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映画の自由貫いた「パンケーキを毒見する」の狙い

8/1 11:01 配信

東洋経済オンライン

『新聞記者』『ヤクザと家族』など数々の問題作を手がけてきた映画製作・配給会社のスターサンズが、菅義偉首相の素顔に迫り、そこから浮かび上がる現在の日本のおかしな現状をシニカルに描き出したドキュメンタリー映画をプロデュースした。
その名も『パンケーキを毒見する』。内山雄人監督作品で、7月30日より全国公開されている。
官僚の原稿をただ読み上げるだけで、要領を得ない答弁など、いまいち実態がつかめない菅義偉という人物について、現役の政治家や元官僚、ジャーナリスト、そして各界の専門家が語り尽くすほか、これまで表に出てこなかったような証言や、過去の答弁を徹底検証。さらに風刺アニメなども織り込み、菅義偉という現役の総理大臣の素顔に迫っている。今回、本作の企画・製作・エグゼクティブ・プロデューサーを務めた河村光庸プロデューサーに本作に込めた狙いについて話を聞いた。

■映画は本来は自由であるべきだ

 ――『新聞記者』の公開時は宣伝に苦労したと聞いていますが、今回の『パンケーキを毒味する』の宣伝はいかがですか。

 『新聞記者』の時もそうでしたが、テレビは一切扱わないですね。それは『パンケーキ~』も一緒です。かろうじてラジオや新聞が扱ってくれます。

 映画は、本来は自由であるべきだと考えています。なぜならば、テレビというのはスポンサー(広告主)の影響を受けるわけですが、映画は観客がお金を払って観るからです。だから本来はそういう影響を受けてならないのですが、映画界でもやはり忖度があるというか、長い間、政治的なものは避ける、というところはあったと思うんです。でもこういう映画を待ち望んでいるお客さまもいるはずなんです。

 ――まさに『新聞記者』が公開された時もそうでしたね。

 『新聞記者』の初日に待ち望んだ人たちがドッと(メイン館となる)新宿ピカデリーに来てくださいました。年齢層も高かったですが待ち望んでいた人が多かった。しかも、映画館では拍手はしないと思うんですが、拍手をしてくださった。なんだか演劇を見たような感じでした。

 今回の『パンケーキを毒見する』では、日本大学芸術学部の学生を対象とした試写会をやったんです。さらにユーロライブという会場でも、政治に関心がある若い人たちを集めた試写会をやった。これらの試写会がものすごく受けたんです。反響が熱狂的だったというか、アンケートをとったら、ほとんどの子が政治にまったく興味がないと答えていたのに、この映画を見た後は投票しますと言ってくれて。これは驚きました。やはり若い人にとって指針がないというのは問題なんですね。

 ――宣伝といえば、本作の公式Twitterのアカウントが凍結されたことも話題となりました。

 Twitterのアカウントを発表したその日の夜にアカウントを凍結されました。ちょうどその前日にマスコミ向けの試写を行っていたんです。マスコミの方はもちろん、ものを言う有識者の方たちを含めて映画を観ていただいたわけですが、そうした人たちが(リツイートする形で)投稿しようと思ったら、映画の公式Twitterアカウントが凍結されてしまっていた。それで騒ぎになったわけですが、翌日の未明に凍結が解除されていました。

 まさかTwitter社が政権とつながっているわけでもあるまいと思いつつも、一方的にそうきめつけてもいけないと思ったので、3回にわたってTwitter社に理由について尋ねる文書を送ったんです。しかし、返事は返ってこなかった。しかし朝日新聞さんが取材した時には「凍結した方にはなるべく丁寧にご説明しています」と返答していたようなんです。私どもには一切、答えはありません。

■面倒だがやらなければならないのが民主主義の手続き

 ――文部科学省所管の独立行政法人日本芸術文化振興会が、出演者の不祥事を理由に、スターサンズの製作・配給作品『宮本から君へ』の助成金不交付を決定しました(現在、処分を取り消すようスターサンズが裁判所に提訴し係争中だが、一審の東京地裁は「不交付は違法」との判決を下した)。その時の理由が「公益性の観点」というあいまいな表現だったそうですが、裁判の場でも結局、芸文振からは「公益性とは何か」についての回答は最後までなかったそうですね。

 つまり国益と公益。公とは何か、国とは何かという線引きですよね。公益というのは、国民1人ひとりの利益の積み上げであるはずだし、税金、国費も公費であるわけです。公金というのは税金の積み上げであり、国が一方的に稼いだお金じゃない。それなのに公益そのものが全部国のものだと錯覚させている。あんたたちは黙って従ったらいいんだと。彼らはまったくわかっていないですよね。

 ――映画の中でも、自民党の石破茂さんが国会対策委員会で教わったこととして話していたのが、「勘違いしてはいけない。政府と議会は対等じゃない。政府のほうがお願いして、審議をしてもらって初めて成立するんだと。だからわれわれはお願いする立場であることを忘れるな、ということをかなり厳しくたたき込まれた」ということでした。この言葉からも民主主義の劣化というか、今の政治家が民主主義のプロセスを忘れてしまっているのではないかとも思えてくるのですが。

 民主主義は手続きが面倒くさいです。面倒くさいんですが、やらなきゃいけないことですよね。この多様化している世の中で、この判断は下せないなと思うところに多数決があるわけですから。

 ところが文化や芸術において多数決でいいのか?  ということなんです。圧倒的に多数派だと思われることも、間違っているかもしれない。マスコミなどは本来、その外にいて、そういうことを冷静に見て、これはおかしいんじゃないですかと言うべき存在ですよね。

 一方で、文化も芸術というのはいろいろな考え方があるものだと思うんです。例えばこの映画が面白いという人もいるし、つまらないという人もいる。これは映画じゃないよね。バラエティーだよねという人もいる。それでいいんだと思うんです。僕はこの映画をバラエティー映画だと言っていますから。いろんな見方があるし、この手法しかないと思って作ったわけですから。

 ――今回、菅首相を題材にしようと思ったのは? 

 今、一番問題であることをやるべきだと思ったからです。菅さんを通して、向こうに透けて見える官僚支配とかマスコミ支配とか。彼が言う自助、共助、公助。要するに競争原理によって格差を拡大する政策とか。もっと言うと、国税庁が酒を販売する業界団体に提供を続ける飲食店と取引をしないよう要請したり、インターネットのグルメサイトを通じて飲食店の感染防止対策について監視させたりとか。これは国を分断させることだし、相互監視社会を作ることですよ。それを民間にやらせようなんてひどい話ですよ。

■選挙に行ってもらいたい

 ――この映画が公開される7月30日というのも、ちょうどオリンピックの真っ最中ということで。この時期にあえてぶつけたのかなとも思うのですが。

 そのとおりです。もうひとつこのタイミングで公開するのはやはり選挙に行ってもらいたいからです。これを観て、いても立ってもいられなくなるというのが最大の狙いです。選挙があると、マスコミがみな静まりかえってしまうわけですが、はたしてこれでいいんでしょうかと。

 これじゃ多くの迷っている人たちもどこに指針を求めていいかわからない。だから盛り上がらない。そうしたら政治に興味がなくなっちゃいますし、投票率も下がりますよ。投票率が低ければ、自民党と公明党は組織票が強いですから。そうした状況が政治の劣化につながっていると。それが積み重なっていくということは危機的な状況だと思うんです。

 ――河村プロデューサーはこれまで数々の映画の配給・製作・宣伝を手がけられてきましたが、特に『新聞記者』以降は、よりメッセージ性の強い作品を手がけようとする意志を感じるのですが。

 私は長い間、海外の映画の買い付け、翻訳ということをやってきました。でもある時期から、自分で作った映画を宣伝して売っていきたいと思うようになりました。ちょうど『かぞくのくに』(2012年)あたりですね。北朝鮮への帰国事業についての問題は誰も扱わなくて、タブーとされていたんです。

 (帰国事業がはじまった1950年代)当時は全マスコミがもろ手をあげて北朝鮮は天国であるというキャンペーンをやっていた。新しい土地でひと旗あげたいという夢を求めて、北朝鮮に渡ったが、その人たちは二度と帰ることはなかった。(同作のメガホンをとった)ヤン・ヨンヒ監督もそれを具体的に経験していますからね。そういう作品をやっていく中で、現代を切り取っていく作品を作りたいなと思うようになりました。

 『あゝ、荒野』は、50年以上前に書かれた寺山修司の小説を映画化したものですが、あれも舞台を未来(制作時はオリンピック後だと想定されていた2021年)に変えて。どんどん孤独が進んで、孤立していく社会を描きました。そこから今の政治というものが透けて見えてくる。完全に政治が劣化している。もっというとマスコミもそうだし、われわれもまひしてしまっている。だからこそ、それはやらなきゃいけなかったと思うんです。

 ――スターサンズさんが手がける映画には、『宮本から君へ』や『ヤクザと家族』、それから9月に公開する『空白』などもそうですが、物語としての強度がある作品が多いように思うのですが。そういう題材をあえて選んでいるところはあるのでしょうか。

 それはありますね。やはりインディペンデントの映画会社としてできることはやらないといけないと思っているんです。今の状態をそのまま肯定していくのでは、社会の発展は一切ないはずです。人間社会というのは、必ずそれに対するアンチテーゼというものがあって。それが時代とともに正当化されることで、また別のアンチテーゼが生まれてくる。

 僕はよく言うんですが、Aから生まれたAダッシュがBになると、Bダッシュが生まれる。そしてBダッシュがCになると、そこからCダッシュが生まれる。そういう風にして、社会は変化し、発展していくんだと思うんです。もしおかしいと思う事があったら、これはおかしいでしょと提言をしていかなきゃいけないと思っています。

 ――河村プロデューサーは「ダッシュ」を目指すということなのでしょうか。

 というよりも「ダッシュもあるよ」と提案するということですよね。例えばヤクザというのは社会からはみ出した人たちですよね。でもヤクザ映画というのは、今廃れているわけですよ。だからこそ、それを今の社会で描くと新しいのではないかと思い、作ったのが『ヤクザと家族』です。

 僕がやっているのは、SFとかホラーとかと同じようなジャンル映画だと思っているんです。ヤクザ映画とか、政治映画といった、新たな視点のジャンル映画を提案することで、これまでのジャンル映画からはみ出していこうと思っているんです。だから新しく見えるんだと思います。わたしはそういう映画に興味がありますね。

■多様性がある時代なら、わたしが目立つことはない

 ――そういうものに対する興味というのは、どこから来るのでしょうか。

 そうあるべきだと思っている、ということですね。今のままだと、いい映画はなかなか作れないと思っているんです。やはり映画はお金を払って観るわけですから、やっぱりそこに新しい発見とか、新しい考えを持つことが必要だと思うんです。

 しかし今、当たっている映画というのはどちらかというと、確認しに行くものだと思うんです。例えばテレビでやったドラマを映画化するとか、コミック原作の映画とかもそうですが、確認する映画って当たるんですよ。

 ――そんな状況の中で政治やヤクザといったジャンルの映画を作るということは、けっこうなあつれきもあったのではないかと思います。特にここ10年ぐらいは、裁判もあったりといろいろと激動だったように思います。ご自身ではどう考えていますか。

 やはり今の時代だから目立ってるんじゃないですか?  もっと多様性がある時代なら、わたしが目立つということはないと思うんです。しかし今は社会が一元化しちゃっている。だから私がやっているようなことを皆さんにもやってほしいなと思っています。

 とにかく私は表現をしたい。今の私にとってその表現の手段が映画であるということです。昔からずっとやってきた映画人の方たちから見たら、なんだかわけのわからないヤツが新しく出てきたなと思われていると思うんです。でもそんなふうに見られても僕は全然構わない。とにかく新しいものをやりたいですね。ちゃんと時代を切り拓いていけば、それが新しく見えるから。でもやっぱり多くの人に見てもらうことがまず前提だと思うんです。映画というのは多くの人に観てもらってナンボですから。だから『パンケーキ~』も、ぜひ多くの人に見てほしいという思いで作っています。

 ――河村プロデューサーの作品は、映画に込めたメッセージ性と、エンターテインメント性のバランスが絶妙だと思うのですが、その辺のバランスはどう考えているんですか。

 私は権力者じゃないですからね。権力者がメッセージを前面に出すとプロパガンダになります。本当はメッセージを押し付けてもいいんでしょうが、だけどわたしはお客さんに映画を観てもらいたいから。大上段に構えるようなコピーだったり、映画のタイトルにするのは控えて、ここまでなら大丈夫かなというところでバランスをとるようにしています。

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最終更新:8/4(水) 9:07

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