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「心に余裕がないとサービスはできない」仕事がキツくて帰れないアパレル業界に必要な「働き方改革」

5/16 5:01 配信

マネー現代

(文 苫米地 香織) 7日、東京、大阪、兵庫、京都で出されていた4都府県の緊急事態宣言について、今月31日までの延長が決定した。また愛知県と福岡県も12日から対象地域に加わることになった。

 いまだ収束の見通しが立たない新型コロナウイルスの感染拡大だが、緊急事態宣言の地域においても、百貨店ごと休業を余儀なくされたテナントもあれば、店舗規模の関係で営業を続け顧客が押し寄せるショップもある。じつは、自分たちの意図せざるところで「働き方」が決まっていくのは、これまでのアパレル業界の歴史とも重なる。

日本で一番アパレル販売員を取材しているファッションライターの苫米地香織さんが、アパレル業界でようやく始まった「働き方改革」の取り組みを紹介し、サービス業の働き方について提言する。

販売員の働き方改革は社会全体の課題解決につながる

 Twitterかブログかは失念したが、ネットで「心に余裕がないとサービス業なんかしていられない」という主旨の文章を見つけた。これには、たくさんのファッション販売員を取材してきた者としても、大いに共感した。

 サービス業の代表格ともいえるファッション販売員がどういう仕事をしているか、実は思った以上に知られていない。買い物をしに行った店先でしか出会わないため、表面的な“華やかそう”“遊んでいそう”というイメージが先行し、『好きなことを仕事にしている』と思う方もいるだろう。

 確かに店頭では好きな服に囲まれ、お客様にコーディネートを提案して販売したり、店頭でスマホを操作したりする姿を見ると一見「遊んでるの?」と見られがちだが、実際は異なる。集客のためにSNSチェックをしていたり、本部との連絡を取っていたりするのである。その他にも表から見えないバックヤード業務もあり、体力勝負な仕事でもあるのだ。

 接客をするために様々な知識や情報を得たいし、体力の回復もしたいファッション販売員にとって、悩ましい問題が、商業施設の長時間営業と年中無休での営業なのである。

 消費者としては「年中無休でいつでも買い物ができて便利だから良いじゃないか」と思われるだろうが、それが巡り巡って日本の経済や社会に悪影響を及ぼしているのではないかと、筆者は常々考えている。

「大店法撤廃」で便利になった小売業界だが…

 筆者が高校生のころ、1990年代までは百貨店はじめ商業施設には当たり前のように定休日があった。正月の初売りに家族や友達と買い物に行こうとなると、まずはチラシで商業施設の営業日を確認して何を買おうかと計画を立てたものだ。

 毎週水曜日はファッションビルが休みだから、個性的な街のセレクトショップに行ってみるということもあった。定休日が当たり前にあっても、それはそれで事欠くことはなかった。

 それが、2000年に大店法(大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律)が撤廃され、社会構造が変わっていった。大店法では大型店の出店に際し、開店日、店舗面積、閉店時刻、休業日数の4項目を「大規模小売店舗審議会(大店審)」が審査し、出店調整が行われていた。

 その中でも「店舗面積」に対して様々な紛争が起こり、店舗面積などの量的な調整は行わないとして「大店立地法(大規模小売店舗立地法)」が2000年6月に施行され、大店法は廃止となった。

 この規制緩和により全国各地で大型商業施設が増加した。営業時間や休館日なども施設運営企業の裁量となるため、元旦営業や21時や22時閉店の大型商業施設が増え、これまで定休日を設けていた百貨店も年中無休での営業へ切り替わっていった。

 消費者の立場で見れば、いつでもどこでも買い物ができるようになって便利になったが、その便利さの裏にたくさんの人たちの努力があることを知ってもらいたい。

サービス業の「慢性的な人手不足解消」に向けて

 大型商業施設は出店テナント一つひとつの売り場面積も広いため、接客要員としてだけでなく、防犯上でもスタッフを配置しておく必要がある。また、営業日や営業時間が増えればおのずとスタッフも必要だ。

 それまでは20時までの営業時間を早番・遅番でシフト調整してきたが、閉店の時間が伸びることで、その間の時間を埋める中番シフトもいないと休憩やバックヤード業務が回らなくなる。適切な店舗運営には実に多くのスタッフが必要なのだ。

 都心部の人気店や福利厚生や人事制度が整っている大手企業などは人材が集まりやすいが、地方都市の商業施設で話を聞くとかなり厳しい状況だ。よく耳にするのは、東海エリアの状況である。自動車関係の地場産業が発達しているため、そちらで働いた方が身体的にも楽で給料も良いという。そのため、いくら募集を掛けても中々応募者が集まらなくて困っているという。販売職は慢性的な人手不足なのである。

 販売は見ての通り、店頭にいる時は立ちっぱなしで、接客以外の業務では体力も使うことも多い。基本的に土日祝日はほぼ休めず、店は長時間営業で帰宅は深夜になることもある。異業種と比較しても給料が安い場合が多く、世の中からは「きつい・帰れない・給料安い」という平成時代の“3K”職業と揶揄されるにまでになった。

 2000年前半まではカリスマ店員ブームも後押しとなり、ファッション業界で働くことは“花形”で、中でもショップスタッフは憧れの的だった。渋谷109で働きたいと全国各地からスタッフ希望者が集まっていたが、それもカリスマ店員たちやそれに憧れていた客たちが大人になるのと共にブームは衰退していった。

 その背景には、“好きだからでは乗り越えられない現実”が垣間見えたからではないかと感じている。世間で言われる『やりがい搾取』である。個人的にはファッションが好きなので「そんなことはない!」と反論したいところだが、これが現実である。

 そして、この商業施設運営に危機感を抱いたアパレル大手のアダストリアと静岡市市街地にある商業施設、新静岡セノバが立ち上がった。

アダストリアと新静岡セノバが始めたトライアル

 「ローリーズファーム」や「ニコアンド」などを擁するアダストリアと新静岡セノバは出店テナントスタッフの働き方改革として『ささえあう働く時間プロジェクト』とスタートさせ、5月1日からは新静岡セノバで『トライ! 働く時間プロジェクト』が始まっている。

 新静岡セノバ(事業会社:静岡鉄道株式会社/運営会社:静鉄プロパティマネジメント株式会社)は、2011年に開業した鉄道・バスターミナル一体型の商業施設である。静岡市民の足となる交通機関、食品スーパーや飲食店、アパレル物販に映画館、銀行、クリニック、コンビニエンスストアなど、幅広い業種・業態が出店しているため、全館休業することが難しい。そういった複合施設でも可能なテナントスタッフに負荷の掛からない仕組みづくりとして、まずは3つの制度をトライアルすることになった。

 1つ目は営業時間に“コアタイム”を設定し、開店・閉店時間は各ショップの裁量で設定できる「営業時間フレックスタイム制度」。2つ目は全館休業日に加え各ショップが「パワーチャージ休暇制度」。3つ目は飲食・食物販などの店舗において、ピーク時間やアイドル時間の集客状況に応じて営業時間を変更(短縮)する「営業時間短縮」。この3つの制度を一部テナントが実施し、実証実験を行っている。
(2021年5月の営業時間についてはリンク先にまとまっている)

 『ささえあう働く時間プロジェクト』では、商業施設の働き方改革に関して、20~60代の男女1560人にアンケート調査を実施した。そこでは約9割が施設内の店舗ごとに営業時間、定休日が変わることに対し賛成と回答。

 回答者の中には「サービス業だけが土日休めない体制が何年も変わらないのは時代遅れだと思う」「それぞれの最適な営業時間があると思う」と理解を示す声もあった。

小さな一歩から始める「サービス業の働き方改革」

 2019年に大阪府にあるセブンイレブンFCオーナーが人手不足などを理由に本部に無断で時短営業したことで騒動となった。結果的には本部側が時短営業を認める形になり、それに追随して他のコンビニ系列も時短営業、深夜休業を加盟店に選択できるような流れができた。

 大型商業施設は24時間営業ではないので関係ないと思われる人もいるだろうが、根本的な部分は同じだ。

 強いて言えば、コンビニや食物販、飲食店は入店すれば必ず何か買うことになるが、アパレルは必ずしも購入に至る商品ではないという点で“接客”がとても重要になる。その接客を良いものにするには冒頭にも書いた「心に余裕がないとサービス業なんかしていられない」ということに繋がる。身体的な休息はもちろん、休日に行った場所、そこでの出来事、会話など、全てが接客に生かされていくのが販売職なのである。

 いつでも商業施設が開いているのは確かに便利ではある。だが、その便利さだけを優先した結果が社会の歪になり、人々の働き方や生活を窮屈なものにしているように思えてならない。これを機に、会社員に対する働き方改革ばかりでなく、サービス業の働き方改革にも目を向けてもらいたい。

 特に今、コロナ禍でインターネット通販を利用する機会も増え、実店舗にわざわざ行くほどでもない買い物と、実物を見て買いたいと思うものなど、消費者側も買い物の仕方に変化が出てきている。そういう今だからこそ、ファッション業界、小売業界は商業施設の方向性や実店舗の必要性、販売員の役割などを改めて考え直すきっかけになることを願っている。

マネー現代

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最終更新:5/16(日) 11:31

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