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「親ガチャ」に眉をひそめる親たちに欠けた視点

9/18 10:01 配信

東洋経済オンライン

 乙武洋匡さん、ひろゆきさん、茂木健一郎さんら著名人が語るなどネット上のホットワードになっていた“親ガチャ”が、地上波の情報番組「スッキリ」(日本テレビ系)でもピックアップされました。しかも9月16日放送のトップニュース扱いでMCの加藤浩次さん、モーリー・ロバートソンさん、坂口孝則さん、池田美優さんらが熱っぽく意見を交わしたことが示唆に富んでいます。

 この“親ガチャ”は、「子どもは自分で親を選ぶことができず、どういう境遇に生まれるかは運任せ」であることを抽選形式でカプセルトイなどを購入するガチャにたとえた言葉。数年前からネットスラングとして使われていましたが、このところSNSへの投稿が相次ぐなど若者の間で浸透しています。

 「スッキリ」では、まず子どもたちが「親ガチャあると思う。うちは貧乏で進学を許されず、早くから働いて仕送りしていたから」「もっと身長が高かったらなぁ。身長とかの遺伝は親ガチャ失敗だよな」などの声を紹介。そのうえで、親たちが「子どもに『親ガチャハズレ』って言われたらショック」「ないものねだりをしないほうがいい。与えられた環境で楽しく、『人は人』ってはっきり教えます」「親も子どもを選べないし、その言葉を使うのはとても失礼」などと嘆き、怒る声を放送しました。

 確かに親子の関係性をガチャにたとえて発信するのは、ほめられた行為とは言えないでしょう。しかし、子どもたちの声に眉をひそめる親たちには、決定的に欠けている視点があるのです。

■格差を感じやすい現代の若者たち

 茂木健一郎さんは、「親の資質、経済力、学歴がばらけるのは統計的に当たり前で、しかも何がいいか悪いかは簡単には決めつけられません」「社会全体が子どもを育てるという意識をもっとわれわれが持たないと」「芸術体験とかスポーツ体験とか、さまざまな経験が家庭環境じゃなくて社会全体で提供できる体制を作ることによって自然と親ガチャという言葉がなくなっていく」。

 ひろゆきさんは、「令和2年度は、児童相談所の児童虐待対応件数は20万5029件、過去最多。子供は減ってるのに、児童虐待が増えてるわけです。ひどい親がいる現実をほっといて『親ガチャ』という言葉を使うのは良くないとか言ってるのは、恵まれた環境で育った人の驕りだと思うおいらです」。

 乙武洋匡さんは、「私はありがたいことに“親ガチャ”に恵まれた。一方“肉体ガチャ”なるものがあるとするならやはり大外れを引いたと言わざるをえないだろう」「『いろいろ違いはあるけれど、どのガチャを引いても魅力的』という社会にしていきたいですよね」。

 3者それぞれの角度からコメントしていて考えさせられるところがありますが、なかでも全員の前提となっているのが、格差の存在。現在の若者は、情報が少なくチャンスを実感しやすかった高度経済成長期に育った親世代より格差を感じやすく、あきらめのムードが漂っている感があります。

 たとえば、景気が悪くて元気のある業界や会社が少なく夢を描けない。SNSで同世代の華やかな生活を見てイライラする。ネット上に情報が多く、比較する基準が増え、知らなくてもいいことまで知ってしまい、不満をこぼしたくなってしまうようです。

 こういう時代背景があって、若者たちが親ガチャという言葉を使いたくなっているところはあるものの、だからと言って親世代が同情したり、寄り添ったりなどは必要ないでしょう。ネット上の声を見渡す限り、ネグレクトなどに悩まされた一部の人を除けば、親ガチャという言葉を使っている大半は、さほど深刻さを伴わないレベルの不満にすぎません。

 「こういう家庭に生まれたかった」という夢想的な意味や、「親にムカついた」という人が思わずこぼしてしまうものが多く、むしろ「ウチの親ガチャは当たりかも」などと気軽に書き込まれたコメントも散見されます。

■ネット上に書き込む若者に深刻さなし

 つまり、「本気というよりグチ程度のものにすぎない」「親に面と向かって言うつもりはない」「ゲームアプリと同じ感覚で『ガチャ』という言葉を使っている」というだけの若者が多い以上、親世代は「大した問題ではない」とみなせばいいのではないでしょうか。

 “親ガチャ”は決してよい言葉ではありませんが、若者にとっては悪意がないうえに使いやすいフレーズであり、すでに同世代の共通語となっているもの。それを大人たちが直情的に「けしからん」と怒ってしまうのは寛容さに欠けるきらいがあります。

 また、「スッキリ」の放送でも街頭インタビューで、「そういう単語で済ますものではないなと。使いたいとは思わないです。親のせいとは思わないです」「仕方ないことだけど、いい言葉ではないなと思います。明るい言葉だけど残酷だなって」と親ガチャという言葉に違和感を示す若者の声を紹介していました。親ガチャという言葉は、ほとんどの若者が好んで使っているわけではないのです。

 加藤浩次さんは、「『僕が今10代だったら使うだろうな』と思うけど、人生って失敗で終わりなの? 『次に頑張れるか』っていうことで、現状を受け入れてどうするか」と熱っぽく語っていました。しかし、多くの若者たちはあきらめたというムードこそ漂わせていますが、「本気であきらめた」というわけでも、「絶望している」というほど深刻でもないでしょう。

 たとえば、メジャーリーガーの大谷翔平選手と同じ両親から生まれたとしても、同じように結果を残せるわけではないことくらいはわかっているはずです。なかでも親ガチャを流行り言葉のように使っている若者ほど、自分の趣味や人間関係などをそれなりに楽しめている様子が感じられます。

 親ガチャという言葉に眉をひそめるのではなく、怒るのでもなく。だからといって、熱く説得する必要も、手厚くフォローする必要もありません。若者たちがあきらめムードを払拭し、前向きな人生を歩むために必要なのは、親世代の熱い説得や叱咤ではなく、自ら気づいて言動を少しずつ変えていくこと。親世代にできることがあるとすれば、気づきをうながすようなさりげない言葉くらいでしょうか。

■「ハズレ」言葉は心の奥に残る

 そもそも人生は、親、時代、地域、性別などの生まれに限らず、さまざまな運に左右されていくもの。たとえば、担任の先生、クラス替え、席替え、異性との出会い、部活動の大会、入試、就職活動、職場の人事、さらに災害や疫禍などの自力ではどうにもならないことも加わり、日常の至るところに「○○ガチャ」のようなものが潜んでいます。

 そのことにどう気づき、どう受け入れていくか。現在を結果ではなく経過として見ていくか。「これまでどこかで幸運を得ていたかもしれないし、この先に幸運が待っているかもしれない」と思えるか。そんな摂理を消化できていない親ほど、親ガチャという言葉に過剰反応しているように見えてしまうのです。

 若者たち自身も虐待などを受けていない限り、「自分の親をハズレ」と言ってしまったことは心の奥に残るもの。だからこそ自分が親になったとき、親ガチャという言葉の悲しさに気づき、なかには後悔する人もいるでしょう。

 ともあれ、彼らにさしたる悪意があるわけではない以上、やはり親世代は親ガチャという言葉のイメージにとらわれて感情的にならないほうがよさそうです。肩の力を抜いて「親は子の、子は親の使う言葉を許容できないこともある」という前提で接してみてはいかがでしょうか。

東洋経済オンライン

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最終更新:9/18(土) 10:01

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