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「再エネ電気を買いたい人」に届く驚きの仕掛け

3/7 13:01 配信

東洋経済オンライン

 風車が回って起こした電気も石炭火力発電所でできた電気も、電気は電気。しかし気候危機時代、日々使う電気の由来を気にする人たちが増えている。

 みんな電力(代表取締役:大石英司、東京都世田谷区)は「電力のトレーサビリティシステム」を開発し、環境省の賞を受賞した。担当したのは、原子力発電所で13年間勤務した元関西電力技術者。東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年の今、システムの新たな展開を目指している。

■素性の明らかな自然エネルギーの電気を買う仕組み

 ホウレンソウ、ダイコン、キャベツ……。最近は、スーパーに有機野菜が並ぶコーナーがあり、作り手の名前や畑の場所とともに笑顔の写真入りのシールが貼られていることもある。生産者や作り方を知ったうえで、消費者が食材を選べるようになってきた。

 そうはいかないのが電気。「外国から輸入した石油や石炭ではなく、太陽光や風力など自然エネルギーを使った電気を使いたい」と考える人が増えている。燃料費として外国に流れるお金は国内にとどまり、二酸化炭素の排出も激減するからだ。しかし消費者側で「●県の✖発電所からの電気を選ぶ」ことは難しかった。

 野菜は見た目も味も違うが、電気はどのように作っても違いはない。いったん送配電網に入ると、どこから来た電気か見分けがつかなくなる。

 「どこの発電所からの電気か、わかるようにするにはどうしたらよいか、考えに考えました。そして、これはお金の送金と同じだ、と気づいたのです」

 電力小売りを行う新電力、「みんな電力」の専務取締役、三宅成也さん(50歳)は、電力トレーサビリティシステムの開発をこう振り返る。

 「北海道で僕が1万円を振り込んで相手に東京で引き出してもらう場合、お金はまったく動いていませんが、1万円を僕が振り込みました、という証明があればよい。これと同じで、北海道で作った電気を送配電網に入れました、東京で引き出して使いましたということが特定できれば、取引は成立します」

 みんな電力は、発電所をほとんど持っていない。ホームページ上に「顔の見える電力」発電所一覧があり、107の発電所の写真が並ぶ。すべて太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスなど再生可能エネルギーによる発電。規模は出力容量8kWの太陽光発電所から、6万5990kWのウィンドファームまでさまざまだ。1カ所だけ、東京・世田谷に自社の太陽光発電所(39.6kW)がある。

 107の発電所の多くは固定価格買取制度を使って送配電事業者に電気を売り、みんな電力は、送配電事業者を通じて個々の発電所で発電した分の電気を受け取る(あらかじめ個々の発電所とみんな電力は契約を結ぶ。この仕組みは、特定卸供給と呼ばれる)。

 ここまでは、電力の小売事業者であればできること。みんな電力の場合、同社が開発した電力トレーサビリティシステム「ENECTION2.0」により、需要家の企業が30分単位で、どこの発電所からの電気をどれだけ買っているかを把握できる。発電所の発電量などのデータ、使い手の企業の電力消費のデータも30分ごとにわかり、パソコン上に表示される。このシステムは、仮想通貨を可能にしたことで知られるブロックチェーン技術を使って構築された。

■再生可能エネルギー100%を目指す企業の世界潮流

 みんな電力は現在、約500の企業や団体、個人約6000世帯に電気を販売し、契約容量は約10万キロワット。全国107の発電所からの電気を「特定卸供給」という仕組みを使って供給し、日本卸電力取引所からの購入分はない。

 みんな電力のホームページには、丸井グループ、戸田建設、日本郵船、コメダ珈琲店、日清食品、世田谷区などよく知られた企業や団体名がずらりと並ぶ。背景には、「RE100」という国際イニシアティブがある。

 「RE100」はRenewable Energy 100%の略称。自社で使う電力すべてを再生可能エネルギーにより作られた電気とすることを目指す企業の連合体だ。イギリスの国際団体「The Climate Group」、ロンドン発祥の国際非営利組織で温室効果ガス排出量をはじめさまざまなデータの開示を企業に促す「CDP」が事務局を務める。

 RE100の加盟企業数は、2021年2月現在、世界で280社以上。日本企業は50社になった。リコーが2017年4月に加盟したのが最初だが、日本企業は最近急増し、存在感を発揮している。背景には、環境(Ecology)、社会(Society)、ガバナンス(Governance=企業統治)の3つに着目して、年金機構などの機関投資家などが投資先を決めたり、逆に投資を引き揚げたりする「ESG投資」の広がりがある。加盟企業になれば、環境や社会に配慮した取り組みをアピールできるメリットもある。

 丸井グループは2018年7月にRE100に加盟。その後、みんな電力の電力トレーサビリティ構築のための実証実験に協力した。現在は、各店舗で使う電気をみんな電力から買っているだけでなく、自社のクレジットカードを持つ個人客を対象に、みんな電力への切り替えを勧めている。各店舗では、みんな電力について知ってもらう説明会を随時開いている。

 (外部配信先ではグラフや写真を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

■ほかの電力小売りも利用できるよう拡充・発展目指す

 みんな電力は昨年12月、環境省から二酸化炭素の排出削減で実績を上げた新たな取り組みについての表彰を受けた。「アワード型イノベーション発掘・社会実装加速化枠」での受賞で、環境省が2021年度から本格化させるイノベーション表彰制度の初代受賞者となった。

 電力トレーサビリティシステムの開発が評価された形だが、みんな電力はさらにこのシステムを拡充発展させ、自社だけではなく、ほかの電力小売事業者も利用できるプラットフォームを作るという。

 どういうことか。担当の三宅成也専務取締役は「全国で再生可能エネルギーによる発電所、分散型電源が増えています。分散型電源はバラバラだし、いつどのくらい発電するかもさまざま。そこでこれらをまとめたり、発電予測を行ったり、調整したりする機能が必要になってきます。そこで、トレーサビリティシステムの延長上に、プラットフォームを作れないかと作業中です」と言う。

 言ってみれば1つの大きなパワープールを作り、さまざまなプレーヤー、電気を買う人、売る人、小売事業者も利用できるソフトウェアを開発しようとしている。

 「地産地消」という言葉がある。厳密には、ある限られた地域の中で作ったものを消費するということを指す。地球規模の取引が活発化し、私たちが食べているものにも、使っている電気にも、遠く離れた世界各地で作られたものが混じるが、なかには持続可能ではない方法で作られたものもある。それを避けるために素性の明らかなものを使いたい、という人々の思いが、「地産地消」への関心を広げた。

 しかし、厳密な意味での電力の地産地消は無理だ。そこで、みんな電力は、発電所のある地域と電気を使う場所をつなげる地域間連携に力を入れた。それを他社も使えるシステムへとさらに拡充できないか、と考えている。拡大版の電力の地産地消を目指している、ともいえようか。

■「原子力の事故はまた起きる」

 三宅さんは2007年まで関西電力の技術者だった。電気工学が専門だが、原子力も勉強し、原子炉主任技術者の資格も持っている。2004年8月、福井県美浜町の関西電力美浜原発3号機で起きた配管破損、蒸気噴出事故では、作業員5人が死亡、6人が重軽傷を負った。

 「原子力しかないという雰囲気で、間違いを認めたがらない組織のありように問題を感じた。原子力発電の事故はまた起きる、と思い、辞めました」。ビジネス戦略コンサルタントを経て、2016年にみんな電力に入った。誰が作った電気か選べる仕組みができたら、もっと電気の由来に関心が高まるし、作り手と使い手がつながる面白さも出てくるのではないか、と考えた。

 RE100の場合、加盟企業が「うちが使う電力は100%再エネ由来」と宣言すれば認められるわけではない。当然だが、事務局の審査で客観的に認められなくてはいけない。

 政府は、2018年に再生可能エネルギーで作った電気の場合、「非化石証書」が発行される仕組みを作った。再エネ発電所が固定価格買取制度を利用して送配電会社に売った電気の場合、費用負担調整機関が証書を発行し、小売電気事業者がオークションで証書を手に入れる。みんな電力のように、個々の発電所と契約を結び、特定卸供給により送配電会社を通じて電力を送ってもらっている場合、優先的に証書を得ることができる。

 この非化石証書自体は、電源の種類や発電所の所在地、発電量などの情報を明らかにするものではない。政府は、RE100を念頭に、こうした情報の確認システムが必要として導入を急いでいる。

■制度や情報が整備されていない

 ところが、資源エネルギー庁作成の資料(2021年2月3日付)によると、こうした情報を開示・表示するには発電事業者の同意が必要で、実証事業が進められている現段階で「トラッキング付き証書」(こうした情報が開示・表示可能な証書)は全体の1~2%にとどまる。

 内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の4人の構成員は、「日本には、電源トラッキング制度や適切な電源表示、公開など、需要家が再生可能エネルギーを選択する際に不可欠な制度や情報が整備されていない」と苦言を呈している。

 電源の種類や発電所の所在地、発電量などの情報を需要家が得られる仕組みづくりを含め、制度の再検討が行われているところだが、RE100のような国際的な流れに対応していくには、課題が多い。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/7(日) 13:01

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