新たな長距離列車」の改装プランを託された建築士の川西康之氏(ICHIBANSEN/next stations代表取締役)である。

 また、JRの中でも企画段階から和歌山支社長(当時)らの深い関与により、各地で地域との共生を必要とする中で同列車をフラッグシップとする考えが織り込まれ、単に車両を走らせるだけでなく、おもてなし等を通じた地元の鉄道への関与と、乗客による沿線への貢献という相互効果への期待が託された。このような意味において、今回の紀南運行は発想の原点を訪れる列車となった。

 紀勢本線沿線では、JRとの協議の場で新列車構想が明らかにされた時点から熱烈なラブコールを送っており、紀南運行が決まった今年3月以後はウエストエクスプレス銀河受入協議会を組織してサービス体制を整えた。

 京都を発った列車は日付が変わる頃に和歌山に到着、約1時間20分の停車の間に駅に近い話題のラーメン屋で夜食の提供があり、朝は串本で約2時間停車の間にバスで近場の海岸の景勝地に案内され、漁師料理の朝食がある。

 昼行の復路では始発駅の新宮で昼食、周参見で夕食のいずれも地元食材で盛りだくさんのお弁当がデリバリーされ、間の串本では軽食としてかつおの刺身が供される。これらは旅行代金に含まれている。

 このほか往路の紀伊勝浦や新宮、復路の紀伊勝浦、太地、古座、海南駅でもふるまいや物販等が行われるなど、列車を降りて沿線の雰囲気を味わえる趣向が数多く用意されている。

 これまでに乗車を体験した人の声を聞くと、まずは数々の座席や設備を備えた車内は1両ごとに異なる玉手箱のような感覚で目に飛び込んできて、旅慣れた人でも今や珍しい長時間の夜行列車に乗るという高揚感を、まして夜行列車体験のない人は日常の列車とまったく異なる世界を存分に味わえる。同行者とラウンジで過ごしていると用意した飲食物もすぐになくなってしまうが、それでも途中停車駅で下車して買い足すことができる。

 また、しばらくの乗車で一息ついたり仮眠した後も、停車駅での地元のおもてなし等で再び新たな楽しみが用意されており、飽きることなく過ごせたーーといった感想が伝えられた。

■ワンクリックの世代に高すぎる申し込みのハードル

 その一方、実際の乗客は自席で過ごす1人旅の男性旅行者がほとんどであり、少ないグループ客はラウンジ等でゆっくり楽しめるものの、当初の狙いである若者や女性層をあまり取り込めていなさそうな点が気にかかると言う。

 その理由の一つには、乗車までのハードルが非常に高いことが考えられる。現下の状況から旅行商品としてのみの販売という点は致し方ないが、LCCや高速バスが常用手段である若年層には負担となる額のうえ、特定の旅行会社の専用サイトから申し込まなければならない。現状では申し込んだ後に抽選の結果発表を待ち、運よく当選した後も食事のチョイスに、場合によっては宿泊先の再調整などもある。そして最後に、乗車クーポンが郵送されてくるのを待つ。

 スマートフォンを使った簡単な操作でクレジット決済まで完了し、画面のQRコードで乗車することを当然とする世代に、実質的に紙のパンフレットと何ら変わらないものを読み込むことから始まる煩わしさは、いかばかりか。“インスタ映え”する写真から一発で申し込みサイトに飛んで行けて、複雑な手続きを踏むこともなく商品を入手できることが、当初の狙いどおりに彼らを誘い込むための必須の手段であろうし、現状の最大の課題と感じられる。

 今後、コロナ禍が終息して多くの旅行者が乗るようになった時、「紀ノ国トレイナート」を理想に掲げた、ラウンジでお互いの交流が生まれるような列車の姿が期待される。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/24(金) 15:01

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