IDでもっと便利に新規取得

ログイン

「コロナ過剰債務問題」の切り札となるか、私的整理の円滑化案が浮上した背景

9/24 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 政府の成長戦略会議は9月2日、今秋にとりまとめる予定の成長戦略の検討課題案を公表した。その一つが、金融機関同士の協議で債務を軽減する「私的整理」を円滑化する法整備だ。このような案が浮上した背景と、実現のための課題とは。(東京経済東京支社長 井出豪彦)

● 成長戦略会議が公表した 倒産抑制に向けた検討課題案

 コロナ禍にもかかわらず企業倒産件数が異常な低水準で推移していることについては周知のとおりである。官民の金融機関が徹底した資金繰り支援を行っていることの証左だが、このいびつな状況は当然のことながら身の丈を超えた債務を抱える企業の大量発生を招き、どこかのタイミングで官民金融機関が抱えた不良債権の「出口戦略」が問題となる。

 それは先刻、政府もわかっているようで、9月2日に政府の成長戦略会議は「事業再構築の促進のための私的整理円滑化の法制面の検討」「中小企業のための私的整理等のガイドラインの策定」を秋に向けた検討課題案として公表した。

 現在私的整理に必須の全行同意の原則を緩和し、「令和の徳政令」とも言うべき新たな私的整理の制度を整備して倒産増加をできるだけ回避しようという腹のようだが、そんなにうまくいくのだろうか。

 9月10日に内閣府、金融庁、財務省、厚生労働省、農林水産省、中小企業庁が連名で全国銀行協会、全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会などに対し、「事業者の実情に応じた資金繰り支援等の徹底について」と題した要請を行った。

 コロナの影響を受けている事業者への支援を金融機関の営業現場の末端まで徹底するように要請したもので、6月にも緊急事態宣言等の再延長などに伴い同様の要請が行われたばかりだが、今回は一段と踏み込んだ支援が要請された。

● 貸出条件緩和債権の審査は 実現可能性より倒産回避を優先

 具体的には、「民間金融機関が事業者の資金繰り支援に当たって条件変更や新規融資を行う場合の債権の区分に関しては、(中略)金融担当大臣談話で累次にわたって要請しているとおり、政府は、民間金融機関の判断を尊重している。こうした大臣談話等の趣旨を踏まえ、貸出条件緩和債権の判定に当たっては、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画等の計画期間を延長する、計画を策定するまでの期限を猶予する、計画を新型コロナウイルス感染症以前の実績等に基づき作成するなどの柔軟な取扱いも差し支えない」と明記した。

 貸出条件緩和債権(返済を猶予したり減額したりした債権)については、事業者の「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画等の計画」(いわゆる「実抜計画」)の策定があれば、不良債権に分類しなくてよいというのが2013年の中小企業金融円滑化法終了時に定められたルールである。

 今回の要請文書では、その実抜計画について「計画期間を延ばしてもよい」(これはわかる)、「計画策定自体をコロナが落ち着くまで待つ」(これも仕方がないかもしれない)というだけでなく、「コロナ以前の実績ベースで計画数値を作ってもよい」というのだ。要するに実抜計画の「実現可能性の高い」という部分はいったん忘れようと言っているのに等しい。

 確かにホテルなどは仮にコロナ禍が収束すれば再び中国などからのインバウンドが怒濤(どとう)の勢いで復活し、売り上げがコロナ以前どころか、もっと増える可能性もあるだろう。ただ、いまそんな前提で再建計画を立てても、普通の感覚では楽観的すぎると評価せざるを得ない。コロナが収まる時期は見当がつかず、さらに収まってもコロナ以前の経営環境に戻る可能性は低いのだ。

 ところが、政府は今回そんな計画でも「承認して構わない。柔軟にやれ」と明記したわけだ。銀行は真面目に審査をしなくてよいと言っているのに等しい。ここから銀行が読み取れる政府のメッセージはただひとつ。「いまは緊急時。実抜計画など絵に描いた餅でもいい。とにかく倒産は出すな」である。

● 過剰債務問題の解決に向けた 私的整理の円滑化案

 こうした政府による極端なまでの倒産抑制策が失業者の増加を強く恐れていることに根差すという話は前回の記事で書いた。

 実際、足元の失業率は抑制されているが、副作用として企業の過剰債務問題が浮上してきたことに注目が必要だ。

 先述の成長戦略会議の内容に触れた9月3日の日本経済新聞の記事では、日本の非金融法人の債務のGDP比の値が欧米と比べて顕著に高いと示されていた。

 また、東京商工リサーチが8月に実施した中小企業へのアンケートによれば、自社の債務に過剰感があると回答した企業は飲食店で79.6%、宿泊業で78.0%などと驚くほど高い結果が出た。全業種でも35.7%と6月の調査より1.5ポイント上昇した。債務に過剰感があるということは、この先返済できるか不安ということだろう。

 もちろん、それでも絵に描いた餅の実抜計画を認めて追い貸しを続ければ、理屈上、資金繰りが維持され、倒産は起きないのだが、そのうちに誰も銀行の決算書を信用しなくなってしまい、より深刻な金融システム危機を招いてしまう。それはなんとしても避ける必要がある。

 つまり、倒産による失業者増加を抑制しつつ、過剰債務問題にも早めに手を打つ必要があるという課題への処方箋が求められているわけだ。次の首相が誰になろうと同じテーマに向き合うことになるのは間違いない。

 そこで浮上しているのが「私的整理の円滑化」というアイディアである。

 簡単に言うと、これは一部の銀行が反対しても債務免除できるようにしようという趣旨である。2001年に全銀協などが策定した「私的整理に関するガイドライン」や07年の産業活力再生法の改正で生まれた、第三者機関の関与による「事業再生ADR手続き」など、準則型の私的整理の制度はいくつかあるが、成立には対象債権者の全員同意が必要という原則は貫かれてきた。

 民事再生法などの法的整理と同様に多数決原理を導入しようという議論は何年も前からされてきたが、憲法29条の「財産権の不可侵」に抵触する恐れもあり、これまで実現してこなかった。先の日経記事でも「民法の改正に向け法制審議会(法相の諮問機関)で時間をかけて議論すべきだ」という金融関係者のコメントを引用するなど、慎重意見を取り上げている。実現すれば一大転機だ。

● 全行同意が不要となれば 私的整理が一気に増える可能性

 事業再生の実務家の弁護士はどう考えているのだろうか。大手法律事務所の専門家に話を聞いた。それによれば、特に多数の取引銀行がある場合、私的整理を行おうとして法的整理を想定した場合よりカット率が低い(つまり弁済率が高い)計画案を策定しても、反対する銀行がひとつやふたつあることは珍しくなく、事業再生を進める上で大きな障壁となってきたという。

 反対する理由は、債務者やメインバンクへの不信感があるケース、海外子会社が全銀協に加盟していない外銀から借入をしているケース、銀行の内部事情で「引き当て不足があり、あえてこのタイミングで損失を確定したくない」などさまざまだ。

 私的整理はどこまで行っても話し合いによる紳士協定のようなもののため、強硬に反対する銀行の債権をカットすることはできない。もちろん反対する銀行にだけ弁済する、いわゆる「ゴネ得」を許すわけにもいかない。

 結果としていまの制度では民事再生法などによる法的整理に移行するしかないが、法的整理となるとどうしても倒産企業として社名が公表され、一般の取引先も含めた債権がカットされる。銀行だけとの協議でこっそりと債務免除する場合に比べ、企業価値が毀損(きそん)しやすい。

 そのため従来、専門家の間では私的整理が暗礁に乗り上げた場合でもいかにスムーズに法的整理に移行するかという議論が活発に行われてきたという。私的整理の計画案がそのまま法的整理でも使われるのであれば、結果的に私的整理に反対する理由を取り除けるという考え方だ。

 今回の成長戦略会議の議論は「私的整理には全行同意が必須」という大前提を覆すため、実現すれば一気に私的整理が使いやすくなることは間違いない。

 前出の弁護士によれば、財産権侵害の問題はクリアできないハードルではないらしい。今年3月に施行された改正会社法では、社債の元本カットなどが社債権者集会の決議で可能であると明文化された。

 社債がカットできるなら、銀行借入も同様にカットできるという理屈はありうる。銀行が融資の代わりに銀行保証の私募債を発行させるのはよくあることだ。

 ただ、全行同意が必要ないからといって安易な債権放棄要請が横行するようになれば、かえって銀行は融資をためらう結果になりかねない。

 あくまで全行が納得できる合理的な再建計画策定を目指し、債権額が少ない一部の銀行が特殊な事情で反対した場合に備えるという趣旨の制度設計が肝心で、債権額ベースで80%~90%以上の同意を要件とすべきだろう。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:9/24(金) 20:35

ダイヤモンド・オンライン

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング