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「子供は挫折で成長する」とプロ指導者が実感した理由

6/12 16:01 配信

東洋経済オンライン

2010年にプロ野球選手から引退した仁志敏久氏。引退後は、野球の世界一決定戦を決めるWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のU-12部門でチームを初の準優勝に導き、2021年には横浜DeNAベイスターズのファーム監督に就任。さまざまな環境下で指導力を発揮してきた同氏が、「子どもの成長には挫折が必要」と考えた理由とは?  新書『指導力~才能を伸ばす「伝え方」「接し方」~』より一部抜粋・再構成してお届けします。

 子供たちのなかには初めて海外に出かける子も数多くいました。そのため、その国の文化や習慣がわからなかったり、場をわきまえず盛り上がって大騒ぎになってしまうこともしばしば。そこが日本でないことをわかっているようでわかっていない。なので、単独行動にならないように目配りが欠かせません。

 たかだか夜の素振りの帰りでも必ず大人をつけ、部屋に帰ったことを確認する。素振りの場所はホテルの駐車場であってもそれは絶対です。何かあってからでは遅いので、安全確認はぬかりなく行います。

■「他国の子との交流」に注意を払う理由

 また、大会中は他国の子供たちも同じホテルに宿泊するため、子供同士で挨拶したり、仲良くなったりということもあり、お互いの部屋を行き来するような状況にもなりがちなのでそこも注意します。

 何が悪いのかというと、他国の子の部屋へ入って何か物がなくなれば当然疑われます。その可能性は低いと言っても、ゼロではありません。そもそも言葉が通じないわけで、何らかの行き違いが生じる可能性は十分あります。交流はたいへん結構なのですが節度をもって付き合うことも教えます。

 逆に、他国の子供を部屋に招き入れることも禁止します。理由は同じですが、どちらかというと他国の子を招き入れるほうが、問題が起こる可能性は高いため、より強く注意をします。

 これは私自身の経験によるもので、アマチュア時代に国際試合に数多く参加し、気をつけなければならないことの一つとして先輩などからよく教えられました。

 野球道具が欲しい、金品が欲しい。そんな欲求をもつ人間はどこに潜んでいるかわかりません。海外へ行けば盗まれるほうが悪いと考えるしかない場合もあります。私もアマチュア時代の海外遠征で盗難にあった経験があり、私以外の選手やスタッフも同様の被害に遭遇したことが何度かありました。子供同士だからといって安心はできません。

 実際に、日本チームではありませんが、他国の子供と仲良くなり、部屋に入れたらほかの子も入ってきて物を盗まれたという事例もあります。

 子供たちが大金や高価なものを持っていることはほとんどありませんが、小さなものでもなくなれば気分は悪い。そうならないためにあらかじめ注意を喚起しておくのです。

 命にかかわることだけでなく、大会中に必要のないイヤなことに遭遇しないように気をつけるのも私たちの役割です。

 経験させたいことと経験させたくないこと。どちらに対しても大人はよく考えて準備し、子供たちにもしっかりと準備をさせる。野球の試合に臨むだけではないという意識をチーム全体で共有することが大切です。

 短期間で作り上げられたチームとはいえ、寝食を共にした仲間たちと優勝をめざしてひたむきにプレーした時間は尊い。大会後半になれば、「もうすぐ終わってしまう」「優勝したい」「でも早く家に帰りたい」など、心の中は複雑に揺れ動きます。

 ワールドカップは台湾の台南市での開催が通例となっており、ホテル、球場ともに環境は素晴らしいのひと言。とくに圧倒されるのは台湾戦の観客動員数。以前は台湾のプロ野球チームの球場を使っており、スタンドの収容人数は1万人を超えます。

 台湾の少年野球はレベルが高く、決勝には決まって顔を出すのですが、その決勝戦は球場がほぼ満員になります。

 2019年からは、同じ台南市に新設された観客2、3千人収容の少年野球専用の球場での開催となりました。以前から日本の子供たちにもあの大観衆の中で試合をさせてあげたいと思っていましたが、子供たちの頑張りにより、2019年についに超満員のスタンドの中、決勝戦で台湾に挑むこととなりました。

 日本代表の子供でもさすがに超満員の観衆の中で野球をしたことはありません。ただでさえ決勝の緊張があるのに、スタンドからは台湾応援団の猛烈な熱気。圧倒されるのも当然です。普通の少年野球ではとても味わえない雰囲気。私も感無量でした。

 ワールドカップで日本勢初の決勝進出となったこの大会、子供たちの必死の頑張りも一歩届かず、0―4という結果に終わりました。残念ながら世界一は逃したものの、準優勝。立派な成績です。

■表彰式中、泣いてしまう子も

 試合後の表彰式と閉会式を控え、悔しさをこらえきれない日本チームの子供たちは周囲の目もはばからず涙が止まりません。

 「ほら、表彰式が始まるぞ」

 そんな姿を愛おしく見ながらも行動を促します。シクシクと泣きながら整列する日本チームの子供たち。予選、スーパーラウンドと目覚ましい活躍を見せた日本チームからは個人賞に選ばれる子も出ました。台湾、韓国、アメリカ、中南米などの強豪国を相手に準優勝、個人賞にからむ活躍は誇らしい結果です。これから成長していくうえで、最高の思い出と自信を身につけたのではないかと思います。

 表彰式が終わり、チームで記念撮影をしようという流れになりました。

 「はい、並んで!」「ほら、お前もっとこっち」、まとまって「はい、チーズ!」。

 気づけば、そろそろ笑顔も見えてきています。「子供は切り替えが早いな」と笑みを浮かべつつ子供たちを見回すと、まだ泣いている子が。ということは、表彰式中ずっと泣いていたのでしょう。

 大会関係者が個人賞をもらった子をそれぞれ写真に収めようと、一人ひとり呼んで写真を撮っています。それでもその子はまだ泣いている。

 「おい、まだ泣いてんのか」

 そこにいた日本チーム関係者の大人たちは、みな「まったく、しょうがないな」という表情で慰める。慰めたところで収まらないことはわかってはいるのですが。

 しかし、私にはその光景が微笑ましく、嬉しい気持ちでいっぱいになりました。じつは、私の中には「どんな終わり方をするのか」というテーマもありました。勝って大喜び。負けて大泣き。大活躍だった、打たれてしまった、打てなかった、ミスをしてしまったなど。さまざまな筋書きのない終わり方が訪れます。

 どんな最後を迎えるかによって、話す内容も伝え方も変わります。もちろん勝つに越したことはありません。しかし、順位決定戦などの試合に勝ってまずまずの成績で終わるよりも、優勝を逃す、あるいは悔しい敗戦という結果のほうが子供たちにとっては今後の成長の糧になるものです。

 中途半端に自信が芽生えるくらいなら、課題を残して終わったほうがさらなる高みをめざしていける。日本にもまだまだ自分たちよりも上手な子がいるだろうということは薄々わかってはいるとは思いますが、もっと視野を広げて「世界はどうか」と考えてほしい。

 高い目標ができ、それによってやるべきこと、考えるべきことが変わってくるからです。彼らはまだまだ世界に向かうには早い年齢ですが、その意識をもち実際に行動していけば、いずれ必ず周囲との差を生むと思うのです。

 そういう意味で、いつまでも泣いている子を見て、希望を感じたのでした。

■子供にもプライドがある

 スポーツというのは時に残酷です。勝者と敗者には、どんなに慰められても縮まらない距離があります。「負けて悔いなし」「さわやかに散る」など、日本には敗者を称える言葉もありますが、全力でプレーし、実力をいかんなく発揮したうえで負けてしまったとしたら、上をめざしたい選手にとってはこれほど悔しい結果はありません。

 「いい試合だった」「みんな胸を張って帰ろう」

 私たちも子供たちにはそう声をかけることがありますが、それ以上かけられる言葉が見つからないというのが本音でもあります。もちろん、涙が止まらない子供たちは、おそらくそんな言葉くらいでは「そうだな、よくやったよな」とはすぐには切り替えられないでしょう。

 「子供なんだからいい思い出でいいじゃないか」などと言う人もいます。しかし、子供たちにもプライドや自信、試合にかける思いはあり、それは大人と大差はありません。

 まだ小さな心の中に、いま考え出せる目いっぱいの思いを詰めて戦っています。もしかしたら、人生経験が少ない分、負けた時のショックは大人よりはるかに大きいかもしれません。どれだけ泣いても変えられない現実がただただ悲しく悔しい。その思いは痛いほどよくわかります。子供たちにとっては初めての大きな挫折かもしれません。

 「まだまだ敵は多い。もっと高いところをめざさないとまた負けてしまう」

 そんな思いを抱いて次に向かってほしい。勝利を求めつつ、涙から新たな感情を見出してほしいとも思う。成長して「あいつは強い」と言われる人は、そんな経験をたくさんしています。

 なんとも勝手で、矛盾した監督ですが、子供たちのこれからに効く刺激を与えて終わりたいといつもひそかに思っています。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/12(土) 16:01

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