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不動産登記「オンライン申請」実践して見えた課題

5/31 13:01 配信

東洋経済オンライン

 今年に入って、22年前に借りた住宅ローンを完済した。金融機関の担当者が「抵当権抹消登記はどうしますか。司法書士を紹介しましょうか」と聞くので「良い機会なので、自分でやってみます」と答え、申請に必要なものを用意してもらうことにした。

 ちょうど国会では、相続登記の義務化に向けて民法・不動産登記法改正案の審議が始まり、行政手続きのオンライン化促進に向けたデジタル改革関連法案が提出されるところだった。両法案とも5月までに成立したが、事前に不動産登記のオンライン申請の使い勝手などを調べる「良い機会」と思ったのだ。

■15年前とほとんど変わらないシステムの使い方

 20年前にスタートした国家IT戦略「e-Japan戦略」で、法務省は不動産登記法を抜本改正し、2005年から「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと 供託ねっと)」の運用を開始している。当時も取材を兼ねて利用した経験があるが、専用ソフトをダウンロードしたり、住民基本台帳カードに登録した公的個人認証サービスの電子証明書を読み込むためのICカードリーダーを購入したりと手間がかかった。

 15年振りに不動産登記のホームページにアクセスしてみると、2年ほど前に13分ほどのYouTube動画「動画でわかるオンライン登記申請(抵当権抹消登記編)」が公開されていた。抵当権抹消登記もオンライン申請できることがわかったが、システムの使い方は15年前とほとんど変わっていない。

 申請に必要なものもほとんどが紙の書類なので、スキャナーでPDFファイルにして添付し、後から原本を郵送するなどの手間もかかる。登記申請書をオンラインで送付するだけでは大してメリットはない。

 「自分で登記手続きするのであれば、法務局に電話して事前相談の予約を取ってください。申請日の当日でなければ、金融機関の代表者印を押した委任状をお渡しすることができませんから」。金融機関の担当者からはそう助言されたが、本人が手続きを行う場合、法務局の相談員と面談しながら行うのが一般的なやり方のようだ。

 登記手続きしたのは2回目の緊急事態宣言が1都3県に出ていた2021年3月上旬。住宅ローンを借りた金融機関の支店と郵便局は、自宅から徒歩5分以内にあるのだが、さいたま地方法務局に行くには電車で30分以上かかる。

 まず法務局に電話して事前相談が必要なのかどうかを確認した。法務局のホームページから申請書の用紙はダウンロードできるので、自分で作成できるのなら事前相談は不要とのこと。今回は申請書用紙を使って、自分で登記手続きができるかどうかを試すことにした。

 2005年の不動産登記法改正以前にしか不動産登記の経験がない人であれば、申請書用紙に記載された「登記識別情報」や「不動産番号」を知らない人は多いだろう。不動産登記が紙から電子データに移行したときに、従来の紙の登記済証の代わりに発行される本人確認のための符号(パスワード)が登記識別情報、このときに土地・建物1筆ごとに整理番号として付与されたのが不動産番号だ。

 不動産番号は古い登記事項証明書には記載されていないが、一般財団法人民事法務協会が運営する「登記情報提供サービス」を使えば、1筆に付き334円の手数料で、インターネットで簡単に調べることはできる。

 抵当権抹消登記に必要な添付情報は次の4つ。

 a)登記識別情報(又は登記済証)=抵当権設定した金融機関が保有
 b)登記原因証明情報=住宅ローンを完済したことを証明する金融機関の弁済証書
 c)会社法人等番号=金融機関の法人番号

 d)代理権限証明情報=金融機関の委任状

■金融機関から提出されたのは「紙の書類」

 登記申請日の朝に金融機関から提供されたのはすべて紙の書類だった。その金融機関では、住宅ローンの関係書類をA4サイズの紙の封筒に利用者ごとにファイリングして本部の書庫で管理しており、必要になったときにそのファイルを支店に配達しているという。最近では住宅ローンの電子契約サービスを提供する金融機関も増えてきているが、それ以前は紙の書類のままで管理しているのが実態だろう。

 金融機関に寄ったあと、さいたま地方法務局へ。登記申請書に所定の登録免許税(1筆に付き1000円)の印紙を貼付して、添付書類とともに窓口に提出した。すると、小さい紙を渡され、11日後以降にこの紙と印鑑を持って「登記完了証」を受け取りに窓口に来るようにと書かれている。さすがに面倒なので郵送できないかと聞くと、書留用の返信封筒を送ってくれば返送するという。

 「やれ、やれ、済んだ」と思っていると、約1週間後に登記官から電話がかかってきた。「登記済証が足りないので、金融機関に確認してほしい」という。慌てて金融機関に電話すると、ファイルの中に一部紛れて渡し忘れていたので取りに来てほしいとのこと。返信用封筒と一緒に残りの登記済証を郵送すると、しばらくして登記完了証が送られてきた。これを金融機関の担当者に見せ、抵当権抹消を確認して終了である。

 今回のケースではトラブルがなかったとしても、法務局へ1回、金融機関2回、郵便局1回は出向く必要があった。司法書士に依頼すれば楽だったかもしれないが、それ以前に金融機関などの電子化が遅れているので添付書類をやり取りする手間は変わらない。不動産取引の業務フロー全体をどこまでデジタル化できるかが問題である。

■不動産登記オンライン化の課題

 「自社の売り物件では、購入申し込み、重要事項説明(重説)、売買契約締結まで完全オンライン化を実現したが、不動産登記手続きだけは相変わらず紙で処理している」――不動産テック企業のGAテクノロジーズでも、不動産登記のオンライン化は手付かずの状態だ。

 モーゲージバンクのアルヒでは、2018年から大手デベロッパーを中心に住宅ローン(金銭消費貸借契約)の手続きを「ARUHIダイレクト」の名称で電子化しているが、抵当権設定などの不動産登記手続きは紙のまま行っている。過去の契約書類も、口座引き落としなど関係する手続きを含めて電子化するのが難しく、全体の電子化を進めるには課題が多いようだ。

 法務省が公表している不動産登記のオンライン申請件数は2019年で約598万件。不動産登記全体の申請件数は約867万件なので、オンライン化率は69%に達している。不動産登記手続きの9割以上を担っている司法書士は、セコムトラストシステムズが提供する司法書士電子証明書サービスを利用してオンライン申請が広く普及している。

 しかし「権利移転登記で完全オンライン化を実現しているケースはほとんどない。添付書類を後から郵送する別送方式か、従来どおりの紙での申請だ」(全国司法書士会連合会副会長・里村美喜夫氏)という。

 先のデジタル改革関連法の成立で、宅地建物取引業者に交付が義務づけられている重説の書面(35条書面)と契約成立後の書面(37条書面)は、今後1年以内にハンコが廃止されて電子書面化できるようになる。不動産の売買や賃貸は、もともと電子契約は可能なので、弁護士ドットコムの「クラウドサイン」などの電子署名サービスを使って今後は電子契約も普及していくだろう。

 中古マンションの売買契約を完了した後に、所有権移転登記を行う場合に必要な添付情報は下記の通り。

 ①登記識別情報(または登記済証)=売主が保有
 ②登記原因証明情報=売買契約書や代金領収書など
 ③代理権限証明情報=売主の実印付き委任状
 ④印鑑証明書=売主分
 ⑤住所証明情報=買主の住民票コードまたは住民票の写し
 
 築年数が10年程度の中古マンションであれば、①は売主に聞いた符号、⑤は住民票コード11ケタの数字を入力すれば済む。②も電子契約であれば、その電子データを添付すればよい。

 問題は、売主の印鑑証明と委任状をどのように電子化するか――。ほとんどの行政手続きではハンコが廃止されるが、印鑑証明が必要な手続きにはハンコが残る。その代わりは、公的個人認証サービスなどを利用した売主の電子証明書付き電子委任状になるだろう。不動産登記の申請人である買主も、オンライン申請するときに電子証明書が要る。

 「売主・買主ともに電子証明書が当たり前に使えるようになるには、マイナンバーカードの普及率が7割を超える状況にならなければ難しいだろう」(里村氏)と日司連ではみている。

 コロナ禍でマイナンバーカードの交付率は、10%台から2021年5月時点で30%を突破したばかり。政府は2023年3月末までに交付率100%をめざしているが、誰でも電子証明書を利用できる状況になるかどうかは未知数だ。

■2024年をめどに相続登記が義務化

 さらに所有者不明土地問題を解決するために、2024年をめどに相続登記の義務化が導入される。実家から離れて暮らす相続人たちが相続登記を行うときに、その負担を軽減するためにもオンライン申請は必要だろう。

 相続登記に必要な添付情報も、不動産売買による所有権移転登記の場合とほぼ同じだが、②の登記原因証明情報として、死去した被相続人と相続人の戸籍謄抄本が必要になる。戸籍そのものは電子化されているが、戸籍謄抄本は紙のままだ。登記官が直接、戸籍のデータベースにアクセスして確認すれば良いのだが、従来の業務フローのままなら紙の書類が残る。

 遺産分割相続では、相続人全員の実印を押した委任状も必要になる。所有者不明となっている土地の問題でも、所有者の名義を変更しないまま3代前から放置していると、権利者が100人ぐらいに増え、全員の実印を得るのに多額の費用がかかったという話も聞く。

 権利者全員がマイナンバーカードを保有して、世界中どこに住んでいても電子証明書付きの委任状を提出できるなら、相続登記の負担もかなり減るかもしれない。

 「誰もが電子証明書が利用できるようになるまでには時間がかかる。日司連としては、紙の添付情報を確認した司法書士の責任でオンライン申請を認めてくれるように法務省に対して要望している」(里村氏)。行政の役割を一部、民間が担うことで手続きの効率化を進めようという考え方だ。

 行政手続きのデジタル化を進めるにしても、紙で蓄積されていた膨大な書類を一気に電子化するのは困難だろう。官民が連携しながらデジタル化を進めて、社会全体のコストを下げていくという発想が求められる。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/31(月) 13:01

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