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誤解されたイノベーションの本当の意味とは

7/29 8:01 配信

東洋経済オンライン

センスやスキルなど「感覚的資産」を数値化する特許技術を生みだした起業家がこのたび、初の著書となる『破壊的イノベーションの起こし方: 誰でも使えるアイデア創出フレームワーク』を上梓した。入山章栄、一條和生、山本康正、松尾豊、竹中平蔵のそうそうたる各氏も薦める本書から、イノベーションとは何かについて、抜粋・編集してお届けする。

■イノベーション=技術革新ではない

 皆さんは、「イノベーション」の正しい意味をご存じだろうか。抽象的な言葉であり、人によって捉え方や理解が異なる言葉でもある。

 よくある間違いは、「イノベーション=技術革新」というものである。この間違いが、現在の日本のイノベーションの停滞をもたらしたと言っても過言ではないだろう。

 なぜなら、「技術革新がないとイノベーションを起こせない」という認識を人々に与え、日本企業をこぞって「目的なき技術革新」に奔走させてしまったからだ。「新しい技術を開発したが、それを何に使って良いのかわからない」というのは、日本企業でよく見る光景ではなかろうか。

 では、イノベーションの正しい意味は何か。それは新結合である。新結合とは、「これまで組み合わせたことのない要素を組み合わせることによって新たな価値を創造すること」を意味する。

 これは、イノベーションの父と言われる経済学者、ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターが、1912年に著した『経済発展の理論』の中で「新結合」という言葉を使い、イノベーションの概念を提唱したことに始まる。

 ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、著書『イノベーションのジレンマ』で有名なクレイトン・クリステンセンも、イノベーションを「一見 、関係なさそうな事柄を結びつける思考」と表現し、シュンペーターの概念を引き継いだ。

 また、あのスティーブ・ジョブズもイノベーションの源泉である創造力について、「創造力とは、いろいろなものをつなぐ力だ。一見すると関係ないように見えるさまざまな分野の疑問や課題、アイデアやひらめきを上手につなぎ合わせる力だ」と表現している(カーマイン・ガロ著『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』より)。

 では「新結合」の意味を具体的に考察していこう。「新結合」にはさまざまなパターンが存在するが、本書では「ニーズ」と「シーズ(技術やデータ等のアセット)」の新結合によって、「新しいソリューション」が生まれる、アイデア創造に関する「新結合」について考察する。

 ニーズには、顕在ニーズと潜在ニーズがある。顕在ニーズとは、「あなたの困りごとは何ですか 」と聞かれたユーザーが、「〇〇が欲しいです」と答えられるニーズである。つまりユーザー自身が「答え」を持っているニーズとも言える。

 この顕在ニーズに対して、既存のシーズを組み合わせてすでに世の中に提供されているソリューションは、すでに提供されているという点で、現時点ではもはや「新結合」とは言えない。

■スマホはなぜ新結合と言えるか

 一方、顕在ニーズと既存のシーズの組み合わせであっても、その組み合わせが「これまでにないもの」であれば、新結合により新規の価値あるソリューションが生まれる可能性がある。

 さらに、顕在ニーズに対し、新規シーズ(新しい技術や新たに手に入ったデータ等)を開発して組み合わせると、新規の価値あるソリューションが生まれる可能性がより高くなる。

 また世の中には、「潜在ニーズ」というものが存在する。これは、「あなたの困りごとは何ですか 」と聞かれたユーザーが、「〇〇が欲しいです」と答えられないニーズである。ユーザーが「答え」を持っていないということだ。 

 ガラケーが主流だった時代に初めてiPhoneというスマホが出てきた瞬間をイメージしてほしい。ガラケーで満足していたユーザーは当時、スマホという存在も知らず、まして使ったこともないので、「スマホがなくて不満」とは言えなかったはずである。

 しかし、いったんスマホを体験した人は、その多くがもはやガラケーでは満足できなくなってしまった。「携帯電話でPCのようにさまざまなアプリケーションを楽しみたい」というのは、当時では潜在ニーズだったのである。

 潜在ニーズに既存シーズを組み合わせると、新規の価値あるソリューションが生まれる可能性がある。その代表例が先ほどのiPhoneである。

 スティーブ・ジョブズを悪く言う一部の人は、よく「彼は何も新しいものを生み出していない。当時すでにあった技術を組み合わせて作ったにすぎない」と言うが、その「新結合」こそイノベーションの定義そのものである。このような意見が出されること自体、イノベーション=技術革新と勘違いしている証左と言えるかもしれない。

 さらに、潜在ニーズに新規シーズを組み合わせれば、新規の価値あるソリューションが生まれる可能性は当然高くなる 。

■新結合を起こす4つの組み合わせ

 このように、イノベーションを起こす新規の価値あるソリューションとなり得るのは、以下の4つであることがわかる。

①顕在ニーズと既存シーズの「新しい」組み合わせ
②顕在ニーズと新規シーズの「新しい」組み合わせ
③潜在ニーズと既存シーズの「新しい」組み合わせ
④潜在ニーズと新規シーズの「新しい」組み合わせ

 いわゆる発明(Invention)と言われるのは、上の②や④の新規シーズにあたる。すなわち、イノベーションと発明の関係は、「発明があると新結合を作りやすいのでイノベーションを起こしやすいが、イノベーションを起こすために必ずしも発明が必要なわけではない」という関係である。

 イノベーションは技術革新とイコールではないというのも、これらの関係を見れば理解できよう。

 ではもう少し具体的な事例を見ていこう。

 はるか昔から人類には「目的地に移動したい」というニーズは存在した。その当時の(イノベーションが起こる前の)ソリューションは、「歩いて移動する」という非常にシンプルなものだった。その点では、他の動物と大きな差はなかった。あえて言えば、歩きやすいように「道」を作っていたことくらいだろう。

 当時はどんな長距離でも歩いて移動するしか方法がなかったため、疲れることに対して大きな不満はなかったはずだ。しかし、もし「疲れずに長距離を移動できる方法」を当時の人々が知っていたら、もはや「歩いて長距離を移動するという選択」には戻れなかったはずだ。

 すなわち、「目的地に疲れずに移動したい」という願望は当時は潜在ニーズだったのである。潜在ニーズとは、別の言い方をすると、「当時は夢の話だと思って無意識にあきらめていた願望」とも言える。

 しかし、やがて(昔からすでにいたという意味で)既存シーズだった「馬」と「新結合」され、「馬車」というソリューションが開発されると、「目的地に疲れずに移動したい」という潜在ニーズは実現された。まさに「新結合」によりイノベーションが起こった瞬間である。

■潜在ニーズは顕在ニーズ化していく

 この瞬間から、「長距離の移動は馬車に乗ってする」というのが「新しいあたりまえ」となっていき、やがて長距離移動時に馬車が用意されていないと人々は不満を持つようになった。このように、潜在ニーズは実現した時点から顕在ニーズに変化するという特徴を持つ。

 「目的地に疲れずに移動したい」というニーズは、馬車の登場により満たされた。だが当時の人は、無意識にあきらめていたが、本当は「目的地に『もっと早く』疲れずに移動したい」という願望を持っていたはずだ。それが、当時の次の潜在ニーズだったのである。

 その後、「蒸気機関」という新規シーズが発明され、もっと早く疲れずに移動したい、という潜在ニーズと「新結合」されることで「蒸気機関車」というソリューションが開発された。

 人間は欲張りな生き物である。より便利なものがイノベーションにより生まれると、必ず便利な方を選択し、ライフスタイルをシフトさせていく。

 こう考えると、イノベーションとは、その時代の潜在ニーズとシーズとの「新結合」により新規ソリューションが生まれ、人々の「あたりまえ」の意識と行動が変容し、無意識にあきらめていた願望であった潜在ニーズが顕在ニーズ化していくという、一連の変化であることがわかる。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/29(木) 8:01

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