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星野リゾート代表に聞く、自社HP経由の予約率を驚異の60%に高めた狙いと成果

4/8 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 商品・サービスの「買いやすさ」というのは、基本的なことでありながら、実のところ工夫が行き届いていない場合が多い。観光において「買いやすさ」が競争力につながる理由と、星野リゾートが「買いやすさ」を高めるためにどのような取り組みを行ってきたのか、星野リゾート代表・星野佳路さんに聞いた。(構成/斎藤哲也)

● コトラー教授に勧められたポジショニングモデル

 前回の記事『星野リゾート代表に聞く、ホテルなどの観光業で価格を変動させる功罪』では、短期的な稼働率を重視してホテルの価格を安易に変動させることで、顧客の信頼を失うリスクについて持論を述べました。今回は、顧客の信頼を得る上で重視している「イーズ・オブ・アクセス(買いやすさ)」について取り組んできたことをご紹介します。

 確か2000年代の前半、マーケティングの大家、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のフィリップ・コトラー名誉教授とお話しする機会を得た時、意外なことをお聞きしました。

 「先生のMarketing Managementは私にとって今でも大事な教科書です」とお伝えした時、「あんな古い話をまだ実践しているのか?」という言葉が返ってきたのです。

 すかさず「今は何が新しいポジショニングモデルだとお考えですか?」と聞くと、「Five Way Positioning などは面白い」という返答でした。

 必死に探しましたが、当時そういうタイトルのビジネス書は見当たらず、しばらく調べているうちに「Myth of Excellence」という本の中にFive Way Positioning理論があることを見つけました。

 その後、この本は和訳され『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』(フレッド・クロフォード、ライアン・マシューズ著、イースト・プレス)として刊行されました。私が「イーズ・オブ・アクセス」をより強く意識するようになったきっかけは、この理論を読んだことでした。

 そこには、ポジショニングにおける五つの要素を「商品」「価格」「アクセス」「サービス」「経験価値」と定め、単にターゲットに対してそれぞれ最適化するという概念ではなく、法則通りに強弱をつけることが競争力につながるという理論でした。すべての要素を最適にする必要がある、となると膨大なリソースが必要になり、それは収益性の観点からも持続可能ではない、ということなのです。リソースがまったく足りていなかった当時の私にとって大変うれしいモデルだったので、新しい教科書として採用しました。

 そして、そこでは「アクセス」の重要性が強調されていました。商品やサービスがコモディティ化し、差別化することが簡単ではない環境の中で「買いやすさ」が競争優位を築くという発想が、私にとって発見でした。前出の書籍の中ではアクセスについて、次のように説明されていました。

 〈今日、アクセスとは立地というより、消費者が望むときに、望む場所で、なるべく邪魔が入らず面倒もなく、企業とやり取りできるようにすることを指している。たとえば、銀行のアクセスなら、支店を開設するだけでなく、利用しやすいATM網を築くことを意味している。小売業者なら、顧客に「買いやすさ」を提供すること。もしくは、店の地図が頭の中にざっと描けるようにすることだ。要するに、簡単で便利でなくてはいけない。買い物客がほしいものをさっと見つけられて、店を自分のニーズに合わせて使いこなせるくらいに〉

 ここで述べられているように、「アクセス」というのを、地理的な距離ではなく、「買いやすさ」と捉えることが重要です。商品・サービスの購入しやすさが、企業の競争力になるというわけです。

 この理論を知って、私は衝撃を受けました。

 商品やサービスの脱コモディティ化というと、一般的にはまず商品・サービスそれ自体を差別化しようとあれこれ考えるものです。例えば、ホテルや旅館でいえば、他にはない施設やサービスを充実させることが脱コモディティ化として手っ取り早い一つの策でしょう。しかし本書は、「買いやすさ」、ホテルでいえば「予約のしやすさ」が、施設やサービスに匹敵するほどの決定的な競争力になり得ることを理論的に説明しています。

● 星野リゾートが自社HPを改善して得た2つのメリット

 このメッセージに大きな影響を受け、星野リゾートでは自社ホームページ(以下、自社HP)の拡充に力を注いでいきました。自社HPをどのようにしたらオンライン・トラベル・エージェント(以下、OTA)の買いやすさに近づけることができるか、どのような機能でOTAを超えることができるかを重視していきました。

 例えばOTAでは、部屋と食事がスタンダードな選択項目になっています。でも、お客さまが宿泊施設で買うものは、部屋と食事だけではありません。スパやマッサージ、さまざまなアクティビティなどをセットで購入したい、または確実にサービスを受けることができるように時間を含めて事前予約しておきたいという顧客もいます。

 ならば、それらを自社HPで一緒に予約できるようにすれば、「買いやすさ」は確実に向上します。特に星野リゾートのように、施設内でのアクティビティが多い場合には、予約時にアクティビティを一括でアレンジできることは大きな強みになりますし、提供側としてもありがたいことです。航空券付き宿泊プランを予約できるのも、星野リゾート自社HPの大きな特徴です。

 予約しやすさの継続的な改善が進んでくると、自社HPでの予約率は着実に上がっていきました。現在では、宿泊者の約60%が、星野リゾートのホームページから予約してくれています。一般の宿泊施設では、自社HPでの予約率が概して10%台、グローバルホテルチェーンでも20%台であることを考えると、この数字は星野リゾートの競争力になってきています。

 自社HPでの予約率を上げることには、二つのメリットがあります。

 一つは、当然のことですが、自社HPからの予約の方が利益率が高いこと。

 もう一つは、OTAとの関係がより対等になり、お互いの相乗効果を発揮する良い関係に発展させていけること、と考えています。OTAでは私たちの部屋を丁寧にご紹介いただくことができるようになり、同時に私たちも十分な部屋数を供給し、ウェブ上での見え方を最適化することにリソースを配分することができるようになります。

● サブブランド一つにつきエージェントは一つ

 インターネット上のプロモーションという点で見た場合、OTAの役割は大変重要です。OTAは宿泊施設の検索エンジンとしての役割を果たしているので、星野リゾートをより多くの市場に知ってもらうきっかけを作ってくれます。

 ただ、「星のや」と「OMO(おも)」は楽天トラベル、「界」はじゃらんなど、国内市場に対してはサブブランドごとに契約しているOTAは1社と決めています。「リゾナーレ」など、部屋数が多い施設では複数のエージェントと契約していますが、規模が小さい施設ではOTA1社が原則です。サブブランドごとにエージェントを絞ることも、エージェントと良いパートナーシップを築くために効果的です。

 OTAの数を絞るもう一つのメリットは、販売しているすべてのサイト上での見え方を最適化できることです。数多くのOTAと契約しているとそれぞれのサイトの構造を理解し、毎日モニタリングし、それぞれに最適化策を講じることにスタッフが忙殺され、その結果、本来やるべき自社サイトの最適化まで労力が回らないということが起こります。これは特に担当スタッフを多く抱える予算のない小規模な施設において顕著なのです。

 「買いやすさ」の向上という点では、マーケティングチームが本来最も注力すべきは自社サイト表現の充実であり、それは自社HPからの予約だけでなく、OTAからの予約促進にもつながります。その作業に十分な時間的リソースを配分できる体制が必要なのです。

 「予約しやすさ」という観点でもう一つ業界で一般的になってきている仕組みとして「メンバーシップ制度」、いわゆるマイレージプログラムがあります。しかし私は、市場に現存する仕組みにはまだ納得できておらず、星野リゾートではマイレージポイントによる囲い込み策は導入していません。単なるボリュームディスカウントになっているケースが多く、サービス面での特典も競争他社がまねできない内容が発想できていないように感じています。

 今の状態でマイレージポイントによる値引き・サービス合戦が継続していくと、「囚人のジレンマ」状態に陥り、やめると損をするが、やっても得をしない制度になると予測しています。

 本来、ヘビーリピーターに対しては、ディスカウントではなく、新たな追加の価値を提供すべきです。リピート顧客の情報を把握している自社だけが創造できる価値にたどり着く必要があるのです。これは私が教科書に設定しているドン・ペパーズの「One to One Marketing」の分野であり、別の機会にお話ししたいと思います。

 星野リゾートを含めて観光業界全体としても、「買いやすさ」を進化させる余地はまだまだあります。

 例えば、インバウンド市場にとって日本の旅は買いやすくなっているか、と問われると遅れている面が多々あることに気付きます。言語の問題やアクティビティ紹介の課題も未解決部分が多くあります。日本国内の移動で新幹線は欠かせない重要な交通手段ですが、現時点ではOTAでも販売ができていません。日本の観光は世界の観光先進国と競争しており、訪日外国人観光客にとっての「買いやすさ」の向上が今後ますます重要になってくると考えています。

ダイヤモンド・オンライン

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最終更新:4/8(木) 6:01

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