IDでもっと便利に新規取得

ログイン

なぜ日本はマスク好き?その意外な歴史的背景

4/8 10:01 配信

東洋経済オンライン

緊急事態宣言は解除されたものの、新型コロナウイルスの感染拡大は収束の気配がなく、マスクを手放せない日々が続いている。そのマスク、日本ではコロナ以前から多くの人が身に着け、身近だった。一方、欧米では重篤な病気にかかっている人がするものとされ、マスクを着けている人は敬遠されていた。国や文化の違いによって捉え方が大きく異なる、不思議な存在だ。
マスクはいつから、誰が、なぜ使ってきたのか。「マスク大国日本」の歴史を軸に、慶應義塾大学文学部訪問研究員の住田朋久氏に尋ねた。

■マスクの原型が登場したのは1836年

 科学史・医学史の領域で研究を続けてきた住田氏は、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、マスクの歴史を調べ始めた。その時点でマスクの歴史に関する研究は、日本はもとより世界を見てもほとんどなかったという。そのため、過去の新聞や雑誌、小説、民俗について書かれた書籍などを片っ端から調べて、マスクに関する情報を丹念に集めることから研究は始まった。

 「現在のマスクに直接つながるものが現れたのは1836年です。イギリスのジェフリーズという医師が、呼吸器疾患の人のための『レスピレーター(呼吸器)』として開発しました。これは今、私たちが使っているマスクと同じような形状で、鼻と口を布で覆い、両端に付けられた紐を耳にかけて使っていました。

 ただし、中には格子状の金属が入っていて、息を吐くとそこで温度や湿度が保たれ、温かく湿った空気を吸うことができるという仕組みです。1862年の第2回ロンドン万国博覧会にも出品されています。

 そのレスピレーターが1877年頃までに日本に入ってきました。少なくとも、1879年のレスピレーターの広告が資料として残っています。医療者や患者を対象としたものではなく、一般の人向けのもので、色は黒でした。東京など都会でのファッションアイテムとして人気を博しました」

 意外なことに、140年以上も前の日本でマスクはトレンドアイテムだったのだ。

 感染症予防のためにマスクを着けるようになったのは、それより遅く、1900年ごろから。人から人に伝染する「肺ペスト」が流行し、大阪で数名の医師やその家族が亡くなったことを契機に、医療者が感染症予防としてマスクを着けるようになる。そのマスクは白色が多かったという。

 「ペストと関係があるかはわからないのですが、1898年から1902年にかけても東京でマスクの着用が流行しました。防寒の目的だったようです。

 そして、1918年に始まったインフルエンザ(スペインかぜ)のパンデミックを機に、日本の多くの人が感染症予防のために使うようになりました。今と似たような状況ですね。

 その後、防塵や防寒のために日常でも使われるようになりました。当時の写真などに鼻や口を布で覆った人々が多く登場します」

■配膳のときのマスクも自然発生的に生まれた習慣

 「日中戦争が始まり、国家総動員法が公布された1938年ごろには、生徒たちが学校でマスクを着けて戦地へ送る物資を作っている様子が雑誌に掲載されています。第2次世界大戦の後、学校給食を配膳する際に衛生管理としてマスクを使うようになったのは、その名残の可能性があります。

 皆さんも配膳するときにマスクを着けていた記憶があるのではないでしょうか?  これは国や自治体が指導して徹底させたわけではなく、現場から自然発生的に生まれた習慣のようです。今回、私たちが政府や自治体から強制されたわけでもないのに、自発的にマスクをつけたことと、これも似ています」

 高度経済成長に伴い、日本では1960年代から各地で大気汚染が深刻になっていく。1980年代になると、花粉症が爆発的に流行し始めた。そうした結果、マスクはますます身近になっていく。一方、近年では、若い世代を中心に「だてマスク」なども広がり、マスクがファッションとしても定着。独自のマスク文化が育まれてきた。

 日本のマスク着用率を長期にわたって調査したデータはないが、新型コロナウイルスが広まった昨年春からは、各国の着用率のデータがある。

 日本リサーチセンターとイギリスの調査会社YouGov社が、23の国・地域で実施したインターネット調査(2020年3~5月から2021年2月上旬まで)によると、「公共の場ではマスクを着用する」と回答した割合は、日本では2020年3月中旬に62%だった。

 それが、1度目の緊急事態宣言が出されていた5月上旬には86%に急上昇。2度目の緊急事態宣言が出されていた2021年1月中旬にはついに90%に達した。2月上旬になっても88%となり、高い水準を保っている。

 一方、同じ期間、アメリカも5%から80%へ、フランスは12%から81%へ、スペインも25%から88%へと急伸した。住田氏は「各国ではマスクの着用が義務化されたことで着用率が伸びました。各国と比べ、日本は例外的に義務化されていないことを考慮すると、着用率は非常に高いと言えます」と話す。

■朝鮮や中国では100年前から「マスク着用=日本人」

 住田氏はこれまで、自然保護や大気汚染の歴史について研究を進めてきた。雑誌『現代思想』に花粉症の患者会に関する文章を寄稿したところ、編集部から「マスクについて書いてみないか」と勧められ、昨年春から幅広い資料に当たり、分析を続けている。

 では、この1年間の研究でマスク史の何が見えてきたのだろうか。

 「韓国や中国の研究者と議論する中で知ったのですが、20世紀前半、日本の植民地だった朝鮮半島の京城(現在のソウル)では、『マスクを着けている人=日本人』と見られていたそうです。

 また1930年代の上海では、日本兵の黒いマスクは衛生的であると同時に暴力性の象徴であると、中国の人たちに捉えられていました。朝鮮や中国にとっては約100年前から、マスクが日本の象徴だったということを知り、驚きました」

 感染症にかかりたくないという気持ちは、万国共通のはず。しかし、アメリカでは、マスクの着用を巡って市民が口論することもある。

 では、なぜ私たちは、マスクを着けることに違和感や抵抗感があまりないのか。「横並び意識の強さ」「人にうつしたくない」「清潔好き」など、日本人の国民性と重ねて語られることが多いが、住田氏はどう考えているのだろうか。

■新しい生活様式を積極的に取り入れようとした一環

 「1930年代にスペインかぜが流行したとき、欧米でも多くの人がマスクを着けていました。でも、それは定着しませんでした。一方、日本ではマスクを着けることが定着し、日常の一部になりました。私が取り組んできた歴史的な側面からは、“過剰な近代化”と言えるのではないか、と考えています。

 日本は明治時代の文明開化で近代化を進めた際、“西洋=近代的ないいもの”という意識が強く、西洋のものを過剰に取り入れてきました。その後も日本社会には、それぞれの時代で新しい生活様式を積極的に取り入れようとする機運がありました。マスクの浸透もその一環だったのではないかと見ています。

 私の研究の範疇ではありませんが、文化の違いについてはいろいろ議論されていて、人の感情を読み取るときに、欧米では『口元』に、日本では『目元』に重きを置くようです。

 顔文字でも、欧米では「:P」(時計回りに90度回転させて見ると、舌を出した顔に見える)、「:D」(笑顔)のように口元の変化で感情を表し、日本では「(><)」「^^」のように目の変化で感情を表します。

 このことから考えると、欧米の人は目元を隠すサングラスに抵抗がなく、日本の人は口元を覆うマスクに抵抗がないということもうなずけます」

 取材:宮本由貴子=フロントラインプレス(FrontlinePress)所属

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:4/8(木) 10:01

東洋経済オンライン

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング