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コロナ対策、国際比較で浮かび上がった日本の課題は、医療制度の抜本改革と財政政策の見直しだ

7/26 5:01 配信

東洋経済オンライン

 2020年に世界経済は未曾有のコロナ危機に見舞われ、現状もその闘いは続いている。日本の対応はどのように評価できるのか。以下では、日本と先進各国の2020年のコロナ対応を国際比較し、私たちが今、検討すべき政策課題を指摘する。

人口当たりのコロナ感染者数や死亡者数を見ると、日本は欧米諸国に比べて圧倒的に少ない。イギリス、イタリア、アメリカなどの死亡率は非常に高く、アジア諸国のそれは低い(コロナの感染・死亡率の詳細などはNIRAオピニオンペーパーno.57『日本のコロナ対応策の特徴と課題―国際比較の視点から見えてくるもの』に掲載)。

 また、全体の死亡者数がコロナ禍以前よりもどの程度増えたかを示す「超過死亡数」も、日本の場合は平年並みで推移し、人口動態全体への影響は一貫して小さい。イギリスは2020年4月に死亡者数が平年の倍以上になり、アメリカ、スウェーデンも2020年は死亡者数が高い水準で推移した。これに対し、日本ではマスクや手洗いなどの徹底でインフルエンザなど他の病気による死亡者が減少し、人口動態への影響はほぼ見られない。

 ただし、日本の死亡者数が増えなかったから経済の落ち込みが小さいというわけではなさそうだ。IMF(国際通貨基金)加盟国のデータを見ると、2020年のコロナによる死亡率と名目GDP(国内総生産)変化率との間に明確な関係(負の相関)は見られない。死亡者の多寡が経済に決定的な影響を与えているわけではない。

■GDPを左右したのはコロナ被害でなく行動制限

 それでは、各国経済の落ち込みの要因は何であろうか。2020年のG7諸国の経済の動きを見ると、消費の減少がGDP減少の7~8割と大半を占めた。また消費が最も大きく落ち込んだのは英国、次いでイタリア、フランスだ。いずれの国もサービス消費の激減が消費の落ち込みのほとんどを説明している。

 特に英国は、対面の食事や観光、交通などサービスの消費に占める比率が高く、厳格なロックダウンを何度も行わざるをえなかったことが経済に打撃を与えた可能性が高い。日本経済の落ち込みは、先進国の中ではロックダウンをしなかったスウェーデンに次いで小さかった。

 実際、主要国の「自宅滞在時間」と「実質GDPの変化率(2020年平均)」には負の相関が認められる。日本の政府・自治体が採用した制限が比較的緩やかであったことで、人々の行動変容の程度は他国に比べて小さく、経済活動の直接的な抑制も小さかった可能性を示唆している。

 (外部配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 ところが、2021年に入って日本では、各国に比べて感染者数が少ないのに、たびたび医療が逼迫し、緊急事態宣言を余儀なくされている。その原因の一つは医療提供体制の問題である。

■ICUが不足し、機動性と地域連携でも劣る

 先進国の中でも日本の人口当たり病床数が極めて多いことはよく知られている。にもかかわらず、全国の重症者数が千人に近づくと、特定の地域で深刻な医療逼迫が起こりやすい。医療逼迫は一部の医療従事者への負担集中のみならず、死亡リスクの増大につながりかねず行動制限を迫られてしまうため、経済へも多大な影響を与える。日本で医療が逼迫する理由についてはさまざまな要因が考えられる。

 第1に、ICU(集中治療室)が少ないことだ。病床数に占めるICUベッド数は、ドイツで8%、米国で7%であるのに対し日本は2%にすぎない(OECD統計)。日本の病床数は人口千人当たり13.0床でドイツの8床、アメリカの2.9床などに比べて多いにもかからず、ICU病床数は人口10万人当たり5.2床、ICUと病棟の中間的な重症度の患者を対象としたハイケアユニット等を含めても13.5床で、ドイツの29.2床の半分にも満たない(厚生労働省統計)。

また日本の集中治療専門医の数は、人口当たりでドイツの7分の1と少ない(ドイツのコロナ対応については、NIRA総合研究開発機構のレポート『ドイツのコロナ対策から何を学べるか』を参照)。

 第2に、ICUへの病床転換や地域内外の病院連携、医師の配置の機動性に問題がある。感染症は地域によって大きく状況が異なる。第4波における大阪府の5月初旬の状況は極めて深刻で、人工呼吸装置で治療をできるICUに余裕はなかった。

 これに対し、例えばドイツでは今回のコロナ感染症に対応するために2020年8月以降に1万床のICUを追加、人口10万人当たり40床の水準まで病床転換と増設を進めた。スウェーデンでは地域間で病院が機動的に連携し、専門が異なる医師にも教育を施してICUでの治療に当たらせた。

 病院の機動的な連携や対応は、病院の運営主体の違いもあると思われる。日本では民間病院比率は81.6%、民間病床数は71.3%(厚労省、2019年)であり、EUの民間病床比率33.9%(2014年)と大きく異なる。

スウェーデンの場合は国立病院が中心で、国が中央管理することで各病院の病床使用状況を時々刻々把握し、自治体の枠を超えて患者の緊急搬送も指示したという。日本でも緊急時の柔軟な病床転換、診療所と病院の連携、病院間連携、医師等の機動的配置を可能にする体制構築の必要があることは明らかである。(スウェーデンのコロナ対策については、東洋経済オンライン記事『誤解されたスウェーデン「コロナ対策」の真実』参照)

■IT化の遅れも大きく響いた

 第3に、医療データの入手可能性、即時性等の観点で評価したIT化のレベルにおいても、OECDの分析によればデンマーク、韓国、スウェーデンなどが圧倒的に高く、日本は先進国の中で遅れている。

 今年に入ってからの英国の機動的なワクチン接種は、行動制限の緩和を可能にすることで経済回復に奏功した。英国ではワクチン開発と確保の行動計画策定を2020年の早い段階からスタートし、スピーディーな承認体制を構築して、同年10月には規制を緩和して教育や訓練で接種者を医師以外にも広げた。また、カルテデータから基礎疾患の人を特定して接種を奨励し、予約もすべて電子的に行われた。

 医療と経済を支えるため、各国とも大規模な財政支出を余儀なくされている。ただ2021年3月までで見ると、日本はコロナの死亡率が低いにもかかわらず、図のとおり、GDP比で見たコロナ関連財政支出が死亡率の高かったイタリアと並んで大きい。

■巨額の財政支出でも経済回復は緩慢

 一方、今後5年間の日本経済の回復は、2021年4月IMF見通しによれば中国、米国のみならず欧州各国よりも緩慢になると予想されている。各国の財政支出の中味と経済回復には関係があるだろうか。

 日本の財政支出の内訳を見ると、中小企業向けの政策金融機関による融資などの比率が大きく、これらが企業を支え、間接的に雇用を支えているとみられる。真水の部分でも、給付金、雇用調整助成金などの家計や事業者支援が大きく、失業抑制や企業存続に効果があったといえる。

 ただ、支出規模の大きい一律10万円の特別定額給付金は、2020年の勤労者・年金世帯の消費性向が下がり、家計の現預金が増えていることからわかるように、消費全体の底上げには必ずしも結びついていない。なお、ドイツでは第3四半期から耐久財消費が持ち直しており、時限的消費税率引き下げと直接のコロナ対策ではないが環境対応車への購入補助などが、奏功したと考えられる。

■政府や企業部門の債務残高が拡大している

 固定資本形成を見ると日本も含めて主要国は押しなべて低調である。

 ただ、ドイツの政府による公的固定資本形成は2020年6月の段階で、グリーン関係やAI(人工知能)、量子コンピューター、5G、6Gの研究開発などへの投資であり、厳しい時期のGDPの下支えに寄与している。また、米国ではEコマースやリモートワークなどDX関連の株価が上昇、スタートアップ企業もDXを中心に2020年中頃から次々と新規参入しており、経済のダイナミズムが働いている。

 一方、日本の民間企業は、官民による中小企業向けコロナ対応融資拡大もあって、GDP比でみた債務がコロナ前の4倍近くに膨れ上がってしまっている。先進国で次にGDP対比の債務が大きい英国でも3倍未満であることを考えると、この債務が経済の回復の足かせになる懸念もある。

 財政の悪化に伴い各国で国債発行が増え、中央銀行がこれを買い入れて低金利を持続した。こうした金融緩和もあって株価は高めに推移し、経済を下支えしている。一方で、対GDP比の公的債務残高は各国で上昇している。とりわけ、日本のそれは突出しており、コロナ禍前からの構造問題が悪化している。

 企業や政府の債務残高拡大は、金融システムへの潜在的なリスクも拡大させている。さらに世界的に、株価の上昇で留意すべきは、資本収益率が成長率を上回る状況が続き、その恩恵を享受できる高所得層と貧困層の格差を拡大させていることだ。また世界全体ではデジタル対応の可否による格差も広がっている。特にオンライン教育を受けられない子どもたちは途上国に多く、将来的に深刻な問題となる。

 先進国の中では、2020年の日本は死亡率、経済への直接的ダメージは国際的にみると小さかったにもかかわらず、コロナ対策に多くの財政支出を投じた。しかし、その経済活性化への効果は小さく、また医療態勢などの構造的な問題が顕在化したといわざるをえない。

 世界を見ると、医療提供体制を思い切って機動的に工夫している国や、効果的な未来に結びつく経済対策を実現している国も存在する。今後、こうした構造問題への対応や政策の巧拙の差が、国力の差にいっそう影響する可能性があり、早期の改革、改善が必要である。

■医療体制を抜本改革、財政出動に長期的視野を

 国際比較で明らかになった日本のコロナ対応で解決を急ぐべき課題として、以下の2点を挙げる。

 第1に、顕在化した医療提供体制の問題を抜本的に解決する必要がある。デジタル化を徹底的に進めて医療機関や病院間のデータ連携を平時から強め、緊急時に機動性が確保できる体制を構築すること、ワクチン開発への支援と接種のスピードアップが必要である。

 第2に、財政支出の工夫、ワイズスペンディングが重要である。企業や人々を支援する際にも、ドイツのいち早いグリーン化への対応にみられるような、アフターコロナの社会への視座を持ち、長期的に人々の生活再建や経済復活に結びつく効果的な財政支出を実行することが望まれる。

 コロナによって深刻化した構造問題へのより長期的な課題としては、格差の縮小と公的債務拡大への対応が重要である。今後の経済復活に必要な財源を確保するには、格差に配慮した税制の再設計が必要であり、そのうえで長期的には財政の正常化を実現していくことも求められる。

 国際的にも法人税の最低水準に合意する動きがある。日本でも、富裕層の金融所得税強化などを含めてコロナ後の税体系を再考すべきである。

 一方で、人々の意識変化などコロナで芽生えた変化も見られる。日本がこれを生かし、コロナ禍を乗り越えて経済を復活させつつ、私たちが豊かさを感じられる社会に変えるには何が必要か、次回のコラムで述べたい。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/26(月) 5:01

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