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「持続化給付金詐欺の摘発者数」が急増、公金詐取がすぐにばれる理由とは

9/24 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 警視庁は国から新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして、詐欺の疑いで立川署交通課の巡査部長の男(59)を今月3日付で書類送検し、懲戒免職処分にした。元巡査部長はあと数カ月で定年となり、退職金2000万円超が支給されるはずだったが、それもフイになった。ほかにも経済産業省キャリアや税務署、国立印刷局の職員らも給付金詐欺で立件され、いずれも懲戒免職に。明日の生活費にも事欠くのであれば「やむを得ず、のるかそるか」に賭けたのも理解できるが、いずれも行き詰まっていたわけではなさそうだ。給付金詐欺は、ちょっと調べれば簡単にばれる稚拙な手口だ。経産省は本格的な不正受給の調査に着手、その上で「身に覚えがある人たち」に自主的な返還を呼び掛けている。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

● 不倫相手に持ち掛けられ 妻に詐欺の片棒を担がせた警察官

 元巡査部長の書類送検容疑は昨年11月、パート従業員の妻にコロナ禍で収入が激減した個人事業主である家政婦と虚偽申請させ、給付金100万円を国から不正受給させた疑い。容疑を全面的に認めているという。

 当初、警視庁の聞き取りに「妻が勝手にやった」と説明していたが、詐欺事件として捜査されていると察知。言い逃れできないと観念し、関与を認め全額を返還した。「不倫相手との交際費に使うつもりだった」と供述、妻も共謀したとして書類送検されたが「警察官の夫が言うので大丈夫と思った」とうなだれていたという。

 全国紙社会部デスクによると、ばれた背景はお粗末だ。妻はこれまで扶養手当の対象に収まるよう103万円以下の収入に抑えていたが、今年3月、扶養手当の対象だったのに収入が一気に増えたことで、元巡査部長が住む自治体から立川署に税額変更の通知が届き、たやすく見破られてしまった。

 元巡査部長に詐欺を持ち掛けたのは、不倫相手だった。「奥さんはパートだから、ちょっとごまかせば持続化給付金を取れるんじゃない?」。妻は配送商品を仕分けする仕事をしており「何か良からぬこと」と感じたのか拒否していたが、結局は夫が愛人に貢ぐための詐欺の片棒を担がされてしまったわけだ。

 詐欺事件の構図としては国が被害者ということになるが、全額返還で被害は回復している。警視庁は東京地検に、夫婦とも起訴を求める「厳重処分」の意見を送付した。ある意味で一番の被害者は妻で、とんだとばっちりかもしれない。

● 人生を棒に振った エリート公務員たち

 今年6月には、同じくコロナ禍で売り上げが減少した中小企業などを支援する家賃支援給付金をだまし取ったとして、警視庁は経産省産業資金課係長の桜井真被告(28)=詐欺罪で起訴済み=と、産業組織課職員の新井雄太郎被告(28)=同=のキャリア官僚2人を逮捕した。

 2人は持続化給付金の詐取も含め計3回、起訴された。起訴状によると、両被告は事業実態のない法人2社の収入が大幅に減ったなどと虚偽の申請をして、給付金計1500万円余をだまし取ったとされる。

 桜井被告は慶応義塾高から慶応大に進学し、民間企業勤務を経て2018年入省。新井被告は高校の同級生で、東大を卒業し20年入省。いずれも勤務態度に問題はなかったとされ、危険な橋を渡る必要などなく、将来は安泰だったはずだ。経産省は逮捕・起訴を受け7月、2人を懲戒免職にした。

 昨年12月には、愛知県警が持続化給付金を詐取した大学生と共謀したとして、甲府税務署職員の男(当時26)を逮捕した。前述のデスクによると、自身は虚偽の申請はしていなかったが、職務で得た知識を悪用。元大学生らの依頼で500通を超える確定申告書を偽造し、報酬として400万円以上を受け取っていたという。

 逮捕・起訴を受けて東京国税局は今年3月、「適正な確定申告書の作成を指導する立場の税務職員が不正受給に関与するなどあってはならない」などとして懲戒免職に。名古屋地裁一宮支部は5月、有罪判決を言い渡した。

 同じ昨年12月はほかにも、警視庁が国立印刷局の職員2人を逮捕、2人を書類送検した。4人はいずれも20代で、起訴された後、懲戒免職となった。逮捕された2人は虚偽申請で不正受給したほか、同僚らに手口を指南し、報酬を受け取っていたとされる。

● 補助金や助成金の詐取は 証拠が残るので逃げ切れない

 公務員ではないが今年1月、プロ野球南海(現ソフトバンク)で歴代最多の監督通算1773勝を誇る故・鶴岡一人氏の孫で慶応大4年の男が逮捕された。自身は虚偽申請していなかったが、複数の人物に手口を指南して報酬を受け取り、関与した不正受給額は1000万円を超えるとされる。野球部に所属し捕手として活躍したが、卒業を待たず退学に追い込まれた。

 元巡査部長以外は20代で、いずれも「ちょっとした出来心」だったかもしれないが、前科が付く。再就職もままならないだろう。

 故・鶴岡監督の孫は動機に「起業のため金が欲しかった」と供述しているが、そんな不正を働く人物と取引する企業などないだろう。元巡査部長は予定していた退職金を失い、妻を裏切っていたことも発覚したわけだから、いまごろ修羅場に違いない。

 実は、国や自治体が支給する補助金や助成金を詐取する事件は少なくない。筆者が全国紙記者時代、詐欺事件を手掛ける捜査幹部や捜査員が口をそろえていたのは「知人などを騙(だま)すのではなく、公金だから後ろめたさがない」「公金詐取には申請書という絶対的な『証拠』が残る。疑われて調べられればすぐばれる」ということだった。

 持続化給付金制度はコロナ禍を受けた経済対策で、緊急性から中小企業へのスピード支給を優先。申請方法や事前審査が甘い「性善説」の制度で、不正が相次いだと指摘されている。事態を重く見た経産省は調査に着手、全国の警察による摘発も相次ぎ、不正受給者から返還の相談が押し寄せている状況だ。

 経産省によると9月現在、返還の申し出件数は2万件近く、うち返還済みは1万4000件余(150億円余)に上る。昨年11月末時点では約9000件の申告があり、うち約4700件(約50億円)が返還された。前述した事件の発覚が年末や年明けで大きく報道されたこともあってか、今年に入って急増したのが見て取れる。

 経産省はホームページ(HP)で「現在、持続化給付金及び家賃支援給付金の不正受給案件の調査を行っております。不正受給は絶対に許しません」と警告。「自主的な返還希望の申出の様式・提出方法」を公表し、相談・受け付けについて、コールセンターでも受け付けている。またHPでは「誤って受給された方へ。速やかにご返還ください」と呼び掛け、遠回しに「正直に申告すれば許してあげますよ」というスタンスのようだ。

● 持続化給付金詐欺の摘発者数 今年は昨年の3倍超か

 とはいえ「どうせ、ばれっこない」と高を括(くく)っている不正受給者もいると思うが、実は前述の通り、公金詐欺は知人同士で「言った、言わない」「貸した、借りてない」によるトラブルの延長みたいなものと違い、公的申請書という決定的な証拠が残る。

 捜査権や強制調査権がなくても、主に事件を中心に担当してきた社会部記者のように法人登記や信用調査情報などに日常的に触れていれば、事業実態があるかどうか何となく分かる。中小企業庁に勤務するその道のプロなら、怪しい案件はまず見逃すまい。そして、実地調査で「クロ」と踏んだら確定申告書の写しや法人口座の提出を要請し、拒否するようだとそのまま警察に相談して捜査権を駆使してもらえばいいだけのことだ。

 警察庁によると、昨年12月までに持続化給付金詐欺での摘発は逮捕が203人、書類送検が76人で、立件総額は約2億1200万円。経産省や警察庁の統計から推測すると、今年の摘発者は優に昨年の3倍を超えるのではなかろうか。

 経産省はお咎(とが)めなしとするのか、悪質と判断し刑事告発するのかの基準は明らかにしていないが、過去のケースを見ると、単純に自分が経営する会社の確定申告の数字を虚偽申告し100万~200万円を詐取して返還ならセーフ、事業実態や確定申告そのものをでっちあげて詐取したケースは金額次第という気がする。

 詐欺罪の時効は7年。経産省と警察は本気で調べている。手口や金額によっては罪に問われない可能性はあるものの、いずれ、逃げ切ることは難しいだろう。身に覚えのある方には「ごめんなさい」と自主的に申告することをお勧めしたい。

ダイヤモンド・オンライン

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最終更新:9/24(金) 9:46

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