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大阪市で実験中の「オンデマンドバス」赤バスの二の舞避けられるか

4/17 12:34 配信

THE PAGE

 地下鉄やバス事業を展開する大阪メトログループは3月30日から、利用者が予約した日時や乗降場所に合わせて運行する「オンデマンドバス」の社会実験を大阪市内の一部で始めています。高齢者などの交通弱者にとってより移動しやすい社会の実現を目指すための取り組みですが、公共交通にくわしい学者は、路線バスと同程度の運賃設定では採算が合わない可能性もあると懸念しています。

スマホと電話の両方で予約可能

 オンデマンド交通は、運行する時間とルートが決められている路線バスとは違って、利用者が希望する乗車日時や出発地、目的地に応じて柔軟に運行する交通機関のことです。バスを使えばオンデマンドバス、タクシーを使えばオンデマンドタクシーと呼ばれます。現在、福岡県福岡市や大阪市河内長野市など各地で導入されています。

 今回の社会実験は、大阪市が募集した「AIオンデマンド交通の社会実験に関する民間事業提案」に基づくものです。市では、自宅から最寄りのバス停までの移動が困難な高齢者が増え、買い物や通院が思うようにできない「ラストワンマイル問題」の解決策として、自宅近くまで配車できるオンデマンド交通の導入を検討しています。

 その際には、配車などへのAIの活用によって交通事業者の人手不足の改善や運行の効率化も図りたい考えです。選考の結果、4件の提案の中から大阪メトログループが出した2件が選ばれました。2件のうち、1件は生野区、もう1件は平野区での案です。その後、学識経験者や交通事業者、住民らによる地域公共交通会議での協議を経て、実施が決まりました。

複数乗車の場合はAIによって最適なルートを割り出し運行

 社会実験が行われるのは、大阪市のうち、生野区西部、平野区加美周辺、平野区長吉東部周辺の3エリアです。同グループの広報担当者によると、これら3エリアは高齢化率が高い上に、人流データの解析結果から目的地に行く際に交通機関の乗り継ぎが必要になるケースが比較的多く、移動しにくい地域であると見込まれたため選ばれました。

 利用者は、スマホのアプリや電話を使って配車予約する時に、乗車したい時間やバス停、目的地のバス停などを指定します。運行時間は、午前6時から午後11時までの間。バス停は、各エリア内におおむね300メートル間隔で設置されており、生野区西部に73か所、平野区加美に66か所、平野区長吉東部に51か所あります。複数の利用者が乗車する際は、AIによって最適なルートを割り出して運行します。

 運賃は大人210円、小児110円。市内を走る路線バスと同じ金額です。アプリで予約する場合は、クレジットカードによるオンライン決済か現金支払いのいずれかを選べます。電話の場合は現金のみです。

 使用する車両は、最大で8人の乗客が乗れるワンボックス車。生野区西部の運行に3台、平野区加美に4台、平野区長吉東部に3台が割り当てられています。

 社会実験は9月末までの予定ですが、大阪メトロの広報担当者は「市には1年間行うということで提案していますので、できれば1年間続けたいと考えています」としています。

 社会実験を通じて、乗降場所の交通量、利用者の反応を含む各種データをつかみ、運行する際の課題などを検討した上で本格運行を目指します。

オンデマンドバスに乗ってみた

 このオンデマンドバスを実際に利用してみたいと思い、初日の3月30日に3エリアを訪れました。

 まず、生野区西部エリアの北西に位置するJR鶴橋駅前へ。前もってインストールしたスマホのアプリを開き、乗車場所であるJR鶴橋駅前のバス停を選択。目的地に同エリアの南東にあるJR東部市場前駅付近を選びます。

 予約は12時9分に完了。バスの到着予定は12時17分と画面に表示されました。まだ少し時間があると思い、一眼レフカメラをバッグから取り出してバス停の表示などを撮影していると、道路の向こうから、白いボディの一部に青い塗装が施されたオンデマンドバスが近づいてきました。

 時間をスマホで確認すると、予定より少し早い12時15分です。急いでカメラをバッグにしまうとほどなくバスが目の前に到着。スライド式のドアが開いたので乗車します。アプリを開いて予約内容を画面に表示させ、乗務員に予約番号を告げるとともに画面を示して、オンライン決済を確定させるボタンを押せば乗車手続きは完了。シートベルトを装着して、発車しました。

 この日は3エリアで各1回、合計3回乗車しました。アプリでの予約に文字入力は必要なく、画面に表示されたバス停や時刻を選ぶだけで済みました。視覚的にわかりやすく、3回目にはすっかりスムーズに操作できるようになりました。

 予約完了からバスの到着までの時間は最短で6分。いずれも到着予定時間とほぼ同じか、若干早く到着しました。呼べばすぐ来るような感覚で使いやすいと思いましたが、これは筆者が乗車した時間に乗客が少なかったのかもしれません。

 3回とも乗客は筆者1人で、他の乗客が乗り込んでくる場面はついにありませんでした。乗務員にも確認しましたが、皆、筆者が乗る前に相乗りになったケースはなかったと言います。

 ある乗務員は、「今日、バスの待機場所の近くで『(オンデマンドバスについて)使い方がわからへん』と声をかけられきた方がおられたので、説明させてもらったんです。そういう方がまだいっぱいおられるのかもしれません」と話していました。

「赤バス」の二の舞を心配する声も

 大阪市や大阪メトログループがオンデマンドバスに期待する一方、大阪市民からは、かつて市内を走っていたコミュニティバス「赤バス」の二の舞を心配する声も聞かれます。

 車両の赤い塗装がその名の由来となった赤バスは2002年1月、高齢者など交通弱者の移動支援などを目的に、同グループの前身である大阪市交通局が本格運行を開始しました。しかし、利用が低迷して採算性の確保が困難であるとして、2013年3月末に廃止されてしまいました。

 大阪メトロの広報担当者は「今回はあくまでも実験なので採算は考えていませんが、今後オンデマンドバスを拡げていく上では当然採算性を考える必要があると思います」としています。

運賃210円は安すぎる?

 今回の社会実験について、近畿大学経営学部の高橋愛典(よしのり)教授(地域交通論)は「運賃210円というのは採算を考えると安すぎます。地方のオンデマンドバスでは、距離にもよりますが大体300円から500円ほどの運賃設定が一般的です。社会実験ということで採算を取るつもりがないのかもしれませんが、本格運行に移行する際に、採算性を上げるために実験の時よりも運賃を値上げするようなことがあれば、市民が落胆して需要が伸び悩む可能性もあるのではないか」と指摘します。

 自治体がバス事業者などに運行を委託するコミュニティバスでは、運賃収入が運行経費を下回った分の差額は自治体が補填するのが常です。大阪市のオンデマンドバスも、本格運行で赤字が出た場合はどうするのでしょうか。運賃値上げか、同グループが赤字を許容するのか、それとも市が補填するのか。筆者は、赤字が発生した時の対応策が本格運行に向けた論点の1つになると予想しています。

専門家「オンデマンドバスの運行で一番大きな影響を受けるのはタクシー事業者」

 また、高橋教授は「オンデマンドバスの運行で一番大きな影響を受けるのはタクシー事業者です。タクシーの需要をもろに奪ってしまいかねません」とも。実験は始まったばかりであり、実際に影響が現れているのかどうかは定かではありませんが、3月30日に平野区内で客待ちをしていたタクシー乗務員は「オンデマンドバスがこの先定着するのかどうかまだわからへんけど、われわれとしたら不満。運賃安いし、タクシーが使われなくなるんじゃないの?」と口を尖らせていました。

 「地方では、タクシー事業者がオンデマンド交通の運行を担うケースもあります」と、高橋教授はタクシー事業者との連携も選択肢の1つとして検討の余地があると見ています。
(取材・文:具志堅浩二)

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最終更新:4/17(土) 17:02

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