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「死ぬまで低賃金」を嘆く56歳元専業主婦の貧困、「美容師の仕事は時給1000円にしかならなかった」

7/26 8:01 配信

東洋経済オンライン

この連載では、女性、とくに単身女性と母子家庭の貧困問題を考えるため、「総論」ではなく「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。個々の生活をつぶさに見ることによって、真実がわかると考えているからだ。
今回紹介するのは、「真面目に一生懸命生きてきました。コロナでひとり親には、給付金が何度も出るのに腹が立ちます」と編集部にメールをくれた56歳の女性だ。

■雇用はなにより大きなセーフティーネット

 大企業のリストラが加速しているようだ。コロナによる業績悪化で非正規だけではなく、正社員切りがはじまり、40代後半である筆者の周囲でも、本人が望んでいない早期退職、希望退職をチラホラ耳にする。男性優位社会の日本では、十数年の時間を費やして女性の貧困が深刻化している。これから、これまで悠々自適だった中年男性たちも、女性たちと同じ境遇になるということだ。

 雇用はなにより大きなセーフティーネットである。それを奪われると生活や人間関係が壊れたり、家庭が崩壊したり、最悪死を招いたりする。これまで女性と比べて優遇された男性たちは、苦しむ女性たちに自己責任を押しつけてきた。これからはじまる中年男性の貧困化において、少なくとも女性たちと同じように放置される可能性が高いだろう。

 筆者は多くの企業がリストラ対象とする団塊ジュニア世代である。貧困当事者になることへの恐怖に駆られているとき、西日本在住・吉田雅美さん(仮名、56歳)からメッセージがきた。

 「1年半前に夫が亡くなって、年齢も年齢なので正社員で働くところもありません。賃金がすごく安いので、貯蓄もなく、老後が大変不安です。私は、本当にまじめに一生懸命生きてきました。けど、なにも報われません。もう、そろそろ限界です。生きていくことが、しんどくて辛いです(原文ママ)」

 またしても、‟真面目に一生懸命生きてきた”中年女性からの切羽詰まったメッセージだ。メールでオンラインで話せるか聞くと、仕事が休みなので大丈夫という。オンラインアプリの画面に映った雅美さんは、年齢よりだいぶ若かった。元美容師、1年半前に配偶者を失い、いまは西日本の郊外でひとり暮らしをしている。仕事は非正規雇用で中小企業のバックオフィス業務をしている。

 「賃金は昇給してやっと時給1050円です。でも家賃が7万円かかるので、ギリギリ生きている感じです。いま以上の節約は、もう食べないとか、着るものを買わないとか。それくらいしかないです。田舎なので野菜はもらえる。夫が亡くなってからは冷凍してもらった野菜だけ食べるとか、そうやってなんとか生きています」

 同じ年齢だった夫は2019年末に亡くなった。持病を患っていて突然歩けなくなり、救急車で運ばれたその2日後に息をひきとった。そして、亡くなってから雅美さん名義の夫がした借金が発覚し、いまその借金を返済している。40代、50代の女性の求人は賃金の安い非正規職しかない。フルで働いても、食べて着て眠る普通の生活ができない。雅美さんは食費節約のためにもらった野菜ばかり食べていた。雅美さんは話ながら泣きだしてしまった。

 「夫が亡くなってからしばらくは、もうしんどい、自分の人生はもういいやって思ってました。ずっと苦しいことしかないし、ずっと貧しいし、将来はたぶんもっと貧しくなる。だったら、死にたいなって。しんどいのは主人を失ってひとりになったこともあるけど、50代女の賃金は安くて、どれだけ働いても普通の生活ができないことです」

■朝から晩まで働いたけど、なにも残らなかった

 キレイに整頓された家賃7万円の部屋のリビングで、自分にスマホをむけている。家賃は高いと思ったが、その意見を伝えるのは後にする。涙は、まだとまらない。

 「絶望というのでしょうか、もう死んだほうがマシって。娘がいなかったら本当に死んでいたと思います。主人とは借金返済の目途がたったら2人で、海の近くに住んでゆっくりしようって話していました。でも、主人は逝ってしまった。だから、もういいかなって」

 頻繁に連絡をとっているひとり娘は現在32歳、数年前に関東に嫁いだ。ずっと落ち込んでいる母親を心配した娘が電話をかけてくるという。

 「いままで生きてきた人生を振り返ったとき、借金、借金、借金。真面目に朝から晩まで働いて、それで最終的にはなにも残らなかった。娘だけ。私はこれからも、どんどん年齢は重なって、たぶん死ぬまで低賃金で収入は上がらない、貯金もない、不安しかないです」

 いったいなにがあったのか、聞いていく。33年前、23歳のときに商店経営する夫と結婚。夫は美容師時代の客で、見初められ、親戚同士が何度も話し合って結婚が決まった。当時、付き合っていた恋人はいたが、家の方針に従って別れた。小学校の頃から夢だった美容師になったが、寿退社した。専業主婦があたりまえの時代だった。

 「家のしがらみがあって、自分の意志だけでは結婚は難しい時代でした。嫁入り道具もすごかったし、近所の顔見せもあった。嫁入り道具はタンスとか長持とか。父親が生活に必要なもの、高級品を揃えてそれを持って家をだされる。それで向こうの家にはいる。そういう時代でした」

 嫁ぎ先は、雑貨店。家族経営で朝8時開店、夜20時閉店の12時間営業。家事をすべてと、店の手伝いをした。

 「義母がいて、まずお母さんがお金を握っている。3人の生活で自分の収入はなくなりました。お客さんは減るばかりでした。しばらくして娘が生まれて、家事と店の手伝いに育児もすることに。自分の時間は完全になくなりました」

■友達とは疎遠になり、収入もなくなった

 昭和時代は結婚して嫁いだら、寿退社して夫の家にはいり、夫を支えながら子どもを生んで育児し、それが終わったら義理の両親の介護をする。そんな人生が一般的だった。雅美さんは真面目に妻をして、自由な時間は一切なくなった。友だちとは疎遠になり、収入もなくなった。

 「結婚してからはすごく忙しくて時間に追われているのに、お金がない。美容師時代の貯金を切り崩して、あとは実家の母親からこっそりお小遣いをもらってました。それで最低限の洋服を買ったりしてました」

 店の売り上げは悪化の一途。夫は必死になんとかしようとしたが、好転することはなかった。そして大店立地法が施行され、車移動圏内にショッピングモールができた。お客はまったく来なくなった。

 「ずっと赤字。信用金庫から親戚まで、いろんなところから借金して最低限の生活をした。食費は私のパート代ってなって、娘が小学生になってからパートで美容師をしました。地方なので時給1000円、頑張って働いても月10万円くらいです」

 37歳のとき、店は廃業。シャッターを閉めてから、借金まみれの現実と向かい合うようになった。

 「借金の金額はわからないですけど、数千万円だと思います。夫から離婚届を渡されて、借金があるから離婚してくれって。形式上、離婚しました。夫は廃業した後、朝から晩までずっと仕事です。朝は牛乳配達して、昼間は大手から受託する配線の仕事、夜は清掃みたいな」

 子どもは中学生になった。雅美さんは家族の生活のためにシフトを増やし、自分も限界まで働いた。

 「美容師の仕事は、どうやっても時給1000円にしかなりません。お金が必要なのに成果のクオリティーを上げても、なにをしても収入にならない。美容師ってなんなんだろうって、目が覚めたというか。どうして、こんな貧しい生活しかできない仕事を夢にしていたんだろうって」

 美容師は「女の子・新小学1年生が将来就きたい職業」(2020年版、クラレ調べ)で10位だ。真面目な雅美さんは初心を忘れることなく、順風満帆に夢を叶えたが、そこで待っていたのは、どんなにお金が必要でも1日8000円にしかならない現実だった。

 「気づきました。働いても、頑張っても、まったく豊かになれない現実です。美容師は好きな仕事ではあったけど、ずっと立ちっぱなし、足腰が本当につらい。トイレに行きたくても、行けない。膀胱炎になって、肩こりとか頻繁です。辞めることにしました」

 42歳で美容師を辞めた。少しでも生活が豊かになれる仕事を探すことにした。40代の女性が応募ができる額面月20万円を超える正規職は、なにもなかった。派遣会社に登録して事務職になった。時給900円台。常勤で働いても手取り13万円程度だった。

■突然、夫が亡くなった

 朝から晩まで働く夫の収入は、すべて借金返済に充てられた。一家は雅美さんの収入だけで生活した。

 「自由に使えるお金がほとんどないです。洋服とか化粧品は買えません。買えても100円ショップです。外出する機会もないので洋服は買わないですけど、たまにこれ欲しいってなっても、欲しいものはほとんど買えません。子どもの習い事とか塾も無理。娘は高校になってバイトをしてくれて、奨学金で大学進学してくれたのでなんとかなりました」

 そして2019年、突然夫が亡くなった。貯蓄はなく、生命保険もかけていない、病院から請求された医療費もない。葬儀をするお金もなかった。

 「私はまったくお金がないので、医療費は娘が、葬儀は親戚がだしてくれました。主人はひとりで背負っていたので、詳しいことはわからないんですけど、消費者金融に私の名前で借りているお金と、車はリースだったので処分するときに残額を払わなくてはならなかった。去年、車の処分で80万円くらいを払って、消費者金融は元金50万円が100万円くらいに膨れあがって、それはまだ返している最中です」

 夫と暮らしていた家を出て、いまの部屋に引っ越している。コロナになって残業が禁止になり、収入は手取り15万円を超えることはない。家賃+光熱費、消費者金融への返済で、ほぼお金はなくなってしまう。消費者金融は利子しか払えない。借金はまったく減っていないどころか、増え続けている。

 貧しい生活が続くと、周囲の人々の生活状況に敏感になる。雅美さんは「貧しい人のなかにも格差がある。真面目に生きている人ほど損をしちゃう社会です」と憤る。派遣の同僚のシングルマザーたちが、自分よりはるかにいい生活をしているようだ。

 「10万円の給付金と、子どもへの給付金で東京に旅行に行ったとか。もうひとりの子は夫婦で生活するより、離婚したほうがお金がもらえるから偽装離婚とか。えー、それ違うと思いながら聞いています。私はずっと真面目に働いて、主人が亡くなって、結局なにも残らないどころか、出ていくばかり。消費者金融の借金は、一生かかっても返せないかもしれません。だから、そういう話を聞くと、文句を言いたくなります。あまりにも違いすぎる」

■情報強者は救済され、情報弱者は苦しみ続ける

 日本の社会保障制度、借金救済制度は申請主義なので、制度を知って自分から申し出ないと受けることができない。情報強者は救済され、情報弱者は苦しみ続けるという性格がある。雅美さんは後者だった。

 「もう、だいぶ前に自分の人生は諦めているけど、老後は海のそばに行って、静かに死にたいってひそかな希望はある。ひとりで行くのは淋しいので、一緒にいってくれる人がいればすごくいいかな。でも、満足に食べることもできない生活なので、出会いはないと思う。すべて諦めると、また死にたいと思うかもしれないから、それは怖いです」

 2019年民間給与実態統計調査によると、正規と非正規、男性と女性の賃金差が明確にでている。女性の非正規労働者の平均賃金は152万円であり、男性の正規労働者561万円の3.7倍もの差がでている。

 生活が苦しい雅美さんは収入を上げ、支出を下げて実質賃金を上昇させる必要がある。中年女性にまともな賃金が用意されてないとすると、肉体を酷使するダブルワーク、トリプルワークに突入するのは時間の問題だ。そうする前にまず早い段階で債務を整理し、家賃の安い部屋に引っ越すべきだったか。最後にそれを伝えてオンラインを切った。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。(外部配信先では問い合わせフォームに入れない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でご確認ください)

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最終更新:7/27(火) 16:38

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