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あなたが「ぬか床」をダメにしてしまう本当の理由

9/19 4:31 配信

東洋経済オンライン

疫病、災害、老後……。これほど便利で豊かな時代なのに、なぜだか未来は不安でいっぱい。そんな中、50歳で早期退職し、コロナ禍で講演収入がほぼゼロとなっても、楽しく我慢なしの「買わない生活」をしているという稲垣えみ子氏。不安の時代の最強のライフスタイルを実践する筆者の徒然日記、連載第25回をお届けします。

■なぜぬか漬けが長続きしないのか? 

 前回、家に「ぬか床」を常備さえすれば、もうまったく何のコストもかけずとも快腸・快便生活、すなわち「健康の基本のキ」が、誰だって、たちまち、難なく手に入るということを、経験者として力の限り書かせていただいたところである。

 ってことで当然、個人的にも、会う人会う人に「ぬか漬けやりません?」とオススメしているわけなんだが……どうもね、これがうまくない。

 いや皆さん、若い方から年配の方まで、案外ちゃんと興味は持ってくださる。だがしかし。簡単ダヨ大丈夫ダヨというわが説得に負けて「じゃあやってみるか」となってもですね、これがいかんせん長続きしない。

 原因は、ほぼ100%「混ぜるのが面倒」ってやつである。最初のうちこそ張り切って混ぜ混ぜするんだが、次第にその回数は減り、結局ほったらかしとなり、ぬか床ごと捨てるハメに……というパターン。

 そうなのです。皆様どこかでお聞きになったことがあると思うが、ぬか床ってやつは定期的に混ぜてやらないと、余計な菌が増殖して具合が悪くなってしまうのだ。

 2日3日忘れたくらいではどうってことないが、1週間2週間となると、ふっくらしていたぬか床がぺったり病的な感じになってくる。

 それでも私の経験では直ちに「死亡」ということにはならず、心を入れ替えて混ぜてやれば菌様たちはブツブツ言いながらも徐々にちゃんと立ち直ってくださるんだが、まあできることなら1日に1分程度をぬか床のために割いてやることが望ましい。

 そうたった1日1分だよ!  それさえやれば1年365日いつでもおかず一品が保証されるとなれば、誠にお安い御用ではないか。 

 でもこれがね、言うほど簡単じゃない。

 確かに手は匂うし汚れるし、たった1分でも結構気合いが必要なんだよね。しかもそれが毎日となればついサボりたくなって、いったんサボると弱ったぬか床を見るのが怖くなり、さらに手が遠のき、となればさらに恐ろしさが募り……という魔のスパイラルに陥って、あとはもう真っ逆さまに取り返しのつかぬ悲劇へと突入していくのであります。

 実を言うと、私もかつて、何度もぬか床を集中治療室入りレベルまで追い込んだことがある。かなりの期間ほったらかしてしまい、エエイこんなことじゃいかんと、晩酌を終えた至福ののんびりタイムに鋼鉄の意志を総動員してすっくと立ち上がり、重いぬか床容器を引っ張り出して混ぜ混ぜすることでなんとか生き長らえさせてきたのであった。

 つまりはですね、簡単だよどうってことないよというのは、1日1分割けばいいという点においては嘘じゃない。嘘じゃないんだが、現実にこれが簡単にできるかというと、わが身を振り返れば真っ赤な嘘である。どうってことないどころか、どうってことありまくりである。正直に言ってかなり大変なんである。

■続かないのはズボラだから? 

 ま、こんなこと今さら私が言わずとも世間様はよーくご存じで、だから「ぬか漬けやってます」というと、ほぼ100%「エライねー」と褒められる。

 いやいやエラくもなんともないです慣れちゃえばどうってことないし、と返してきたけれど、確かに私はエライのかもしれない。案外地味にスーパーマンなのかも……なーんて思わないわけじゃなかったんだが、いやこれはそういう話じゃないんだということに最近、ハタと気づいてしまったのだ。

 というわけで、いよいよここからが本日の本題であります。

 上記の話に照らして言えば、ぬか床をキープできる人は「エライ人」で、そうじゃない人は「エラくない人」ということになる。

 事実、ぬか床をダメにした人の多くが「私はズボラなので……」などと、苦笑いしながら自虐的な言葉を口にする。確かに、1日1分の簡単な習慣すら身につかなかったという事実は、それが簡単であるからこそ、自分の弱さを責めずにいられない気持ちになるのであろう。

 でも、違うんです。

 あなたがどうしてもぬか床をキープできないのは、ズボラだからでも、意志が弱いからでもない。

 それは、「ぬか漬けを食べない」からなのだ。

■「買わない生活」だからこそ続けられる

 なぜそれに気づいたかというと、私、気づけばこのところ、かつては日々エンドレスに苛まれ続けていたハムレット的悩み(混ぜるべきか、サボっちゃおうか……)からすっかり解放されて、特段何の気合いを入れることもなく、しかしぬか床をダメにすることもなく、ただ淡々と、わがぬか床と平穏な同居生活をしているのであります。

 で、あらまあこれは一体どうしたことかと思ったわけですよ。私もついに「ていねいな暮らし」な人の仲間入りかっ?  だがよくよく考えると、そんな大層なことじゃなかった。

 私は今、毎日毎食、フツーにぬか漬けを食べている。食べたいからとか好きだからとかいうモンダイではなく、そもそも冷蔵庫のない生活では食材保存のためにぬか床を連日活用せざるをえず、つまりはぬか床はいつだって野菜やら厚揚げやらで満席状態で、「食べない」という選択肢がそもそも存在しないのだ。

 何しろ席を空けなきゃ、列をなす新たな乗客(野菜など)が座れませんからね!  そのまま食べることもあれば、チャーハンやパスタ、サラダの具として使うこともあるけれど、いずれにせよ、ほぼ毎日何らかの形でぬか漬けを食べているのであります。

 で、食べるってことは、毎日ぬか漬けをぬか床から取り出しているわけでして、必然的に「混ぜる」ことになる。ゆえに「混ぜるべきか、サボっちゃおうか」なという葛藤など発生する余地がなくなってしまったのだ。

 つまりはですね、多くの人がぬか床をダメにしてしまうのは、それとは逆に、ぬか漬けを「たまにしか食べない」からなんである! 

 確かに、私がぬか床を何度もダメにしかけたのは、日々おしゃれなレシピ本を見て世界のゴチソウを作りせっせと食べていた会社員時代のことなのであった。

 たまたま人様から良いぬか床を入手し、そうかこれを使えば自分でぬか漬け作れるのかと、試しにやってみたら案外簡単にできたので、「こりゃいいや」と喜んで始めたぬか漬け。でも日々多種多様な美味しいものを食べる暮らしの中では、ぬか漬けなんていう地味なものが食卓に登場する余地は、決して大きくはなかったのである。

 それは、あくまで「オプション」だった。たまには素朴なぬか漬けとか食べたいよねー、みたいな。これだと、その「たまの地味なオプション」だけのために、特に用もないのにただ混ぜるためだけにぬか床を混ぜるという作業を毎日毎日やり続けなきゃいけないってことになる。

 それをずっと続けられる人なんて、普通に考えているわけない。いたとすれば神のごとく真面目でまめな人、つまりは間違いなく「エライ人」である。

 つまりはですね、ゼータクな食生活と発酵生活は、余程のことがなければ両立しないのだ。発酵生活とは、質素な暮らしをするものにのみ与えられた自然の大きなお恵みなのであります。

■「買わない生活」の圧勝

 ってことで……

 「買わない生活」、圧勝! 

 「買う生活」、敗れたり! 

 ……いやー、こういう発見をすると、どうにも頭がクラクラしてくる。私が長い間ずっと信じてきた幸せの方程式、すなわち、幸せになるにはまずは稼ぐこと!  だってそれがなければ何も買えない、そして買えなければ何も始まらないという常識は、一体何だったのだろうか。

 だってですよ、健康とは人生の基本であり、快便とはその健康の基本であり、すなわち快便とは人生の基本であることを考えれば、その人生の基本が、お金を使うことによってどんどん遠ざかり、崩れていくという事実をどう考えたらいいのだろう。

 買わない、お金を使わないっていうと、当然のごとく「我慢」を連想する人が圧倒的に多いけれど、買わないことで人生の基本を取り戻した今の私から見れば、「買う生活」をしている人のほうが、よほど何かを我慢している人のように思える。

 正直言うと、その我慢の先に何があるのかもよくわからない。ただひたすら我慢する人。それはもはやある種の修行のようにも思える。

 そう改めて考えると、お金を使うことが幸せというのは、ただの「一つの価値観」、正直に言えば「あまりにも狭すぎる価値観」、さらに言えば「マニアックな価値観」にすぎないんじゃないだろうかと思えてならない今日この頃なのである。

■ぬか床を冷蔵庫に入れてはいけない理由

 ちなみにですね、ぬか床をダメにしない方策として、現代の「常識」になっているのが、ぬか床を「冷蔵庫に入れる」という方法である。

 確かにこれだと菌が冬眠状態になるので、多少混ぜるのを忘れたとてダメにするリスクが減るといえば減る。

 しかし当然のことながら、冬眠状態の菌はうまく働いてくれるはずもなく、美味しいぬか漬けを作ろうと思えば明らかにマイナス。つまりは、菌様に働いて欲しいんだか働いてほしくないんだか、一体どっちなんだー!  と、私は菌様に代わって叫びたい。

 しかもこれをやってしまうとですね、「ちょっとくらい混ぜなくても大丈夫」ってことになり、結局「ちょっと」をはるかに超えてどんどん混ぜなくなる。で、冬眠の菌はさらに弱って美味しいぬか漬けはどんどん遠ざかり、となるとぬか床への愛も興味も失せて、ますます混ぜなくなり……。

 私の知る限り、相当に多くの人がこのような道筋をたどってぬか床をダメにした経験を持っている。つまりは大して美味しくないぬか漬けしか食べられなかったうえに、結局はぬか床をダメにしたという二重のイヤな思い出だけが残る。となれば当然、以後の人生を死ぬまでぬか床と無縁に生きることになるのである。

 買う生活、やはりどうやっても敗れたり、なのであった。 

東洋経済オンライン

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最終更新:9/19(日) 4:31

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