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西田敏行「男らしさに囚われない」名優の魅力、「男は黙って〇〇」が美学とされた時代の異端者

4/11 11:01 配信

東洋経済オンライン

 はにかむ。ただ単に恥ずかしがるのとはちょっと違う。恥ずかしがりながらも、相手に甘えるような、何かを仕掛けるような仕草。さりげなくはにかむのは、ものすごく難しい。

 「ちょっとはにかんでみて」と言われてもそう簡単にはできない。この「はにかむ」を得意とし、極上のはにかみで魅了する俳優がひとりいる。御年73歳、昭和・平成・令和の茶の間を笑いと涙であふれさせ続ける西田敏行である。

 49歳の私にとっては父親のような存在。幼い頃から彼の姿をテレビで観続けたので、新聞社勤務で不在がちだった実父よりも身近に感じる、といったら言い過ぎかな。濃厚な記憶の始まりは『池中玄太80キロ』(1980年・日本テレビ)だ。

 通信社のカメラマン・池中玄太役の西田に、父を寄せていたのかもしれない。あんなに情が厚くて熱い人ではなかったけれど。当時、私は三女の弥子ちゃん(安孫子里香)と同じ年くらいだったが、酒とたばこと怒号と喧嘩にまみれて仕事をしながらも面白おかしくて笑顔が温かい西田を、理想的な父親像として観ていた気がする。

 笑顔ってのが実はすごく重要で、当時は大の男が満面の笑みを見せづらい時代だったから。「男は黙って〇〇」が美学とされた時代に、あの全方位外交な満面の笑みを振りまきつつ、男ならではの荒々しさや弱々しさも装備。決して二枚目ではないというのも大きい。私が二枚目・ハンサム・イケメンと呼ばれる俳優よりも、三枚目の俳優が好きなのも、おそらく原点は西田敏行のせいである。

■昭和の子供を夢中にした名作『西遊記』

 観る者の涙腺を刺激する池中玄太の前に、どうしても外せない作品がある。名作『西遊記』(1978年・日本テレビ)だ。ゴダイゴの歌2曲は今でも口ずさめるほど(あ、英語の歌詞は鼻歌ね)。日本と中国が友好関係にあった時代を象徴するドラマで、三蔵法師を演じた夏目雅子の初々しさと美しさを凝縮した作品だった。

 西田が演じたのは猪八戒。豚の妖怪である。主役の孫悟空(猿の妖怪)は堺正章、沙悟浄(カッパの妖怪)を岸部シローが演じた。

 この絶妙なキャスティング、そして3人のアクションと丁々発止が当時大人気だった。

 古代中国の物語なのに、堺はべらんめえ調の標準語、西田は東北弁、岸部は関西弁という奇天烈さ。場当たり的なアドリブの応酬が実に自由奔放。この一行が天竺を目指して旅をして、各地で妖怪や悪人を退治する成敗モノであり、特撮の面白さと不思議な異国情緒を味わえる稀有なドラマだった。そりゃ昭和の子供は夢中になりますって! 

 このときの西田がとにもかくにも可愛い。オープニング映像での「はにかみ」といい、フードがついたツイード調の衣装・頭頂部に毛糸のぼんぼりがついたキャスケット帽といい、まるでディズニーキャラクターのような可愛らしさ。腕はそこそこ強いが、いかんせん色と食の誘惑にめっぽう弱く、女好きの大飯喰らいという生臭い役どころ。

 でも、不思議といやらしさは感じない。駄々をこねたり、文句垂れたり、仲間を裏切ったりと、かなり難ありのキャラにもかかわらず、なぜか憎めない。部分的に観なおしと思ったらハマって、全26話ノンストップ視聴してもうた。

■性別と年齢を一瞬で越える術

 子供の頃は純粋に面白さに惹かれた。今観てもなお惹かれるのは、西田に「無駄な男らしさ」がないからだと気づく。男として強く賢くかっこよくありたいという願望をまるっと捨て去り、人なつっこさとチャーミングな仕草で中性的な立ち位置に回る。

 一瞬にして男に甘える女、あるいは大人に甘える子供になれるのだ。特に、男性へのスキンシップ、ハグやキスをここまで自然にできる俳優は稀有。堺に謝罪のキスをしたり、しなをつくって抱きつくのはおそらく西田のアドリブであり、得意技でもある(西田は劇中、男性の共演者にキスすることが案外多いのよね)。

 第23話は、妖怪の術がかかった水を飲んで、なんと西田(と岸部)が妊娠するという話だ。妊娠して芽生えた親心の仕草や表情が、なんともおかしくて愛おしい。西田は性別と年齢の壁を一瞬で越える術を持っているのだ。

 妖怪だけが悪く描かれる勧善懲悪ではないところも、このドラマの奥行きの深さである。あの頃のドラマの定番、芥川隆行のナレーションも昭和の宝だったなぁ。

 出演作をすべておさらいするわけにはいかないので、私の好きな西田に絞り込んでいこう。まず、世間の枠組みからちょっとはみ出した人や、社会に適応しにくい人を演じるときの西田が好きだ。地位も名誉も権力も威厳も金も資産もない。秀でた才能があるわけでもない、どこにでもいそうな人物をゼロから作り上げる。

 有名なところでいえば、映画『天国の駅』。戦後初の女性死刑囚を吉永小百合が演じて話題になったが、彼女を慕う心優しい知的障害の男性・ターボ役。西田の初の自伝本『役者人生、泣き笑い』(河出書房新社)には、当時の思いや驚愕のエピソードが書かれているので、ぜひ読んでほしい。これを読むと、西田が今まで出演してきた作品を全部観たくなってしまうので要注意(すごい数なんだよ……)。

 映画『自虐の詩』の主役・中谷美紀の父親役も捨てがたい。なかなかのクズ父で、強欲な恋人(名取裕子)のために強盗を働き、川俣軍司ばりに白ブリーフ一丁で逮捕される。その後、娘が勤める中華屋にひょっこり現れ、自然と居座る。昭和の有名な事件の犯人の要素を詰め込んだような人物だった。でも、憎めない。

 愛らしさでいえば『ステキな金縛り』の更科六兵衛役も3本の指に入れたいところ。人間じゃなくて、ある殺人事件の証人として法廷に立たされる落ち武者の幽霊だ。哀愁漂う落ち武者スタイルの幽霊だがちっとも怖くない。ダメ弁護士役の深津絵里に振り回されるのが愛らしくてね。

 熾烈な闘いや醜い争いから身を遠ざけた人の心に潜む、狡猾さや臆病な部分も浮かび上がらせつつ、芯にあるのは人としての優しさ。単純に見えて実は複雑な男の心根を、西田はさりげなく的確に演じてきた。逆に、映画『学校』では社会の仕組みからこぼれた人々の心の拠り所となる、夜間中学の教師役。こぼれた人から教わることがいかに多いか。こぼれた側を演じることが多かった西田は適役だった。

■劇中劇で光るエンターテイナー

 歌手としてMCとしても才能を披露してきた西田。ドラマや映画の中に舞台が登場する「劇中劇」系でも、そのエンターテイナーっぷりで魅了。私が観た限りでは劇中劇の元祖は『淋しいのはお前だけじゃない』(1982年・TBS)だ。

 西田が演じたのはサラ金(今でいえば闇金)の取り立てを生業とする男・沼田。ヤクザの愛人(木の実ナナ)が大衆演劇の役者(梅沢富美男)と駆け落ちしたのをかくまったがために、借金2000万の連帯保証人にさせられてしまう。アコギで膨大な利息がつく借金を返済するために、大衆演劇の一座を結成する物語だ。

 毎回「名月赤城山」「瞼の母」「忠臣蔵」など、物語に添った演目のシーンがあり、劇中劇が見事に物語に重なっていく。西田の張りとボリュームのある声、くっきりした二重は大衆演劇でここぞとばかりに生かされ、外連味たっぷりに演じる。コメディだが、闇金に手を出して苦しむ人々の憂いと情けなさをシニカルに描いた社会派ドラマでもある。

 この系譜にあるのが、宮藤官九郎脚本シリーズといえる。古典落語が現実の物語とシンクロしていく『タイガー&ドラゴン』(2005年・TBS)、そして能の演目と家族の心模様が重なっていく『俺の家の話』(2021年・TBS)だ。

 それぞれで西田は昔気質の落語家、能楽の宗家で人間国宝として登場。落語にしろ、能の謡にしろ、迫力と説得力満点。落語「まんじゅうこわい」の一席では、栗まんじゅうと葛まんじゅうと蕎麦まんじゅうの違いが見えたもんね。いや、もう西田の手元に饅頭が見えたくらい。伝統芸能もお手の物、真のエンターテイナーってこういうことか、とひれ伏す。

 そうそう、映画『ゲロッパ!』では弱小暴力団の親分役。ジェームス・ブラウンの「Get Up(I Feel Like Being a)Sex Machine」をステージで見事に歌い上げた。マイクパフォーマンスと小刻みの独特なステップもね。

■いつか演じてほしい、あの人を

 まだ日本が豊かで、エンタメ業界が良作を生み出すためにお金をしこたま出せた80年代の大作や名画、歴代の大河ドラマにも数多く出演している西田。そして出身地である福島県に、ずっと思いを寄せていることも伝わってくる。そういえば「かすかたれ」という福島弁も西田が教えてくれた言葉だ。

 大けがに大病を経て、足も悪くなってしまった西田だが、まだまだこれからできる役はたくさんある。自伝本のエピローグでも「田中角栄をやってみたいなア」と書いている。過去にも実在の人物を多数演じてきた。歴史上の人物はもちろん、冒険家・植村直己や作家・色川武大(阿佐田哲也)、新聞記者・田畑政治も演じた。

 うん、西田の角栄、観てみたい。原作は孫崎亨の『アメリカに潰された政治家たち』か、真山仁の『ロッキード』で。中途半端な再現ドラマではなく、戦後はびこって今に連綿とつながる日本の政治の闇に斬りこむ作品にしてほしい。日曜劇場では無理か。WOWOWかNetflixかな。中曽根康弘は石橋蓮司か伊武雅刀あたりで。

 (文中敬称略)

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最終更新:4/11(日) 11:01

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