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「親ガチャ」論争で気になる上から目線、真に語るべき貧困再生産の深刻

9/24 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 最近ではテレビでも取り上げられるようになったネット発の言葉「親ガチャ」。どんな親の元に生まれるかによって当然ではあるが子どもの人生は変わる。それをゲームの「コンプガチャ」(ゲーム内で使用するアイテムをくじ引きのような仕組みで当てること)に唱えた言葉だが、ワイドショーのコメンテーターらが「親になってから親のありがたみがわかった」などと、ありきたりな説教をする場面も見られる。「親ガチャ」という言葉に秘められた個々人の悲哀は、成功した芸能人・知識人には届いていないようにもみえる。(フリーライター ヒオカ)

● 「親ガチャ」を訴えるのは単なるわがままなのか?

 ワイドショーやネットニュースで「親ガチャ」のニュースを見るたび、もどかしい思いに駆られる。

 たとえば、9月9日放送の『バラいろダンディ』(TOKYO MX)では、タレントやアナウンサーらが「嫌な言葉ですね。親ガチャってワードがまず嫌だな。親はショックだよね」「親ガチャとか言っている学生たちは、自分が親になったときに後悔すると思う」などというようなコメントをしたという。

 9月16日放送の『スッキリ』(日本テレビ系)では、こちらも司会やタレントが親がどうこうではなく「結局は自分次第」という論調でまとめた。

 ワイドショーでこの問題は、前提が共有されておらず、議論が宙に浮いているように思えた。そして、この議論の前提にされない、可視化されない人たちのことを、どうしても伝えたくなった。

● 親から負の要素を受け継ぎ、スタートラインに立てない子ども

 まず、この議論には、私は少なくとも最初に場合分けが必要だと感じる。それは、ゼロベースでスタートラインに立てている人と、親から負の要素を受け継いで、スタートラインにすら立てていない人たちだ。私にはどうも前者のみを前提に議論が進んでいるようにみえてならない。「実家が太くなくてアドバンテージがない、だから親ガチャに外れた」というふうに。
※「実家が太い」は、生まれ育った家に資産が豊富にあるという意味。

 これだとテレビ番組のタレントたちのように「結局は自分次第」「親に失礼だ」といった反応が出てくるのもわからなくもない。

 しかし、親から負の要素を受け継いで、スタートラインにすら立てていない人たちのことは、多くの人には見えてすらいない気がする。ここでは普段弱者の声を可視化するライターとして、取材する中で出会った人たちについて言及したい。

 ・親の借金が数百、数千万円単位あり、自分が肩代わりしなければならない
・親または親族が病気、障害者であり、介護が必要
・虐待や過干渉を受けている
・親が実家を出ること、進学することを許さない
・親に金を無心される、奨学金を使い込まれる

 このようなケースはレアだと思うかもしれないが、私は実際にこの目で見てきた。

 こうした人たちは、生まれてきた環境、親の影響で、圧倒的マイナスからのスタートになる。他の人たちがゼロベースから積み重ねて進んでいく間に、必死にマイナスを埋める作業を強いられる。

 ネット上の匿名の場でしか、自分の境遇をつぶやけない人もいる。そういった人たちも、「親ガチャ」という言葉を使う。境遇を訴えているようにも、深刻になりすぎるのを避け自嘲しているようにもみえる。

● 「ヤングケアラー」たちが抱える苦悩

 最近、親など家族の介護や世話を引き受ける18歳未満の子どもたち「ヤングケアラー」の取材をしたが、その実状は実に深刻だ。家族のケアで勉強などの時間が削られることはもちろん、日常的に心身に疾患のある親の話を聞き続けることで、将来への意欲までそがれてしまう場合もある。

 親に限らず、きょうだいに障害などがあればケアの担い手として頼られ、実家から出ること、進学や上京が許されない、という場合もある。自分の夢がそこで絶たれてしまうことがある。

 話を聞かせてくれた一人が、「渦中にあるときはそこから抜け出そうという気力さえ湧かず、自分が抜け出すべき、抜け出してよいのだ、という考えに至らなかった」と語っていたのが印象的だった。

 伝統的な家族観が根強く残る日本では「親の負担は子どもが背負うべき」という圧力もまた強いのである。「毒親」という言葉が話題になって久しいが、就職や進学、結婚など人生の選択に干渉してくる親がいることは周知の事実だろう。

 育った環境によっては、進学したいという意思さえ生まれないこともある、というのが現実だ。

● 生存バイアスで親ガチャを否定する人もいる

 貧困家庭から一発逆転した成功者が、その生存バイアスゆえに「親ガチャは関係ない」と語る姿を見ると、何とも言えない気持ちになる。

 背負ったものを克服するために必要な時間や労力は人によって違う。それは背負っているものの大きさが一人一人全く違うからだ。

 そして、親の影響を断ち切れるまでにかかる時間も当然違う。いつまで親の影響を受けるかといえば、人によっては親が死ぬまでではなく、一生だと思う。

 たとえば虐待の後遺症は大人になっても続く。虐待が脳に影響を与えることはすでに明らかになっており(参考:https://psych.or.jp/publication/world080/pw05/)、実際虐待の後遺症が原因でフルタイムで働けない人たちもいる。親が多額の借金を抱えていれば返済に何年要するかわからないし、実家への仕送りを続ける人もいる。

 もちろん逆境を克服する人もいるが、そういう人の中には生存バイアスに陥り、強者の理論を振りかざす人もいる。

 ただし、ここで強調しておきたいのは、強者と弱者の二項対立ではなく、誰もが強者性と弱者性を内包した存在である、ということだ。

 私自身の家庭環境を振り返ってみると、父親は精神障害者で定職に就けず、年収100万円程度の時もあるなど、極度の貧困家庭だった。父の暴力も激しく、家にはエアコンも勉強机もなく、学習環境さえなかった。経済的な理由で塾はおろか運動系の部活さえさせてもらえず、制服も買ってもらえず寸足らずのお古を着ていた。これだけ見れば間違いなく親ガチャの外れをひいた人生で、社会的弱者だといえる。

 しかし、それは一側面にすぎない。

 見落としてはならない大きな要素として、私が勉強場所として利用していた20分ほどかかる市立図書館に親が毎日迎えに来てくれた。また、大学進学に関しても好きにしなさいというスタンスで、国公立大学の合格圏内に入ると応援もしてくれた。

 入学金が払えず一時は進学をあきらめかけたが、知人をあたって借金してくれたおかげで、なんとか公立大学に入学することができたのである。また、確かに私立受験や浪人という選択肢がなかったことは痛手だったが、塾なしで国公立大学に入学できる基礎学力があったことは、恵まれた点と言わざるを得ないだろう。

● 「親ガチャ」は格差問題に対する若者からの訴え

 人生の成果は、ベース×本人の努力だろう。

 ベースを細分化すれば親の所得や生まれ育った環境、資質や文化的資本などがそれにあたる。「親ガチャ」という言葉はベースだけで結果が決まるというニュアンスが強かったため、反感もあったのではないかと推察する。

 たとえば若くして成功した実業家が、結果が出たのは実家が太かったからだろ、と言われたらムッとするだろう。そこには本人の努力もあったはずだ。しかし、そこで本人の努力次第だと言い切ってしまえば、結局自己責任論や根性論になってしまう。

 私が思うのは、自分の置かれた状況や抱えている問題が、個人の問題ではなく、社会的要因のある社会問題だ、と気づくことの方が難しくなおかつ重要である、ということだ。

 たとえば私自身、実は周りに言われるまで、自分が極度の貧困家庭だという自覚すらなかった。しかし、自分の境遇が貧困の連鎖を断ち切りづらい社会の中の一事象だったことに気づき、生活保護制度につながれないことの問題点や、進学における負担などの社会問題を認識できたのである。

 自分の問題が社会問題だと気づいたとき、視界が開けたような感覚を覚えた。

 当事者は自分の問題を客観視しづらく、その結果必要な制度につながりにくい。自分の問題だと思って背負い込んでしまうのだ。先に触れたが、ヤングケアラーの当事者は自分の置かれている状況を認識して、初めて必要な制度、外部の支援につながることができる。

 「環境のせいにするな」ではなく「むしろ自分の問題は自分だけの問題ではなく、環境の影響があって、社会問題なのだ」と気づく必要があるのだ。

● 親への恨み節ではなく、貧困の再生産への警鐘

 私の絶望は、障害のある父の元に生まれたことでも、貧困家庭で育ったことでもない。その後の支援が薄く、脆弱な社会保障制度、自己責任論がまん延し、行き過ぎた「自助」を強いられる今の日本社会に対してだ。

 生い立ちによるハンディは振り払っても振り払って振り払っても全力で足にしがみついてくるし、進学後も就職後も、周囲とのあまりのベース、背負っているもの、乗り越えなければならないものの違いに、途方に暮れ、打ちのめされることは少なくなかった。

 親の所得で選べる選択肢が決まりハンディを負わざるを得ない人たち、貧困が再生産され固定化されるこの社会への違和感を抱えている人たちに、「親ガチャ」というキャッチーでセンセーショナルな言葉がハマったのではないか、と思うのである。

 それぞれが背負ったものは本人にしかその景色は見えないし、体験もできない。

 自分には想像もできないハンディを背負った人たちが世の中にはいるということを、頭の片隅にでも置いておいてほしい。

ダイヤモンド・オンライン

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最終更新:9/24(金) 12:11

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