IDでもっと便利に新規取得

ログイン

東芝「車谷社長解任」は幻に終わった…!?買収騒動で提出されなかった「取締役会の議案」

4/13 5:01 配信

マネー現代

周到な根回しがあったとすれば

(文 町田 徹) 「実は、あの日の東芝の取締役会には、取締役・代表執行役社長兼CEOの車谷暢昭氏の解任決議が諮られるはずだった」――。

 4月7日朝、英投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」から2兆円を超える資金を投じて買収するとの提案を受けたと経済紙に報じられ、車谷CEOは自宅とみられる建物の前で、テレビのインタビューに応じた。

 にこやかな表情で、買収提案を受けた事実を認めたうえで、その扱いを「これから取締役会で検討する」と話したのである。この姿を見たのだろう。東京株式市場ではこの日、高値買い取りを期待した投資家の買い注文が殺到し、東芝株は制限値幅いっぱいのストップ高と急騰した。

 しかし、当初から、この買収提案には、車谷CEOら経営陣が自己保身を狙って禁じ手に手を染めたのではないかとの指摘が存在した。

 そうした中で、筆者のもとに届いたのが、冒頭の驚くべき情報だ。東芝のコーポレートコミュニケーション部は筆者の確認取材に「取締役会の日程および内容については公表しておりません」としか回答していないが、実際のところ、車谷氏のガバナンスは、投資ファンドなどの大株主から信頼を失ったばかりか、東芝の指名委員会が同社幹部を対象に行った調査でも不信任が過半数に達したと報じられている。

 任期中の解任という情報は噂の域を出ないが、次の株主総会にかかる取締役人事案で再任される可能性はほぼゼロだったと言わざるを得ない。

 こうした中で、車谷氏の保身に動いたのが、CVCと経済産業省だ。東芝の永山治・取締役会議長が9日に公表したコメントによると、CVCの買収・株式非公開化の提案書は「初期的かつ法的拘束力のない」の生煮えのものだった。

 ところが、関係筋によると、車谷氏の留任を求める文言はしっかり明記されていた。また、経済産業省は、車谷氏を留任させてCVCの提案を受け入れれば、障害になりかねないと懸念される外為法の事前審査にゴーサインを出すとの意向を東芝側に伝えたという。

 つまり、身の危険を察知した車谷氏サイドが動きを封じるため、CVCと経済産業省に周到な根回しをしていた疑いと、今回の買収提案が、M&A(企業の合併・買収)の世界で禁じ手とされる「経営陣の自己保身」だった可能性は濃厚と言わざるを得ないだろう。

 これらの疑惑を放置すれば、遅れているとされてきた日本企業のコーポレート・ガバナンスの出鱈目さを裏付ける案件として国際的に記憶されることにもなりかねない。

ガバナンス不在のゴタゴタのあとで

 東芝は日本を代表する大企業であり、長い歴史もある。それにもかかわらず、なぜ、このような事態に陥ったのだろうか。

 この会社では、今から6年前の2015年4月、いわゆる粉飾決算事件が当局への内部通報によって発覚して以来、ガバナンス不在のゴタゴタが続いて来た。

 粉飾については、5カ月後に、税引き前利益の水増しが2014年度の第3四半期までの6年9ヵ月間に2248億円あったと決算修正を行い、取締役の過半数を社外取締役に入れ替えたものの、事態は打ち止めにならなかった。

 翌2016年12月には、そもそも経営がおかしくなるきっかけとされた米原子力関連会社ウエスチングハウスで巨額の損失が存在することが判明。

 2017年8月になると、東京証券取引所が、東芝は事実上の経営破たんを意味する債務超過に転落したと判断、東芝株を東証1部から2部に降格させた。

 債務超過が2年続くと上場廃止になるので、その解消を目指して増資を断行して約6000億円を調達したのが、2017年12月のことである。

 この間、ガバナンスの不全は、目先の損失の穴埋めに追われて、医療機器やPC、半導体といった「虎の子の高収益部門」を相次いで切り売り。安定的に収益を確保して生き残ることさえ危うい状態を招く始末だった。

 こうした中で、東芝再建とガバナンス再構築を託されたのが車谷氏だ。同氏は1957年生まれ。東大経済学部を卒業、旧三井銀行に入行した。「三井銀行のドン」とよばれた小山五郎氏の秘書役を務めたほか、企画畑が長い。三井住友銀行の誕生後は、同行の副頭取や三井住友フィナンシャルグループの副社長を歴任した。

株主から支持が得られない車谷CEO

 が、三井住友銀行の頭取レースに敗れ、あてがい扶持のグループ会社社長に就くことを嫌った。自ら見つけたというのが、英投資ファンドCVCの日本代表というポストである。このCVCが今回、東芝に買収を持ちかけたファンドなのだ。

 車谷氏はその後、2018年6月に東芝(取締役・代表執行役会長兼CEO)に転身。2020年4月には現職(取締役・代表執行役社長兼CEO)に就いた。

 東芝入りの決め手は、福島第一原発事故後の東電国有化のスキーム作りで協力した経済産業省の官僚たちの強い推しだったとされている。確かに、筆者が当時取材したところ、三井住友フィナンシャルグループは一切の関与を強く否定した。

 ところが、3年近いCEO在任期間を振り返ると、期待に反し、再建やガバナンスの確立は進んでいない。肝心の業績は、2020年3月期に1146億円の最終赤字に転落。2020年1月にはIT子会社で架空取引の事実が発覚した。

 決定的だったのが、株主の信頼を得られなかったことだ。

 発端は、去年7月の株主総会だ。焦点だった車谷CEOの取締役再任議案は可決されたものの、その賛成比率は58%。この種の提案への信任は100%近いことが珍しくなく、異常な低さだった。

 半面、ガバナンス改革が不十分だとして、シンガポールに拠点を置くエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが同社創業者の今井陽一郎氏を東芝取締役に推した株主提案は否決されたものの、43%と異例に多い賛成を集めた。

東芝株非上場化の先にあるもの

 2020年9月になると、さらに深刻な話が露呈した。締め切り3日前の消印があったにもかかわらず、期日までに届かなかったとして、行使させなかった議決権が存在した事実が明らかになったのだ。無効扱いされた議決権行使書は約1300通に過ぎず、大勢に影響はなかったとされるものの、ガバナンスに対する株主の不信は一気に高まった。

 複数の外電が、東芝の議決権の4%を持つアメリカのハーバード大学の基金運用ファンドに対し、経済産業省の関係者が圧力をかけたと報じる問題も起きた。

 東芝経営陣の意に沿わない形でエフィッシモなどと連携して議決権を行使しようとすれば、改正外為法の調査対象になる恐れがあるなどと指摘、思いとどまるように迫ったというのである。大株主のガバナンス不信は抜き差しならないところまで嵩じてしまった。

 株主の要求に抗し切れず、東芝は今年3月18日に臨時株主総会を開催した。この場では、エフィッシモの株主提案が賛成比率57.9%で承認され、去年7月に開いた定時株主総会の議決権行使の実態調査のために弁護士3人が選任されることになった。

 こうした中で、車谷氏らの再任を疑問視する向きが増えていたのである。

 株主と経営陣の対立が決定的になりつつある状況で、東芝の取締役会がCVCの提案に賛同して、その狙いとされる東芝株の非上場化を実現することは、目の上のたんこぶ状態のエフィッシモなどの大株主が一掃されて経営陣の立場が安泰になる、つまり自己保身が完結することになりかねない。

 前述のように、車谷氏の前職がCVCの日本法人会長であるうえ、現在のCVC日本法人の最高顧問である藤森義明氏が東芝の社外取締役に名前を連ねている事実をみれば、車谷氏解任の動きを察知した両者が連携して、その阻止に動いたと疑われるのは当たり前のことだろう。

 取り繕うために、取締役会が車谷氏と藤森氏を外してCVC提案の扱いを審議すればよいという法律家のコメントを報じている新聞もあるが、両者がすでに4月7日の取締役会の議論に参加していたとすれば、そうした措置も無意味になりかねない。

責任は東芝だけのものではない

 東芝のガバナンスが有効に機能していると証明するには、車谷氏と藤森氏の辞任か解任が避けられない可能性が大きい。さもないと、取締役会も、自己保身のために会社や株主の利益をないがしろにするトップの利益相反の試みにお墨付きを与えたことになりかねないのだ。

 政府・経済産業省は、東芝が原子力や防衛関連といった日本の安全保障に影響を与えかねない事業を手がけているという理由で、東芝の経営に関与する誘惑にかられているのかもしれない。

 しかし、日本は自由主義国、資本主義国であり、それらの関与はあってはならないことだ。端からガバナンス不全の企業を非上場化などすれば、ますますガバナンスの監視機能が働かなくなる。

 むしろ、こんな会社に対して、国策支援までして、福島第一原発の廃炉作業に必要な除染用のロボット開発を委ねることのリスクの大きさこそ重視しなければならない状況なのである。

 最後に、事実上破綻していた東芝に対して、何度も無理筋の救いの手を差し伸べて延命や上場維持に手を貸してきた政権や金融機関、証券取引所の時々の責任者も猛省が必要だ。彼らこそが、東芝問題を長引かせて混迷させた張本人なのである。

マネー現代

関連ニュース

最終更新:4/13(火) 7:31

マネー現代

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング