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新駅設置に路線延伸、地方鉄道「元気の秘訣」 ひたちなか海浜鉄道社長が明かす経営の軌跡

4/13 4:31 配信

東洋経済オンライン

全国の鉄道会社が輸送人員を減らす中、茨城県を走るひたちなか海浜鉄道湊線が元気だ。コロナ渦の影響を受けつつも、3月13日に新駅「美乃浜学園駅」を開業させた。
そして、1月15日に湊線の3.1km延伸も決定し、2024年開業に向けて動き出している。コロナ渦で元気がない中で、なぜひたちなか海浜鉄道は元気なのか。吉田千秋社長に話を聞いた。
 ――コロナ渦で鉄道に明るい話が少ない中で、ひたちなか海浜鉄道湊線の延伸が決まりました。美乃浜学園駅も開業しましたね。かつて廃線の危機にあった路線が、全体として輸送人員を伸ばし、新駅や路線延伸に結び付いたのは驚異的です。秘訣はあるのでしょうか。

 日本の人口自体が減少していますから、全体としての鉄道利用人員が減るのはしかたないと思います。でも地方鉄道は経営努力の余地があると感じます。湊線には”伸びしろ”が多くあり、そこを突けたのが大きいと感じます。

■キーマンがいると違う

 ――湊線の活性化に行政がはたした役割は? 

 市長の「鉄道を残す」という姿勢にブレがありませんでした。銀行が茨城交通に「不採算部門を切り捨てなければ融資不可」と要求していたとき、市長が銀行に直談判したのです。キーマンがいると違うと思います。

 ――伸びしろとは、おさかな市場、アクアワールド、国営ひたち海浜公園といった観光資源でしょうか。

 おさかな市場とアクアワールドに年間100万人、ひたち海浜公園が同200万人が訪れます。私が在職していた富山地方鉄道の立山黒部アルペンルートが100万人です。1つの市が400万人の観光客が訪れる施設を抱えているのは、“おいしい”ですよね。

 ――そうした施設と連携されたのですか。

 おさかな市場の商工会議所と連携し、湊線の乗車証明書を持つお客様には食事や買い物で割引が受けられるなどの“おまけ”を付けました。また、施設や旅行会社とも連携しおさかな市場、ひたち海浜公園を結ぶツアーに、湊線を組み込んでいただきました。

 ひたち海浜公園は、入場券付きの乗車券を持つお客様を団体客とみなして、海浜公園側で団体客として入場券を回収しました。団体料金が適用される入場料金割引も重要ですが、より重要なことは「お待たせしない」ことです。海浜公園は混雑するとバスでも乗用車でも入場許可券が必要ですが、鉄道利用者は「乗車券付属入場券」で待たずに入場できるようにしてもらいました。これで鉄道のほうが利便性は高くなりました。現在では前売り券を買えば、車やバスでもそのまま入れるようになりましたが。

 ――定期券の改善など地域の利便性向上に力を入れている一方で、派手な観光列車などは導入していませんね。

 観光列車はお金がかかるんですよね。当社は高校生が顧客なので、年間定期を実現し「乗ってください」と宣伝したら、潜在需要を取り込めました。

 ――美乃浜学園駅も顧客を考えて、行政に設置の働きかけをしたのですか。

 少子化で周囲の小中学校が統合しまして。美乃浜学園駅は、学校から新駅を呼びかけて行政が動いたのです。弊社も入学説明会のときに説明をさせていただきました。

 ――通学の足ですね。子どもが鉄道を認識し、顧客になるといいですね。

 親しみを持ってもらいたいですね。通学なので単価は安いですが、安定的に収入が得られるのでありがたいです。

■ニーズに合わせてダイヤを変える

 ――新駅としては2014年に高田の鉄橋駅が開業されました。どのくらいの利用者を想定していましたか。

 ふたを開けたら案外乗っていただいています。自治会からの要望もあり、自転車置場を増設しました。

 ――きめ細かい施策が集客につながっているように感じます。

 目の前に駅があると利用するのだと感じました。さらなる新駅も検討しています。今までの鉄道業界は「自転車置き場増設」のような「対応が難しくなく、費用が高額でもない」問題で動く意識が乏しかったのでは、と感じています。

 私の息子はバスで高校に通っています。始業時刻の3分前に到着するバスがあり、その前のバスは30分前です。このバスが10分前に着けば、バスの乗車率は上がります。でも、一般の方にその話をしたら「利用する側がバス会社にそんなことは言えない」と。

 ――その提案が実現すれば乗客は便利になるしバス会社も収入が増える、ウィンウィンの関係ですよね。

 ええ。でもお客様の距離感はそうなのです。ダイヤを変えるのは難しくはないのですが。

 ――湊線は利用者の要望に応じてダイヤを変えることはあるのですか。

 海洋高校に通う生徒さんの要望で変更しました。船乗りを養成する学校なので、遠方から生徒が来ます。ダイヤ変更で古河や船橋から通う利用者が増えて、増収になりました。

 地域に対して調査したこともダイヤ変更に生かしています。調査の結果、地域が湊線を「5~23時まで40分ごとに走る、実用的な交通機関」と認知していなかったことがわかったのです。宣伝したら、通勤需要も増えました。

 ――地方鉄道としては40分間隔でも便利ですよね。路線延伸で阿字ヶ浦駅に交換設備を設置して、全線で最短20分間隔にすると報じられていましたが。

 勝田―那珂湊駅間は朝夕は10分間隔で運転していますが、この区間と那珂湊―阿字ヶ浦駅間の距離が同じくらいです。阿字ヶ浦駅で交換すれば、全線で同じ運転間隔にできます。毎日そうする必要はないですが、ひたち海浜公園が賑わうトップシーズンにも対応できます。

 ――路線延伸時に車両数も4両増やすと報じられていましたが、どんな車両を導入されるのですか。快速列車も走らせるそうですね。

 編成を3両にして、全線で20分間隔を実現するには必要です。導入車両はまだ決まっていません。よい中古車の出物があるといいのですが。快速については片道35分、5分折り返しで40分くらいにしないと、20分間隔の運行ができないので、途中駅を通過する列車が必要なのです。

 ――運用上の逆算なのですね。路線延伸はどのように実現できたのですか。

 行政からの要請もあり、協議しました。ひたち海浜公園まで伸ばせば、海浜公園利用者200万人のうち、10%が湊線を利用したとしても、今の収支の倍となる2億円の増収ですから、経営は安定します。そうした観点での要請でしょう。

 ――延伸で年間利用客は50万人増えると報じられています。

 それは国に提出した「堅く見た数字」ですね。延長での誘客効果とか、新駅とあわせて整備するショッピングセンターなどは査定に入れていませんので、100万人くらい増えるかもしれません。

■延伸工事の資金負担は? 

 ――事業者が建設費の3分の1を負担すると報じられていますが、資金面で問題ありませんか。

 現時点では、国が建設を認可した状況なので、お金の話はこれからです。ただ、建設費78億円の3分の1は26億円です。年間2億円増収になるとして、13年で回収できます。一部借り入れの前提で、利子も計算しましたが、10数年で減価償却が終わるという見通しです。こうした採算面と安全性の検討の結果、国から許可が得られました。

 ――ちなみに、引退したキハ222形が鉄道神社になるという話が出ていますね。同じ国鉄形のキハ205形も維持されるのですか。

 鉄道神社については、新駅に設置しようと考えています。地域の神社とも協力していきたいです。キハ205については、次の検査までは走らせますが、その後は部品がないのでわかりません。部品を作ると、新車みたいな金額になりますし……。

 ――ダメならもう一つの鉄道神社にして、ご利益2倍とかに……。

 キハ222形と2両連結して、縁結びとかね(笑)。

 ――吉田社長は2008年から長年にわたって社長を続けてきましたが、実現できたことと、これから実現したいことは何でしょうか。

 地方鉄道に前途がないといわれていたのを、湊線についてはなんとかできたことは「達成できたこと」です。路線延伸に78億円かかりますが、延伸すれば鉄道維持どころか地域活性化のモデルケースになると考えています。

 ――社長就任時と現在で地方鉄道をめぐる状況は変わりましたか? 

 この時期を生き残った路線はどこもそうですが、鉄道を残そうという空気ができましたね。2018年に廃止となった三江線のようなケースもありますが、直線で行けば30分の距離を、鉄道で2時間かけていく線形とか、集落から橋を渡らないと利用できない駅の位置など、湊線の現状とは前提が違います。路線の置かれた前提を考えずに、一様に論じてほしくはないですね。

■まだ伸びしろはある

 ――吉田社長は「ローカル鉄道・地域づくり大学」の代表理事としても、公共交通機関の活性化に尽力されていますね。

 はい。長崎、鹿児島、若桜鉄道さんなどで、実現した施策があります。町づくりと鉄道をリンクさせると、町も発展します。鉄道は鉄道だけのものではないということです。湊線で実現したメイドトレインを大手の西武鉄道さんが取り入れたという例もあります。西武さんのすごさは、その後で沿線のアニメを集めて、アニメの鉄道づくりを始めたあたりですね。さすが大手だなと。

 ――ひたちなか海浜鉄道さんもアニメ「ガールズ&パンツァー」とコラボしたこともありますね。最後に、現在の鉄道状況をどう見ていますか。

 コロナで通勤や観光は元に戻らない。それなら沿線の付加価値を創出しなくてはならないと思います。当社では車庫見学に地元の名産品を組み合わせたツアーが好評です。自転車やウォーキングとの連携もできそうです。鉄道の外に目を向けると、思わぬ反響があり、まだまだ伸びしろがあると考えています。

東洋経済オンライン

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最終更新:4/13(火) 4:31

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