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「白い恋人」石屋製菓のパンケーキが行列のワケ

3/8 10:01 配信

東洋経済オンライン

 数十年続く老舗や、国民的なロングセラー商品を抱えている企業はブランド力という強い武器を手にしている。黙っていても消費者は商品を買ってくれるからだ。しかし一方で、現状にとどまり続けると、やがて推進力を失ってしまうだろう。そのため、未来を見据えてどう守り、どう変化していくのか、ということが老舗にとっての最重要課題となる。

 そして、国内でも指折りの土産菓子ブランド、「白い恋人」が、創業70周年を迎え勝負に打って出た。

 カフェや北海道外ブランドという新事業をもう1つの柱とし、同時に社名である「ISHIYA(イシヤ)」を前面に出したプロモーション戦略を開始したのだ。

 これは、長年培ってきたブランド力と品質を改めて企業の力として捉え直し、社内外にアピールしていく取り組みである。

■70周年を機に行った新ブランドの立ち上げ

 同社の歴史をひもとくと、1947年小さな駄菓子屋として創業した石屋製菓は1960年代後半、大手菓子メーカーの北海道進出という倒産の危機にあたり、高級洋菓子へと大きく路線を転換。1976年に、北海道の上質な素材を用いた「白い恋人」を生み出した。

 ラング・ド・シャ(薄いクッキー生地)にチョコレートを挟んだこのスイーツは、「北海道でしか手に入らない」という希少性もあいまって、国民的なヒット商品に成長した。

 商品名があまりにも有名で、「石屋製菓」という社名を知らない人も多い。そこで新たな価値付けを行うために、70周年を機に行ったのが新ブランドの立ち上げだったというわけだ。

 その新たなISHIYAについて、北海道外ブランドの担当者は次のように説明する。

 「当社は1995年に今の白い恋人パーク(オープン時の名称はイシヤチョコレートファクトリー)をオープンするなど、過去にも挑戦をしてきています。70周年を機に今度は北海道の外にチャレンジをしていくという新しい方針を固めました。どんな商品を軸にしていくかというところで、やはり白い恋人のように北海道を連想させるものだろうと。ただし、『白い恋人は北海道に行かなければ買えない』というところは守らなければなりません。そこで、そのDNAを受け継いだSaqu(サク)が生まれました」(石屋商事広域営業部販売課事務課課長の米山優一氏)

 その「Saqu」は「白い恋人」と同様に、ラング・ド・シャにチョコレートを挟んだスイーツ。北海道の素材を練り込んだ生地とチョコレートで、6種類のフレーバーをラインナップした。

 例えばHOKKAIDO WINEは、北海道産ワインのチョコレートをぶどう風味の生地でサンドしている。白い恋人に似た、サクサクとした食感はそのままに、ぶどうの香りと味が口の中に広がる。

 チョコレートには、やはり白い恋人に相通じるものがあって、ミルキーな甘さがどこか懐かしい。価格帯は白い恋人のおよそ倍で、18枚入り2160円。

 米山氏によると、ワインやチーズ、キャラメルといったフレーバーは粉末にして生地やチョコレートに練り込むことで、風味を強く感じさせるよう工夫しているという。

 白い恋人より高級感を感じさせ、なおかつ大人の客層を意識。白い恋人が北海道限定であるように、こちらは「北海道では購入できない」ことでプレミア感を演出した。

 折よくGINZA SIXのオープン時期が重なっており、北海道外ブランドの1号店ISHIYA GINZAを当時最高とも言える好立地でスタート。その後、新宿、東京駅、羽田空港、心斎橋などに展開した。

 売れ行きは好調で、北海道からの観光客にも東京土産として人気だという。また、展開を始めた2017年には、本家本元の白い恋人の売り上げも上がったそうだ。

■日本橋店の新たな看板スイーツ

 そして2019年、北海道外ブランドのイシヤにとって新たな局面となったのが、日本橋店のオープンだ。こちらはカフェと販売店の併設店として展開しているのだが、その看板スイーツがSNSなどで大きな話題となっているのだ。11時の開店前から行列ができ、日に200名が訪れる。コロナ前は夜の11時まで営業していたこともあり、その倍の来店があったそうだ。

 その新たなヒット商品はパンケーキ。

 客の心を魅了するのはまず、その華やかな見た目と提供する際の演出である。生クリームはケーキの飾りとして用いるときはツノが立つぐらいにかために泡立てるものだが、このパンケーキでは、少しゆるめに仕上げられており、2段に重ねられたパンケーキの上にたっぷり盛りつけている。焼きたてのパンケーキの温度により、とろけやすくなっている状態だ。

 そこで、パンケーキを仕上げるときにはクリームがとけ落ちないよう、フィルムで押さえておく。提供時にそれを外すと、クリームが流れ落ちる仕組みだ。

 きちんと包まれていたクリームが一気になだれ落ちるその様子はカタルシスさえ感じさせる。一番人気のストロベリーフレーバーの場合は、トッピングされた苺色のソースがまるで花を咲かせるようにケーキ全体を覆う。

 SNSの中でも最近は衆目をさらう動画のアップが人気だが、このパンケーキも動画で撮影するお客が多いというのもうなずける。

 しかし一口食べてみると、この味にこそ評判の理由があるとわかる。

 生地は弾力があるものの、口に運ぶとほろっとほどけるほどやわらかい。それに、焼きたての温かさと、冷たい生クリームの相反する感触が舌を喜ばせる。生地やクリームの素材を生かすためか、甘味はごくごく控えめ。ただ、やはりミルキーな甘さがあり、白い恋人を彷彿とさせる。

 ストロベリー、ショコラのほか、2020年の11月に、生地と生クリームだけの「プレーン」がメニューに加わった。純粋にクリームと生地を味わいたいというお客の声に応えてのことだそうだ。

 つまり、繊細な食感がこのスイーツの本当の魅力を作り出していると言える。そのためか、仕込みに手間がかかり、1日に80個が限度だそうだ。

 「シンプルな素材で構成されているからこそ、作り手の技術を要します。また、手順どおりに作ってもうまくいかないことも多いです。その日の湿度、気温といったものに素材の状態が左右されるわけですね」(米山氏)

 同店のスタッフ15名中、パンケーキ製作に習熟したスタッフは3名なのだそうだ。しかし、同社のチャレンジ精神、そしてプライドが込められているスイーツなのだから、簡単に作れないのはむしろ当たり前と言えるだろう。

 「コンセプトは、『職人のレシピ』です。お菓子屋が出すスイーツとして、当社の開発トップであるシェフパティシエが試行錯誤を重ねました。目指したのは、見て驚いて、食べて驚くようなスイーツです。また、北海道でしか白い恋人が買えないのと同様、“不便性”を大事にしています。カフェに来ていただかないと食べられず、またお持ち帰りもしていただけません。そんな特別な商品、場所としてイシヤを位置づけていただきたいという気持ちを込めています」(米山氏)

■さまざまな変革は現会長のチャレンジ精神がルーツ

 なお、カフェ事業については北海道内ではあるが、すでに2013年からイシヤカフェとして展開。イシヤ日本橋で提供されているパンケーキはそのうち、千歳空港のカフェでも味わうことができるという。

 カフェは、3代目である石水創社長が、就任時に「日々、お客様にとって身近に感じられる存在でありたい」として立ち上げた事業なのだそうだ。

 高級洋菓子への転身や、白い恋人パークの立ち上げといったさまざまな変革を行ってきた、現会長石水勲氏のチャレンジ精神が受け継がれていることを示す。

 北海道外での今後を聞いたところ、ほかの飲食業と同じくコロナの影響を受けており、店舗展開のはっきりとした見通しは立っていないとのことだ。しかし困難を切り抜けようとする時代にこそ、躍進のチャンスがある。70年の伝統を背負った同社にとって、今が勝負のときと言えそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/8(月) 10:01

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