IDでもっと便利に新規取得

ログイン

パンデミックをリストラの口実にしては日本では経営は成り立たない

4/13 5:01 配信

マネー現代

米国型=短期・リストラ経営は正しいか?

(文 大原 浩) 中国・武漢発のウイルスとそれに対する「恐怖」は、世界中の経済・社会に大きな打撃を与えた。

 しかし、その打撃の程度は業種によってかなり異なる。メディアによく取り上げられる飲食、宿泊、旅行が「惨劇」とも言える打撃を受けていることはよく知られているだろう。その他、小売りなどの被害も大きい。

 さらに、航空会社も危機的状況にあり、「日本の航空会社を1つだけにする」ということも真剣に検討されているようだ……

 また、目立たないがJR東日本をはじめとする鉄道各社は、出張削減(停止)や在宅勤務の普及(通勤が無くなる……)などで苦境に追いやられている。仕事そのものの形態が変わってしまえば、巨大な装置産業である鉄道事業全般の将来は暗闇の中だと言えよう。

 それに対して、ゲーム産業などは巣ごもりの恩恵を受けて好調であるし、その他の業種でも「交通費」「宿泊費」などの経費が減少したことにより、減収・増益になっている場合がしばしば見受けられる。

 好調・堅調な業種においてわざわざリストラをするべきではないのは当然だ。また、苦境に陥っている業種でも、「当たり前のようにリストラ」するのは誤っていると考える。

 日本型経営でも「有事」の際にはリストラを行うが、その場合、2019年8月16日の記事「従業員の不信を引きずったパナソニックに復活はあるのか?」1ページ目で述べたような、松下幸之助を代表例とする「血の通った手法」を取ってきた。

 日本型経営の根幹は「人間同士の信頼関係」にあるのだ。

 「苦境にある時にこそ『本当の人間性』がよくわかる」のだから、パンデミックの打撃を受けている企業こそ、「従業員との信頼関係」を大事にすべきである。

 そこで、「今こそ日本型経営を重視すべき理由」を考えて見たい。

日本は中間層が分厚い

 まず、米国型=短期・リストラ経営は、米国という国の文化を背景として生まれたものだということを思い起こすべきだ。

 私の米国在住の友人たちの多くも同意見だが「米国は良くも悪くも『山師』の国」である。「山師」というのは言葉のイメージが良くないが、本来は鉱物資源などを、大きなリスクを背負いながら探索するチャレンジャーである。

 1848年ごろに起きたカリフォルニア・ゴールドラッシュはあまりにも有名だが、金を採掘しようと殺到した人々は、スコップさえ持たずに着の身着のままでやってきた。そのため、彼らにスコップを売った商売人の方が、採掘者たちよりもはるかに儲かったと言われるほどだ。

 つまり、「金脈がありそうならとりあえず駆けつけ、無ければ次の金鉱を探す」=「条件の良い仕事を常に探し、リストラされてもめげずに次の仕事を見つける」というのが彼らのメンタリティであるということだ。

 だから、米国型=短期・リストラ経営は、働く側に受け入れられやすく、米国社会で比較的うまく機能するというわけである。

 もちろん、米国でも、かつてのIBMや投資の神様バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイに代表される終身雇用型の企業は少なくないが、働く人の多くが「一攫千金」を目指して転職することをいとわないのは事実だ。

 それに対して、日本では「山師」的な資質を持った人は少ない。むしろ、2月28日の記事「1400年の歴史、世界最古の会社が日本に存在している…!」で述べたような「継続性」が重視される。

 そして、この継続性を支えるのが「実際の業務を行う分厚い中間層」なのである。

独裁型の欧米企業

 欧米在住の友人たちが口をそろえて言うのが、「欧米のトップエリートは物凄い能力を持っているが、その他の大多数の人々の能力は決して高くない」ということだ。

 それに対して、日本は「トップエリートの能力はそれほどではないが、大多数の一般の人々の能力が極めて高い」のだ。

 欧米企業が「トップダウン型」の独裁型経営を行うのは、この文化的背景によるところが大きい。

 例えば英国では、貴族と庶民では話す英語や体格までが違うが、貴族を含むエリート階層は「ノーブレス オブリ―ジェ(noblesse oblige)」という言葉に象徴されるような、重い社会的責任を負うのが当然とされる。そして、自己研鑽にも励むから、当然能力も向上する。

 欧州は全般的に階級社会の色彩が強いが、上層階級には責任も伴うという考えだ。米国でもこの考えは基本的に受け入れられている。

 したがって、彼らを中心としたリーダ~たちは経営においても高い能力を発揮するのが通常だ。

 しかし、それ以外の人々は逆に、そのような能力の高いトップエリートの「駒」として使われる存在であると位置づけられる。

 米国は「一攫千金型社会」だから、一般従業員の中からも切磋琢磨し上り詰める人間が存在するし、英国もビートルズのポール・マッカートニーやヴァージングループ創業者のリチャード・ブランソンなどの成功者は貴族扱いをする。

 しかし一般的に言えば、その他の国々も含めて、「指導者層」と「一般従業員」の間には大きな隔たりがある。例えば、役員食堂と一般職員の食堂はまったく別でお互いに交流することはまず無いし、日本の大手メーカーのように、「社長が工員服を着て現場に出向く」などということは、彼らには想像さえできないことである。

 つまり、欧米流のリストラというのは、トップの指導者層が「自分の持ち駒を増やしたり減らしたりする」という感覚で行っているのだ。

 本来の潜在能力は高いのかもしれないが、「駒」扱いされる一般従業員のモチベーションが強いとは思えず、質の高さを望むのは難しいと言える。

日本では担ぐ人が大事だ

 それに対して、日本は「現場力」が高い。確かに、西洋型経営の侵食を受けてはいるが、「日本型経営の魂」はまだ失われていないと思う。

 事実、私からも見ても日本のトップの指導者の能力は、欧米に比べて見劣りする場合が多い。しかし、それは決して悪いことではない。

 欧米では、一般従業員に多くのことを望めないから、優秀な指導者が無理やり牽引しないと経営が成り立たない。

 それに対して日本では、昨年5月22日の記事「安倍首相を叩く『アベノセイダーズ』が、民主主義を捨て全体主義に走る理由」5ページ目で述べた、志村けん氏のはまり役「バカ殿」でも十分リーダーが務まる。

 つまり、殿以外の人材が極めて優秀だから、殿がどれだけ馬鹿でも組織が成り立つのだ。むしろ、殿は細かいことに口を出さない方が、優秀な人材が自由に動けるから物事がうまく運ぶ傾向がある。

 「おみこし型経営」とは要するに「バカ殿」をおみこしに乗せて優秀な人材が担ぐというやり方だ。

 だから、「おみこし型経営」では、殿が部下をリストラすることは考えにくい。「誰を担ぐかを決めるのは、担ぎ手である部下」なのである。

 「殿」は実務能力にすぐれている必要はない。それどころか、業務に精通している必要さえないのだ。大事なのは部下が担ぎたくなるような「優れた人格」や「人間的魅力」を持っていることなのである。

 志村けん氏の演じる人間味あふれる「バカ殿」に、部下たちが振り回されながらもついていくのは、「日本型経営」の象徴だとも言える。

他人を蹴落として出世することが幸福か?

 私がクレディ・リヨネ銀行に転職する際に、ヘッドハンターから2つのオファーがあった。1つはクレディ・リヨネ銀行(フランス国営)、もう1つは米系証券会社(名前は明かされなかった)であったが、迷わずリヨネを選んだ。

 大いなる偏見であるのかもしれないが、周囲のトレーダーたちから「米系の金融機関は冷酷だ」という話を聞いていたからだ。

 彼らによれば、米系では、「夏休みを取ると、隣りの席の同僚が勝手に引き出しを開けて顧客ファイルを持ちだして電話をする。休暇が終わって戻ってみると、顧客のほとんどが隣の席の同僚に奪われている」とのことだ。

 この件は、いまだに確かめたことが無い。しかし、「ある日、出社するとエレベータの横に『次の者出社に及ばず』という張り紙がしてあり、入室のカードキーが無効になっていた」という話を当事者から直接聞いたことがある。

 実際、米系だけではなく、「家族主義的日本型経営」ではない「社内での競争を奨励する経営」は、「実力主義」という美名のもとで、血みどろの戦いが起こることが多い。

 例えば、クレディ・リヨネ銀行は、日本では法律の規制の問題があり証券会社が別にあったのだが、それぞれのテリトリーが区分けされて平和であった。

 しかし、ある日、銀行と証券を競い合わせて業績を上げるという方針が採用された。法律が許す範囲であるが、両者は「仁義なき戦い」に突入し収拾がつかなくなったため、間もなくこの方針は撤回された。

 また、私が学生時代A職と呼ばれるアルバイトをしていたリクルートでは、営業所ごとに決められていたテリトリーを撤廃し、日本全国どこでも営業ができるようにしたことがある。

 この時にも、熾烈な競争が起こり、さらには潜在顧客から「(営業所は違うが)リクルートから何回も電話がかかってきて迷惑している」とのクレームも入って、やはり終了した。

 多くの企業が、社内の部署同士の競争を行わせようとするが、大概最終的には失敗するのは「実力主義が意味するのは『社内全員がライバル』」ということであるからだと考える。

勝利に導くのはチームワークだ

 原点に戻って考えてほしい。なぜ多くの人々は、自分1人で自由に仕事をせずに、「会社」という組織(チーム)で働くのか? 
 それは、自分1人で働くよりもチームとして動いた方が、全体として大きな結果を残せるからである。

 もちろんビジネスのタイプによっては、個人で動いた方が効率的な場合もあるが、そもそも会社を起業するのは、組織で動いた方が効率的だからである。

 そして、会社という組織を効率的に機能させるのは「チームワーク」である。スポーツチームでも、個々の選手の技能がすぐれているのにチームワークが今一つで試合に勝てない事例はよく見受けられる。

 だから、チームワークを重視する日本型経営は、組織としての会社の潜在能力を引き出す最高の方法であると言って良い。

 そして、チームワークはお互いの信頼によって生まれる。パンデミックで経営が苦しいからと言って安易にリストラすることは、この重要な信頼関係にひびを入れることなのだ。経営者は、そのことに十分注意を払うべきである。

マネー現代

関連ニュース

最終更新:4/13(火) 5:01

マネー現代

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング