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北朝鮮「オリンピック不参加」の裏にある悲惨

4/11 10:01 配信

東洋経済オンライン

 北朝鮮による東京オリンピック不参加の発表は、明らかに韓国、日本双方にとって残念なニュースだった。韓国政府は北朝鮮との関係を再び活発化させようと必死の努力を続けてきており、オリンピックをそのための舞台として利用するつもりだった。一方、日本は北朝鮮に続いて、新型コロナウイルスの脅威を理由に不参加を決める国が出てくるのではないかと危惧している。

■経済が機能不全に陥っている

 ただ、北朝鮮のこの動きは予想できたものだった。オリンピック不参加の決定は、ここ数カ月のうちに北朝鮮で表面化していた問題のごく一部でしかない。最大の問題はパンデミックにほかならない。これにより、国境を越える貿易はほぼ途絶し、感染拡大に対処できる医療保健システムの欠如が露呈した。

 諸問題の根底にあるのは、システムの破綻と国際的制裁により、経済が機能不全に陥っていることだ。これにより北朝鮮政府の貴重な外貨収入の多くが失われている。目にはほとんど見えないが、最大の危うさをはらむのが反体制感情の高まりである。抵抗につながる動きを抑え込むため、金正恩政権は内部統制を強め、強力なイデオロギーキャンペーンを加速させている。

 最近脱北した人たちから集められた情報、あるいは、国連専門家パネルが国連安全保障理事会に提出した年次報告は、こうした危機の高まりを示す重要な証拠である。

 しかし、最も明確な証拠は、金政権そのものに見出すことができる。1月の朝鮮労働党大会以来、政権は自らの失敗を率直に認めているのである。4月7日、北朝鮮最高指導者の金正恩は、労働党に対し「この過去最悪の状況にあって、われわれはかつてないほど多くの困難を克服せねばならない」と呼びかけた。

 北朝鮮の経済・社会生活の最小単位までカバーする党幹部ネットワーク「細胞書記大会」は、生産拡大にスターリン主義的手法が用いられることを示し、国民の不満を抑えようと呼びかけるものであった。北朝鮮報道機関はこう伝えている。「党細胞は先頭に立って反社会主義的、非社会主義的行動を速やかに排除し、道徳規範確立を強力に推進しなければならない」。

 公式プロパガンダを見ると、主要経済分野において不足と崩壊が生じ、今や部品などの供給が止まっていることがわかる。咸興と安州の巨大な化学肥料の工場はもはや正常に機能しておらず、集団農場にはその不足分を埋めるため、人糞を上品に言い換えた「都市部から出る肥料」が運ばれている。

 北朝鮮事情に詳しい政治アナリストのウィリアム・ブラウン氏が詳述したところによると、北朝鮮では壊れた、時代遅れの設備を動かす燃料、電気が不足している。

 北朝鮮に関する信頼できる情報源デイリーNKによると、政権は軍の配給物資の不足により、兵役期間を10年から7~8年に短縮した。兵役を終えた兵士たちは、再び鉱山や工場での労働に動員されている。

■「国境地帯では、餓死している人もいる」

 外国の外交官や援助活動従事者たちが、比較的状況の良い平壌から逃げ出している。離任を控えたロシア大使館の職員は、フェイスブックに「医薬品を含む生活必需物資の極端な不足と、保健衛生上の問題を解決できる可能性の欠如」について投稿している。

 北朝鮮での長期にわたる活動経験を持つ西側の援助活動の専門家は、「東京オリンピックに参加しないという北朝鮮の決断は、保健衛生上と政治的な決定であり、私にしてみれば、驚くべきことではない。北朝鮮に残っている欧米人はごくわずかであり、北朝鮮の人々と直接接触することも非常に困難になってきている。北朝鮮で何が起こっているのか実際のところ誰もわからない」と、語る。

 中国との国境地域で参考までに話を聞いた限りでは、生活必需品の欠乏が深刻化していることがうかがわれる。昨年9月には、北朝鮮国内の生活困窮者を密かに支援している宣教師が、人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員であるリナ・ユン氏に次のように語っている。

 「ここ2カ月間、中国から北朝鮮へ食料がほとんど入っておらず、物乞いが以前にも増してたくさんいる。国境地帯では、餓死した人もいる。石鹸、歯磨き粉、電池がない。単三電池がなければ家の時計を動かせず、時間さえもわからない。時計はずっと止まったままだ」

 パンデミックを喰い止める目的で1年以上前に始まった国境封鎖は、北朝鮮の計画経済の崩壊を加速化させ、それまで格差を埋めてきていた二重構造の市場経済の運営を弱体化させてきている。

 1月の労働党大会では、金正恩と党指導部が、市場からの部分的な撤退と国家計画経済へ復帰、そして主に中国経由で外部から流入してくる情報や思想に傾倒する大衆を厳格に統制することを示唆した。

 ブラウン氏は、投資がほとんどなく、生産のための輸入部品や原材料の不足が深刻化していることから、北朝鮮の経済は縮小しつつあると、書いている。

 「基本的な食料供給は、飢饉を防ぐのに十分足りているように見えるものの、国民の多くは、通常中国から輸入される最も基本的な日常品の欠如に苦しんでいる。その一方で、数人の起業家たちが、ほとんど無給状態にある役人たちに賄賂を贈りながら、富を蓄積している。また、8年間にわたって安定していた通貨と物価が、今では非常に不安定となり、現金に対し投機的な環境を作り出している。これらが相俟って、確かに厄介な状況だ」

■「感染者がいない」という主張の意味

 ただちにではないが、中国との国境貿易再開の準備の兆しが見られることから、ある程度の支援物資が送られてくる可能性がある。そうだとしても、「北朝鮮が中国との国境再開を恐れる本当の理由は新型コロナの流入ではなく、ドル、人民元、そしておそらく北朝鮮の国民が流出することだ」(ブラウン氏)。

 新型コロナの流行が北朝鮮に与える影響については、北朝鮮に詳しい専門家の間で、いくつかの議論がなされている。「感染者がいない」という主張は、専門家によって退けられており、またそれは、現体制が同ウイルスの蔓延をおそれている証拠でもある。

 北朝鮮の兵士が通常パトロールしている非武装地帯の共同警備区域に、定期的にアクセスしている韓国駐留のアメリカ軍の高官の話によると、北朝鮮側の職員の大部分は、彼らの複合施設にこもっており、外に出てくるときは全身をオレンジ色の化学防護服で完全装備しているという。

 昨年1月以来、彼らとの対面での接触は途絶えているとのことである。この高官が、ここ数カ月にわたって、主に経済的困窮が原因で国境を越えた脱北者2人に面談を行ったところ、下層階級に属する彼らは、魚を食べると病気が伝染する可能性がある、などの北朝鮮に拡散している恐怖論について詳しく語ったという。

 これらの保健衛生上の懸念にかかわらず、北朝鮮政府は従来人道的な保健衛生関連の支援を行ってきた韓国や国際機関との対話を拒否している。北朝鮮政府は世界保健機関(WHO)の国際共同プログラムからワクチンを受け取る契約を結びはしたが、外国人スタッフの入国を認める体制を整えたわけではない。

 国連の専門家パネルの報告書によると、同政府はそうした行動をとる代わりに、誇示することが目的の病院を平壌に建設するといった「無用の長物」のプロジェクトに注力しているという。

 先月発表された国連の報告書によると、「どうやら建物の竣工についての包括的な計画さえ用意されないまま建設が開始されたようだ。政治的に定められた無理な期限に間に合わせようと建設は大急ぎで行われた(が、間に合わなかった)。しかも、政府は病院の運営に必要な設備や備品・消耗品を確保することなく建設をスタートさせた」。

■出稼ぎ労働者からの資金も断たれた

 「史上最悪」の状況の裏には、とりわけ2017年以降に国連安全保障理事会がより広範な制限を課すようになって以来の、国際的な制裁の影響がある。北朝鮮高官として世界規模の資金獲得オペレーションに深くかかわってきた最近の脱北者によると、それらの制裁は実際、驚くほど効果的だという。

 いくつかのアフリカ諸国は、長年北朝鮮の武器を購入し、医師、技師、建設労働者などの労働力を雇用していたが、2017年後半に始まった国連の圧力によって北朝鮮との関係を断った。ナミビア、ウガンダ、アンゴラ、ギニアといった国は、欧米の圧力によって北朝鮮へのこうした資金の流れを遮断し、これを裏切り行為とみなした金正恩を激怒させたことを、先の元高官が最近、アメリカの専門家小グループに明らかにした。

 国連制裁によって、ロシアやペルシア湾岸諸国に送り込まれていた何千、何万人もの北朝鮮人労働者からの収入の流れが断ち切られた。先の脱北高官によると、稼いだ額の大半を政府に吸い上げられていた約3万5000人のそうした労働者が、過去2、3年に国を立ち去った。建設現場や工場で、さらには調理師やレストラン従業員として雇われていた人たちだ。

 北朝鮮への送金は、手の込んだ媒介組織を通じてなされ、資金は電信で中国の両替所に送られ、ハードカレンシーに両替されて北朝鮮に移された。北朝鮮はその資金をミサイル・核計画や、体制の威信のための凝ったスキーリゾートなどのプロジェクトに使用していた。

 先の脱北高官が専門家に語ったところでは、「そのすべての資金は金正恩のものになり、彼が適切と判断するとおりに使用される。これがあの国のシステムだ」。
同高官は、制裁は効いていると考えている。「北朝鮮は破産寸前だ。このままでは、体制はもたなくなると思う」。

 ただしこれは、信頼できる崩壊予想というよりは脱北者の願望の表れである可能性がある。北朝鮮政府は生き延びるための別の方策を見つけ出しているからだ。

 国連の報告書には、現在実施されている制裁が、北朝鮮から中国への石炭輸出と、その見返りとして石油や他の物資が流入する流れを断ち切ろうとしつつも、この数週間、公式の貿易統計に表れない実際の取引水準が増加しているありさまが詳細に記述されている。

 ハードカレンシーの流れに対する制裁措置の影響は、政権のサーバー作戦本部である偵察総局が行った広範なサイバー犯罪により、いくらか軽減されてきた。

 ラザルス・グループ、ビーグルボーイズ、ブルーノルフ・グループなどの北朝鮮人民軍偵察局(RGB)傘下に置かれたハッカー部隊は、仮想通貨取引所やその他の金融機関からの盗難に成功しており、国連の報告書によれば、それらの作戦から得られた収益は2019年~2020年11月の間に少なくとも3億1600万ドル(約345億円)に上るという。

■金正恩は今、何を考えているのか

 専門家たちは、金正恩が実権を明け渡すのもそう遠くないところに来ているという期待に警告する。

 「徐々に強まっているに違いない圧力にもかかわらず、金は解決のカギは自分が握っていると感じている可能性が高いため、必死に交渉しようとはしていない」と、ブラウン氏は語る。金正恩はまだ、自分の地位と政権を維持するために待ちの戦術を取り、中国を頼りにすることができる。

 ただし、オリンピックに関しては、金正恩はいつでも考えを変えることができる。

 「日本と韓国は北朝鮮のオリンピック参加を望んでいるため、金正恩は自国チームの参加を保留することで、ある程度の力を得ている」と、ブラウン氏は指摘する。北朝鮮人たちはギリギリのタイミングであったとしても、「何か見返りが得られれば考えを変える」可能性がある。変わらないのは、金政権にかかる「これまでで最悪の」脅威に膨らんでいる根本的な問題である。

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最終更新:4/13(火) 9:17

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