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ウィーンで「日本の抹茶」人気が急上昇した理由

4/13 11:01 配信

東洋経済オンライン

 2021年3月、お茶業界に衝撃的なニュースが流れた。農林水産省が発表した2019年の農業産出額で、鹿児島県の茶産出額がお茶どころ・静岡県を抜き、初めて日本一となったというものだ。

 鹿児島県の地元紙は「鹿児島、茶産出額全国1位に」と大きく報じ、静岡県の地元紙は「静岡県 茶産出額1位陥落 史上初」という見出しを掲げ、「静岡茶ブランドを高めていくしかない」という関係者のコメントを伝えていた。

 日本の茶業界の現状を農水省の「茶をめぐる情勢」(2021年2月)で見てみよう。2019年の栽培面積は4万600haで漸減傾向にある。かつて10万トンを超えていた生産量は、近年は8万トン台だ。生産者は年々高齢化が進んでいる。

 65歳以上の割合を見ると、2000年の49%が2015年には56%に高まっている。茶園の約4割が樹齢30年以上と、こちらも〝高齢化〟(老園化)し、収量や品質の低下が懸念されている。

 一方、消費は、1世帯当たりの年間支出金額を見ると、緑茶飲料が緑茶(茶葉)の2倍(19年家計調査 1世帯 緑茶飲料7845円 緑茶3780円=年間)となっている。若者から70代まで幅広い年代で「お茶はペットボトルで飲む」という習慣が定着しているようだ。緑茶需要が高いのは70代以降のみである。

■2020年の日本茶輸出は過去最高

 そんな状況の中で一筋の光明は輸出である。2020年の日本茶の輸出額は162億円(輸出量は5274トン)と、コロナ禍にもかかわらず過去最高を記録した。2010年は約42億円だったから、10年間で4倍近くに拡大した。

 2020年の輸出先上位は次の通りだ(貿易統計)。

1位 米国 84億3600万円 
2位 台湾 15億4950万円 
3位 ドイツ 11億6200万円 
4位 シンガポール  7億4300万円 

5位 カナダ   6億6000万円
 米国とアジア、EU向けが大半だ。輸出相手は66国・地域に及ぶ。

 輸出総額の52%を占めるトップ・米国での日本茶人気はすでに知られているところだ。2000年代以降、健康志向で日本茶がブームに。今では全国チェーンのスーパーにも普通に置いてあり、抹茶、抹茶ラテ、抹茶アイスを楽しめるカフェも多い。

 日本茶輸出促進協議会が2017年にまとめた米国での消費動向調査によると、ロスの日系小売店へのヒアリング結果として

消費者の中では、抹茶が肌と美容にいいと聞き、それを試したく購入している人が過半を占める模様。その次に多いの消費者は、抹茶にすでに慣れ親しんでいる日本人
 といった記述がある。その一方で、日本人には信じられない話だが、スーパーなどで加糖の甘い緑茶飲料も販売されているところが、いかにもアメリカらしい。

 コロナ禍において日本茶の輸出が伸びた背景について、ある貿易関係者はこう語った。

 「やはり健康志向の高まりでしょうね。昨年は、緑茶に含まれるカテキンの一種であるエピガロカテキンガレートの抗ウィルス作用が話題になりました。コロナ禍が深刻化する中で、海外でも緑茶を飲む習慣が注目されたのではないでしょうか」

 コロナ禍における日本茶の輸出増加を物語る興味深い仮説である。

■輸出量・額とも急拡大のオーストリア

 2020年の日本茶輸出データで注目すべきは、前年の順位が23位だったオーストリアが13位に大幅アップしていることだ。詳しい数量、金額の変化はこうだ。

2019年 輸出量:5132㌔  金額:4187万円 ㌔あたり単価単価:8159円
2020年 輸出量:1万7970㌔ 金額:1億6481万円  ㌔あたり単価:9171円

 絶対量、絶対額では米国に遠く及ばないが、この1年で量で3.5倍、額では3.94倍に大幅に増えている。単価は米国向け4346円の倍以上である。

 輸出品の中身をみると、オーストリア向けは全て粉末状の製品となっている。こうしたことから、毎月、輸出状況をまとめている日本茶輸出促進協議会では「輸出茶種をみると粉末状が100%であり、単価が9000円を超えていることから、オーストリアは純正の抹茶を輸入している」と分析している。

 それにしても、なぜオーストリア向け輸出が急増したのか。その背景を探るべく、2019年以降の動きを調べてみると日本茶に関わる興味深い動きがいくつかみつかった。

①日本オーストリア友好150周年イベント 
2019年にウィーンでさまざまなイベントが開催され、千玄室大宗匠による平和祈念献茶式や愛知の茶生産者のプロモーション活動が行われた。
②JETROによる大がかりな日本茶商談会
2019年10月19社・団体が有機抹茶などを出品した。

③緑茶関税の撤廃
2019年2月発効の日EU EPAで3㌔以下3.2%だった緑茶の関税が即時撤廃された。
 それまでも、ウィーンでは、日本茶カフェの存在や日本茶の小売販売、ネット販売があったが、こうしたイベントや規制撤廃がウィーンでの日本茶・抹茶人気を押し上げた一因であることは間違いないだろう。

 そんなウィーンにおける日本茶・抹茶人気について、最近、ある有名人の興味深いコメントが目に留まった。ドイツ人のヴィオラ奏者と結婚し、1年の約半分をウィーンで過ごしている女優の中谷美紀が、3月9日、CMに出演している伊藤園の新製品発表会に現地からリモート出演し、こう語っていた。

 「私は海外の方と親しくなると、日本茶と、日本の作家さんが作られた急須と湯呑のセットをプレゼントしているんです。私たち日本人が思っている以上に、欧米では緑茶に対する認識が高まっているので、大変喜ばれますね。

 ヨーロッパでもいま空前の日本茶ブームで、とても伝統的な歴史のある頑固なカフェでも、最近は抹茶ラテが出てきたりするんですよ。今日もスーパーに買い物に行ったら、鉄瓶と湯呑のセットが飾ってありました。こちらではなぜか鉄瓶が人気なんです」

 緑茶製品のPRの場での発言ではあるものの、実際に日本茶を提供するカフェなどが増えているという。

■ウィーンに「日本茶」を広めた、ある日本人

 カフェ文化発祥の地・ウィーンで日本茶・抹茶文化が広まった背景には1人の日本人の存在がある。近藤常恭さん(89)である。ドイツなどで日本食品店や日本料理店を経営していた近藤さんは、1974年にウィーンに日本食品専門店「日本屋」を開店し、現地に日本食文化を広めてきた。

 この頃から日本茶の輸入販売も行っていた。そんな経験をもとに2006年5月、近藤さんの長女・愛弓さんが日本茶カフェを開業した。

 その人気店「Cha No Ma」(茶の間)のメニューには抹茶ラテや抹茶スムージー、八女玉露を使ったお茶、さらに抹茶ジェラートやヴィ―ガンズ抹茶アイスなど多彩な品が並んでいる。最近は何が人気なのか、なぜ、日本茶なのか、同店に聞いてみた。

 「コロナ禍においては袋売りの緑茶の売り上げが特に好調ですね。お店の人気メニューは抹茶ラテ、抹茶スムージー、おにぎり、手作り大福などです。お客さまは現地の方(主にオーストリア人)が90%、各国からの観光客が8%、在留邦人が2%といったところです」(マネージャーの久門千晃さん)

 店の経営が軌道に乗ったのは2009年ごろからで、開店直後は予想外の出来事もあった。

 抹茶を使ったドリンクのことを『毒緑』という見出しで紹介されたのだ。毒緑とは、毒々しい緑色を表現する際の慣用句だという。

 「そんなこともありましたが、健康食ブーム、スーパーフード人気などの背景に加え、飲料に適したおいしいウィーンの水道水という欧州の中でも恵まれた環境が重なり、一般的に広く認知される存在となりました。

 今では、抹茶はスーパーやドラッグストアでも取り扱われ、MATCHA Latteを通常メニューに入れているカフェも珍しくなくなっています。SNSでのビジュアルのインパクトも十分で、日本文化に特段興味のない層にも消費を促しているように感じます」(久門さん)

 店関係者、業界関係者の熱意に加え、健康食ブーム、水道環境、インスタ映えが日本茶・抹茶人気を後押ししたということか。抹茶というすばらしい日本の文化が、音楽の都であり、カフェ文化発祥の地であるウィーンで広まっている。なんともうれしい話である。 

■日本の輸出業者への影響は? 

 輸出側の状況はどうなっているのか。オーストリア向けに日本茶を輸出している抹茶メーカーなどにも話を聞いてみた。

 年間出荷量の半分を輸出している愛知県西尾市の老舗抹茶メーカー「あいや」。1888年創業で1983年に米国向け輸出を開始して以来、海外向けの抹茶輸出に取り組んできた。2001年には米国に現地法人を設立し、その後もオーストリア、ドイツ、中国、タイに現地法人を展開している。最近の輸出状況はどうなっているのか。

 「20年度は国内、輸出がちょうど50%ずつでした。輸出先はアメリカ、ドイツ、オーストリア、フランス、タイ、インドネシアなどです。オーストリア向けは、コロナ禍で巣ごもり需要が増え、抹茶、煎茶類の家庭用商品の売り上げがアップしました。オーストリアの現地法人の売り上げは、前年度比120%程度です。それまでは年次5%の売り上げ増でした」(広報担当者)

 あいやのオーストリア現地法人「Kissa Tea GmbH」の担当者に日本茶の売れ行き、人気の理由などをあいや広報を通して聞いてみたところ、次のような回答があった。

 「オーガニックスーパーで緑茶や、抹茶の30g缶や袋などがよく売れています。コロナ禍で健康に留意する人が増え、健康に良い緑茶、抹茶に注目が集まったためと思われます。購買層は、女性比率が高く8割。とくに20-40代のゾーンが強いですね」

 オーストリアだけでなくヨーロッパ全体で抹茶への好奇心が高まっているという。

 「抹茶が受けいれられているのは、ヨーロッパのメガトレンドにマッチしているからです。メガトレンドとは

 ①環境にやさしいこと
 ②身体にやさしい(健康に良い)こと
 ③ビーガン、ベジタリアンというライフスタイル
 ④SNSなどを通じたおしゃれなライフスタイル
 です。こうした背景のなかで、メガトレンドにマッチした日本茶・抹茶は広く普及してきています」

 同社が展開してきた抹茶、緑茶のPRの内容も大きく変わった。5年前はメディアを通じて抹茶とは何かについての説明風のPRだったのが、今はSNSを通じて、「身体にやさしい抹茶」「おしゃれなライフスタイルを実現する商品」として訴求している。

 こうした取り組みが奏功し、人気拡大につながっているというのだ。

■オーストリア「経由」での広がりも

 さらに静岡県の業界関係者はこんな興味深い話をしてくれた。

 「ウィーンには5年前からビジネスで毎年訪れていましたが、日本から輸出している分のすべてがオーストリアで消費されているわけではありません。オーストリア経由でチェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリーなどの東欧・中欧圏に流れているのです。

 2019年の商談会にも各国のバイヤーが来ていましたよ。東欧・中欧圏の生活水準はまだ高くないのですが、いいものにはお金を使う傾向があるんです。堅実なパリ市民とは違う(笑)。オーストリアだけでなく東欧・中欧圏も含めると、日本茶・抹茶の潜在マーケットは、いまの何倍にも膨らむんじゃないでしょうか」

 オーストリア、ヨーロッパならではの特徴もある。単なる日本茶人気というだけでなく、オーストリアやドイツなどでは有機栽培茶へのこだわりが強い点だ。「Cha No Ma」の久門さんもこう強調する。

 「オーストリアは、有機栽培農地が人口比で欧州一という調べもあるそうで、消費者の有機栽培食品への理解と需要がとても高いのが特徴です。

 最近は、日本の生産者の方々もヨーロッパにおける有機食品の需要の高さに合わせた商品開発や栽培を進めていらっしゃるように感じます。

 実際に、弊店オープン当初に比べ有機栽培のお茶の種類も格段に増え、品質も良くなっていると感じます」

 高品質の有機茶への需要が高いということだ。実際、茶の輸出量に占める有機JASの割合は、米国向けが約20%であるのに対しEU向けは約84%と圧倒的に有機が多い(2019年:農水省調べ)。

 今後、オーストリアを起点にこうした動きが東欧・中欧圏に拡大していけば、日本の生産者にとっては、新たなビジネスチャンスとなる可能性を秘めている。

■日本茶「海外進出」160年で本格普及へ

 日本から茶が本格的に輸出されるようになったのは、1858年に徳川幕府が米国との間で日米修好通商条約を締結した後である。1859年に181トンが輸出されている。その後、政府は海外の博覧会を通じて日本茶の輸出拡大を図るが、米国以外では受け入れられなかった。その米国においては、20世紀初頭の段階では、緑茶にミルクと砂糖を入れて飲まれていたという。

 かれこれ160年あまりを経て、日本茶・抹茶は世界を相手に本格的な広がりを見せ始めている。

 「お茶はペットボトル」という文化が定着した国内市場よりも、おしゃれな抹茶文化が広まり、高品質の有機茶へのニーズが高い海外市場に活路を見出す動きが加速するのではないか。高齢化した日本の生産者が代替わりしていくなかで、国内から海外に目を向ける後継者が増えていくーー。ウィーンをはじめとする欧米での日本茶・抹茶人気の高まりを見るにつけ、そんな未来像が浮かんでくる。

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最終更新:4/13(火) 11:01

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