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あの「スーパーマン」を黒人俳優が演じる必然、決して「ポリコレ」への配慮だけが理由ではない

3/6 11:01 配信

東洋経済オンライン

 「鳥だ!」「飛行機だ!」「いや、黒いスーパーマンだ!」

 そう叫びたくなる映画のプロジェクトが、現在ハリウッドで進行している。ワーナー・ブラザースとDCが製作するリブート版『スーパーマン』で、主人公は黒人になる予定なのだ。

 実は「黒人のスーパーマン」というアイデア自体は前にも出ており、2019年にワーナーと俳優でプロデューサーのマイケル・B・ジョーダンが話し合いをしたことがある。その時は先に進まなかったが、今になって再始動し出したというわけだ。

 本作のプロデューサーは「スターウォーズ」シリーズなどで有名なJ・J・エイブラムス、脚本を手がけるのはタナハシ・コーツ。エイブラムスは声明で、「まだ語られていない、新しく、パワフルなスーパーマンの話があります。才能豊かなコーツ氏と一緒に、その話をビッグスクリーンで語れることに、興奮を感じています」と語っている。

■ハリウッドが目指す「脱・白人男性至上主義」

 本作に登場するスーパーマンが、おなじみのカル=エルことクラーク・ケントなのかどうかはわからない。原作コミックには、カレルことカルヴィン・エリスという名の黒人スーパーマンが登場するので、彼が主役の映画かもしれない。

 また、主演がジョーダンになるのかも不明である。しかし、ジョーダンのプロダクション会社アウトライアー・ソサエティは、2019年にワーナーと製作のパートナーシップ契約を結んでいて、ジョーダンとワーナーは親しい関係にある。今作はアウトライアーが製作する映画ではないが、そういった背景から、ジョーダンに声がかかる可能性は決して低くない。

 実は、「黒人のスーパーマン」はふたつの意味で優れたアイデアだ。ひとつは、今、最も重視される「ダイバーシティ(多様性)」にかなっていること。ポリコレと言われてしまえばそうかもしれない。

 だが、ハリウッドのメジャースタジオによるアクション超大作は、「ヒーローは白人男性」というイメージがどっぷり定着している上、多額の予算をつぎこむため、スタジオがリスクを恐れ、多様化を持ち込むのが他のジャンルより遅れていた。

 そんな中、2017年に公開された女性が主人公の『ワンダーウーマン』と、翌2018年に黒人が主人公の『ブラックパンサー』が大ヒット。観客は白人男性以外のスーパーヒーローを喜んで受け入れるのだと証明されたのだ。

 その結果にスタジオは安心した一方で、ますます意識して白人男性以外のヒーローを生まなければというプレッシャーも感じているのである。

 ふたつめは、ストーリーやキャラクターを新鮮にするうえで、シンプルな手段であること。おなじみの設定も、主人公の性別や人種が変わるだけで新鮮に見えるもの。

 最近も、ワーナーは『オーシャンズ11』のスピンオフとして女性キャストの『オーシャンズ8』を作ったし、ディズニーは『パイレーツ・オブ・カリビアン』をマーゴット ・ロビー主演でリブートする企画が進行している。近作の中で一番の成功例は、ソニーの『スパイダーマン:スパイダーバース』だろう。

 主人公はピーター・パーカーではなく、マイルズ・モラレスという名の黒人の高校生。さらに実写でなくアニメという手法を選んだ本作は、過去のシリーズにはない斬新な雰囲気を持ち込んだ。一方で、ピーター・パーカーやメリー・ジェーンなどおなじみのキャラクターもちゃんと登場し、これまでのファンも楽しめるようになっている。

 批評家からも高く評価された本作は、2019年にピクサーの『インクレディブル・ファミリー』やディズニーの『シュガー・ラッシュ:オンライン』を制し、アカデミー賞の長編アニメ賞を受賞する快挙も果たした。

■苦戦を強いられてきた「スーパーマン」映画

 あえて設定を大胆に変える試みに、スーパーマンは特にふさわしいキャラクターだ。クリストファー・リーヴがスーパーマンを演じていた時代からすでに40年。

 今の観客はますます、もっと自分に近い、「ヒーローらしくないヒーロー(unlikely hero)」「ヒーローになりたがらないヒーロー(reluctant hero)」に共感を覚えるようになってきている。そんな中、正義感にあふれた、潔癖で明るいスーパーマンは、共感を覚えづらくなってきた。

 結果、近年のスーパーマン映画はその知名度に反して、苦戦を強いられている。ブランドン・ラウスのスーパーマンは、シリーズ化を想定していながら『スーパーマン・リターンズ』(2006年)の1本で完結。

 ヘンリー・カヴィルのスーパーマンは『マン・オブ・スティール』(2013年)の後、『バットマンvsスーパーマン』(2016年)や『ジャスティス・リーグ』(2017年)に登場したものの、どれも万人受けするものではなく続編の製作も滞ったままだ。

 どうすればアメリカで最も高い知名度を持つヒーローを面白くできるのか?  誰もが考えあぐねていたわけである。

 だが、スーパーマンを黒人にすれば、それだけでこれまでの映画の雰囲気とはガラッと変わる。主人公や主要キャラクターの脇に追いやられていた黒人が、完全無欠のスーパーヒーローを演じるわけだから、きっと過去作品にはない新しい視点や発見に満ちた作品になるだろう。つまり、白人だったキャラクターを黒人にするというのは、ポリコレへの配慮だけではなく、映画の質やビジネス面でも意味をなす決断なのだ。

 こうした例は、ハリウッドで今後ますます増えていくはず。2018年の『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』で若き日のランド・カルリジアンに抜擢されたドナルド・グローヴァーも、映画公開当時の筆者とのインタビューで「ハリウッドの未来に、それ以外の選択肢はない」と語っていた。

 「映画をたくさん見てきたからわかるけど、映画では同じ話が繰り返される。リベンジ物語だったり、恋愛物語だったり。そういうものを作り続けるうえで、同じに見える人を出したら、同じになっちゃうんだよ。ハイスクール物にしても、たとえばカニエ・ウエストの高校時代の話だったりしたら、新鮮じゃないか?」とグローヴァー。

 ただし、同時に「白人男性の視点は、もう十分あったというだけ。それが悪いというわけではない」とも付け加える。それも事実だ。

 だから、スーパーマンも、白人と黒人、両方いていいのである。カヴィルはまだまだスーパーマンを演じたいと言っているし、そのうちふたりのスーパーマンが共演する映画もできるかもしれない。意味のないこだわりを捨てたことで、映画の未来への可能性は大きく広がったのだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/6(土) 20:11

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