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日本人に今こそ必要な「あいまいさ」を許す力

3/6 20:31 配信

東洋経済オンライン

世の中には善か悪かの2つしかなく、一度「悪」と認定されたものは徹底的にたたく──。今、SNSではこうした考え方、行動がよく見られます。SNSに限らず私たちも、よく考えもせずに「彼は悪い人だ」「あの会社はもうダメだな」と決めつけてしまうことはないでしょうか。結果、追いつめられる人が増え、世の中がギスギスしていく……。
「物事を寛容に受け止める心と、自分の頭で考える習慣が必要です」と言うのは、経済学者の竹中平蔵氏です。氏が理想とするのは、かつて松下幸之助氏が遺した、ある考え方。それはどのようなものか、竹中氏の新刊『考えることこそ教養である』をもとに解説します。

■答えはAとBの間にある

 白か黒か、善か悪か、右か左か。いま世の中を「二項対立」の視点で捉えようとする人が目立ちます。しかし、正しいのはAか、それともBか、とすべてを二項対立で捉えられるほど、世の中は単純ではありません。2枚のカードをひろげて、どちらを選ぶ? と問うのは間違いです。世の中のたいていの答えは、AのカードとBのカードの、混ざり合った間の場所にあるものだからです。

 「ハーベイロードの前提」をご存じでしょうか?  ハーベイロードとは、著名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズが居住していたイギリスのケンブリッジにある通りの名です。ケインズの経済政策の考え方のベースには、「ハーベイロードの前提がある」とよく言われます。ハーベイロードはケンブリッジの中でも、知識階級が集まる特別な場所でした。

 この場所にエリートたちが集い議論を進めて作り上げたのが、「不況時には政府が積極的に介入して失業を減らし、景気をよくしていく」という積極的財政政策に代表されるケインズ経済学です。大恐慌時にアメリカのニューディール政策を後押ししたことでも有名ですね。

 ここではケインズの経済政策に触れませんが、彼の政策には1つ大きな問題があったと言われます。

 政策の是非を議論するときに、エリートだけが集い、あまりにも理想主義的に人の行動を定義して、経済政策を練ったこと。また、人間は合理的に思考するものだという前提に立ちすぎていたため、実際は非合理なことも多い人間社会にフィットしないのではないか、ということ。

 だから、そんなものは「ハーベイロードの前提」でしか成り立たない──つまりエリートが集まった社会でしか通用しない、ある種、机上の空論になっているのではないか。そんな批判をよく受けてきました。

 ケインズのこの思考は、「ケンブリッジ学派」と呼ばれる、ケンブリッジ大学の思考体系に属するものでした。一方で、かつてケンブリッジ大学と並ぶ世界の経済学の中心地だったのが、オーストリアの最高学府ウィーン大学でした。かの「イノベーション理論」で知られたジョゼフ・シュンペーターなどもここで学び、彼らは「オーストリア学派・ウィーン学派」と呼ばれました。

 ウィーン学派の特徴は、とことん突き詰めて考えていくケンブリッジ学派と異なり、「つねに疑って議論する」ことにありました。

 「一見正しい理論だが、本当にそうだろうか」「人はそれほどシンプルに行動しないのではないか」「自分が見ている事象は一面的ではないか」と、つねに懐疑的に議論を進めていく手法をよしとする特徴がありました。そこに、エリートの理想主義はありません。ただし、批判的になりすぎて、他者の考えを攻撃的に批判しすぎるデメリットも少ならからずありました。

 今、私たちに求められるのは、「ケンブリッジ学派」と「ウィーン学派」の両輪ではないでしょうか。

 徹底的に考えて結論を導き出すが、しかしそれ自体が正しいのか、つねに疑う姿勢も忘れない。この姿勢を忘れなければ、Aのほうが正しい、いや正しいのはBだ、Aは絶対に間違っている、といった二項対立や二者択一のような排他的な思考にはならないはずです。

■「心に縁側を持て」の意味

 その意味で、松下幸之助さんはいい言葉を遺しています。

 皆さんもご存じのように、松下幸之助さんは松下電器、いまのパナソニックをつくった昭和の名経営者です。私と同郷、和歌山のご出身なので、小さい頃から憧れていた偉人です。彼は多くの名言を遺していますが、私が最も好きな言葉は、「心に縁側を持て」です。

 かつて、昭和の頃までの日本家屋にはたいてい縁側がありました。縁側とは、建物の縁にあたる板敷きの通路のこと。それは庭先につづく場所で、家の「内側」であると同時に、「外側」ともいえるような場所です。

 心に縁側を持て、とはつまり「あいまいさを許容しましょう」ということです。何が絶対的に正しいか、何が間違いか、というのは、どこまでが家の外で、どこまでが家の内かということと同じで、決める必要のないことである、と。

 例えば最近ビジネスにおいて、MBAで学ぶ工学的なサイエンスのような戦略のみならず、センスやアートのような感覚的な判断が大切だと言われています。

 教科書どおりの、通り一遍のマーケット感覚や経営観、もっといえば人間観では捉えきれないのが、本来の世の中だからでしょう。

 また社会が多様化し、「こうあるべき」といったこれまでの一色の常識では捉えきれない世の中になっていることも一因です。だから、「あいまいさ」が求められる。

 「そういう考え方もあるのか」
 「逆の立場から見れば、賛成できないのもわかる」
 「まだ理解できないが、そう判断をする人もいることはわかる」

 AかBか白黒をつけずに、さまざまな意見が集まる、あいまいな部分。住居でいえば外でもない、内でもない「縁側」のような余白を持つことは、多様化して捉えづらくなった世の中を寛容に受け止める思考のスペースになり、心の余裕にもなるのではないでしょうか。

■あなたの心に「縁側」を取り戻そう

 考えてみれば、縁側はその内側に住む旦那さんと、庭を手入れする庭木職人さんが交わって雑談する場所でもあります。普段は交わらない場所にいる他人同士が、気軽に同じ場所に座って、「最近調子はどうだい」「そういえばこんなことがありました……」などと言葉を交わし、時に知恵を交換し合うわけです。

 いま、物理的にこうした場所が失われつつあるのは大変もったいないと思います。皆さんの頭の中にこうした縁側の精神を持ち、さまざまな考えを受け入れながら考えを膨らませ、さらに深く考える習慣を身に付けてほしいと考えます。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/6(土) 20:31

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