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幸せな組織をつくれる人と不幸にする人の決定差

5/15 13:01 配信

東洋経済オンライン

世界は、以前にも増して移ろいやすく、予測不能になった。企業は「いかに変化に適応するか」という競争にさらされている。
今後のマネジメントに重要となるのは、孤立やパワハラなどの「組織の病」を予防するために適切な介入・施策を行い、組織を幸せな状態に保つことだ。そのためにどうすればいいのか。人々の幸せを測定可能にする最新研究などを論じた『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』の一部を抜粋、再編集してお届けする。

■幸せな人・幸せな組織は生産性が高い

 われわれは、幸せと仕事や健康との関係について、「仕事がうまくいくと幸せになる」「健康だと幸せになりやすい」というふうに考えがちである。

 実は、20年間あまりのポジティブ心理学やポジティブな組織行動の研究が明らかにしたのは、因果関係はこれとは逆だということだった。

 「幸せだから、仕事がうまくいく」、すなわち、幸せにより生産性や創造性が高くなり、「幸せだと、病気になりにくく、なっても治りやすい」のだ。

 研究によると、主観的に幸せな人(幸せだと感じている人)は、仕事のパフォーマンスが高い。具体的には、営業の生産性は30%程度高く、創造性では3倍も高い。さらに、同じく幸せな人は、健康で長寿で、結婚の成功率も高く、離職もしにくい。そして、幸せな人が多い会社は、そうでない会社よりも、1株あたりの利益が18%も高い。このようなエビデンスに基づく知見が続々と得られたのである。

 なぜ、幸せだと生産性が高まるのだろうか。この疑問への答えを示唆する、スマートフォンを用いて行われた大規模な実験がある。2万8000人の被験者がスマートフォンに実験用のアプリをインストールし、アプリからの指示に従うという実験を行ったのである。このアプリは、時折、「今、何をやっていますか」「今、どんなムードですか」という簡単な質問を被験者に聞いてくる。被験者は、約1カ月間、この質問に答えた。

 この実験において、「ムードが低下している」と答えた人がそれから数時間の間に増やした行動が明らかになった。それはスポーツや散歩などの気晴らしになるような活動だった。これは、ある意味でわかりやすい結果である。

 ところが、「いいムードです」と答えた人が、それから数時間のうちに増やした行動は、意外であるとともに大変示唆に富んでいた。実は、いいムードで幸せな人は、面白くなくても、やらなければいけない活動を増やしたのだ。しんどくても、面倒くさくても、やらなければいけないことを、より多く行うようになっていたのである。

 仕事では、工夫をしたり、人に頭を下げたり、未経験のことに背伸びして挑戦できるかどうかで、結果は大きく異なってくる。主観的な幸福感やいいムードは、このような工夫や挑戦を行うための「原資」となる精神的なエネルギーを与えていたということだ。逆に、幸福感が低くなって、このような精神的なエネルギーや精神的原資が低下すると、気晴らしなどに時間を使うようになる。この場合、必然的に、しんどくて面倒なことは、先送りされる。

 この実験の結果を解釈すると、それ以前の研究で指摘されていた「主観的に幸せな人は、仕事のパフォーマンスが高い」「幸せな人が多い会社は、1株あたりの利益が高い」ということの理由が見えてくる。幸せな人は、重要だが面倒で面白くない仕事を、労をいとわず行うことができる。このような仕事は、行き詰まった局面を打開したり、変化する状況に適応したりするのに役立ち、成果は大きい。一方、幸せでない人は、精神的な原資や精神的なエネルギーが足りないため、このような面倒な仕事になかなか手をつけられないのである。

 そうなると次に湧いてくる疑問は、「では人々を幸せにし、生産性の高い組織をつくるには、どうしたらいいのか」というものだ。われわれはテクノロジーにより、それを明らかにしてきた。

■技術が心理研究・人間行動研究を変える

 先に述べたスマートフォンによる実験のように、人の心や行動を、学術的に明らかにする手法に、最新のテクノロジーが使われ始めている。

 私は多くの仲間たちとともに、過去15年以上にわたり、テクノロジーを活用して人間行動に関する大量のデータを収集し解析する研究を行ってきた。結果としてみると、これは世界の先駆けとなるものになった。

 その技術のひとつが、胸に装着する名札型のウエアラブル端末であった。この端末の画期的なところは、端末を装着している人どうしで、いつ誰と誰が面会したかのデータを収集できるようにした点だ。これにより、人と人とのつながりを表すネットワーク構造、すなわち「ソーシャルグラフ」(下図参照)が可視化できるようになった。

 (外部配信先では写真や図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 拙著『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』において詳細を解説しているが、ウエアラブル端末から得られた大量データと、質問紙による主観的幸福度の指標を解析すると、意外なことが次々に明らかになった。

 以前から、組織にとってコミュニケーションが大事、とよくいわれてきた。このウエアラブル端末を使えば、誰と誰がどれだけ対面でコミュニケーションを取っているかが客観的に数値化できた。

 意外なことに、コミュニケーションの量(時間や頻度)やコミュニケーション相手の人数に、組織の幸せとの関係はまったく見出せなかった。これらと幸せとの間には、ごく弱い相関さえもなかった。

 このことが表しているのは、一般論として、「コミュニケーションが多ければよい組織になるわけではない」ということである。コミュニケーションの量は、状況によって、ちょうどよいレベルがあるので、一律に増やせばよいわけではない、ということがわかったのだ。

 たとえば、プロジェクトの開始時に、新しく人が集められた状況を考えよう。仕事上、同僚になった人がどんな人で、どんなことが得意で、質問に対しどんな反応をしがちか、などは、最初はわからない。このようなときには、コミュニケーションを大いに増やすべきであるし、それができるかどうかで、仕事の進み方も大いに変わるであろう。

 一方、プロジェクトが終盤で、すでに決まった仕様に沿って、各人が実装やテストに集中すべきときには、むしろコミュニケーションを減らすべきだろう。そこで無理にコミュニケーションを増やせば、集中すべき作業への時間が取れなくなり、幸せではなくなるであろう。このような例を考えれば、一律にコミュニケーションは増やせばよいものではないことがわかる。

 ところが、データを詳しくみると、ポジティブで幸せな組織に普遍的にみられる特徴があることが明らかになったのである。これは裏返せば、ネガティブで幸せでない組織には、逆の特徴が見られるということでもある。ここではそのひとつを紹介することにしよう。

■幸せな組織は人どうしのつながりが均等

 その特徴は、人と人とのつながりのパターンに現れた。前述のように名札型ウエアラブル端末を使うと、誰と誰が対面による面会によってつながっているかがわかる。この人と人とのつながりを使って、ソーシャルグラフが描ける。

 実は、幸せな組織では、人と人とのつながりの網目が、組織内で均等に近く、フラットにいろいろなところがつながりあっているのだ。

 逆にいうと、幸せでない組織では、特定の人につながりが集中し、それ以外の人のつながりが少なくなっている。すなわち、つながりの数に関して「格差」が生じていた。

 先に述べたように、コミュニケーションの相手の多寡は幸せとは関係ない。しかし、つながりの総量が多い組織でも、総量が少ない組織でも、つながりが人によって偏っているかどうかが組織の幸せに決定的な影響を与えるのだ。

 つながりに格差のある組織では、「情報の格差」が生じる。つながりの少ない人は、つながりが少ないゆえに全体の情報をあまり持っていない。このために、確認したいこと、質問したいことが頻繁に生じる。

 そして、つながりの少ない人が、少ないながらつながっている先は、上司ということになる。ところが上司とのつながりは、上下の関係であり、常に評価される関係でもある。このため、確認や質問を行うと「そんなことも知らないのか」「それくらい自分で考えろよ」という低い評価を得るリスクが常にあることになる。そこで、リスクを避けるために、確認や質問をしないという選択をしがちになる。

 このほかにも、つながりを特定の人が独占すると、必然的に起きる好ましくない現象がある。それが「孤立」である。孤立した人が増えると、孤立した人だけではなく、集団全体のムードが悪くなる。全体の生産性や幸福度を下げるのである。

 このような話を聞いても、つながりの独占は自分には関係ないと思う人もいるかもしれない。しかし、これはよほど意識しない限り容易に生じる。

 上司と部下を線で結んだ組織図(あるいはレポートライン)を思い浮かべていただきたい(下図参照)。組織図とは、そもそも、上司が独占的に部下の全員とつながり、部下は上司とだけつながる形になっている。いわば上司がつながりを独占し、部下が孤立する構造である。

 従って、組織図通りのレポートラインに沿ったコミュニケーションを取ると、「データで証明された不幸な組織」ができあがる。

■組織図を越えてコミュニケーションをとることの大切さ

 マネジャーが仕事をするためには、何らかの形で権力が必要である。マネジャーの権力の源泉の1つが、組織図に沿った人事・予算・情報に関するレポートライン上の統制である。

 しかし、データは突きつける。この権力構造だけに頼った組織は、必ず不幸で生産的でない組織になるということを。従って、マネジャーは組織図やレポートラインに過度に頼ってはならない。「組織図を越えろ」とデータは突きつける。

 これは「できればあったほうがよい」という、いわゆる「ナイス・トゥ・ハブ(Nice-to-have)」 な選択肢ではない。組織図を越えなければ、従業員が不幸になり、ストレスや罹病が増え、離職が増えるのである。データによってこれが証明された今となっては、組織図やレポートラインを守る発想での職場運営は、マネジメントとして失格である。

 この要求に応えるためには、マネジャーは組織図上のポジションやレポートライン上の統制権限を越えた、1人の人間として独立した判断力、機動力、人的ネットワークが必要である。そして、何よりも、人間として魅力と誠実さ、人への敬意と共感が必要である。単に「立場が人をつくる」に頼ってはいけないということだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/15(土) 13:01

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